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新天地を! 139

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それは、もうすこしで午後のお茶の時間になろうかという頃合いだった。
サロンの窓の外、慌ただしく走り回る使用人達に驚いた。

「帰って来たわ!」

お母様の声で反射的に立ち上がってしまった。

「本当よ、帰って来たのよ」

お祖母さまの優しい声が肯定する。
会いたい!会いたい!会いたい!
サロンの窓の外、遠くに豆粒みたいな黒い馬が見える。

「帰って……来た……」

ゆっくりとだけど、少しずつ大きくなって来る姿……誇らしげにクワイに跨がってるルークの顔が見える!

「ダメよ!」

ガシリと手首を掴まれたかと思ったら、肩も腰も掴まれてた。
何で?

「エリーゼ、今飛び出したら怪我をするわ」

お母様に手首を掴まれてた。
エミリやシンシアが肩やら腕を掴んで、アニスが腰を掴んでた。
無意識に前傾姿勢になってた……良かった、お母様達がいてくれて。アニスだけじゃ止まらなかった……

好き……大好き……ずっと顔が見たかった……

「エリーゼ様……」

アニスの声が何処か遠くに聞こえる。

「エリーゼ、泣き顔で出迎えたら心配してしまうわ」

お母様の声……私……
目尻に当てられる柔らかい布……泣き顔?

「ルーク様と四番隊が帰還致します。是非とも正面玄関前までおいで下さいますように」

「今行きます。さ、エリーゼ行きましょう。貴女の婚約者が帰って来たのよ、貴女が一番にお出迎えしなければ……ね」

優しいお母様の顔が滲んで見えて、困って笑ってしまった。何で私泣いたんだろ?
お母様の手布が私の涙を吸ってくれてる……笑顔で……笑顔で出迎えたい。

「えへ……お母様ありがと……」

子供みたいな言葉遣いになったけど、怒られなかった。

「愛しい方が帰って来たのだもの仕方ないわ。初めては心細いし、会えない辛さもあるわ。だから泣いてしまうのも仕方ないのよ」

コクリと頷くと涙も止まった。

「さ、早く行きましょう。エリーゼ、初陣の無事帰還を喜びましょう」

「はいっ!」

はやる気持ちを抑えてアニスと手を繋いでエントランスへと出る。
大きく開け放たれた正面玄関の扉の向こう、自信に満ち溢れたルークの笑顔が見える。

「エリーゼ様、こちらを」

ドレスコートを着せられ、正面玄関から出る。
冷たい空気の中、隊員達も意気揚々と誇らしげだ。
気が付けばアニスの手は離れ、両親に挟まれセンターに立たされてました。
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