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春
風まつり(土曜日) 5
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冷たい水で洗ったせいか顔が冷えて寒い。
ぼんやりした頭で兎足神社を目指して歩く。
楽しそうな喧騒もどこか遠くに聞こえる……フラフラと風車を売ってるテントの横を抜けた所に広がる斜面に向かう。
兎足神社は少し高台にある神社だ。それは五社稲荷もそうだ。母さんいわく、昔水害もあったかもね。との事だ。
斜面の草むらに腰を下ろし、ぼんやりと目の前にある仕掛け花火の仕掛けを眺める。
「隼、どうした。」
父さんが隣に座って居た。
「ほら、焼き鳥美味いぞ。」
焼き鳥が五本入ったパックが差し出された。
テラテラしたタレがついたネギマを一本取って食べる。
「美味い……」
「だろだろ!これも飲めよ!」
ろくに見ずに缶を受け取ってクイッと飲む。
「にがっ!何?」
え?ビール?
「美味いか?」
「美味い訳ないじゃん!何飲ませるんだよ!」
ははは!って笑ってんなよ!
「ノンアルのビール。苦いよな。苦くて不味いって事は若いって事だよ。あんまり思い詰めるなよ。」
「思い詰めてなんか……」
「そうか?まあ、いいさ。とりあえず焼き鳥食ってろよ。お茶買ってやるからさ。」
そう言うと焼き鳥のパックを俺に押し付けて、立ち上がってどこかに行ってしまった。
一本目を食べ終えて、二本目を食べ始める。
「あー美味いなー」
棒読みだけど、ほんのり温かい。
二本目も完食して三本目をどうするか悩む。
美味いって言うだけで、美味しいと感じる不思議。
「ほら、お茶。温かいやつだぞ。」
目の前て軽く捻られたキャップのペットボトルのお茶が差し出されて、何も言わずに受け取る。片手でキャップを取りゴクリと飲む。
父さんは隣に座り込み、前を見ている。
「落ち着いたか?美香が……母さんがさ、良く言うんだよ。腹が減るとろくな事考えないから、とりあえず腹膨らましてから考えろって。」
「母さんが?」
「美香は昔っから不思議な女でさ。世の中にはどうにもならない事はある。でも、どうにか出来る事は頑張ったら良いと思うって言ってさ。暗い事しか考えられない時は腹いっぱい食えって言うし、幸せな事を考えたいなら美味い物を腹いっぱい食えって言うんだよ。変だろ?でもな。母さんの美味い飯食べて暮らしてるとさ、幸せってこんな感じなのかな?って思うんだわ。俺、幸せだなって。なぁ、隼。多分……今、キツいトコに居るのかな?って思うけど俺も母さんも隼の家族で味方なんだ。お前よりも長い時間生きてるだけあって、話を聞いてやる事だって出来るんだぞ。だから、そんな顔するな。な!」
ペットのキャップを締めて、ポケットに入れてから三本目を手に取りモグモグと食べる。ネギのトロッとしたトコ美味い。
母さんの『腹減ってるからテンション下がって暗くなるんだよ!なんでも良いから、食べたい物食べな!』って言葉が頭の中で響き渡る。
四本目を食べる。
俺、何で暗くなってたんだろ。
五本目を食べてる途中で思い出した。
シロの過去の事で落ち込んでたんだ。
『自分がどうにも出来ない事で落ち込んでるんじゃない!前向け!先を考えろ!』
そうだ、シロの過去は俺にはどうにも出来ない事だ。
そのどうにも出来ない事を俺がアレコレ言う事を、きっとシロは望んでない。
シロが望んでいるのは何だろう?
…………そうだ…………シロは言ってたじゃないか、俺の幸せをって…………
バカだな俺。俺はシロと一緒に居たくて、一緒に笑いたくて……
「隼、おかわりいるか?」
「あー…………俺、美河フランクのジャンボ食べたい。」
「おっ!あれ美味いよな。買って来るから、ここで待ってろよ。」
父さんは立ち上がり、俺の頭をくしゃくしゃって小さかった頃みたいに乱暴に撫でた。
「あんま早く、大人になるなよ。寂しいだろ……」
え?思わず見た父さんはちょっとだけ寂しそうに笑って、歩いて行った。
ぼんやりした頭で兎足神社を目指して歩く。
楽しそうな喧騒もどこか遠くに聞こえる……フラフラと風車を売ってるテントの横を抜けた所に広がる斜面に向かう。
兎足神社は少し高台にある神社だ。それは五社稲荷もそうだ。母さんいわく、昔水害もあったかもね。との事だ。
斜面の草むらに腰を下ろし、ぼんやりと目の前にある仕掛け花火の仕掛けを眺める。
「隼、どうした。」
父さんが隣に座って居た。
「ほら、焼き鳥美味いぞ。」
焼き鳥が五本入ったパックが差し出された。
テラテラしたタレがついたネギマを一本取って食べる。
「美味い……」
「だろだろ!これも飲めよ!」
ろくに見ずに缶を受け取ってクイッと飲む。
「にがっ!何?」
え?ビール?
「美味いか?」
「美味い訳ないじゃん!何飲ませるんだよ!」
ははは!って笑ってんなよ!
「ノンアルのビール。苦いよな。苦くて不味いって事は若いって事だよ。あんまり思い詰めるなよ。」
「思い詰めてなんか……」
「そうか?まあ、いいさ。とりあえず焼き鳥食ってろよ。お茶買ってやるからさ。」
そう言うと焼き鳥のパックを俺に押し付けて、立ち上がってどこかに行ってしまった。
一本目を食べ終えて、二本目を食べ始める。
「あー美味いなー」
棒読みだけど、ほんのり温かい。
二本目も完食して三本目をどうするか悩む。
美味いって言うだけで、美味しいと感じる不思議。
「ほら、お茶。温かいやつだぞ。」
目の前て軽く捻られたキャップのペットボトルのお茶が差し出されて、何も言わずに受け取る。片手でキャップを取りゴクリと飲む。
父さんは隣に座り込み、前を見ている。
「落ち着いたか?美香が……母さんがさ、良く言うんだよ。腹が減るとろくな事考えないから、とりあえず腹膨らましてから考えろって。」
「母さんが?」
「美香は昔っから不思議な女でさ。世の中にはどうにもならない事はある。でも、どうにか出来る事は頑張ったら良いと思うって言ってさ。暗い事しか考えられない時は腹いっぱい食えって言うし、幸せな事を考えたいなら美味い物を腹いっぱい食えって言うんだよ。変だろ?でもな。母さんの美味い飯食べて暮らしてるとさ、幸せってこんな感じなのかな?って思うんだわ。俺、幸せだなって。なぁ、隼。多分……今、キツいトコに居るのかな?って思うけど俺も母さんも隼の家族で味方なんだ。お前よりも長い時間生きてるだけあって、話を聞いてやる事だって出来るんだぞ。だから、そんな顔するな。な!」
ペットのキャップを締めて、ポケットに入れてから三本目を手に取りモグモグと食べる。ネギのトロッとしたトコ美味い。
母さんの『腹減ってるからテンション下がって暗くなるんだよ!なんでも良いから、食べたい物食べな!』って言葉が頭の中で響き渡る。
四本目を食べる。
俺、何で暗くなってたんだろ。
五本目を食べてる途中で思い出した。
シロの過去の事で落ち込んでたんだ。
『自分がどうにも出来ない事で落ち込んでるんじゃない!前向け!先を考えろ!』
そうだ、シロの過去は俺にはどうにも出来ない事だ。
そのどうにも出来ない事を俺がアレコレ言う事を、きっとシロは望んでない。
シロが望んでいるのは何だろう?
…………そうだ…………シロは言ってたじゃないか、俺の幸せをって…………
バカだな俺。俺はシロと一緒に居たくて、一緒に笑いたくて……
「隼、おかわりいるか?」
「あー…………俺、美河フランクのジャンボ食べたい。」
「おっ!あれ美味いよな。買って来るから、ここで待ってろよ。」
父さんは立ち上がり、俺の頭をくしゃくしゃって小さかった頃みたいに乱暴に撫でた。
「あんま早く、大人になるなよ。寂しいだろ……」
え?思わず見た父さんはちょっとだけ寂しそうに笑って、歩いて行った。
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