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狂った銀色
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分厚い金属で出来た金庫のダイヤルを回す人の頭をすっぽり収めるような大きな手。
ガチリと鍵の外れる音がし、そこから小さな木箱を取り出す。
カッパーからアダマンタイトまでそれぞれ順番に並べられた細いチェーンの付いたプレート。
その右から2番目に置かれたシルバーのプレートを手に取り首から下げる。
久し振りのダンジョン、しかしこの男の胸中は一切の波紋を立てることなく静けさだけがあった。
「いってこいガルシア」
「うーーっす!!」
その一帯を表すならばハリケーンの中心地とも言うべきだろうか。
それもとてつもない勢力を持った、遠巻きで見るだけでも恐るべきもの。
試しの岩場と呼ばれるこの場所は5階層に位置し、ここにいるほとんどがカッパーの冒険者。
それより上の冒険者はさっさと抜けてしまうため、後進の育成やリハビリを兼ねてなどの理由がなければまずいない。
もし仮にいたとしてもこの先へ行くために、適当にモンスターをあしらいながら進んで行く。
つまりわざわざ無駄な体力を使う必要性など全くないということだ。
しかし先頭を歩くガルシアが拳を一振りすれば、身の丈を超える大岩もここまでやるかという勢いで消し飛ぶ。
潜伏しているモンスターに警戒しながら、岩場を切り抜けていくという趣旨を完全に無視していると言っていいだろう。
さらにモンスターはもっと悲惨な末路を辿る。
吹き飛んだ石の破片の勢いは矢や魔法の比ではない。
目にも留まらぬ散弾のように飛び散った岩の破片に体中を撃ち抜かれ、姿を見せた時には動かぬ屍へと成り果てている。
「うひゃーガル兄さんぱねぇ。あっ、ギンおむすび食べる?」
「……座食逸飽」
コギーとギンはまるでピクニックにでも来たかのような気楽さで、まだ僅かに温かいおむすびに齧り付く。
両手を頭の後ろで組み足を放り出すように歩くコギーはコアを見つけるたびに、上手く足を使ってコアを頭の上を通過させ背中に背負ったリュックに入れる。
ギンとニコニーはただ無表情のままガルシアの後ろをついていくだけ。
ただ周りから見れば暴れている謎の集団、しかも身につけているプレートは全部シルバー。
ミスリルとは色が近いためミスリルと勘違いする者が多発する中、怖いもの見たさで近付いた冒険者の数人がやはりシルバーだったと叫び。
嘘つくな、という言葉でありえない光景を否定し続ける状態がしばらく続いた。
「岩場抜けましたぜ代表!どうしますいっちょ走りますか?」
「だりぃ」
「ですよね、じゃあこのまま中層まで行きましょう。俺の後ろにはゴブリン1匹通さないんで安心してください」
「さっさといけ、あと声がでかい」
「さーせんっ!」
中層までの最短距離は歩いて行っても数時間は掛かる。
それにプラスでモンスターとの戦闘があるため、それなりに時間が掛かることを踏まえれば、驚異的な時間での到達であろう。
警戒するでも恐怖するでもなく、なんら変わらない平常心のままペースを乱すことなく歩き続けた結果な訳だが。
10階層にいる階層主の名はベヒモス、倒してから復活するまで日数は約10日。
しばらくは顔を見せることはないが、彼らの手にかかれば実際にいたところでほとんど瞬殺に終わるだろう。
ともかく今回は階層主と会うことなく、中層へと抜けた。
「ところで代表聞きたいことがあるんすけど」
「おう、なんだ」
「ダンジョンに何しに来たんすか?」
「言ってなかったか」
「言ってないっすよ」
ガルシア以外にもコギーとギンが頷いていたため、自分が言い忘れていたことにようやく気付いた。
というか理由も聞かずここまで付いて来たメンバーもメンバーだなと思いながら、ニコニーは説明を始める。
「最近冒険者の失踪事件が多発している。俺が金利の回収に失敗したのはそれが理由だ。ダンジョンに入った冒険者が帰って来ねぇ」
「いやぁ、普通に死んだって可能性もあるんじゃないっすか?元々大した奴らじゃないんでしょ」
「2人ともシルバーランクの雑魚だ。だが死なねぇように俺が管理してたんだぜ。それになぁ……そいつらの装備が闇市場に出回ってた」
冒険者がダンジョン内で死亡した際、装備品などは身元が特定できた場合に限り所属していたギルドなどへ返還するのが決まり。
もし誰のものだったかわからなかった場合は、供養のためギルド本部が回収しとある場所へと保管している。
しかし装備品が必ず遺族または関係者の元へ帰るかというとそうではない。
値の付きそうな装備品を拾った場合、それを金に変えたいと思う輩は当然いる。
ただし正規のルートで流すことは不可能なため、闇市場に装備品を流すのがよくあるパターンである。
「あー、なる。つまりあれっすね。誰かが冒険者を襲って装備品を売り捌いた。それが|偶々(・・)うちらのお客だったと」
「|大体(・・)そんなところだコギー。やっぱお前はガルシアより若干頭が回るな」
「うわぁ、あんま嬉しくないっす」
「おいコラ」
ガルシアがコギーにヘッドロックを極め、ぐりぐりとげんこつを頭に押し当てる。
ガルシアの怪力は凄まじく、声にならない悲鳴をコギーがあげる中。
神妙な顔付きを浮かべたニコニーは静かに呟いた。
「……偶々ならいいんだけどな」
色々な状況を踏まえた上で、偶然ではない可能性について何度も検証した結果である。
勘ではなく理論的に考えた末に、裏で何者かが蠢いているとニコニーは警戒しているのだ。
「ん、なんか言いました代表?」
「気にするな、なんでもない。とりあえず向こうから探索だな」
「え?だってあっちは正規ルートじゃないっすよね」
「俺に考えがある、いけ」
冒険者が遥か昔から培ってきた情報には数々のものがあり、下層までの詳細な地図も存在する。
だから珍しい鉱石があったり、一部の場所にしか存在しないモンスターが目的でない限り、正確なルートを辿るのが定石。
しかしニコニーはあえてそのルートから右へ外れることを決意した。
繰り返すようだがニコニコファミリアにおける絶対権力者はニコニーである。
この男が黒といえば白ですら黒となる。
何か考えがあると言われれば、それ以上何も疑問を抱くことはなかった。
最短ルートは人がよく通るため通りやすくなっているのだが、やはりルートから少しでも外れると人を拒むかのような獣道になる。
しかしこの男達にとってそれは何の問題ではなかった。
根こそぎ刈り取る勢いで先頭のガルシアが木々を薙ぎ倒す。
もちろんそこまでやる必要など全くないのだが、大柄のニコニーが肩を狭め窮屈に歩く姿を想像したくないがためにである。
しかしニコニーはガルシアの馬鹿さ加減に軽い頭痛を覚えた。
「こんなに音を立てたらホシが逃げんだろタコ」
「あぁぁああ!すっ、すいませんっす!」
「まぁいいや。デカイ音でちょうど慌ててる頃合いかもしれん。コギー、ギン、狩りの時間だ。先に見つけた方には特別手当つけてやるよ、ほれ競争して来い」
「りょーかいっす」
「……速戦即決」
特別手当という言葉でなく、競争という言葉にそれぞれ犬耳と狐耳を大きく震わせ、2人は一瞬で一陣の風となりニコニーの脇をすり抜けた。
まるで野に放った猟犬、しかも恐ろしく高い狩猟能力を持った2人である。
ニコニーの読みがここまで全て当たっているとしたら、両者が何かを発見するのはある意味必然だったと言えるだろう。
何も障害物のない平地を走るかのように一切減速することなく、軽快なステップで森を駆け抜ける2人のスピードは互角。
人より優れた聴覚と嗅覚を持つ獣人というところも互角。
勝負の明暗を分ける残りの要素があるとすれば、あとは知能か運のどちらかくらいであろうか。
そして今回はそれが知能だったというだけ。
「いたっ!ギンあっち……チッ、引っかからねぇか」
適当な方角を指し相手に揺さぶりをかけるという幼稚な作戦を考え付くどころか、考え付くと同時に実行するもギンは相手にしなかった。
そしてコギーが一瞬余所見をした瞬間、ギンは視界の端で獣の尻尾の影を捉えていた。
「……見つけた」
身を異常なまでに屈める前傾姿勢、完全なる狩りのモードに入ったギンから逃れる術などありはしない。
数秒後、悲鳴にならないほど弱々しくキャッと声をあげた獲物は、ギンの体の下に組み敷かれていた。
ガチリと鍵の外れる音がし、そこから小さな木箱を取り出す。
カッパーからアダマンタイトまでそれぞれ順番に並べられた細いチェーンの付いたプレート。
その右から2番目に置かれたシルバーのプレートを手に取り首から下げる。
久し振りのダンジョン、しかしこの男の胸中は一切の波紋を立てることなく静けさだけがあった。
「いってこいガルシア」
「うーーっす!!」
その一帯を表すならばハリケーンの中心地とも言うべきだろうか。
それもとてつもない勢力を持った、遠巻きで見るだけでも恐るべきもの。
試しの岩場と呼ばれるこの場所は5階層に位置し、ここにいるほとんどがカッパーの冒険者。
それより上の冒険者はさっさと抜けてしまうため、後進の育成やリハビリを兼ねてなどの理由がなければまずいない。
もし仮にいたとしてもこの先へ行くために、適当にモンスターをあしらいながら進んで行く。
つまりわざわざ無駄な体力を使う必要性など全くないということだ。
しかし先頭を歩くガルシアが拳を一振りすれば、身の丈を超える大岩もここまでやるかという勢いで消し飛ぶ。
潜伏しているモンスターに警戒しながら、岩場を切り抜けていくという趣旨を完全に無視していると言っていいだろう。
さらにモンスターはもっと悲惨な末路を辿る。
吹き飛んだ石の破片の勢いは矢や魔法の比ではない。
目にも留まらぬ散弾のように飛び散った岩の破片に体中を撃ち抜かれ、姿を見せた時には動かぬ屍へと成り果てている。
「うひゃーガル兄さんぱねぇ。あっ、ギンおむすび食べる?」
「……座食逸飽」
コギーとギンはまるでピクニックにでも来たかのような気楽さで、まだ僅かに温かいおむすびに齧り付く。
両手を頭の後ろで組み足を放り出すように歩くコギーはコアを見つけるたびに、上手く足を使ってコアを頭の上を通過させ背中に背負ったリュックに入れる。
ギンとニコニーはただ無表情のままガルシアの後ろをついていくだけ。
ただ周りから見れば暴れている謎の集団、しかも身につけているプレートは全部シルバー。
ミスリルとは色が近いためミスリルと勘違いする者が多発する中、怖いもの見たさで近付いた冒険者の数人がやはりシルバーだったと叫び。
嘘つくな、という言葉でありえない光景を否定し続ける状態がしばらく続いた。
「岩場抜けましたぜ代表!どうしますいっちょ走りますか?」
「だりぃ」
「ですよね、じゃあこのまま中層まで行きましょう。俺の後ろにはゴブリン1匹通さないんで安心してください」
「さっさといけ、あと声がでかい」
「さーせんっ!」
中層までの最短距離は歩いて行っても数時間は掛かる。
それにプラスでモンスターとの戦闘があるため、それなりに時間が掛かることを踏まえれば、驚異的な時間での到達であろう。
警戒するでも恐怖するでもなく、なんら変わらない平常心のままペースを乱すことなく歩き続けた結果な訳だが。
10階層にいる階層主の名はベヒモス、倒してから復活するまで日数は約10日。
しばらくは顔を見せることはないが、彼らの手にかかれば実際にいたところでほとんど瞬殺に終わるだろう。
ともかく今回は階層主と会うことなく、中層へと抜けた。
「ところで代表聞きたいことがあるんすけど」
「おう、なんだ」
「ダンジョンに何しに来たんすか?」
「言ってなかったか」
「言ってないっすよ」
ガルシア以外にもコギーとギンが頷いていたため、自分が言い忘れていたことにようやく気付いた。
というか理由も聞かずここまで付いて来たメンバーもメンバーだなと思いながら、ニコニーは説明を始める。
「最近冒険者の失踪事件が多発している。俺が金利の回収に失敗したのはそれが理由だ。ダンジョンに入った冒険者が帰って来ねぇ」
「いやぁ、普通に死んだって可能性もあるんじゃないっすか?元々大した奴らじゃないんでしょ」
「2人ともシルバーランクの雑魚だ。だが死なねぇように俺が管理してたんだぜ。それになぁ……そいつらの装備が闇市場に出回ってた」
冒険者がダンジョン内で死亡した際、装備品などは身元が特定できた場合に限り所属していたギルドなどへ返還するのが決まり。
もし誰のものだったかわからなかった場合は、供養のためギルド本部が回収しとある場所へと保管している。
しかし装備品が必ず遺族または関係者の元へ帰るかというとそうではない。
値の付きそうな装備品を拾った場合、それを金に変えたいと思う輩は当然いる。
ただし正規のルートで流すことは不可能なため、闇市場に装備品を流すのがよくあるパターンである。
「あー、なる。つまりあれっすね。誰かが冒険者を襲って装備品を売り捌いた。それが|偶々(・・)うちらのお客だったと」
「|大体(・・)そんなところだコギー。やっぱお前はガルシアより若干頭が回るな」
「うわぁ、あんま嬉しくないっす」
「おいコラ」
ガルシアがコギーにヘッドロックを極め、ぐりぐりとげんこつを頭に押し当てる。
ガルシアの怪力は凄まじく、声にならない悲鳴をコギーがあげる中。
神妙な顔付きを浮かべたニコニーは静かに呟いた。
「……偶々ならいいんだけどな」
色々な状況を踏まえた上で、偶然ではない可能性について何度も検証した結果である。
勘ではなく理論的に考えた末に、裏で何者かが蠢いているとニコニーは警戒しているのだ。
「ん、なんか言いました代表?」
「気にするな、なんでもない。とりあえず向こうから探索だな」
「え?だってあっちは正規ルートじゃないっすよね」
「俺に考えがある、いけ」
冒険者が遥か昔から培ってきた情報には数々のものがあり、下層までの詳細な地図も存在する。
だから珍しい鉱石があったり、一部の場所にしか存在しないモンスターが目的でない限り、正確なルートを辿るのが定石。
しかしニコニーはあえてそのルートから右へ外れることを決意した。
繰り返すようだがニコニコファミリアにおける絶対権力者はニコニーである。
この男が黒といえば白ですら黒となる。
何か考えがあると言われれば、それ以上何も疑問を抱くことはなかった。
最短ルートは人がよく通るため通りやすくなっているのだが、やはりルートから少しでも外れると人を拒むかのような獣道になる。
しかしこの男達にとってそれは何の問題ではなかった。
根こそぎ刈り取る勢いで先頭のガルシアが木々を薙ぎ倒す。
もちろんそこまでやる必要など全くないのだが、大柄のニコニーが肩を狭め窮屈に歩く姿を想像したくないがためにである。
しかしニコニーはガルシアの馬鹿さ加減に軽い頭痛を覚えた。
「こんなに音を立てたらホシが逃げんだろタコ」
「あぁぁああ!すっ、すいませんっす!」
「まぁいいや。デカイ音でちょうど慌ててる頃合いかもしれん。コギー、ギン、狩りの時間だ。先に見つけた方には特別手当つけてやるよ、ほれ競争して来い」
「りょーかいっす」
「……速戦即決」
特別手当という言葉でなく、競争という言葉にそれぞれ犬耳と狐耳を大きく震わせ、2人は一瞬で一陣の風となりニコニーの脇をすり抜けた。
まるで野に放った猟犬、しかも恐ろしく高い狩猟能力を持った2人である。
ニコニーの読みがここまで全て当たっているとしたら、両者が何かを発見するのはある意味必然だったと言えるだろう。
何も障害物のない平地を走るかのように一切減速することなく、軽快なステップで森を駆け抜ける2人のスピードは互角。
人より優れた聴覚と嗅覚を持つ獣人というところも互角。
勝負の明暗を分ける残りの要素があるとすれば、あとは知能か運のどちらかくらいであろうか。
そして今回はそれが知能だったというだけ。
「いたっ!ギンあっち……チッ、引っかからねぇか」
適当な方角を指し相手に揺さぶりをかけるという幼稚な作戦を考え付くどころか、考え付くと同時に実行するもギンは相手にしなかった。
そしてコギーが一瞬余所見をした瞬間、ギンは視界の端で獣の尻尾の影を捉えていた。
「……見つけた」
身を異常なまでに屈める前傾姿勢、完全なる狩りのモードに入ったギンから逃れる術などありはしない。
数秒後、悲鳴にならないほど弱々しくキャッと声をあげた獲物は、ギンの体の下に組み敷かれていた。
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