オレと私の Hello World

ひるまのつき

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だらしのない雇い主

雇い主との出会い

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私が生まれ育ってきたこの街は、治安が良くない。政治家がマフィアと繋がっているから。昼日中の抗争だって当たり前のようにある。
そんな街でも、マフィアなんかいなかった頃からの古い建物には歴史があるし、郊外の農地は肥沃だから市場はちゃんと機能してる。ここで生まれたからって出て行こうなんて思わない、だって何代にもわたって暮らしてきたから。私の両親もそう言っていた。2人揃って死んじゃったけど。
満員の路面電車を挟んで撃ち合うなんて冗談にも程がある。しかも仲良し夫婦の通勤時間に。お陰でひとりっ子の私は一瞬で孤児になった。
葬儀が終わって、両親のお墓の前で途方に暮れていたら見知らぬ男が声をかけてきた。
「おい、お前行くあてあるのか?」
振り向いて見れば、上等な服をだらしなく着て台無しにした風情の中年男。こういう輩には関わらないようにと躾けられてきたから無視を決め込む。すると
「おい、まさか口がきけないってわけじゃないだろう?」
見ず知らずの男からの質問になんて答えてやるものかと思っているのに、口がきけないのかなんて言われて、つい、知らない!と口走ってしまった。ハッとして男を見ると案の定、ニヤついている。悔しくて何か言い返そうと言葉を探していると
「行くあてがないなら、俺のところに来ないか? ちょうど家政婦が辞めて困ってるんだ。お前専用の部屋も用意できるぜ。給料は大して出せないが、俺といれば命の保証はしてやる。」」
ニヤついたまま男が言う。家政婦を雇うような身分には見えないが、部屋があるというのは魅力的に感じた。何しろ私は無一文。まだ未成年だし。身寄りは1人もいない。
ただ、相手はさっき初めて会った見知らぬ中年男。咄嗟に
「学校の寮に入れるか訊いてみてから......。」
と、両親が亡くなってすぐに身の振り方を想った時の考えが口をついて出てしまった。
私が通う学校は女子向けの私学で規則が厳しい上に学費が高い。1人になってしまった私を受け入れてくれるか不安でいっぱいだ。
「その服、学校の制服か? ってことはそうか...」
何が「そうか」なのは知らないけど、
男は何やらブツクサ言いながら考え込んでいるので、チャンスとばかりに観察してみる。
身なりはさっき見たとおり。服は上等なものがくたびれた感じ。髭は剃ってあって髪はボサボサだけど不潔そうではない。痩せていて、背はまぁ高め? 顔は、わりと整ってる。声も高すぎず低すぎず、イヤな感じはしない。
「なんだ、ジロジロ見て。オレに興味が湧いちゃったか?」
観察しているはずがいつのまにか見られていたみたいで悔しい。
「まぁ、今日はもう遅い。とりあえず、荷物まとめてうちに来いよ。学校だって、こんな時間じゃ話も聞いちゃくれないだろう?」
言われてみれば、いつの間にか夕陽に照らされている。情けないことにお腹も空いてきた。
「今夜だけお願いできますか?」
仕方ないので尋ねてみると
「いいぜ、今夜だけと言わず、ずっとな!」
胡散臭い笑顔を見せられた。
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