瀬をはやみ岩にせかるる滝川の

閑話

「全く、天人川てんにんがわにダムだなんて、一体誰のためになるというんでしょう。氾濫の恐れもない、穏やかな川だというのに。」

建設省の次官は、防音の施された専用車の中でぼやいた。

「そもそも、開発というものは出来うる限り持続可能で、等しく皆に恩恵のあるものでなければいけません。私利私欲で大自然に手をつけるなど愚の骨頂です。」

「何度、提案されても必ず潰してみせます。我々は天人川と巫女様を守るが使命。誰にも邪魔はさせません。」

隣で重要書類を鞄にしまいながら男が静かに吐きすてる。

「もちろんです。ですが、政治屋さんも学ばないことですし、そろそろ考えないといけませんかね。」

「加賀宮かがみやは動きますか？」

「いえ、彼らは何もしませんよ。政まつりごとに関わる気は一切ないそうですから。」

「そうですか。」

「まぁ、彼らとて、天が沢を蔑ろにすることなどできません。」

「そうですね。」

車は静かに建設省の車止めに入っていく。

「さあ、着きましたよ。お馬鹿さんを撃退しましょう。頼りにしてますよ。」

「思し召しのままに」

次官は満足そうに頷くと、車から先に降りた男を従えて職場に入って行った。