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目が覚めると夜中だった。
灯りのない室内に、僕の他には誰もいないことを確認して、何故かほっとする。
昼間は母が付き添い、時折、渡辺の訪問がある。1人にして欲しいのに、誰かしら側についていると物思いに耽ることすら許されないのかと苛立ちさえ覚える。
と、喉の渇きを感じ、ベッドサイドに目をやるが水差しもグラスもなかった。熱が下がり、着替えも済ませてもう必要がないと判断されたのだろう。
だが、飲めないとなると余計に渇きを感じるものだ。
僕はなんとか自力で起き上がり、自室を出た。脚がふらついて筋力の衰えを実感する。情けない。壁に縋るようにしながら歩いて台所に辿り着いた。
手近なグラスを取り、水道の蛇口から水を注ぐ。やけに音が響いて後ろめたいような気分に苛まれる。
ひと口、ふた口と飲んでひとごこちついたところで、ひとの気配を感じる。
「ああ、起き上がれるようになったんだね。」
声のした方へ目をやると、父が穏やかな目をして立っていた。半年ぶりに会う父。この春、事務次官に就任すると言っていたな。
「頑張るのもいいが、程々にしておきなさい。お母さんが心配する。」
喉が詰まって何も言えない。
「厠へは行けているのかい? なんなら付き添うよ。」
仕事で疲れている父にそんな甘え方はできないと思い、黙って首を振る。
「そうかい。部屋へ戻るときは気をつけなさい。足元に用心するんだよ。」
事情はすべてを知っているのだろう。温かな言葉をかけてくれる父を見つめることしかできない。父はそんな僕のすぐ側までやって来て、
「なぁに、人生はいつも勉強だ。成果が上がらない時も希望を失ってはいけないよ。今は何より身体を休めて回復に努めなさい。」
そっと肩をたたいてくれた。
「はい、お父さん。」
やっと言葉を発した僕を見て、
「うん、よしよし。」
と独りごちながら離れていく父が随分小さくなったなと思い至ったのは、ベッドに戻ってからだった。
灯りのない室内に、僕の他には誰もいないことを確認して、何故かほっとする。
昼間は母が付き添い、時折、渡辺の訪問がある。1人にして欲しいのに、誰かしら側についていると物思いに耽ることすら許されないのかと苛立ちさえ覚える。
と、喉の渇きを感じ、ベッドサイドに目をやるが水差しもグラスもなかった。熱が下がり、着替えも済ませてもう必要がないと判断されたのだろう。
だが、飲めないとなると余計に渇きを感じるものだ。
僕はなんとか自力で起き上がり、自室を出た。脚がふらついて筋力の衰えを実感する。情けない。壁に縋るようにしながら歩いて台所に辿り着いた。
手近なグラスを取り、水道の蛇口から水を注ぐ。やけに音が響いて後ろめたいような気分に苛まれる。
ひと口、ふた口と飲んでひとごこちついたところで、ひとの気配を感じる。
「ああ、起き上がれるようになったんだね。」
声のした方へ目をやると、父が穏やかな目をして立っていた。半年ぶりに会う父。この春、事務次官に就任すると言っていたな。
「頑張るのもいいが、程々にしておきなさい。お母さんが心配する。」
喉が詰まって何も言えない。
「厠へは行けているのかい? なんなら付き添うよ。」
仕事で疲れている父にそんな甘え方はできないと思い、黙って首を振る。
「そうかい。部屋へ戻るときは気をつけなさい。足元に用心するんだよ。」
事情はすべてを知っているのだろう。温かな言葉をかけてくれる父を見つめることしかできない。父はそんな僕のすぐ側までやって来て、
「なぁに、人生はいつも勉強だ。成果が上がらない時も希望を失ってはいけないよ。今は何より身体を休めて回復に努めなさい。」
そっと肩をたたいてくれた。
「はい、お父さん。」
やっと言葉を発した僕を見て、
「うん、よしよし。」
と独りごちながら離れていく父が随分小さくなったなと思い至ったのは、ベッドに戻ってからだった。
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