上 下
120 / 227

第120話 タッチ。

しおりを挟む
「画面のタッチをお願いします」

「ここを押せばいいのかのう……?」

「そうですね。お願いします」

「むむぅ……なかなか反応せんの……」

 年齢確認の画面タッチは年配のお客さんから非常に評判が悪い。

 理由は明確。どう見ても未成年じゃないお客さんでも、たばこやお酒を購入する際には必ずディスプレイにタッチしなければならないのだ。そしてこの画面タッチの反応の悪さも原因の一つである。若い人だと、スマホなどの操作に慣れているせいか一発で押すことができるが、人によっては何回押しても反応しない人もいる。そのせいかイライラしてしまい、力任せに押す人も中にはいる。まあ気持ちは理解できないわけでもないんだが……。画面タッチぐらい優しくやってほしい。

「なかなか反応しないですね……」

「そうじゃのう……」

「代わりに押しましょうか」

「いや!待っておくれ!!!」

「え?」

「わしが絶対に押すんじゃあ!!!」

「あ……はい……」

 男のプライドみたいなものだろうか。意地でも自分の手でタッチしたいらしく、何度も何度も画面をタッチする。……お客さんの列ができてるから早くしてほしい。

「ぐぬぅ!!!こやつめ!!!」

「お、お客さん。やっぱり代わりに押しましょうか?」

「嫌じゃあ!!負けてたまるか!!!」

「……指で押すイメージより、爪で軽く触れたほうが上手くタッチできますよ」

「そうなのか!!」

 その後、おじいちゃんは何度も何度もタッチをするが、アドバイスの意味もなく全く反応しない。……気持ちはわからないでもないけど、並んでるお客さんもイライラし始めてるし、頼むから早くしてほしい。

「なぜじゃ!!!なぜ反応せんのじゃ!!!」

「……財布の角とかでタッチしても反応するんですよ。指で押すより反応がいいし、その方法で押しませんか?」

「嫌じゃ!!わしの指でタッチしたいんじゃ!!」

 こっちのアドバイスを無視し、【20歳以上です】と書かれたボタンを連打し続ける。おじいちゃんも息を切らしながら顔を真っ赤にしている。もうわかったから。20歳以上なのは十分わかったから!だからもう俺に押させて!!

「お客さんそろそろやめましょう!!」

「絶対嫌じゃあ!!!」

「つ、次押してダメなら諦めましょう。他のお客さんも並んでいるんで」

「…………そ、そうじゃのう……」

 周りの様子を見て冷静になってくれたみたいだ。おじいちゃんには申し訳ないが、周りのお客さんに迷惑をかけるのはよくない。

 ――――おじいちゃんは深呼吸を行い、息を整えている。

 俺もよくわからない汗がぶわぁーっと溢れだし、緊張し始める。

 最初はめんどくさい客だと思っていた。しかし、俺はおじいちゃんがめげずにずっと画面をタッチする姿に、いつの間にか魅了されていたのかもしれない。

 頭の中に「頑張れ」という文字が浮かんだ。

 周りを見渡すとイライラしていたお客さん達も同じ思いのようだ。「次の一回で絶対に成功させる」というおじいちゃんの思いがひしひしと伝わり、息を呑みながらその様子を伺っている。

「わしの全ての力をこの指に込める……!!」

 おじいちゃんは全ての力を1点に集中させるように指をじっと睨みる。……凄い殺気だ。これならば、もしかしたらタッチすることができるかもしれない。

 お客さんの中にいた少年が叫び出す。

「頑張れ!おじいちゃん!負けるなー!!!」

 その声をきっかけに周りの客も「頑張れ!」と応援をし始める。鳴りやまぬ声。店内はライブ会場のように一つになった。

 さあいけ!!!おじいちゃん!!!皆あなたのファンだ!!!

「くらえええええええええええ!!!!」

 鋭い槍のように飛び出したおじいちゃんの指はディスプレイを揺れ動かした。ドンッと鈍い音が店内に響き渡る。……怖くて半分閉じかけていた目を恐る恐る開け、確認する。

 ―――――ディスプレイには変わらず年齢確認の画面が出ていた。

「わしの負けじゃ…………」

「お客さん……」

「今日は帰ることにするかのう……」

「また…………うちの店にチャレンジしにきてください」

「…………さらばじゃ」

 おじいちゃんの悲しそうな背中をじっと見つめる。

 ……何故だかわからないが、俺の目には涙が零れていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...