烏と狐

真夜中の抹茶ラテ

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第二章:黄昏の深紅

2-x-2.鯱の回廊A

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 その日は随分と風の強い日で、バタバタと無駄に煩く音を立てた洗濯物やらが天へと舞い上がり、それに気づいたメイド達が慌ただしく追いかけていく。晴れの多いこの国とはいえ、時にはそんな日もある。ただ、それだけなのに……なぜだろう、胸騒ぎがした。
 KING OF HEARTの執務室、この国の長たる紺色の髪の青年は、どこか集中できない様子で椅子に腰掛けている。その手元には、無駄に丁寧な文言で綴られたいくつもの書類……。の書類仕事。ただそれだけ……。
 変わらぬ日常が順調に回っていく午後三時過ぎ、終わりの見えない仕事に嫌気がさして、ぼんやりと曇り空を見上げた。厚い灰色の雲。まるで海を越えた向こう、♤の国を象徴するかのようだ。
 別段、なにか未来視的な能力を持っているわけでも、特段、勘が鋭い訳でもない。……が、
「はぁ…………なんやろなぁ……」
なんて行き場のないため息を吐き出した、まさにその時だった。
 ぼたぼたと音を立てたろうを滑り、机上で灯っていた弱い火が消える。まるで、その一瞬で世界の音が消えてしまったかのような暗闇と静寂。瞬間、先程まで荒々しく窓を揺すっていた風の音は息を殺した。
 嵐の前の静けさか、あるいは台風の目か、はたまた第六感めいた嫌な予感か……? 否、違う。
 「ぅぐッ……!?」
ぐるりと内蔵をかき混ぜるような不快感。込み上げる吐き気と嗚咽。息を吸うことすらままならず、打ち上げられた魚のように反射的に喉元を手で抑える。
 一世紀半生きてきて、初めて味わう感覚。混乱した脳は必死に情報を処理しようと走り出した。苦しさに嘔吐えずきながら、火花を散らす脳が導き出した結論は、400年代生まれの絵札にしか備わっていない感覚に起因するものだ。
 空気中を満たす不快感の正体……この世界を構成する物質・スートの乱れ。正常な世界では気体の割合は、窒息78%、酸素21%、それ以外1%とされる。いわば、それらのバランスの乱れとでも言えよう。
 溢れかえる異常な気体スートの濁流は、臓器を掻き乱し、体内に不和をもたらす。
(なんとか……せんと…………)
重く襲い来る吐き気を押しこらえ、動くことを拒否する体に鞭を打つ。多くの者はこの現象の原因を知り得ない。わかっている者が動かなくてどうする。
 「ッ……アオ!」
バン、と無駄に大きな音を立てて、部屋の扉が開く。飛び込んできたのは、茶色い髪をした20代半ばに見える女性。そのひたいには薄ら汗が滲んでおり、苦悶を隠しきれていない。
 「ルカ! お前は、部屋でじっとしとりゃぁ。こっちは俺が何とかするで……」
明らかに顔色の悪い彼女を心配するなという方が無理だ。駆け寄り、従兄妹にあたる小柄な女性を支える。
 しかし、彼女は意思の強い瞳で、アオと呼んだ青年を見上げた。その頭でQUEEN OF HEARTのバッヂをあしらった髪飾りが揺れる。
「だ、い…じょうぶ、やで……! それより……」
自分のことを気にしている余裕はない。分かるお前には分かるだろう、と彼女の太陽のようなオレンジ色の目が糾弾する。
 こんな時に不具合を起こす自分の体を呪ってやりたい。元より体内環境のスートが非常に不安定な彼女にとって、この状況は地獄も同然だった。
 が、だからなんだ。国民を守るために、王宮を守るために、君主を助けるために……動けずして、何がQUEENか。
「それより、アンタもわかっとるやろ。発生源は位置的に……多分アンタの拷問部屋」
「その言い方やめてぇや……俺が悪趣味みたいやん」
「事実やろ」
あぁ、訂正しよう。ちっとも体調なんて悪くなさそうだ。それだけ口が回るなら問題ないな。
 「……はよ行かな」
吐き気を噛み殺し、QUEENはKINGを促す。無駄口を叩いている時間はない。なせなら、この不快感から一刻も早く解放される手段を、彼ら二人は知っているのだから。

 QUEEN OF HEARTを置いていかない程度の速度で走りながら、
「お前は中まで着いてくんなよ! てか、王宮に残っとれって!」
振り返りながら声を投げる。できることなら、彼女を無理に走らせることすらしたくないのに……。
 「大丈夫やから! これでもウチもQUEENやし、こんなんでへばっとれんて」
精一杯強がる脳内に、ガンガンと響く混ざりあった声。誰かが叫んでいる。ノイズに溶け歪んで重なり合った悲鳴。耳を塞いでも鼓膜の奥に直接反響する音。正直言って頭が割れそうだった。あぁその通りだ、全ては強がりでしかない。
 「で、行ってどうするん」
「……なんとかするしかないやろ」
「なんとかって?」
「…………なんとかするんやって」
一世紀半一緒にいて、分からない者がいようか。……完全に打つ手無しと、その言い淀んだ声は語っている。
 「一番えぇ方法教えたろっか?」
「……」
そう言って笑う彼女の顔は、QUEENらしい表情を浮かべていた。その先の言葉が望ましくないことくらい、嫌でも理解できる。けれど……そういう時ほど大抵、その最悪が最善であることを経験は知っていた。
 「小屋ごと潰してまえばえぇんやお。アンタの事やし、どうせ地下に細工してなんか飼っとるんやろ」
生き埋めにしてしまえ。それで全て解決する。生かすより大抵の場合は殺す方が手っ取り早く楽だ。
「……いやや」
けれど、対する彼もお人好しというか頑固というか……。まあ、いつもの事だ。QUEENは初めからわかっていたという顔で首を横に振り、足を止めた。
 「……ルカ?」
振り返る。視線の先にいる背の低い少女のような和装の人物は、少し俯き気味で顔色が伺えない。……どうにも、様子がおかしい。
 「おい、大丈j……」
そう言いかけたところで、彼女の体がぐらりと傾いたのが見えた。ほぼ反射的に手を伸ばし、支え、気づく。……荒い呼吸、乱れた脈拍。……この強がりめ。胸中で吐き捨てながら、
「大丈夫やないやん! やから無理すんなって……」
どこかに座らせて休ませなければと周囲を見渡す。連れてきた自分の責任だ。
 「大丈夫、やから。自分で歩ける」
嘘つけ、という言葉が口を突くよりも先に彼女の言葉に道を塞がれる。
「聞け、バカKING。ウチだって無意味に着いてきたりせん」
ただの足でまといと分かって、邪魔しに行くほどの阿呆ではない。
 ぐらぐらと揺れる視界、定まらない焦点。呼吸を吸おうとすれば吐き気が込み上げ、息を吐こうとすれば溺れたように喉が詰まる。ガンガンと爆音で響き渡る脳内のノイズで、目の前にいる青年の声は既に半分も聞き取れない。
 それでも……否、だからこそ、伝えなければ。死を予見されている肉親に、警告してやらなければ。……代替わりなんぞ好きにしろ。公にはそういう態度をとっていたとしても、自分もまだ、この怠け者でお人好しな大バカ者以外に仕える気は無い。
 「アンタの名前が聞こえる。誰かが呼んどる。偽名の方を。聞いた事ある声な気はするけど……誰かまでは、濁っとって判別できん」
どういう意図で呼んでいるのかは分からない。が、酷いノイズは悲鳴のようで、ただ渇望するように、繰り返し、繰り返し、彼の偽名を叫んでいる声がする。
 それが、彼女の能力だ。不安定に流れてくる感情へ、時折運悪く同調してしまう。同じ波長が混ざり合うように、彼女は流れ込んでくる言外の感情を知る力を有していた。
 「ウチは城戻って、人呼んでくる。先に行くのは構わんけど……死ぬなよ。敵意でもそれ以外でも、はアンタに害をなす」
「……わかっとる。そっちは頼んだで。くれぐれも、無理すんなよ?」
「無理せんくって、QUEENなんかやっとれんよ」
胸中の苦痛を全て覆い隠して、彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべる。こうなった彼女には、もう何を言っても無意味だ。
 二人が同時に踵を返す。お互いが心配か? それに否と答えるのは口だけだ。異常事態を前にして、何の心配もなくいられるわけが無い。ただ、その感情が、行動を阻害する要因にならないだけで。

 ……死が怖くないのか、という疑問に首を縦に振る者は少ないだろう。本当に死を受け入れている者なんてほんのひと握りで、大抵は生き意地汚く生にしがみつく自分を隠すために、強がって頷いている。
 その点、自分は素直に首を横に振る分、多少マシかもしれない。事の発端は今から10年程度前。自分の右腕がQUEENならば、左腕はACE。その左腕から突然に知らせが入った12月……それが、全ての始まりだった。
 どこまで信ぴょう性があるのかは知らないが、生まれた時から紋様を持つ者はいずれKINGに成ると云う。かく言う自分もそうだった。当代の絵札の中では最も長くを生き、唯一正式に先代から王位を継承している自分の終わりが、まさかこんなに早くやってくるだなんて思ってもみなかった。
 生きてきた時間は172年と数ヶ月。人の一生よりは長く生きた。それでも、まだ足りないと思ってしまう自分は、強欲だろうか……。
 潔く次代の少年へその座を明け渡せと言われようが、自分は最後の最後まで抗うつもりだ。人の一生より長く生きようが、死の恐怖からはまだ逃れられていない。生きることは苦しいが、それでも、自分は生きていたい。
 踏みしめる草の根、不気味に葉を擦らせる木々。曇天からはいつの間にか雨が滴っていて、自分の青いコートをより濃い色へと変えていった。
 これから向かう先が自分の死に場所になるかもしれない。前へ前へと踏み出すほどに、その思いは膨張する。……死にたくは、無い。……それなのに、今まっしぐらに死へ向かっているのは何故だろう?
 「……バカバカしい」
ぽつり、荒い息の合間から吐き出してみれば、頬に笑みが浮かぶ。あぁ、バカバカしい。考えるだけ無駄じゃぁないか。だって、人はいつだって、死へ向かって生きているのだから。
 神も仏も信仰は無いが、自分の命の使い道くらい自分で決めるさと強まる雨足を嘲笑い、辿り着いた小屋の戸に手をかける。案の定、備え付けのランタンは無い。
 脳内で、『もって3年』という言葉が反響した。という言葉は、3年は無事という意味を表さない。あの日からそれほどの時間が流れた? ……おおよそ2年と少し。……想像より早かった。
 手をかけた戸はビクともしない。内側から圧力をかけられているように、ドア枠諸共歪んでしまっている。
(どうせ、もう使わんしな)
半ば諦観を含んでドアを蹴破れば、閉じ込められていたものが開放されるように、強く風が凪いだ。
 「っ……」
途端に込み上げる吐き気。無理もない。その発生源がこの先なのだから。ぐわんぐわんと脳が揺れ、呼吸すらも満足には不可能だ。
 自分の死に場所が地下ならば、これで地上とはお別れか。最期の天気が雨だなんて、本当に自分はついてない。
 行くなと警笛をならす本能を握りつぶして、紺色の髪の青年は、地下への階段を一気に駆け下りた。

 石の感触が靴を蹴る。地面に対して垂直に立っていたはずの壁は反り返り、渦巻く空気に天井から降り注ぐ破片……。いつこの地下が崩壊してもおかしくない。
 外の雨音は、激しく鼓膜を揺する無音で聞こえない。地上から降り注ぐ光も届きはしない。
 暗闇の中、靴音の反響が煩い無音を崩す感覚だけを頼りに、状況を把握する。ほぼ立方体だった地下室は、中心で何かが爆発したかのように押し広げられ、家具は歪に湾曲していた。
 その中心で倒れているのは……
「!」
やはり。音の反響しか判断材料が無いため、その赤い髪を知ることはできないが、その歳にしては幼すぎる体で、この地下室を知っている人物。……一人しかいない。
 鼓膜の内側に響く、荒く苦しそうな呼吸。彼は未だ、完全に意識を手放すことができず、その苦しみの中に無意識下で囚われていた。
 「……」
近づくほどに強くなる頭痛と節々の痛み。少しでも気を緩せば、骨ごとねじ切られてしまいそうだ。
 (……悪く思わんといてな)
胸中で独りごちる。……死ぬのは怖い。殺す側ならなんとも思わないのに。……いつか、この判断を後悔する日が来るのだろうか……。
 暗闇の中、青いコートを渦巻く空気にはためかせた赤紫色の目の青年の手には、いつの間にか柄の長い武器が握られていた。絵札にとって、衣服と武器は身体の一部だ。
 柄の先で光る大きな刃は両刃斧を形作って、槍にも等しく長い柄を、青年は無表情に振り上げる。そして、横たわる少年の首へ向けて、勢いよくそれを振り下ろした。           



 眩しい。一番初めに思ったのはそれだ。次に感じたのは熱。瞼に……否、顔面に降り注ぐ光に暑さを感じて、嫌々ながらに目を開ける。
 飛びこんできたのは青い空。ゆったりと流れる白い雲と、見慣れない窓辺の景色に、一瞬自分の置かれた状況が理解できなかった。
 「……よぉ、随分寝てたみたいだね?」
突然声をかけられて肩が跳ねた。音源へ勢いよく視線を向けると、朝日を金の髪に反射させた見覚えのある美麗な青年が一人。
 「……あー……名前……」
何度か顔を合わせている人物なのは確かだが、名前を聞いたのはいつだったか……。
 「んー……まあ、どうせすぐ忘れるだろうし、今はいいや」
いつかの会話をなぞるように、美しい青い宝石の目を細め、均整の取れた頬を持ち上げる。
 そうして見回した一室は見慣れない。……そこで、思い至る。自分は、何故ここに……?
 勢いよく回転し始めた脳は、あらん限りの情報を寄せ集め、必死に現状へ解をだそうを試みた。最後に見たのは地下室と砕け散ったランタンと……目の前の件の人物の瞳のような、青い光。
 その時に感じていた溺れるような感覚はない。自分はあの地下室で死んだのではないのか……? もしもそうなら、今見ているものはなんだ。
 俗に言う走馬灯とやらがこれならば、会話が過去の記憶をなぞるのも仕方がない。見渡す景色は、嫌にあの人似ている。
 「……2週間」
不意に、金髪の青年が口を開く。過去の会話から逸脱した言葉で。
「……?」
「お前が目覚めるまでに2週間かかった。……おかげで、俺は散々こき使われたんだけど」
ため息混じり、諦め混じりにやれやれと大袈裟に手を横に広げ、首を振る。
 「……死んでない……のか?」
主語は、自分が、だ。急に現実味を帯び始めた意識が、ここが走馬灯の中ではないと示し始める。それを裏付けるように、
「俺に死人と会話する趣味はないよ」
とどこか楽しげに青年が笑った。
 生きてる……? なぜ? 終わりを覚悟したというのに……。込み上げる疑問符の前に、青年は続ける。
「先に礼を言っておくよ。俺の頼み、聞いてくれてありがとね」
頼み? なんのことだ……? 混乱はさらに加速して、その様子がおかしくて仕方がないとでも言いたげに、青年は満足そうな表情を作る。
 「ひっどいなぁ……忘れちゃったの? ほら、頼んだだろ? 『俺の友人を殺さないでやってくれ』って」
そんなことを、頼まれたような……気がする。確か、自分に数年間の命の保証として、能力をかけてもらう代わりに……。完全に忘れていたけれど……。
 「……何もしてない」
正直な意見がそれだった。あの地下室で倒れて、今ここで目を覚ました。その間はずっと気を失っていたか何かで、何も知らないし、件の紺色の髪の青年にも会った記憶はない。
 「それでいいんだよ。結果として、俺の願いは叶ったんだし」
「……」
何か、腑に落ちない。感謝されるようなことは何もしてないと言うのに……。
 それよりも、だ。
「……何が、あったんだ……?」
状況を把握したい。自分はなぜ生きていて、なぜ地下室ではなくここにいて、なぜこの人物QUEEN OF SPADEがここにいるのか……。何かあった。それは確かだが、そのが分からない。
 その質問へ待ってましたと言わんばかりに、QUEENたる金髪の青年は笑って小首を傾げた。
「お前は何があったと思う?」
「……」
質問を質問で返しては、会話が先へと進まないではないか。多少の不満は感じながらも、どうにか自分の持ちうる情報を整理する。
 「……俺は……その……3年、持たなかったんだろ?」
「そうだね」
「……で…………死んだんじゃないのか?」
「死んではいないね」
「……」
「それで?」
「……」
それ以上は、分からない。分からないから聞いているのに……。目の前の青年とは馬が合わないと思う。
 「あはは、あんまり子供をからかうもんじゃないか」
ただ、存外あっさり彼は笑って、明るく言葉を口にした。その態度が本当に不満なのは置いておいて……。
「お前は限界を迎えた。俺ら欠陥品の代表的な末路をなぞるように。それでスートをばらまいて、周囲に相当な迷惑をかけた」
スート、という単語は、本来ならばトランプのを意味する言葉だ。しかし、彼の口から語られる使い方として、おそらくは酸素や炭素といった、なにか物質の名前としての意味があるように思う。
 「けど、どこぞのお人好しバカは無謀にもお前のことを助けに行ったみたいだね。殴るかなんかして、殺さない程度に外傷を与えるか、瀕死まで追い込むかして」
「……」
さすがに予想外の回答が出てきて、言葉に詰まった。あの青年に、自分は、殴られたのか……?? 子供には絶対に手をあげなさそうな顔をしているのに……。
 「ま、それしか方法がないからね。外傷を与えれば、その傷の手当のために、力を回す他ない。そうすれば一時的にでも、止められるから」
せめてものフォローを入れるが、それでもこんな幼子を殴ったであろうこと自体を庇ってはあげられない。……まあ、殺されなかっただけマシだろう。常人なら、こんな危険分子、その場で処分している。
 「……マールは……」
金髪の青年の言う、『お人好しバカ』はきっとその紺色の髪の青年だ。傷つけられるのは日常茶飯事だから気にしない。むしろ、助けてくれたことに礼が言いたい。
 来るだろうと覚悟していた質問だが、いざ言われると口が止まる。……現実と、向き合わなければ。そして、向き合わせなければ……。
「……今はまだ眠ってる」
この少年と、この国のKING……どちらが先に目覚めるかという、QUEEN同士の賭けがあったなら、この青年が勝っていただろう。ここ2週間、この国はKINGの不在が続いている。
 「……会いたい? お勧めはしないけど……」
生きている、というのは喜ばしいことだが……現実は重い。友人の姿に、自分でもこの少年を憎んでしまった程度には。……あの気の強いQUEENの涙は、初めて見た。
 重い問いに内包された意味を汲み取れないほど、少年は幼くない。年にして10。周囲の絵札たちには敵わないが、自分で思考できないほどに未熟でもない。
 しばしの迷いの後に、紅色の髪の少年は、確かに頷く。
「……そう。じゃあ、着いてきて」
望むなら見せてやろうと、金髪の青年・フルールはロッソを連れて部屋を後にした。

 無言のままに廊下を進み、とある一室へ。その扉の前では、茶色い髪に和服を身にまとった女性が蹲っていた。
 「Hello、フェール? 大丈夫?」
フルールはそう声をかけながら、フェールの目の前にしゃがみこむ。ゆっくりと顔を上げたQUEEN OF HEARTの顔色は明らかに悪く、そのオレンジの目に紅い髪を捉えると、一瞬の憎悪を孕んだ。
 「……寝れてないね? 君って子はまた無理して……」
KING不在の中、QUEENの職務とKINGの職務を同時にこなす彼女の苦労は計り知れない。それは、寝る間も惜しんで働き続ける彼女を心配した従者から、友好国のQUEENへ手伝いの要請が出されるほどのものだ。
 綺麗な顔には深く隈が刻まれており、まともに食事しているのかも分からない。
「……歳下に心配されたくないわ、アホ」
「そんなこと言って……半世紀しか変わらないでしょ?」
嫌がるように顔を伏せるフェールの腕を、優しく引いて立たせ、
「しばらく俺が面倒見とくから、とりあえず君は休んで。部屋まで歩ける?」
怖くなるほど軽い体に不安をこぼす。放っておいたら、廊下の途中で倒れてしまわないだろうか……。
 ……しかし、存外彼女はしっかりと素直に
「……Si」
と答え、彼の指示に従った。裏を返せば、強がっていられるほどの体力も気力も、残っていないのかもしれないが……。
 のそのそと、おぼつかない足取りで歩いていく小さな背中を見送って、彼女がしゃがみこんでいた部屋のドアノブに手をかける。その扉には、青銅色のくじらが描かれており、この部屋がKING OF HEARTの寝室であることを示していた。

 「お邪魔するよ」
なるべく音を立てないように扉を開く。窓は開け放たれているというのに、なぜだか滞留したような、淀んだ空気が部屋を飽和していた。
 ほとんど家具のない部屋。天蓋付きの大きなベッドに横たえたれた紺色の髪の青年の瞳は、薄い瞼に閉ざされている。サイドテーブルには2つのKINGを示すバッヂ、彼愛用のコートはコートフックに。     
 ……ただ、眠っている青年の両腕には針が刺さっており、一方は点滴袋のように、黒い液体を上から注ぎ、もう一方は献血でもするかのように、黒い液体を溜めていた。なんとも不思議な様子だが、現状、これくらいしか取れる治療がないのだ。
 額からはおびただしい量の汗が吹き出し、顔色は明らかに悪い。脈は弱く、呼吸は目視で確認できないほどにか細かった。この姿を目にして、彼と面識のある者……否、面識がなくとも、心を打たれないはずがない。
 「っ……」
思わず紅色の髪の少年はベッド脇に駆け出そうとして、
「ダメだよ、絶対に触っちゃダメ。できれば近づかないで」
とフルールに静止される。この国のKINGは、今非常に危うい状態だ。なにか間違いがあれば、簡単にその命の糸はちぎれてしまうかもしれない。
 「なん、で……」
こんなに酷いとは思わなかった。……自分の見立てが甘かったと言えば、その通りだが……。
 「んー……まあ、一言で言えばお前のせいだね。命に天秤があるとすれば、お前を助けるために危険を犯して、コイツが代わりに怪我をした。それだけだね」
はっきりと、けれど明瞭な答えが示される。
 異常な量のスートの渦の中心へ向かって、無事で済むはずがない。吸い込んだ適正値を大幅に越える物質は、彼の体を進行形で蝕んでいた。
 全く、迷惑な国に巻き込まれたものだ。フルールは小さくため息を吐いてから、
「……愛されてるねぇ……。これっぽっちも羨ましくないけど」
いつかと同じことを口にした。
「……」
もう、愛されていないとは口にできない。ここまでしてもらって、頼んでいないなんて……言えない。
 自分の無力感に、唇を噛む。握った拳に爪が食い込む。
「……言っとくけど、お前の問題はこれで解決した訳じゃない。1ヶ月くらいすれば再発するよ。次は誰に助けてもらうを犠牲にするの?」
……答えはない。誰かを傷つけるくらいならいっそ、自分が消えてしまいたいくらいだ……。不意に、そんな考えがよぎる。
 生きていたい理由を、希望を、脆い光を……見つけたような気がしていた。ただ、それはあまりにも儚く、伸ばした手の先で枯れてしまった。
 楽観的に言うならば、きっとあのニュースは自分の考えすぎで、悲観的で破滅的なこの思考回路が悪さしただけ。現実にはただの思い違いで、ここを去った肉親は、今も無事にのうのうと生きているのかもしれない。
 そうであったら、きっと幸せだ。そうであると信じられたなら、どれほど恵まれているか……。予感か直感か……彼にはその全てが現実で、真実のようにしか思えなかった。
 あの日の小さな約束は、惨い世界に押しつぶされて、果たされることすらなく、塵となって消えてしまったに違いない。生きる希望だなんて、きっとただの幻想だったのだ。
 こうまでして、誰かに迷惑をかけてまで、自分が生きている意味が分からない……。ため息のような、あるいはしゃくり上げるような、そんな息遣いで呼吸を一つ。
 ふと視線をあげると、痛いほどに青い瞳が見下ろしていた。宝石色の目に、紅色の髪をした虚ろな目の少年が反射している。
「お悩みだねぇ……相談相手にでもなってやろうか?」
にぃと釣り上げた口角は、悪役が主人公をたぶらかすドラマか何かのワンシーンのようだ。
 消えない希死念慮と、こんなにも疎まれ、蔑まれ、周りを傷つけるくらいならいっそ殺してくれと願う本心。それなのに、強くそう願うほど、『お前に生きて欲しいと思う』なんて声が脳内を反芻する。目の前で傷つき眠っている青年の声だ。
 何故そこまでして自分を助けてくれるのか……。お人好しだからか、自分が絵札の幼体だからか……それは定かではない。けれど、恩人にそう願われて、その願いを無下にできる輩が一体どこにいる?
 「……」
かちり、脳内で何かが繋がった音がした。苦く甘い、しかし暖かい味の記憶……。
 「……11」
「?」
脈絡なく紡がれた音に、さすがのQUEENも首を傾げる。たったその一単語から真意を汲み取るのは不可能に思えた。
 数字を探せと言われた。あの日、表を向いていたJの印……。それは11だと教えられた。あの遊びが無意味では無いのなら、一番手近にあるのはその数字だ。
 KINGが国王を、QUEENが女王を表すなら、自分はこの国の王になることなんて望まない。恩人を支え、助けられるようになりたい。もう二度と、傷つけることがないように……。
 相談するまでもなかった、なんて胸中でほんの少しだけ息を吐いて、
「……誰も、犠牲にしない。……自分でなんとかする」
言葉と息を噛み潰しながら回答を述べた。なんとか、なんて言ったって、解決策は浮かばない。

 しかし、もしも次、また同じように誰かを傷つけるくらいなら……その時は、この手で、終わりにしよう。



 その一件以来、周りからの風当たりはさらに強くなった。目に見える執拗な嫌がらせと、わざと聞こえるように嘲笑う声。仕事の内容はキツくなる一方で、人並みにやったところで叱責される。
 逃げ出したい。そう思ってしまうのは最早仕方の無いことだが……恩人の助けになりたい、その思いだけが未だに彼をこの場へ縛り付けていた。無謀かもしれないし、邪魔だと追い払われるかもしれない。それでも、すがりつく希望には十分だ。
 今まで以上に過酷な仕事を押し付けられ、いつその身体が壊れてもおかしくは無い。5つの頃の姿のままで時を止めた細い腕と足は、過労で今にも折れてしまいそうで……。
 その日の仕事を何とか終わらせ、人通りが少なく、休めそうな場所を探す。数日前に帰った時、元の家は売りに出されていた。……当然か。住む者はもういないのだから。
 部屋を割り当てられていない彼にあるのは、上手く空き部屋を見つけられた日はそこで、見つけられなければ木陰か廊下の端で身を縮めて眠る日々だけ。今も、メイドが鍵をかけ忘れた空き部屋がどこかにないかと探しているところだ。
 時間にしておよそ21時前。廊下の人通りは既にかなりまばらで、皆自分の部屋へ戻っていく。すれ違う大人たちも一日の疲労に揉まれ、彼へ理不尽な叱責を飛ばす気力は無いようだ。
 いくつかの部屋からは灯りが漏れ、またいくつかの部屋は薄くドアが空いていたりもする。不用心だなんて思いつつ通り過ぎていく中で……
「ーーー……」
耳に馴染みのある声が鼓膜を揺すった。それに刺激され、細い両の足は歩みを止める。
 扉の下から明かりの漏れる一室。早く行き過ぎてしまえ。予感めいた本能が叫ぶ。とくとくと脈打つ鼓動が嫌に煩い。
 耳をすませば、静かな空気へ伝わる音はより明瞭に……。
「皆、不満をこぼしております」
話し相手であろう、高圧的な女性の声に聞き覚えはない。おそらく、厨房長だとか、メイド長だとか、そんな地位の者だろう。
 「ん~……まぁなぁ……」
顔を見ずともわかる。訛った明るい声色。紺色の髪に、赤紫色の目をした、この国の長の声だ。
 なにかに悩んでいるような、そんな長い間を開けて、
「……ちゃんと考えとるよ? してまうんが、一番手っ取り早いんやろ?」
ため息混じりに吐き出されるどこか冷たい言葉。処分? あの優しそうな青年が、そんな強い言葉を使うなんて意外だ。
 聞かなければ良いものを、そんな好奇心は少年の息を殺させ、会話に引き込んでいく。あぁ、好奇心は猫をも殺すというのに……。
 「えぇ、そうですよ。あんな、消してしまった方が貴方様のためです」
心臓が跳ねた。その名を、知らないはずがないのだから。そして、続く言葉を、彼は聞いてしまう。

「まあ俺も、殺せるんやったら、殺してまいたいんやけど」



 足音が硬いタイルを叩く。空気を求める肺と、嗚咽を吐き出す喉。吸った夜の風がツンと鼻を刺した。
 聞きたくなかった。聞くんじゃなかった。気付かないふりをして、早く行き過ぎてしまえばよかった。
 胸を飽和する後悔は、涙となって頬を伝う。後悔先に立たずなんて言葉、彼は知らない。涙を堪えようと歯を食いしばれば、激しく震える息遣いが咳となって口を開けさせる。
 どうして。なんで。そう思っていたなら、初めて会った時から殺してくれれば良かったのに。憐れむフリをして、絆して、どういう心持ちで自分に言葉を投げていたのか。生きて欲しいなんて、言ったのか。
 裏切られた。それが一番しっくりくる。恩人であるのは確かだ。拾った命をどう使おうが自由なのかもしれない。ただ、幼い心はそれに耐えられない。
 悔しいのか、苦しいのか、悲しいのか。黒く混ざりあった複雑で形容し難い感情の渦は、とめどない涙へ姿を変えて、それらは無惨に空中へ飛ばされていく。
 帰る場所なんてない。逃げる場所なんてない。勢いで王宮を飛び出してきてしまったが、街の構造なんてろくにわかっていないし、この道の先がどこに続いているのかなんて知らない。
 何がいけなかったのだろう……。どこで間違えてしまったのだろう……。いいや、産まれてきたその瞬間から、きっと自分は望まれてなんかいなかった。
 「っ……は…………はぁっ……っ…………」
痙攣した肺に限界を訴えられ、足は徐々に縺れていく。過呼吸気味に吐き出した息と、裸足で砂利も小石も無視して走ったせいで傷ついた足の裏。振り返ればきっと、涙と血の後が滲んでいる。
 (……なん、で…………)
脳内が真っ白で、何も考えられない。脳裏をよぎっていく楽しそうな恩人の笑顔が、また心を締め付ける。走ることもままならないまま、足を引きずるように顔を拭って歩いていく。
 帰るつもりは、ない。自分の居場所はない。なんで? わかっているだろう、そんな理由なんて……。自分を大怪我させた相手に尚、好意を向けられる人間なんて、きっと居ない。
 憎めるはずもない。自分のせいだ。謝ったって許して貰えることではない。差し伸べられた手を、振り払ってしまったんだろう。……裏切られた、なんて、裏切ったの間違いではないか。
 やがて、その足は動きを止める。前に進む気力は、息絶えていた。濡れた瞳で街を見渡す。人通りのない街を。
 ぽつりぽつりと明かりの灯った家と、漏れて聞こえる家族の団欒。惨めな自分と対比されるような幸せな日常に、また涙が込み上げた。
 それを隠すように、道の隅へと身を寄せて、知らない家の壁を背にしゃがみこむ。脇に置かれた木箱は、夜風に晒されて、自分と同じように冷えきっていた。
 ……このまま眠れば、きっと誰かに見つかってしまう。……誰か? 自分を心配する人なんていないのに。けれど、子供が一人こんなところにいたら、何も事情を知らないこの家の者に迷惑をかけてしまうかもしれない。
 幼く拙い思考は、せめて誰にも迷惑をかけないようにと、必死に知恵を絞り出す。そして、彼はそっと横の木箱に身を忍ばせ、蓋を閉めた。
 ピッタリと打ち付けられた木の板で、その中に身を縮めてしまえば、完全な暗闇と自分の呼吸音だけが飽和する。冷たい暗闇。暖かいひかりよりも、ずっと心地よかった。
 今後、どうしようか……。このまま餓死してしまえたら……。走り疲れ、泣き疲れた脳は、ようやく安堵を手に入れる。そして、吸い込まれるように睡魔と暗闇に落ちていった。



 誰かの足音がした。
(なんや……慌ただしいなぁ……)
室内の男は一瞬だけドアの方へと目を向ける。忘れ物でもしたのだろうか? 廊下を走ってはいけない、だなんて教師ぶったことを言うつもりは無いが、にしてもこんな時間なのだからもう少し静かにして欲しいものだ。
 「……KING?」
「ん、ああ」
何事かを言っている途中で、声を止めた上司に、怪訝そうにメイド長は先を促した。
 「確かに、殺せるんやったら殺してまいたい。そっちの方がえぇことやってわかっとる。けど、俺には無理や。殺せへん」
だって、あんなにも哀れな子を……。物心着くより早く親元からひきはがされ、誰からも愛されることなく、執拗な虐めと過酷な労働に耐えている幼子。どうして同情せずにいられるのか。
 将来的に自分の身に危険を齎すのかもしれない。あの時、あの地下室で、自分はあのまま少年の首を切り落とすことだってできた。
 けれど、それを良心は許さない。KING OF HEARTであるよりも前に、自分は深水ふかみ 海鳴あおという名のヒトなのだから。良心を押し殺してまで、自分の立場に従ってしまったら、きっと自分はですらなくなってしまう。
 それにまだ、あの少年が次期KINGと決まった訳では無い。自分の背に刻まれた紋様は、まだその色を濃く映し出している。希望的観測でしかないが、JACKの座が空いているのだから、その可能性だってある。
 判断を急ぐべきでは無い。彼が、自分の数字を見つけるその日まで、この王宮で保護してやるべきだ。
(……とはいえ、虐めについては、俺はなんもしたれんのやけど……)
残念なことに、この王宮で彼はKINGで、上からの指示として虐めを抑圧してしまえば、自分の目の届かない場所でより酷い仕打ちをされてしまうかもしれない。
 最善策は現状維持。苦しくとも、今は耐えてもらうしかない……。
「……はぁ、本当に貴方様は甘すぎるのですよ……」
警告するようにメイド長が言う。だから、なんだ。自分の人生くらい、自分で決める。生も死も、誰かや運命に従う気なんてさらさらない。それで死んだら、それはその時だ。
 そう思える程度には、この青年は紅色の髪の少年を好いていた。助けてやることは叶わないが、ただ傍でその成長を見守ってきた身として……。血縁でこそないが、彼の寄せる感情は弟に対するそれと近かった。
 (……例えアイツがKINGやったとしても、それ以外やったとしても……見届けんと。ちゃんと数字を見つけるまで)
一礼して去っていったメイド長を見送って、一人部屋に残された青年は呟く。何気なく見やった窓の向こうは暗闇が閉ざし、静かに星のベールが瞬いていた。



【2-x-2.鯱の回廊A】
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