あの場所で待ってる

川本明青

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2 最高の誕生日

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 次の日はわたしの十六歳の誕生日だった。

 朝目が覚めても、相変わらず気持ちはモヤモヤしていた。

 もう会うこともないのだから、小田君にどう思われようと関係ないはずなのに、ダラダラと学校へ行く支度をしながら何度も考えてしまう。

 絶対面倒くさいヤツだって思われてる。上から目線のムカつく女だって……。

 なんでだろう。友達とはもっと普通に話せるのに。誕生日の一日がこんな気持ちで始まるなんて最悪だ。わたしは自分が大嫌いだった。



 その日はたまたま特別時間割だったので、二時半に学校が終わるとまた昨日の公園へ向かった。小田君がいるはずもないのに、足が向いてしまう。もしいたところで話があるわけでもないし、向こうだって面倒くさいヤツとはもう話なんかしたくないだろう。なのにどうしてあの公園に向かうのか、自分でもわからない。

 昨日と同じ入り口から入る。辺りを見渡してみても、それらしき姿はない。時間が早いせいか、昨日よりも小さい子ども連れのお母さんたちが多い。もっと遠くの方に目をやっても、やっぱりいない。わたしは昨日と同じベンチに腰を下ろした。

 思わずため息が漏れる。学校で友達から誕生日プレゼントをもらったときのうれしさは、もう心の下の方に沈んでしまっていた。どうして、彼との昨日のほんの少しの会話をこんなに引きずってしまっているんだろう。

 もしまた会えたら何て言おう。昨日はごめんね。変なこと言って。いつもはわたし、あんなんじゃないから。そりゃあ、夢も目標も無いのは事実だし、全てが面倒くさいって思うこともあるけど、普段はもっと明るいから。わたしホント、普通の子だから。変なヤツじゃないから。音楽も聴くし、本やマンガも読むし、お笑いも好き。だから、

「痛っ!」

 いきなり後頭部にボヨンと衝撃を感じた。驚いて振り返ると、立っていたのは小田君だった。そばには見覚えのある真っピンクのボールが転がっている。

「このボール、まだ取りに来てないみたいだな」

 突然のことで言葉が出ない。

「今日は何してんの。家こっちじゃないのに」

 そう言いながら小田君はわたしの隣に来て座った。

「まさか俺を待ってた?」

 気持ちを見透かされているようで言葉に詰まる。

「時間早くない? もしかしてサボった?」

「違うよ。今日は特別時間割だったの。そっちこそ、またサッカーの練習でもする気?」

「あのボール使いづらいんだよな」

「って言うかテスト前なんでしょ」

「テスト中。今日から始まったから。午前中で終わって、友達と飯食ってから今帰って来たとこ。そっちは? 中間終わった?」

「うちは終わった」

「そっか。いいね」

 沈黙が訪れる。さっき考えていたことなんて、実際に小田君を目の前にすると何一つ言えない。口を開けばどうしても憎まれ口っぽくなってしまうし、普段のように笑えない。どうしてだろう。本当に嫌になる。

「ねえ川口さんヒマ?」

「え?」

「どっか行かない?」

「……え?」

「俺家に帰ったってどうせ勉強なんかしないし、そっちはテスト終わったんならいいじゃん」

 予想もしていなかった急展開に、トクトク言っていた心臓がいっそう跳ねだした。

「無理にとは言わないけど……」

「ううん、大丈夫」

「ホントに?」

 思わず興奮気味に返事をしてしまって内心あせったものの、小田君がちょっとうれしそうに見えたのは思い過ごしだろうか。

「でもどこ行くの? わたしカラオケとか嫌だよ。歌ヘタだし」

「そんなんじゃなくて、外。行きたいとこあるんだ」

「どこ?」

「行こう!」

 小田君は答えずに立ち上がってさっさと歩き出した。

「ちょっと待ってよ!」

 わたしもすぐに小田君を追いかけた。

 再度行き先を聞いても、結局「秘密」とか「いいとこ」とかしか言ってくれないまま駅に着いた。小田君が券売機の前に立つ。

「電車に乗るの?」

「大丈夫。そんなに遠くじゃないから」

 お金を入れてボタンを押す。そして二枚出て来たうちの一枚をわたしに差し出した。それは、四つ先の駅までの切符だった。

 切符代を払おうと財布を取り出したわたしに小田君は言った。

「いいって。俺が勝手に連れて行くんだから」

 なんだかキュンとしてしまう。

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