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第52話 御家騒動
しおりを挟む── 可児炒藩 鱈場家 ──
鱈場可児乃介は、魯西亜から仕入れた新式火縄銃を見てほくそ笑んでいた。
憎き花咲家を破り、可児炒藩藩主の座に座ることを確信していた。
「花咲家なぞ、この新式火縄銃で一捻りにしてくれるわ !」
可児乃介は知らなかった。
花咲家も泥沼藩を通じて南蛮商人から武器を仕入れていることを……
「それで、火縄銃の他にも何かあるのか ?」
可児乃介の問にゼニガスキー=ベラボーナが、ニコニコしながら、
「もちろん、銭さえ頂ければ大筒から手投げ弾まで、いくらでも用意しますよ、お客様 」
「うーん、南蛮の武器は欲しいが先立つモノが……」
調子に乗って魯西亜から武器を買いまくっていたので、鱈場家の懐は寂しく成っていた。
「儂が藩主に成ってからの後払いでは駄目だろうか ?
花咲家さえ何とか出来たら、儂が藩主に成るのだ ! 」
ゼニガスキーが考える素振りをすると、すかさず可児乃介はゼニガスキーの手に銭を握らせた。
顔を見合せ、ニヤリと笑う両者は似た者同士だった。
「武器は融通出ませんが、兵は足りてますか ?
農民などより役に立つ兵を用意出来ますよ 」
藩主に成る為に目が濁っていた可児乃介は忘れていた。
御家争いで内戦などを起こせば、藩主どころか藩そのものが、お取り潰しになることを。
◇◇◇◇◇
【十兵衛side】
バタッ !
フゥ~。 左近さまのお願いとは云え、公儀隠密を気絶させるのは骨が折れる。
左近さま曰く、
『あまり廃藩が増えると浪人が増えて治安が悪く成るばかりでなく、潰された藩の浪人たちの恨みだけでなく、生き残っている藩が疑心暗鬼に成り、倒幕を考えることを恐れている』
と仰有っていた。
まったく、左近さまには敵わぬ。
どこまで、遠くを見ておいでなのか。
「普通に斬り捨てれば良いものを、左近さまは無茶を言いなさるな。
それが、あの御方の良いところでもあるのだが 」
「何を言う、主水 !
『斬り捨てるか、あえて生かすかは我等の判断に任せる』
とも仰有ったではないか !
今回の公儀隠密はありのままを報告する任務だったから生かしたが、捏造などの工作をしていたなら斬り捨てていたわ !」
正成と主水が口喧嘩を始めてしまった。
やれやれ、俺が喧嘩の仲裁をしなければならないとは恨みますぞ、左近さま。
御家争いを起こさせ無い為に半兵衛たち光矢忍者は両家の武器倉庫に忍び込んで、火薬を濡らして使い物に成ら無いように工作しているはずだ。
「なあ、十兵衛。 公儀隠密の妨害をして大丈夫なのか、左近さまは。
伊豆守さまが指揮しているのだろう、コイツらは 」
正成が疑問にもつのも仕方ない。
普通は伊豆守さまの命令だと思うからな。
「コイツら公儀隠密は、伊豆守さまの手の者では無いぞ。
伊豆守さまは、半蔵が率いている伊賀者を使っている。
コイツら甲賀忍者は幕府老中 邪菜凡乃介が独断専行で使っておるのだ。
伊豆守さまは、左近さまの献言を採用なされたから、むやみやたらに藩の取り潰しは控えるはずだ。
問題は邪菜が自分の手柄欲しさに暴走していることだな」
「幕府も一枚岩というわけでは無いと云うところか 」
主水の言葉が耳に痛かった……
── その後、幕府大目付 柳生但馬守宗矩が乗り出したことにより、鱈場家、花咲家、共に謹慎を申し付けられて、 可児炒藩の藩主は松葉家の可児蔵が選ばれたのであった ──
── ゼニガスキーは儲け損ない、大変悔しがったのである ──
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