34 / 82
第34話 誤解と犠牲者
しおりを挟む
【十兵衛side】
「其は左近殿を追いかけるでござる。
これにて失礼つかまつります 」
上様に挨拶をしてから左近殿を追いかけ始めたが、本当に退屈しないお方ですな。
まったく、御自身の地位に固執もせずに自由なお方だ。
その姿に惹かれている其も大概だと思いながら追いかけていると左近殿に追い付いた。
「やっぱり、来てくれると思ったわよ、十兵衛さん 」
ニコニコ笑う姿に嬉しくなる自分。
「左近殿は、怖くは無いのですか ?
もしかしたら、なにもかも失うかも知れないのですぞ !」
かねてからの疑問を左近殿にぶつけてみる。
「勇往邁進よ、十兵衛さん !」
「ゆうおうまいしん ?」
「光灯る街に背を向け
我が歩むは果て無き荒野
奇跡も無く標も無く
ただ夜が広がるのみ
揺るぎない意志を糧として
闇の旅を進んでいく 」
左近殿、いったい貴方は……
「どうかしら、わたしに追いてこれるかしら、十兵衛さん ! 」
参ったなぁ。 左近殿に飽きたら、一人旅でもしようかと考えていたのに、これでは離れられないでは無いか !
「追いて行きますぞ、左近殿 !」
近くの特等席で、貴方の生きざまを……
◇◇◇◇◇
【徳松side】
嗚呼、十兵衛も左近の犠牲者に成ってしまったか。
あの日以来、真面目で有能な男から、つかみどころの無い変人へと、あきらかに変わってしまった左近は妙に気になる存在に成ってしまった。
最初は『狐憑き』かと思ったが、文献を見たら義元公も京に上る途中の桶狭間の近くで変わってしまったらしい。
それまでの『京かぶれ』だった姿は成りを潜め、話し方まで変わったそうだ。
もともとは、京に上るのは見せ掛けで、本当の狙いは『尾張平定』だったという。
進軍を遅らせた義元公は、後方に居た曾祖父の元康公に尾張の清州城を攻め落とすことを命令。
あたかも、信長が桶狭間で奇襲することを見抜いたようだと記述されている。
もぬけの殻に成った清州城を落とすのに苦労はなかったらしい。
今川義元公の心眼、神算鬼謀には恐れ入るばかりだ。
当時、今孔明と言われたのは当然だろう。
左近が義元公みたいに成ったとは思えないが、非常に気になる存在に成ったのは間違いない。
その証拠に左近の元には、十兵衛や正成、主水などが集まっている。
左近のお目付け役だろう弥太郎も左近に惹かれ始めている。
悔しいが、俺には無い魅力が左近にはあるのだろう。
それなら、左近を俺の側近にしてしまった方が良いと判断した。
高家肝煎などに左近を取られるのは勿体無い。
弥太郎が、ソワソワしている。
「弥太郎。 鉄砲玉と脳筋だけでは心配だから、アイツらを手伝ってくれ !」
パッと嬉しそうな顔を一瞬するものの、すぐに何時ものしかめっ面に戻った弥太郎は、頭を下げて出て行った。
しかめっ面をしていても、尻から見えない尾が目一杯振られているぞ、弥太郎。
正成と主水も行きたそうだったが、お前たちには別にやってもらうことがあるんだ。
だから、そんなに、しょんぼり しないでくれ !
「其は左近殿を追いかけるでござる。
これにて失礼つかまつります 」
上様に挨拶をしてから左近殿を追いかけ始めたが、本当に退屈しないお方ですな。
まったく、御自身の地位に固執もせずに自由なお方だ。
その姿に惹かれている其も大概だと思いながら追いかけていると左近殿に追い付いた。
「やっぱり、来てくれると思ったわよ、十兵衛さん 」
ニコニコ笑う姿に嬉しくなる自分。
「左近殿は、怖くは無いのですか ?
もしかしたら、なにもかも失うかも知れないのですぞ !」
かねてからの疑問を左近殿にぶつけてみる。
「勇往邁進よ、十兵衛さん !」
「ゆうおうまいしん ?」
「光灯る街に背を向け
我が歩むは果て無き荒野
奇跡も無く標も無く
ただ夜が広がるのみ
揺るぎない意志を糧として
闇の旅を進んでいく 」
左近殿、いったい貴方は……
「どうかしら、わたしに追いてこれるかしら、十兵衛さん ! 」
参ったなぁ。 左近殿に飽きたら、一人旅でもしようかと考えていたのに、これでは離れられないでは無いか !
「追いて行きますぞ、左近殿 !」
近くの特等席で、貴方の生きざまを……
◇◇◇◇◇
【徳松side】
嗚呼、十兵衛も左近の犠牲者に成ってしまったか。
あの日以来、真面目で有能な男から、つかみどころの無い変人へと、あきらかに変わってしまった左近は妙に気になる存在に成ってしまった。
最初は『狐憑き』かと思ったが、文献を見たら義元公も京に上る途中の桶狭間の近くで変わってしまったらしい。
それまでの『京かぶれ』だった姿は成りを潜め、話し方まで変わったそうだ。
もともとは、京に上るのは見せ掛けで、本当の狙いは『尾張平定』だったという。
進軍を遅らせた義元公は、後方に居た曾祖父の元康公に尾張の清州城を攻め落とすことを命令。
あたかも、信長が桶狭間で奇襲することを見抜いたようだと記述されている。
もぬけの殻に成った清州城を落とすのに苦労はなかったらしい。
今川義元公の心眼、神算鬼謀には恐れ入るばかりだ。
当時、今孔明と言われたのは当然だろう。
左近が義元公みたいに成ったとは思えないが、非常に気になる存在に成ったのは間違いない。
その証拠に左近の元には、十兵衛や正成、主水などが集まっている。
左近のお目付け役だろう弥太郎も左近に惹かれ始めている。
悔しいが、俺には無い魅力が左近にはあるのだろう。
それなら、左近を俺の側近にしてしまった方が良いと判断した。
高家肝煎などに左近を取られるのは勿体無い。
弥太郎が、ソワソワしている。
「弥太郎。 鉄砲玉と脳筋だけでは心配だから、アイツらを手伝ってくれ !」
パッと嬉しそうな顔を一瞬するものの、すぐに何時ものしかめっ面に戻った弥太郎は、頭を下げて出て行った。
しかめっ面をしていても、尻から見えない尾が目一杯振られているぞ、弥太郎。
正成と主水も行きたそうだったが、お前たちには別にやってもらうことがあるんだ。
だから、そんなに、しょんぼり しないでくれ !
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる