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第86話 女神の教室

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 ── 夏休み初日 ──


 「暑いんだっぺ ! 」「エアコン、入れて欲しいんだっぺよ、ユリリン先生 ! 」

 むさ苦しい男子生徒、栃木兄弟雄仁と孝司が文句を言っている。

 文句を言いたいのは、妾の方じゃ !
 授業態度と期末試験の結果、補習を受けているのじゃぞ !

 久しぶりに妾がメインヒロインの話かと思っていたら、……
 夏休みだと云うのに補習授業の監督をバーコードハゲ教頭先生頼まれたのじゃ業務命令 !
 学生の頃は楽しい夏休みも教師に成ってから知った現実に打ちひがれていた。
 臨時講師の契約なのに、教育課程の新しい方法や技術を学ぶための研修やセミナーや教師同士の情報交換やスキルアップのためのワークショップなどもしなければ成らないのじゃ !
 部活動の顧問をしていないから、まだマシなのじゃが……学校の教師は、マジでブラックなのじゃ !
 しかも、サービス残業が当たり前のクラッカーなんて、少しも面白く無いのじゃ !

 しかも……  、教室の空調の一斉点検の為に補習授業は蒸し風呂状態なのじゃ。

 妾、とっても良い娘なのに何故じゃ !
 むさ苦しいのは生徒だけでなくて、バーコードハゲ教頭先生が妾を見張っている為じゃ !


「ったく、こんな状態でも妾は頑張っているのじゃぞ。もっと感謝するがよい!」

栃木兄弟は少し肩をすぼめ、申し訳なさそうに視線を落とした。雄仁がぽつりと呟く。

「わかってるよ、ユリリン先生。でも、これで集中するのは無理だぜ。」

「無理じゃ無理じゃと言ってるだけでは何も始まらんぞ。気合で乗り切るのじゃ!」

その時、教室の奥からふわっとそよ風が吹き込んできた。窓が少し開いていたようだ。外の蒸し暑さは相変わらずだが、少しでも風が入ると気持ちが和らぐ。

その瞬間、教頭先生のバーコードヘアーが一段階バーッと持ち上がるのを見て、誰かがクスクス笑った声が小さく響いた。妾もその場では笑わなかったが、内心では腹を抱えて笑う。しかし、すぐに引き締め直す。

「笑うんじゃない!この状況でも集中力を切らさないことが大切なのじゃ。何事も、忍耐と努力が重要なのじゃぞ。」

その時、教頭先生が脂汗をかきながら手鏡を取り出した。  バーコードヘアーが見事な風に乱れており、彼自身も少し気まずそうにしている。

「おや、教頭先生。暑くて大変ですね。空調の点検はいつ終わるんですか?」妾は問いかけた。

「え、もう少しで終わる予定です。ご迷惑をおかけしますが、もう少々の辛抱です。」教頭先生は汗をぬぐいながら答えた。

「それは助かります。学生たちも、これ以上は集中できなくなるところでした。ね、みんな?」妾が声をかけると、栃木兄弟をはじめとする生徒たちは一斉にうなずいた。

「ああ、そうだ。それと、ここで発表があります」

教頭先生は少しきまり悪そうに言葉を調整した。

「実は、今度の臨時講師会議で潮来先生が優秀な指導評価を受けました。」

教室に一瞬、静寂が訪れた。妾のつぶらな目が大きく開いて、驚きの表情を隠しきれなかったのじゃ。

「ほんとうに?それは……妾が?」

教頭先生はまるで自分のことのように満足そうにうなずいた。
「はい、ユリリン先生。あなたの献身的な指導と熱意が評価され、次の学校説明会で表彰されることが決まりました。」

教室内が一斉にざわつき始め、生徒たちから拍手と歓声が上がる。栃木兄弟もにんまりとして、雄仁が声をあげた。

「ユリリン先生!すごいじゃん!おめでとう!」

「よかったじゃん!ちょっと見直したぜ!」孝司も雄仁に続いた。

妾はその言葉に少しだけ顔を赤らめつも、照れ隠しに笑顔を作りながら言った。

「ありがとう、みんな。でも、これは妾一人の力ではないのじゃ。皆の協力と努力があったからこそ、妾もこうして評価されたのじゃ。」

その瞬間、教室のエアコンがふと静かな音を立て動き始めた。涼しい風が吹き込み、蒸し風呂のようだった教室が一気に爽やかになった。ホッとした顔を見せる生徒たちと共に、妾も肩の力を抜く。

「これでやっと集中して勉強できるのじゃ。さあ、みんな、もう一度気を引き締めて残りの時間を頑張るのじゃ!」

生徒たちは一斉に気合を入れ直し、ノートを開く音があちこちで響いた。
栃木兄弟も真剣な表情に戻り、妾の指導に耳を傾ける。

授業が終わる頃、教室の扉が再び開き、今度は校長先生が顔を出した。

「潮来先生、本当にお疲れ様。エアコンの点検が遅れてしまったこと、申し訳なかったです。それと、表彰の件、おめでとうございます。」

「ありがとうございます、校長先生。でも、これも生徒たちのおかげなのじゃ。」妾は微笑みながら答えた。

「そうですね。教師と生徒が協力して頑張る姿こそ、私たちが目指すべき学校の姿です。これからも一緒に頑張
っていきましょう」

校長先生の言葉に校内の雰囲気が一層和やかになった。妾は少しだけ疲れていたのじゃが満足感で満たされていたのじゃ。

授業が終わり、生徒たちが教室を後にする時、雄仁がぼそっと妾に声をかけた。

「ユリリン先生、改めておめでとうございます。俺たちも頑張るんだっぺ !」

「そうじゃな、雄仁。君たちも自分の夢に向かって努力するのじゃ。」妾は優しく微笑んで答えたのじゃ。

その後、妾は教室の片付けをしていると、教頭先生が再び姿を現した。

「潮来先生、少し時間がありますか?」

「はい、教頭先生。どうかしましたか?」

「実は、この夏休み中に他の学校との合同研修を企画しているんです。潮来先生もぜひ参加してほしいと思いまして」

「そうですか……」
妾は一瞬考え込んだが、すぐに顔を上げた。

「妾もこの学校のためにもっと勉強と努力を続けたいと思っております。参加させていただきます」

教頭先生は満足そうに微笑み、頭を下げた。

「ありがとうございます。 潮来先生のように情熱のある教師が参加してくれるのは心強いです。 研修では新しい教育方法や、生徒のサポートに役立つスキルがたくさん学べると思います 」

その後、教頭先生は教室を後にし、妾は再び教室の片付けに取り掛かった。妾は心の中で、教師としてもっと成長しようと決意を新たにしたのじゃ。

夏休みの補習を終えた生徒たちが帰宅し始め、教室は静かになった。窓から差し込む夕陽が教室を暖かく照らしている。

その日の夜、妾は自宅で翌日の授業準備と研修の資料に目を通していた。ふと、妾は自分の教師人生を振り返りながら、未来への期待と不安が入り混じった感情を感じ取った。


◇◇◇

 【潮来由利凛side】

 フゥ、妾を主役にした小説『 女神の教室』を書き終えたのじゃ。
 ドラマ化したら、妾の役は石◌さとみ か 新◇結衣が良いなぁ~

 アルファポリスとKADOKAWAのコンテストにエントリーする予定じゃが、両方からオファーが来たら困るのう


 ── 捕らぬ狸の皮算用をしているユリリンであった ──

    
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