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第70話 つかの間の平和 ②

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【茨城冬香side】

 兄さん恭介と栞さんが書いている小説は、相変わらずド底辺に居る。
 名スコッパーとたたえられた冬将軍でも限界があるのだ。
 レビューコメントや旧ツブヤイターである『 Z 』でつぶやいても増えたのは、ギリギリ三桁の百人を少し越えるくらいだった。
 まあ、二人ともエンジョイ勢だから良いんですけどね。

 ただ二人仲良くして、次の芥川賞や直木賞を予想している姿を見せつけられると、モヤモヤします。
 

 二人は作品の出来栄えなんて気にせずに、まるでそれが世紀の大作であるかのように語り合っている。
兄さんと栞さんも、一見すると大真面目な顔で議論しながらも、実はその背後には純粋な楽しみが溢れているのだ。

「それにしても、このキャラはもう少し成長させたほうがいいんじゃないか?」
と兄さんが言えば、

「うん、でもその前にこの伏線をもっと強調しないと」と栞さんが続ける。

そんな風景を見ていると、私もついつい微笑んでしまう。でもやっぱり、いつかはこの二人にももっと多くの人に読んでもらいたいと思ってしまうのだ。

「冬香ちゃん、ちょっとこの短歌を見てもらえるかな ? 」

 栞さんが詠んだ短歌を見せてきた。

 朝起きて くわえたパンで 走りぬく 
 遅刻ギリギリ  校門くぐる

「 ………… 」

 私の顔色をうかがうように見る栞さん。

「あの~、、どうするんですか ? 」

 おそるおそる、栞さんに聞いてみる。

「はい、ヨムカクの短歌・俳句コンテストがあるので、挑戦しようと思っているんだけど……変かなぁ~ ?」

兄さんを見ると、サッと目をらした……
 逃げたな、兄さん…………忘れませんからね !

 私は栞さんを傷つけないように言葉を選び慎重に成りながら、

「……いや、別に変じゃないと思いますよ。ただ、少しベタかなって……」
言葉に詰まる私を見て、栞さんは困ったように笑った。

「そうかな、やっぱり? でもこういう日常の些細ささいなことを詠むのも悪くないかなって思ったんだけど」

「うん、その気持ちはわかるけど……もう少しひねりを加えてみるのもいいかもね」

栞さんはうなずきながらも、どこか納得がいかない様子だ。そんな風に真剣な顔で考え込む姿も、私は嫌いじゃない。

「まあ、栞さんらしいっていうか。そういう素直な表現が、逆に心に響くこともあると思うよ」

「ありがとう、冬香ちゃん。そう言ってもらえると少しホッとするわ」

二人のやり取りを見ていた兄さんも、ようやく安心した表情を見せる。

「さて、そろそろ次の章を書きましょうか。今日も全力で楽しみましょう!」
と栞さんが気を取り直し、ペンを取り直す。

「うん、そうしよう!」兄さんも笑顔で応じる。

私もその姿を見て、一緒に微笑む。そして心の中で、二人がいつか多くの人に読まれるようになる日が来ることを祈らずにはいられなかった。

そんな一方で、私自身も兄さん達の楽しさを少しでも広めることができるよう、今日もねばり強くレビューやSNSでの発信を続けることに決めたのだった。

◇◇◇
 その日の夕方、

【茨城恭介side】
 

「兄さん、判っていますよね ❤️」

  顔は笑っているが、目が笑っていない冬香が昼間の出来事の対価を求めてきた。

「へいへい、今日の風呂掃除当番、喜んでやらせて頂きます、冬香お嬢さま 」

「わかれば、よろしい。 ああ、それと兄さん ❤️
 今晩は兄さんの得意のカレーハンバーグが食べたいなぁ~ 」

 「了解です。 冬香お嬢さま 」

 そう言って冬香はソファーで寝転がり、スマホをイジリだした。
 まったく、この従兄妹いもうと様は遠慮と云う物を知らない。
 急がないと、晩御飯に間に合わなく成るなと思っていたら、

「ムゥ~、冬香ちゃん。  いくらなんでも弟くん恭介に甘え過ぎよ !
 せめて、晩御飯の材料の買い物くらい行って来なさい ! 」

 仁王立におうだちした春姉はるねえ(春香)のに冬香は、あわてて飛び起きた。

「あわわわ。 あのね、お姉ちゃん……
 すぐに、買い物に行って来ますね、お姉ちゃん ! 」

 冬香はトートバッグを持って、あわてて家を飛び出した。

「弟くんも、あんまり冬香ちゃんを甘やかしたらダメよ ! 」

 プリプリと怒る春姉。

「了解です。 春香お姉さま 」

「よろしい。 カレーの下ごしらえの野菜くらいは手伝うから、お風呂掃除をお願いね、弟くん ❤️」

「はい、春香お姉さま 」

 姉に逆らえる弟は居ない……それが、世の中の常識だ。

◇◇◇

【三人称視点】


 その日の夜、家族が揃って夕食を摂ろうとしていた。
 丁度、栞が短歌のことで、冬香に相談に来ていたので、一緒に晩御飯を食べることに成ったのだ。

 恭介が作ったカレーハンバーグは家中に美味しそうな香りを漂わせ、全員の食欲を誘っていた。テーブルには、一緒に作ったスープやサラダも並び、夕食の準備は万全だった。

「いただきまーす!」と声を揃えると、一斉に箸やフォークが動き出した。

「やっぱり兄さんのカレーハンバーグは最高だね!」
と冬香が頬を緩めながら言うと、栞もそれに続けて、

「本当に美味しいわ。恭介さん、ありがとう」
と微笑んだ。

「いや、みんなで協力したからこそだよ。春香姉さんも野菜の下ごしらえを手伝ってくれたし」
と恭介が言うと、春香は誇らしげに頷いた。

「そう、みんなの協力があってこそなんだから。冬香ちゃんも買い物、ありがとうね」
と春香が優しい表情で言うと、冬香は嬉しそうに
「うん、また頼まれたら行くよ」と答えた。

夕食が進む中、栞がふと、今日の短歌について口を開いた。

「冬香ちゃん、今日の短歌のアドバイス、本当にありがとうね。
おかげで色々と考えることができたの。これからももっと良い作品を書けるように頑張るから、よろしくね」

「もちろん、栞さん。一緒に良い短歌や俳句を勉強しようね!」
と冬香が元気よく返事をすると、恭介も

「僕も頑張るよ。二人が力を合わせたらきっとすごい作品ができるはずだ」と励ました。

夕食を終え、片付けが済むと、それぞれの夜の時間が始まった。
 恭介は自室で執筆に取りかり、栞は短歌の改善に集中する。冬香はSNSでの更新を続け、春香はリビングで読書を楽しんでいた。

リビングのソファに座りながら、冬香はふと思った。
家族みんながそれぞれの目標に向かって頑張り、支え合っている。こんな日常が本当に貴重で、大切だと感じた。

「負けるわけにはいかないね。 恋も勉強も !」
と冬香は小さく呟き、スマホの画面に目を向けた。
そして、心の中で強く決意した。栞さんと兄さんの作品が多くの人に読まれるように、自分ももっと努力を重ねていこうと。

その夜、部屋に戻った冬香は、SNSに力を入れながらも、自分自身の目標の為に勉強にも取り掛かることにした。
そんな熱意と努力が、きっといつか実を結ぶ日が来ると信じて。

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