陛下、貸しひとつですわ

あくび。

文字の大きさ
上 下
20 / 20

20.ひとつ返上

しおりを挟む
 そうして、一連のあれこれが片付き、わたしたちにも日常が戻った。

 随分と手を焼いたが、アリス嬢とその母親も漸く別邸を去り――最終的には騎士が力尽くで追い出したそうだ――、邸での生活も快適である。
 あの母子の行先は聞いていないが、あれだけ図太いのだから、どこでもしぶとくやっていくことだろう。

 サラエル男爵が詐欺に遭ったことは公表されていない。
 そして、わたしとロン様の婚約話はアリス嬢の勘違い、ということになっているため、学院での生活も元通りだ。

 ただ、男爵家から大量の御礼の品が届いたのには、正直、困ってしまった。
 言ってみれば、こちらだって彼らを利用したことに変わりはないのだ。
 ということで、一部は有難く頂戴したけれど、その他は買い取って、今後もいいお付き合いをしていくことで話をまとめた。

 ルシェとロン様が仲良くなったり、オルライト様がわたしに対して妙に畏まったり――公爵として扱ってくれているらしいが辞めてほしい――と、微妙に変わったことはあったけれど、基本的には以前の生活が戻ったのだ。

 だから、そろそろ、わたしも仕上げをしようと思う。

 ということで、早速、陛下に謁見を願い出た。
 満面の笑みのわたしと違って、陛下は眉を下げている。

「陛下。わたくし、貸しをお返しいただきたく存じます」
「……。クリスティアよ、もちろんきちんと返すつもりだが、どうか、無体なことは言わないでおくれよ?」
「わたくし、皆が幸せになれそうなものを、必死に探したのです」
「それは喜ばしいことだが、その皆には私も入っているだろうか」

 嫌ですわ、陛下ってば。
 当然ではありませんか。

「もちろんですわ。わたくし、お米、というものを食べてみたいのです」
「米……、とな?」
「ええ、パンよりも腹持ちがよくて携帯にも便利な食べ物のようですわ」
「ほう…。そう、か…。そのような食べ物があれば、騎士たちも喜ぶかもしれんな。して、その米とやらはどこにあるのだ?」
「わかりませんわ」
「は……………?」
「貸しをお返しいただくのですもの。そんなに簡単にはいきませんわ」
「…………………。なる、ほど。……ははは。まあ、そう、だな」
「特徴や調理方法は母のノートにありましたの」
「それを元に米を探し出し、その料理を食べさせろというわけだな?」
「まあ!そんな風には申しておりませんのに。………概ね、そうではありますけれど。色々なお料理がありますのよ。どれも、すごく美味しそうなのです。きっと、陛下にも喜んでいただると思いますわ」
「それで私も幸せになれる、ということか?」
「あら。陛下は美味しいお食事は好まれませんの?」

 わたしが首を傾げてそう聞けば、陛下は、しょうがない子だな、とでも言いたげに、小さい子供を見るような目でわたしを見た後、了承してくださった。

 ――――――そして、そのひと月後。

 陛下からの呼出に応じて登城すると、目の前にたくさんの料理があった。
 周囲を見渡せば、叔父やルシェに加えて殿下もいらっしゃる。

「クリスティア、待っておったぞ。ご所望の品を用意した」
「陛下!ありがとうございます!これが…、これがお米のお料理ですのね?」
「ああ、実は、隣国にあってな、すぐに取り寄せられたぞ」

 なんてこと。そんなに近くにあったとは驚きだ。
 とはいえ、隣国でも食べられてはおらず、家畜の餌だったそうだが。
 まあ!それこそ、なんてこと。

「父上、早く食べませんか」
「そうですよ、陛下。このままお預けとかないですよね?」
「もちろんだとも。早速戴こうではないか」

 そうして食べたお米料理は何ともおいしくて皆が笑顔になったのだった。
 うふふ。やっぱり、皆を幸せにすることができるものでしたわ。

 陛下、今回の貸しひとつ、確かにお返しいただきました。

 でも、母の分があと十二、残っておりますので。
 また、お願いに伺いますわね。

 今度は何がいいかしら?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 これにて完結です。
 最後までお付き合いくださいまして、誠にありがとうございました。

 また、陛下がクリスティアに何かを頼んで貸しを増やしたり。
 クリスティアが溜まった貸しを返してもらおうと無茶を言ってみたり。
 そんなことが(私の頭に)湧いてきたら、続編を書くかもしれません。
 が、一旦、こちらで完結とさせていただきます。

 途中、更新が滞ってしまって申し訳なかったです。

しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ばうむ
2021.02.26 ばうむ

とても面白かったです!
本筋からは外れますが、ビアトリスさんは転生者としてまだまだやりたい事がたくさんあっただろうに30代という若さで亡くなってしまったんだなぁとちょっと悲しくなりました😢

あくび。
2021.02.27 あくび。

感想、ありがとうございます!

すごくうれしいです。
母ビアトリスのことも気に掛けていただいてありがとうございます。
きっと色々なものを再現する気だったとは思うのですが、病には勝てませんでした…。
でも、母の思いを受け取っているクリスティアががんばってくれると思います!

解除

あなたにおすすめの小説

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

旧転生者はめぐりあう

佐藤醤油
ファンタジー
リニューアル版はこちら https://www.alphapolis.co.jp/novel/921246135/161178785/

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

裏切者には神罰を

夜桜
恋愛
 幸せな生活は途端に終わりを告げた。  辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。  けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。  あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。