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15.男爵の召致
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そして、翌朝。
わたしは王宮からそのまま学院に登院するつもりだったのだけど、朝食の後、叔父に呼び止められてしまった。
話を聞けば、学院を休んで、これから行われる謁見に立ち会ってほしいとのこと。殿下やルシェ、オルライト様も立ち会うという。
「それは構いませんけれど、わたしが立ち会ってもよいものなんですの?」
「ああ。陛下の希望でもあるからな。実はな、件の男爵を呼んであるのだ」
昨日の今日でもう召集をかけたとは。
その素早さに驚いたが、どうやら、ロン様の御父君、サラエル男爵にも商会にも何の問題がないことは、既に調べが付いていたらしい。優秀ではあるのだが、あまりにも善良すぎて騙されやすい男爵を、奥様や従業員がフォローするのが常だという。
だから、今回の件も、男爵は共犯ではなく騙されているという可能性が高かったのが、万が一、ということもあるため、影を放って泳がせていたようだ。
昨晩、ロン様が帰宅して学院での話をした後は、男爵家ではひと悶着あったらしく。婚約話を信じたい男爵と、やっぱり、とどこかで疑念を抱いていた奥様が言い争いになってしまい、ロン様が必死で諫めていたとか。
それだけではないけれど、男爵家の反応を見てもやはり男爵は被害者であると判断し、わたしの父とやらであるダニエルと接触する前に保護してきたそうだ。
昨日、ダニエルは男爵家には行かなかったらしい。
「男爵様はいつ保護されたんですの?」
「今朝方、王宮の使者が迎えにいったようだ」
きっと詳しい話も聞かされず、だからといって断ることもできず、そのまま馬車に乗せられたのではないかと思うと、それは保護ではなく、むしろ、捕獲や拉致だったのではないか。
そんな心配をしながらも叔父に付いていったら、そこは謁見の間ではなく応接室だった。なるほど、また密談のようだ。
応接室には、男爵だけではなく、男爵夫人らしき女性とロン様もいらして、想像通り、三人はがちがちに固まっていた。無理もない。昨日お送りしたことで三人と面識のあるオルライト様が緊張を解そうとがんばっているが効果はないようだ。
その様子を見てわたしも加勢しようかと思ったところで陛下が登場し、わたしたちが礼を取るのを止めて、早々に話し始めた。
「急な呼び出しにも拘わらず、登城、感謝する。朝早くから足労をかけた」
「いえ!とんでも、ございません!」
男爵が更に緊張してしまったようでますます心配だ。
「早速で悪いが、サラエル男爵の子息とクリスティアの婚約話を耳にしてな。私はあずかり知らぬ話なのだが、男爵は、貴族の婚約には私、国王の承認が必要なことを知らなかったのか?」
「なっ!そ、そんなことはございません!もちろん承知しております!……恐れながら、公爵閣下が手配くださると仰ったのでお任せしておりました」
「公爵?どこの公爵だ?」
「もちろん、バートン公爵閣下でございます」
「ほう……?バートン公爵よ、それは誠か?」
陛下、やってくれますね。
男爵が言うバートン公爵はこの場にいないはずなのに。
案の定、ここでこのような質問が出たことに男爵は混乱している。
「いいえ。大変恐縮ではございますが、そのような事実はございません」
そうして陛下の問いに答えたのがわたしだったから、男爵は更に混乱に陥った。
「は……?クリスティア様がバートン公爵、なのでございますか……?」
「左様。先日、前公爵だったビアトリスが永逝し、クリスティアが当主の座を引き継いでおる。現バートン公爵はクリスティアだ」
そうなのだ。バートン公爵家の現当主はわたしなのだ。
未成年だから叔父が後見人ではあるけれど、当主、となるとわたしになる。
特に隠してはいなかったのだが、わざわざ公にもしていなかった情報だ。
男爵家の皆さまは、驚きで目を丸くしていた。
わたしは王宮からそのまま学院に登院するつもりだったのだけど、朝食の後、叔父に呼び止められてしまった。
話を聞けば、学院を休んで、これから行われる謁見に立ち会ってほしいとのこと。殿下やルシェ、オルライト様も立ち会うという。
「それは構いませんけれど、わたしが立ち会ってもよいものなんですの?」
「ああ。陛下の希望でもあるからな。実はな、件の男爵を呼んであるのだ」
昨日の今日でもう召集をかけたとは。
その素早さに驚いたが、どうやら、ロン様の御父君、サラエル男爵にも商会にも何の問題がないことは、既に調べが付いていたらしい。優秀ではあるのだが、あまりにも善良すぎて騙されやすい男爵を、奥様や従業員がフォローするのが常だという。
だから、今回の件も、男爵は共犯ではなく騙されているという可能性が高かったのが、万が一、ということもあるため、影を放って泳がせていたようだ。
昨晩、ロン様が帰宅して学院での話をした後は、男爵家ではひと悶着あったらしく。婚約話を信じたい男爵と、やっぱり、とどこかで疑念を抱いていた奥様が言い争いになってしまい、ロン様が必死で諫めていたとか。
それだけではないけれど、男爵家の反応を見てもやはり男爵は被害者であると判断し、わたしの父とやらであるダニエルと接触する前に保護してきたそうだ。
昨日、ダニエルは男爵家には行かなかったらしい。
「男爵様はいつ保護されたんですの?」
「今朝方、王宮の使者が迎えにいったようだ」
きっと詳しい話も聞かされず、だからといって断ることもできず、そのまま馬車に乗せられたのではないかと思うと、それは保護ではなく、むしろ、捕獲や拉致だったのではないか。
そんな心配をしながらも叔父に付いていったら、そこは謁見の間ではなく応接室だった。なるほど、また密談のようだ。
応接室には、男爵だけではなく、男爵夫人らしき女性とロン様もいらして、想像通り、三人はがちがちに固まっていた。無理もない。昨日お送りしたことで三人と面識のあるオルライト様が緊張を解そうとがんばっているが効果はないようだ。
その様子を見てわたしも加勢しようかと思ったところで陛下が登場し、わたしたちが礼を取るのを止めて、早々に話し始めた。
「急な呼び出しにも拘わらず、登城、感謝する。朝早くから足労をかけた」
「いえ!とんでも、ございません!」
男爵が更に緊張してしまったようでますます心配だ。
「早速で悪いが、サラエル男爵の子息とクリスティアの婚約話を耳にしてな。私はあずかり知らぬ話なのだが、男爵は、貴族の婚約には私、国王の承認が必要なことを知らなかったのか?」
「なっ!そ、そんなことはございません!もちろん承知しております!……恐れながら、公爵閣下が手配くださると仰ったのでお任せしておりました」
「公爵?どこの公爵だ?」
「もちろん、バートン公爵閣下でございます」
「ほう……?バートン公爵よ、それは誠か?」
陛下、やってくれますね。
男爵が言うバートン公爵はこの場にいないはずなのに。
案の定、ここでこのような質問が出たことに男爵は混乱している。
「いいえ。大変恐縮ではございますが、そのような事実はございません」
そうして陛下の問いに答えたのがわたしだったから、男爵は更に混乱に陥った。
「は……?クリスティア様がバートン公爵、なのでございますか……?」
「左様。先日、前公爵だったビアトリスが永逝し、クリスティアが当主の座を引き継いでおる。現バートン公爵はクリスティアだ」
そうなのだ。バートン公爵家の現当主はわたしなのだ。
未成年だから叔父が後見人ではあるけれど、当主、となるとわたしになる。
特に隠してはいなかったのだが、わざわざ公にもしていなかった情報だ。
男爵家の皆さまは、驚きで目を丸くしていた。
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