陛下、貸しひとつですわ

あくび。

文字の大きさ
上 下
15 / 20

15.男爵の召致

しおりを挟む
 そして、翌朝。

 わたしは王宮からそのまま学院に登院するつもりだったのだけど、朝食の後、叔父に呼び止められてしまった。
 話を聞けば、学院を休んで、これから行われる謁見に立ち会ってほしいとのこと。殿下やルシェ、オルライト様も立ち会うという。

「それは構いませんけれど、わたしが立ち会ってもよいものなんですの?」
「ああ。陛下の希望でもあるからな。実はな、件の男爵を呼んであるのだ」

 昨日の今日でもう召集をかけたとは。

 その素早さに驚いたが、どうやら、ロン様の御父君、サラエル男爵にも商会にも何の問題がないことは、既に調べが付いていたらしい。優秀ではあるのだが、あまりにも善良すぎて騙されやすい男爵を、奥様や従業員がフォローするのが常だという。

 だから、今回の件も、男爵は共犯ではなく騙されているという可能性が高かったのが、万が一、ということもあるため、影を放って泳がせていたようだ。

 昨晩、ロン様が帰宅して学院での話をした後は、男爵家ではひと悶着あったらしく。婚約話を信じたい男爵と、やっぱり、とどこかで疑念を抱いていた奥様が言い争いになってしまい、ロン様が必死で諫めていたとか。

 それだけではないけれど、男爵家の反応を見てもやはり男爵は被害者であると判断し、わたしの父とやらであるダニエルと接触する前に保護してきたそうだ。
 昨日、ダニエルは男爵家には行かなかったらしい。

「男爵様はいつ保護されたんですの?」
「今朝方、王宮の使者が迎えにいったようだ」

 きっと詳しい話も聞かされず、だからといって断ることもできず、そのまま馬車に乗せられたのではないかと思うと、それは保護ではなく、むしろ、捕獲や拉致だったのではないか。

 そんな心配をしながらも叔父に付いていったら、そこは謁見の間ではなく応接室だった。なるほど、また密談のようだ。

 応接室には、男爵だけではなく、男爵夫人らしき女性とロン様もいらして、想像通り、三人はがちがちに固まっていた。無理もない。昨日お送りしたことで三人と面識のあるオルライト様が緊張を解そうとがんばっているが効果はないようだ。

 その様子を見てわたしも加勢しようかと思ったところで陛下が登場し、わたしたちが礼を取るのを止めて、早々に話し始めた。

「急な呼び出しにも拘わらず、登城、感謝する。朝早くから足労をかけた」
「いえ!とんでも、ございません!」

 男爵が更に緊張してしまったようでますます心配だ。

「早速で悪いが、サラエル男爵の子息とクリスティアの婚約話を耳にしてな。私はあずかり知らぬ話なのだが、男爵は、貴族の婚約には私、国王の承認が必要なことを知らなかったのか?」
「なっ!そ、そんなことはございません!もちろん承知しております!……恐れながら、公爵閣下が手配くださると仰ったのでお任せしておりました」
「公爵?どこの公爵だ?」
「もちろん、バートン公爵閣下でございます」
「ほう……?バートン公爵よ、それは誠か?」

 陛下、やってくれますね。
 男爵が言うバートン公爵はこの場にいないはずなのに。

 案の定、ここでこのような質問が出たことに男爵は混乱している。

「いいえ。大変恐縮ではございますが、そのような事実はございません」

 そうして陛下の問いに答えたのがわたしだったから、男爵は更に混乱に陥った。

「は……?クリスティア様がバートン公爵、なのでございますか……?」
「左様。先日、前公爵だったビアトリスが永逝し、クリスティアが当主の座を引き継いでおる。現バートン公爵はクリスティアだ」

 そうなのだ。バートン公爵家の現当主はわたしなのだ。
 未成年だから叔父が後見人ではあるけれど、当主、となるとわたしになる。

 特に隠してはいなかったのだが、わざわざ公にもしていなかった情報だ。
 男爵家の皆さまは、驚きで目を丸くしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

旧転生者はめぐりあう

佐藤醤油
ファンタジー
リニューアル版はこちら https://www.alphapolis.co.jp/novel/921246135/161178785/

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

裏切者には神罰を

夜桜
恋愛
 幸せな生活は途端に終わりを告げた。  辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。  けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。  あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。

処理中です...