追放令嬢は隣国で幸せになります。

あくび。

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第一章 平民ライフ突入編

11.彼女は彼に秘密を話す。

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(side リディア)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 知識の出処を聞かれて、思わず狼狽えてしまった。

 いや、ラディは、わたしの知識に素直に感心してくれて、勉強方法を聞いてきただけだから、知識の出処を聞き出しているつもりなんかないだろうけど。
 普通は『出処』なんて、そんな発想になるわけがないしね。
 わたしが無意識にそう捉えて過剰に反応してしまっただけだ。

 そもそも、最初から詳しく話しすぎたのだ。
 わたしの知識が異常なことくらいわかっていたはずなのに。
 何の警戒もせずに何でもかんでも話してしまった。

 結構な知識を披露してしまったから、ラディの質問は当然だと思う。
 でも、それに素直に答えるには勇気がいるのだ。

 わたしのアイデアや知識は、勉強で培われたものだけではないから。
 もちろん、お母様や家庭教師から学んだこともあるけれど。
 ほとんどが特殊な出処による知識なのだ。

 あまりにも特殊だから、わたしはそれをずっと秘密にしてきた。
 知っているのは両親だけ。
 カイン陛下にもアーリア商会のメンバーにも話していない。

 それだけ秘密にしてきたけれど。
 一緒に暮らすラディには話しておいたほうがいいとは思う。
 これからも規格外なことをしてしまうかもしれないし。
 できれば秘密は持ちたくないし。
 何よりも、今、挙動不審になっている時点で何かあると言っているようなものなんだから、変な勘繰りをされるよりは話したほうがいいはずなのだ。

 ラディは受け入れてくれるだろうか。
 信じて話して大丈夫なような気もするし、拒絶されることが怖くもある。
 ここ数日で知った彼なら、大丈夫だとは思うけれど。

 学園時代、わたしはラディと話したことはなくて。
 一見、愛想がいい優男だけど、わたしには愛想の良さが作り物めいて見えて、本心がよくわからない人だというイメージだった。

 でも、実際に話してみたら、そこまで愛想がいいわけでもなく。
 それなりに顔に現れる人だった。
 と言っても、基本的に穏やかで目や表情に少し出る程度だけど。

 多分、以前のイメージは外面のときの彼なんだろうな。
 彼と接するようになってからは以前のように思うことはないから、自惚れかもしれないけど、ある程度は素を出してもらっているんじゃないかと思う。

 先入観がなくなったら、すごく話しやすくなって。
 話すうちに、すごく善良で優しい人だということがわかった。
 話も合うし、乱暴な言葉を使わないから空気感が柔らかくて。
 それが心地よくて、聞かれたことには何の警戒もなくすらすらと答えた。

 結果、話しすぎて今に至るわけだけど。
 こんな風に思える人なら、秘密を話しても大丈夫な気がするのだ。

 話したいし、信じたい。でも、怖い。
 結局この思考に戻ってしまって、ぐるぐると考えていたら、ほんの少しだけ眉を寄せて心配そうな顔をしたラディと目が合った。

 あ、わたし、考えに耽って、狼狽えたまま黙ってしまっていたわ。
 きっと目も泳いでいたに違いない。
 そんなんじゃ、ますます何かあると言っていると同然ね。

「リディ?大丈夫?ごめん、俺、何か変なこと言っちゃたかな?」

 ……ああ、本当にいい人なんだな。
 ラディには何の非もないし、ただ素直な疑問を口にしただけなのに。
 普通なら何てことはない質問にわたしが勝手に狼狽えただけなのに。

 彼の空気感がそうさせるのだろうか。
 ラディを見ていたら心が凪いで落ち着いてきた。
 やっぱり大丈夫。信じて大丈夫だと思った。
 秘密を話すのは今だと思えた。

「ううん、そんなことないわ。ごめんなさい。わたしは大丈夫よ」
「ならよかったけど」
「あのね、ラディに聞いてほしいことがあるの」
「え、何、今度は改まって」
「家に着いたばかりで疲れてるのに、ごめんね」
「いや、それはいいけども」

 若干身構えているらしいラディには申し訳ないけど、話す決心がついてしまったのだ。今を逃したらもう話せないかもしれないから聞いてほしい。
 ダズルのことやこの家のことで散々驚かせたばっかりなのに、ごめんね。

「あのね、わたしには前世の記憶があるの。それも異世界の」
「は?」
「荒唐無稽な話でごめんなさい。信じられないかもしれないけどちゃんと説明するから。できればラディには知っていてほしい」
「………。わかった」

 ラディは最初の言葉から理解できていないのだろうけど、わたしの決意に満ちた顔に負けたのか、わからないながらも聞いてくれるようだ。
 勢いでこんな話をすることになって、本当にごめん。

「わたしにはこの世界ではない世界で生きていた記憶があるの。たぶん、それが前世なんだと思う」

 前世はこの世界とは全く違って、魔法はなかったけど、その分技術が発達した世界だった。たくさんの国があって貧しい国もあったけど、わたしが住んでいた国は豊かで技術大国だったから、便利なもので溢れていた。

 夜でも灯りに困らなかったし、清潔な水がどの家にも引かれていた。
 火を起こすのも簡単だった。食べ物も豊富で料理の技術も高かった。

 遠く離れた場所で起きたことを見ることができたし、目の前の風景を精密な絵にして保存したり、空間を記録することもできた。
 目の前にいない人と話したり、瞬時に手紙を送ることもできた。
 馬車よりももっと早い乗り物も、空を飛ぶ乗り物さえあった。
 船旅も危険が少なくて、陸でも海でも何百人もの人を運ぶことができた。

 前世の名前もわからないし、家族のことも友人のことも思い出せないけれど、そういう便利な暮らしをしていた記憶を持って、わたしはこの世界に生まれた。

 生まれた時から記憶があったから、この世界での生活はとても不便で。
 あれはないの?これはないの?と聞いてばかりいて。
 そんなわたしはとても怪訝な目で見られてしまって、幼いながらもそれが辛くてしばらくはこの世界になじもうとがんばったんだけど。

 だんだん、不便な生活に感じるストレスのほうが辛くなってきて。
 確か五歳くらいだったと思う。思い切って両親に前世の記憶のことを話していろいろな設備や道具を作ってもらった。それで、立ち上げたのが母の商会。

 グリーンフィールに情報提供した技術もこの家にある魔道具も、その前世の記憶を再現したもので。だから、本当はわたしのアイデアではなくて。
 偉そうに話した商売の話も、前世での記憶から導き出しただけなのだ。

「さっき、ラディがわたしのことを頭がいいって言ってくれたけど、それだって当然なのよ。前世の教育はこの世界よりもはるかに高度だったから」

 ここまで一気に話したけれど、ラディはずっと黙って聞いてくれた。
 でも、あまりにも反応がないから不安が蘇ってきてしまう。
 話す決心をしたときは、大丈夫、なんて思ってしまったけれど、やっぱり受け入れてもらえないのだろうか。

「ラディ?」
「え?………あ、ごめん。思いもしない話だったから」
「そうだよね、こっちこそごめんなさい。こんな話で」
「謝らなくていいよ。その、何ていうか、すごいな?」
「え?」

 すごい、とはどういうことだろうか。
 ラディの反応を見るに、気持ち悪がられたり拒絶はされていないようだけど。

「リディの頭にはものすごい知識が詰まっているんだな、と思って」
「信じてくれるの……?」
「正直に言えば信じがたい話だけど、信じるよ。ここには信じるに値するものがある。それに、リディが嘘をついているようには見えないよ」
「……っ!ありがとう!」

 やばい、ちょっと泣きそうだ。
 想像していたよりもうれしい。実際に信じてもらえたことがこんなにうれしいだなんて。本当に、本当にうれしい。ラディ、ありがとう!

「にしても、その前世?異世界?とやらは想像を絶する世界だな」
「この世界の人が見たらすごく奇怪に見えると思うわ。それに、戦もないのよ。わたしがいた国は戦をしないと誓ってたの」

 厳密には戦争がまったくないわけじゃなかったし、悲しい出来事も多かったけど、国盗りの戦が多いこの世界に比べたらものすごく平和な世界だったと思う。

「へぇ。それはいい世界だ」
「うん。わたしは庶民だったけど、平和に穏やかに暮らしていたもの」
「庶民?庶民がこんなに便利な暮らしをしてたのか?」
「んー、庶民の概念は違うけど、似たようなものかな。そうね、機能の差はあっても、この家の設備くらいなら大抵の人は使ってたと思うわ」

 前世の階級制度とか民主制とかの話は説明が面倒だし、不敬とか言われても困るのでここでは割愛。この世界は君主制だからね。

「聞けば聞くほどすごい世界だな。その知識があるリディはやっぱりすごいよ」
「ラディはそう言ってくれるけど、わたし、ずるいよね?」
「ずるい?」
「だって、いろいろ評価してもらってるけど、わたしが考えたんじゃないもの。前世の偉い人とかが考えたことをわたしが真似しているだけなんだから」
「だとしても、別にずるくはないんじゃないか?頭の出来も運動神経も魔法も、剣だって、生まれつき能力が高い人がいるんだから、それと同じ事なんじゃないかと思う。確かにリディみたいな記憶は特殊だけど、それだって能力のひとつだ。才能がある人を羨むことはあってもずるいとは思わないよ」

 まさか、そんな風に言ってもらえるとは思わなかった。
 この記憶のことはずっと引け目を感じていたから。
 ラディが肯定してくれて少し心が軽くなった気がする。
 ………いや、少しじゃなくて、かなり。

 両親に話した時も否定はされなかったし、両親はわたしのことを尊重してくれていたけれど。やっぱり家族のひいき目はあるから、こうやって、家族以外の人に認めてもらえるのはうれしい。

 あ、ラディはもう家族だったわ。仮ではあるけれど、そうだ、家族だ。
 素敵な旦那さまに嫁げて、わたしは幸せものね。
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