悪役令嬢の独壇場

あくび。

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05.お疲れ様でございました

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 さて、王子たちと言えば。
 さすがにもう何も言えなくなってしまったようです。

 それはそうですよね。
 事前に計画を把握されていただけでなく、その計画も事細かに駄目出しされてしまったのですから。

 口を噛んで悔しそうにしていたり、顔面蒼白になっていたり、俯いてしまったりと表情は様々ですが、反論できなくなったことだけは確かです。

 そうして、カロリーナ様は、そんな王子たちの様子をしばし見つめた後、広げていた扇子を閉じてその扇子で手を打ちました。

 パシッという音が会場に響きます。

 その音を聞いて、この場の全員がカロリーナ様に注目したのですが。

「皆さま、御清聴ありがとうございました。余興は楽しんでいただけましたかしら?途中、品のない件を入れてしまって申し訳ありませんでしたわ」

 続いた言葉に、誰もが困惑してしまいましたわ。

 カロリーナ様は清々しい笑顔ですが、周囲には戸惑いが広がっています。
 かく言うわたくしも、ちょっと理解が追い付いておりません。

 余興、とはどういうことでしょうか。

 カロリーナ様がずっとお話されていたことは事実なのです。

 王子たちが自身の婚約者を蔑ろにして、ヒロインといちゃいちゃ、いえ、不貞をしていたことは、誰もが知っていました。

 虐められたと訴えていたヒロインを庇って、彼らがそれぞれの婚約者に怒鳴っているところだってよく見受けられましたが、虐められたというのが偽装だと気づいている人も多かったはずなのですよね。

 その前提がありますし、カロリーナ様のお話は信ぴょう性が高かったのです。
 秘密裏に進められていた断罪計画を暴いたことからも言って、影が付いているのは本当のことでしょうし、話の内容も納得できることでした。

 何よりも、王子たちの表情が事実だと物語っていたと思うのです。

 中には、余興と言われて、一部創作が含まれていたのではないかと疑い始めた人もいるようですが。

 乙女ゲーム経験者であり、出歯亀生活していたわたくしには断言できます。
 カロリーナ様は嘘など言っていなかったことを。

 それなのに、どうして余興として片付けるのかが不思議でしたが、カロリーナ様がほんの一瞬流した視線の先を見て察しました。
 推しの視線すら逃したくないわたくしだからこそ、わかったことですね。

 カロリーナ様の視線の先にいたのは、留学生たちだったのです。

 恐らく、王子たちの醜聞を他国に持ち込まれたくないのでしょう。
 我が国の恥と言ってもいい話ですからね、確かにそれは避けたい事態です。

 いくら全てが事実だとしても、この場でカロリーナ様が『余興』と言い切ってしまえば、それは余興なのです。
 もし自国に戻ってから話すとしても、創作話として話すしかありませんものね。

 後は、そうですね。

 実際のところ、王子たちは断罪をしていないのです。
 しようとはしていましたが、カロリーナ様に先制を取られたことで、行動に移すことができませんでした。

 ですから、王子たちがこの場で馬鹿なことをした事実はないわけです。

 まあ、これまでやってきた馬鹿なことは明るみになりましたが、最後の一番愚かな行動は回避されました。

 となれば、王子たちへの罰も軽減されるのではないでしょうか。
 これまでの不貞行為や偽証等については咎められると思いますが、それも断罪イベントを起こした時ほどではないはずです。

 そう考えると、カロリーナ様は本当にお優しい方ですわね。
 あんなに残念な方たちのために茶番を余興にしてあげるだなんて。

 わたくしとしましては、カロリーナ様にトドメを刺してもらってもよかったとは思いますけれど。

『あら、わたくしとしたことが。殿下たちの一世一代の茶番を横取りして、一人芝居をしてしまいましたわ。ごめん遊ばせ!』

 なんて言って、悪役令嬢っぽく笑っていただいてもよかったと思います。
 というよりも、その笑顔を見たかった……っ!

 ですが、それをしないのがカロリーナ様なのですね。
 本当に尊いお方ですわ。

 わたくしは、そんな風にひとり思考に陥っていたのですが、他の方々も余興についての考察を始めていたようです。

 その為、周囲もざわざわとしてきたのですが。
 ここでまた、パシッと言う音が響きました。

 カロリーナ様が再度扇子で手を打ったのですが、それは、この話はこれで終わり、と言っているようでもありましたね。

「改めまして、皆さま、本日は卒業おめでとうございます。わたくしも、皆さまと学園生活を送れて楽しかったですわ。わたくしはここで一旦失礼させていただきますが、皆さまはぜひこの後もパーティーをお楽しみくださいませ」

 周囲の注目を浴びたカロリーナ様は、そう言って、大変美しいカーテシーをしてから、優雅に去っていかれました。

 そのお姿に、ほぅ、とため息をつく方が多くいらっしゃいましたわ。
 もちろん、わたくしも、ですけれど。

 そうして、しばらくはパーティー会場も静寂に包まれていましたが、カロリーナ様が会場を出てからは、当然ながら、先ほどの考察の続きが始まります。

 会場内にまたざわめきが広がっていますが、聞こえてくる話から判断するに、やはり、事実を余興として取り繕ったと結論づけた人が多いようです。
 ある程度は知られていた話なのですから、それも当然ですね。

 その話が聞こえたのでしょうか。
 居た堪れなくなったのか、王子たちもそろりそろりと会場を出ていきました。

 その際に、ヒロインが『あんなの全部嘘だからね!』と言っているのが聞こえましたが、王子たちは半信半疑のようです。
 まだ信じようとしていることにはびっくりしますが、疑う気持ちもあるようで、それくらいの頭があったことには少し安心しました。

 ああ、そういえば、カロリーナ様の弟君は茫然自失のままでしたね。
 身に覚えがあるのでしたら、無理もありませんが。
 この後、どんなお顔をして帰宅されるのしょうね?

 それにしても―――。

 卒業パーティーでの断罪は、確実に起こり得ることでした。

 それを事前に掴んで回避させた上に、ご自身の冤罪を晴らし、王子たちに現実を教えて完膚なきまでに叩きのめす。
 そこまでやっておきながら、事を大きくさせずに余興にすり替えるだなんて。

 カロリーナ様のお手並みは大変お見事でしたね。
 まさに悪役令嬢の独壇場でした。
 大変お疲れ様でございましたわ。

 そう思って、カロリーナ様のお姿を思い浮かべながらひとり乾杯をした後。
 わたくしも、友人たちの輪に入って、学園最後のパーティーを楽しませていただいたのですけれど。

 カロリーナ様はその後、パーティー会場に戻ることはありませんでした。
 恐らく、集めた証拠を手に婚約解消の手続きに行かれたのではないかと思うのですが、どうでしょうか?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 こちらで本編完了です。
 最後までお読みくださった方、どうもありがとうございました。

 後日、番外編や後日談を投稿予定です。
 もしよろしければ、またお立ち寄りいただけるとうれしいです。

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