身代わりにしてゴメンね

鳴宮鶉子

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結婚はしても子供はしばらくいらない

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恐怖の年末年始。

普段は仕事上、社長の父と専務をしている母に顔を合わせる事はあるけど、創真との結婚についてはわたしは苦言されてない。

年始の挨拶でいわれる気はする。
元旦に呼び出されたけど、年末はフリーで、29~31日の3日間はマンションに引きこもってた。

仕事が多忙で留守がちな創真に抱き潰され、その合間に地下に食材を買いに行く。
3大欲求の、睡眠欲、食欲、性欲をひたすら発散する3日間だった。

年始にわたしの実家に顔を出すと、まさかの創真の両親もいて、親主導で結納式をされ、3月12日に結婚式をする手筈を整えられてた。

「…親達が痺れをきらしたかーー」

いつかは結婚する運命だから諦めてた。
大学入学時から創真と同棲していたから、夫婦のような生活を送ってる。

「……結婚してもすぐに子供を産まなければ仕事は続けられるし、戸籍上の夫婦になって、咲愛のタイミングで子供をつくろか」

多忙で留守がちな創真だから、月の半分もウチにはいない。

「ーー絶対に、避妊してよ……」

結婚したら、次は跡継ぎを産むことを急かされる気がする。 

「30迄には子供は欲しいけどな……。子供が産まれても、仕事は続けられる」

麗華ちゃんが産後も通訳の仕事を続けるのを聞いて、わたしもインテリアプランナーとして在宅で今まで通りに仕事をしたらと創真は言うようになった。

3月12日の大安吉日。純白のウエディングドレスを身に纏い、銀座にあるグランドナカクラで多くの参列者が出席する中で始まった結婚式。


「永倉創真さん、あなたは初瀬咲愛さんを妻とし、神の導きによって夫婦になり、なんじ、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しきときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

 実際は日本語を流暢に喋れると思われる外国人牧師に、片言の日本語で言われ、

「はい、誓います」

と創真はこたえた。
わたしも同じことを聞かれ、実際はそんな気持ちはないけど、「誓います」とこたえた。
 お互いの左手薬指に永遠を誓うハリーウィンストンの指輪をはめ、

「それでは誓いのキスを」

何度もくちづけを交わし、肌を重ね合わせてきたというのに、白いタキシードを身に纏った美男子の創真にベールをまくられ、多くの参列者の前で唇を重ねた。

大学に進学した当時から、12年間同棲している。
だから、結婚したからと何も生活は変わらない。

「……ホテルのスイートルームで一夜を過ごすのもいいなぁ……」

「……避妊忘れないでよ」

何度も身体を合わせてるから、もはや初夜とはいえない。
婿養子に入った創真の名字が初瀬に変わって、同姓になっただけ。

結婚式の後の披露宴は会社関係の客人が800人強集まった。
京都大学時代の親友や教授も駆けつけてくれた。

ナカクラホテルの三つ星レストランのシュフが集まり作った料理に、客人達は感動してた。

わたしの母がウェディングプランナーをしてる創真の母に相談し、2人がこの結婚式をセッティングした。

わたしと創真が決めたのはドレスとタキシードだけ。
母が厳選した中から選んだから、もはや全て母主導で行われたようなもの。

おかげで結婚式と披露宴が5時間と長くなり、かなり疲れ果ててしまった。

「出張でホテルに宿泊する時、空いてたらスイートにしようか?」

一級設計士の資格をとった創真。
リフォームと新規建設の仕事を受ける際に、内装デザインのためにわたしも出張に同行する。

その際に泊まるナカクラの客室はいつも景色がいいダブルの部屋。

ナカクラの社長の次男坊だから、良い部屋に案内してくれてる。

「……仕事で泊まるんだから、スイートルームは辞めて。シャワー浴びてくる……」

「スイートルームのバスルームは広いから、一緒に入ろうっと……その前に」

ワインレッドのドレス姿のわたしとブラックタキシードの創真。

リビングのソファーにわたしを押し倒し、唇を奪う。
そして、耳裏、首筋、胸元と唇を這わせ、右手でドレスを捲ってわたしの太腿をさする。

「……ドレスの下のこの下着、邪魔なんだけど」

背中のファスナーを下ろしたら何も身につけてないと思ってた創真。
ドレスをきれいに着こなすためにビスチャで上半身を締め付けてた。

下は普通のパンティだから、ドレスをたくし上げ、剥ぎ取り、顔を埋め、潤い始めた秘部に長い指と舌を入れた。

「……この姿で1回やりたい」

避妊具の箱をスーツケースから出してきて、タキシードを着たまま、モノだけ出して装着すると、すぐにわたしの中に割り入ってくる。

その後、バスルームで創真に念入りに洗われ、壁に手をやりバックの姿勢とバスタブの中で座位で繋がり、スプリングが効いたキングサイズのベッドの上でも数えきれないくらい身体を合わせた。

疲れ切って眠りにつき、目覚めたらお昼前で慌ててチェックアウトをし、タクシーでマンションへ帰った。


4月6日に麗華ちゃんが出産した。
麗華ちゃんに似た、色素が薄い綺麗な男の子で、跡取りが無事に産まれ、永倉のご両親は嬉しそうだった。

「ーー 可愛い!!」
産まれたのあどけない赤ちゃん。
小さな手でわたしの指を掴んで握手をしてくれた。

「咲愛ちゃんも結婚したんだから、子供作ったら?直ぐにできたら、将輝《まさき》と同学年になる!!」

優秀な創真と頭のできで両親から比べられて育ったから、できたら麗華ちゃんの子と年の差をあけたい。

麗華ちゃんとわたしは中高一貫校時代の成績面ではわたしの方がよかった。
それは、両親から認められたくて、なんとか努力で成し遂げていたからで、祖父母からのプレッシャーで自分の子供に同じ思いをさせたくないと思い、わたしは子供を持つ事に後ろ向きになってるのかもと、ふと思った。

創真とわたしが夫婦になり、父は創真に経営者教育を始めた。
創真専属のインテリアプランナーだから、仕事量が少し減り、帰宅も少し早くなり暇を持て余す。

だから、一級設計士の資格を取ろうと通信教育で勉強を始めた。

わたしは両親に認められたかったのかもしれない。

わたしの両親がわたしに今求めるのは、子供を産み、その子を優秀に育てあげる事。

でも、それだけはわたしはしたくなかった。

ーー 子供が可哀想だから。





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