別れても好きなひと

鳴宮鶉子

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第3章 急展開 side 一花

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6年前に匠と最悪な別れをしたけど、匠の設計士としての力は認めざるを得なくて、いつのまにか打ち解けていた。

「一花ちゃん、これ、よろしく」

チャラ男牧野さんとも、毎日のように顔をあわせてるからか仲良くなり、3人でチームで仕事をする事が楽しかった。

春から夏にかけては多忙だったけど、9月は営業成績No.1の牧野さんが仕事を取ってこなかった。

まっ、それでもNo.1は取ってるんだけど、仕事が落ち着いてるから、せっかく定時で帰れるんだからと、牧野さんの提案で、3人で食事に行く事になった。

入ったのは、近くの居酒屋

4月にリフォームの設計をした居酒屋がリフォームを終えてオープンしていた。

わたしがイメージした通りの内装になっていて、感動する。

自分が手がけ内装をこうやって見ると、この仕事をしてきてよかったと思う。

今日はとことん飲むとビールを飲みまくる2人を見ながら、ちびちびとアセロラ酎ハイを飲むわたし。
タラコ入り出汁巻を食べてたら、牧野さんが何か悪い顔をして、わたしを見てきて、とんでもないことを言い出した。

「一花ちゃん、彼氏と2ショットの画像、こいつに見せてよ」

見せれるわけがない

わたしの兄と匠は面識があるどころか、かなり仲が良かった。
わたしの家に遊びにくると、兄とゲームをしていた匠。
兄の顔を覚えてるはず。

牧野さんがわたしのiPhoneを取り出して、なぜかロック番号を知っていて、画像ファイルを開けて、わたしと兄の2ショットを匠に見せた。

匠は固まる。悪い意味ではなく、呆れてるような感じ…。

「おまえの兄貴じゃん、隣の男。怪しいと思ってたんだよ。遠距離恋愛してるにしてはそんな感じしないし、頻繁に福岡に帰ったりしてないしさ」

「えっ、マジ、遠距離恋愛してるふりしてたの?」

匠がわたしと兄の2ショットを見て大声をあげ、それに反応し、わたしを見てきた牧野さん。

「匠と牧野さんと仕事をしてたら、彼氏がいるふりでもしないと、女性社員から嫉妬からの嫌がらせを受けるは。ボーイズラブで女を寄せ付けないようにしてる匠も同じようなもんでしょ」

「俺、…ボーイズラブなんてしてないし、そんなそぶりしてないし…」

匠に、やり返す事に成功した。

社内での匠の印象は、女性社員にとにかく冷たい。
見た目は、そこらへんのイケメン俳優以上にかっこいいのに、女を寄せ付けずに常に冷静沈着だから、女性社員から、鑑賞用としか思われてない。

牧野さんは、実際はチャラ男じゃないらしい…。
本人曰くだけど、大学時代から付き合ってる彼女がいて、付き合ったり別れたりを繰り返しながらも続いてるらしい。
別れる理由が浮気なのがゲスいけど、牧野さんらしい。
それを結局は許してまた付き合う彼女さんの心の広さはすごいなと思う。

「あっ、めぐから電話だ。ちょっとごめん。『めぐ、どした?…、今、匠と呑んでる。…、えっ、来る?ちょっと待って』匠、一花、ごめんけど、彼女呼んでいい?ありがとう。『駅前の《笑笑三昧》にいるから。じゃっ』」

牧野さんが彼女を呼んでいいか聞いてきた時に、匠は少し嫌そうな顔をしたが、わたしは首を縦に振り、OKを出した。

「彼女さんってどんな人なんですか?」

「…イノシシみたいな性格の人」

匠がボソリと呟く。
5分後ぐらいに、長いストレートの綺麗な髪ととてつもなくスタイルがよいきつめの顔をした美人が現れた…。

わたしに目を向け、ニコリと笑みを浮かべるのが…怖い。

「はじめまして、和田 恵(わだ めぐみ)です。圭太がちょっかいとか出してませんか?」
匠と牧野さんが隣合って座っていて、わたしが牧野さんの前に座って居たから、牧野さんの前を彼女に譲り、匠の前に移動した。
「新田一花です。インテリアプランナーをしていて、3人でチームで仕事をしているだけの関係です。疑われるような事は全くないです」

「匠、そうなの?匠が一緒に食事するぐらいだから、仕事仲間なだけか。わたしはファッションデザイナーをしてます。よろしくね、一花ちゃん」

めぐさんの強張ってた笑みが、穏やかな笑みに変わった。

「こいつ、仕事が落ち着くと悪い虫が動き出して、女漁りしはじめるから野放しにできないんだよね」

ビールをジョッキで飲むめぐさん。
美人にビールのジョッキはよく似合う。

そして、牧野さんを睨む顔つきは、やっぱり怖い。

「一花ちゃんは、彼氏いるの?清純派の美人だから、いるよね?」

「いないです…」

本当はいると嘘をつきたかったけど、匠たちにいない事をバレたから、素直にいない事を認めた。

「えっ、本当に?IT関係の社長か法律事務所で勤めてる弁護士の、独り身の知り合いがいるから紹介しようか?」

「男はこりごりで、仕事に打ち込みたいからいいです。わたし、仕事が好きなんです」

「もったいない。でも、わかるは…」

わたしの両手を掴み握られ、美人な恵さんが顔を近づけきて、たじろいでしまう。

「どれくらい、彼氏いないの?」

と、恵さんに聞かれても答えられない。
大学1年の時に匠と別れてからいないなんて、匠の前でバラしたくない。

「男にこりごりか…、わたしもいい加減、圭太に愛想つかしそうになるわ。いったいどんだけ浮気すればいいのか、最近、されるのに慣れてきて、すぐに許してしまうわたしがいる」

「浮気って、どうやって気づかれるんですか?」

浮気の基準と気づくきっかけが気になり、思わず聞いてしまった。

「圭太のマンションに行ったら、浮気した証拠が残ってるのよ。髪の毛とか、リップとか。酷い時はヤッテル最中だよ。あん時は本当に別れようと思ったわ」

またもや牧野さんをきつく睨みつける恵さん。

「匠なんて一度やらかして、それを本命の彼女に現場見られて、それで逃げられたショックでそれ以降は女遊びや彼女も作ってないのにさ。匠に悪い遊びを教えたの圭太でしょ。真面目な匠が圭太と今でもつるんでるのが不思議だわ」

衝撃的な事を聞き固まるわたし。
そして、同じく固まってる匠。

「めぐ、匠の元カノ…、一花ちゃんだから。バラすなよ」

牧野さんがやってしまったというように苦笑した。

「えっ、じゃっ、一花ちゃんがさっき言っていた男がこりごりっていうの、もしかして匠のせい?」

恵さんがすごい勢いでわたしを見てきたから、つい、頭を縦に振ってしまった。

「圭太のせいで、2人を別れさせて、独り身人生を歩ませてたんだから、あんたいい加減、自分がやってる悪業から足を洗え」

わたしと匠の間に沈黙だけど、お互いが気になる空気が流れる。

そして、隣で恵さんにこらしめられてる牧野さんがいた。

黙々とわたしと匠が料理を食べ、恵さんと牧野さんを置いて、居酒屋を出る事にした。




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