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“杉宮美蓮がCGキャラクターを隠れ蓑にせず、姿を現した!!”

“本物、めちゃくちゃ可愛いじゃん。なんでCGキャラクターで活動してたんだ!!JK時代の姿とか見たかった!!”

  ミュージックFUNの反響は凄まじいものだった。
 ヤフトピに大きく取り上げられ、Twitterでも話題に上がった。

“完成披露試写会と、初日舞台挨拶に出てくるかな?メリカリとヤフオクでチケットが高値で出てる!!”

 原作者で脚本を手がけ、主題歌と挿入歌を歌ってるから挨拶に出ないといけない。
 
「CGキャラクターを隠れ蓑にせず、自身で活動しろよ……」

「ーー無理」

 試写会はいつも通り、CGキャラクターで出ると東夢プロダクションの相楽監督に伝えてる。
 そのために、新バージョンのCGキャラクターを作成した。

「俺がゲスト出演する試写会には連れて行くからな。ファンサービスのパフォーマンスで生歌披露しようかなと考えてる」

 遥翔は私とのデュエットを条件に、相楽監督に番宣に協力すると約束してた。

「ーーCGキャラクターでの出演でも良くない?私、本業は作家だし……」
 
   ミュージックFUNでアイドルグループの子達から睨まれ、身震いを感じた。
 対人関係が絡むと怖気ついてしまう。だから、創作だけで活動をしたい。

「舞台挨拶と番宣には出た方がいい。CGキャラクターを隠れ蓑にしつつ、少しずつ、表舞台に慣れていこう」

 彩音ちゃんからミュージックTVにも生出演してと催促のLINEメッセージがきた。
 それに関して、既読スルーした。

 ミュージックFUNに出演した事で、Twitterに過去に載せた自撮り写真や私の交友関係についてが、個人のまとめサイトで特集記事にされたりしていて驚愕する。
 彩音ちゃんのTwitterがソースになって、私の情報が晒された。
 
****

「ーー美蓮ちゃんがボカロを始めたきっかけ、本当に瀬川くんだったんだ。中学生時代の証拠画像が出てきたね」

「……………」

 中高一貫校時代の友人達が学祭のステージで歌ってる私の映像がYouTubeで晒しだし、頭が痛い。

「無断公開だから肖像権の侵害になるよな。友達だから大丈夫と思ってやらかしてるのかな」

 久しぶりにうちにきた須藤さん。Safariで私の名前を入力して検索して出てきた動画やブログ記事を私に見せてくる。

「ーー自慢の友達って書いてるけど、ステータスとして晒してる気しかしないな。悪くは書かれてないから放置で、この子達と関わらないようにするのが1番なのかな」

「……有名人になるとしばらくはこうやって晒される。晒したヤツとは関わらないというか、同じ方面に進んでいてお互いを高め合えるようなヤツとしか関わりを持たない。俺も同じような事あったな」

 あさひスーパードライを飲み干し、遥翔がぼそりと呟く。


 中高一貫校時代の同級生の中に親友と思える人がいたか、昔の事を思い出す。
   
 ーーいなかった。

 リーダー格のご機嫌を伺いながら、居場所を作り守ることに必死だった。

 学祭のステージでライブをしたけど、パフォーマンスで引き受けたけど、目立たないように気をつけてた。

 CGキャラクターを隠れ蓑にして活動していたのもそのためで、高3の7月に芥川賞を受賞した事でカミングアウトしたけれど、それまではバレないように活動をしてた。

 だから、中高一貫校時代の同級生達は私の創作活動を知らない。

 学祭で遥翔のポカロで出した曲を巡音ミクにコスプレして歌ってただけ。

 しかも、これはリーダー格の子に指示されてやらされた。

「美蓮ちゃん、地元に最近帰った?」

「ーー東京に出てきてから1度も帰ってないです」

 父と母は総合病院で医師をしてる。だから、長期休暇もあってもないようなもの。
 LINEビデオ通話やスカイプで連絡は取り合っていて、地元から足が遠のいてる。

「学生時代の同級生の事は気にするな」

 上映後の和やかな余韻に包まれた会場。声優を務めた俳優陣と、監督、遥翔と壇上にあがる。
  盛大な拍手に包まれ、緊張が走る。

「みなさんこんばんは。本日はお集まりありがとうございます。原作と脚本、主題歌と挿入歌を歌わせて頂いてます杉宮美蓮です。無事完成披露試写会の日を迎えられた事を嬉しく思ってます」

 壇上に上がり、司会者から最初に挨拶をするようマイクを渡され、たじろぐ。
 いつもは最後にCGキャラクターでちょこちょこっと挨拶をするだけなのに、ネタバレにならない程度のあらすじと制作秘話を簡潔に話さないといけなくて、戸惑う。

 完成披露試写会のみ登壇する事になり、GWの3日間、横浜に東京、名古屋、福岡と劇場を回る事になった。

 完成披露試写会初日、横浜と新宿の劇場を回る。同時刻に上映され、前が横浜、後が新宿と2カ所で舞台挨拶を行う。

『三沢くんと古坂さんに瀬川くんもいる。司会者や取材陣には杉宮ちゃんを質問ぜめにしないよう伝えてるから!!』

 相楽監督はそう仰ってはいたけれど、映画よりも遥翔とデュエットした主題歌が注目され、そこを突っ込まれ、返答に困る。

 夫婦だけど、外では赤の他人の共演者として接するよう遥翔に伝えてる。
 遥翔の事を慕ってる三沢くんも、私と遥翔が極秘婚だという事を知ってるから、話しかけてこなかった。

「杉宮さんって、凄いですね。小説と脚本が書けて、曲も作って歌えて、CGキャラクターも作成できる。で、可愛い!!」

  横浜から新宿に移動するバスの中、隣に座ったヒロイン役の小坂さんに話しかけられた。
 小坂さんは高校生時代に日本一可愛い巫女さんとして注目され、芸能界入りをした。
 神社の跡は兄が継ぐから、大学から東京に出てきて、モデルやタレント、俳優として活動をしてる。

「小坂さんの方が可愛いです。CanCan、毎月購読していて、ファッションを参考にさせて頂いてます!!」

  彩音ちゃんが専属モデルなのもあり、話題のために定期購読していて、今もそのまま購読してる。
 彩音ちゃんと私では体型と顔貌が違いすぎるから、小坂さんのファッションをいつも参考にさせて貰ってる。
 モデルランキングというものがあるらしく、大学時代からずっと1位に君臨している小坂さんは、天女なのではないかと思ってしまうぐらいに肌が透き通るように白く綺麗で、二重まぶたのぱっちりとした瞳をしてる。

「杉宮さんの方が可愛い!!褒め合うのはそれぐらいにして、グミ、食べる?コラーゲン2000とプラセンタとヒアルロン酸が配合されてるの!!」

「……ありがとう」

   お取り寄せしたオヤツを分けて貰った。グミ以外にも豆乳クッキーも出てきて、小腹がすいていたからありがたく頂く。

「愛凛……さん、マムシエキス入りチョコとかを杉宮さんに食べさせないでね。舞台挨拶中にお腹を壊したりしたらいけないから」

「和弥くん、酷いなっ!!美容にいいものしか私、お取り寄せしてないし!!」

   小坂さんが私にオヤツを分けてくれてるのを見て、三沢くんが不安そうにこっちを見た。

 2人は日曜日の情報バラエティ番組に共演してる。過去に映画やドラマでも共演していて仲がいいらしい。

「……コラーゲンはわかるけど、ヒアルロン酸とかプラセンタとか横文字の薬品が入ったオヤツを勧めるな」

「ーー横文字の薬品って、美容の成分だよ。若さを保つためにはこういう身体に良いものを食べないといけないの!!」

 女子大で管理栄養士の資格を取得してる三沢さん。料理番組にもよく出ていて、料理の腕前はプロ級らしい。

「和弥のいう事は間に受けないでね!!私、杉宮さんに変なもの食べさせようと思ってないから!!」

  愛嬌のある天然な性格をした小坂さん。単純に私とオヤツタイムを楽しみたいだけなようで、新宿の劇場に着くまでのバスの中で楽笑天市場の美味くて美容にいいお取り寄せのショップを教えてくれた。

 バスの中で楽しい時間を過ごしリフレッシュができたから、新宿での試写会は挨拶だけでなく撮影秘話についてなどを、面白おかしく和やかなテンポで話せた。

『最後になりましたが、本日は特別に瀬川遥翔さんと杉宮美蓮さんに、主題歌の“ラブサイン”を歌って頂きます』

  上映後の舞台挨拶で生歌を披露するパフォーマンスをする事をすっかりわすれていた私だけど、遥翔とのデュエットだからか音を外す事なく、歌い上げる事ができた。


「小坂とは馬が合いそうだな。三沢が変なものを美蓮に食べさせないか心配してたけど、健康オタクで悪い子ではないから。仲良くしてみたら?」

  舞台挨拶初日を終え、タクシーでマンションへ戻る。
 同じマンションだけど、別々のタクシーで帰宅する。
 シャワーを浴びてでた時に遥翔が部屋着に着替えて私の部屋にきた。
 シャワーを浴びてさっぱりしてから、地下の食品スーパーでスモークサーモンのマリネとローストビーフに鶏ハムサラダを買ってきてくれた。

「あっ、三沢から許可を貰ったから話す。三沢と小坂は付き合ってる。もう4年になるかな。だから、何度か三沢の家で集まる時に手料理をご馳走になってるが……」

  プライベートを隠し撮りされてSNSに晒されたりするのを懸念して、仲間内でお互いの家を行き来して、時間と周りの目を気にせず、飲み食いしてる遥翔……。

「ーー何を食べさせられたの?イナゴとか蜂の子とか?」

「……さすがに虫は出されなかったが、でっかい生きたスッポンを2匹取り寄せ、捌いて鍋にして食べさせられた。あれはホラーだった。生き血を飲んでたし、悪い子ではないけど、あれはかなり衝撃的だった」

 小坂さんならやりそうな気がする。地元金沢はすっぽん料理が有名で、父がたまにどこからか生きたスッポンを買ってきて捌いて鍋にしてた。
 私は噛まれたら痛そうだからできないけど、健康のためにスッポンを捌いて調理する人はいる。


「……悪い子ではない。見た目もセンスもいい子で気が効く子だから、他のモデルから妬まれて女友達はいないらしい。彩音ちゃん、自分より人気のモデルに対して嫌がらせとかしてたらしいな。小坂はされても仕方がないと諦めたらしい。仕事に真面目に向き合い、趣味を楽しんで人間関係を気にしない。男も蹴落としとかあるがーー女は集団になって嫌がらせしてくるから怖いな」

 三沢くんから相談を受けた事があるのか、小坂さんの取り巻く人間関係について遥翔が話してくれた。

「三沢が美蓮が小坂の友達になって欲しいと言ってた。明日明後日も完成試写会がある。小坂がどんな子か見極めて」

 小坂さんの事をSafariで検索をする。出雲にある由緒ある神社の娘で、私と同い年だった。
 Twitterでは仕事関係の事と美容についてしかあげてなく、プライベートや交友関係については晒してない。
 
 今日の試写会についても投稿はしても、当たり障りない事を記事にしていて好感がもてる。

 次の日は早目に名古屋入りをし、遅めのランチタイムで名古屋のひつまぶしと手羽先の唐揚げが食べられる店を貸し切り、ミーティングをしながら食事をした。
 男性陣は味噌カツと味噌煮込みおでんも注文していたから、せっかくだから少しだけ分けて貰った。

「ーー名古屋は美味しいものがたくさんあるよね。美味しい!!」

  料理の写真をスマホで取りまくり、小坂さんはTwitterとインスタに投稿する。

「美蓮ちゃん、このサプリメントを飲んだら消化吸収が阻害されるから食べても大丈夫だよ!!」

 効果があるか不明のサプリメントを3種類貰って飲む。

 舞台挨拶で名古屋の御当地料理の話題になり、熱く語ってる小坂さんの姿に好感がもてた。

 小坂さんと一緒いるのが楽しく、打ち解ける事ができ、気づいたら友達になってた。
 
 
 
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