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高校生編
24、高校二年生 嵐の前に落っこちて 下
しおりを挟む「大牙くん、りこが迷惑掛けてないかしら」
「ええ、いつも助けて貰ってばかりで」
「そう…。お転婆だけど貰ってくれて良かったわぁ。気心知れた大牙くんなら安心ねぇ」
大神に超絶甘い母は完全に嫁に出すかの様な言い草である。
「何か困ったことがあったら言いなさい」
「ありがとうございます」
普通、父といえば娘の巣立ちを悲しむものではないのだろうか。うちの娘は渡さん!的な。
我が父の顔はよくぞ言った息子よ!と言わんばかりの顔である。解せん。
「大神兄ちゃん、姉貴があのクマのこと虐めてるんだけどどう思う?」
「ほう?」
「ちょッ、変な言い掛かりは止めるんだ翔馬よ!?」
完全に私を裏切り大神陣営の弟。我がオアシスは枯れ果てたとでも言うのか!?
昔から大神にでろ甘な我が一家は相も変わらずげろげーろな甘さである。
そんなこんなで我が家と大神一家はかなりの仲良しご近所さんであるが、そういう訳か大神も我が一家では不遜な態度はとってない。
「いつも明るくて見ていて楽しいので、俺もお付き合い出来て光栄です」
「うげぇ…、どの口が言うか」
「こら! 行儀が悪いことしないの!」
大神が聖也くんスマイルとか、鳥肌が止まらぬ状態である。誰かあいつの白々しさを止めてくれ。
思わず舌を出してげんなりしていると、母に怒られてしまった。うう、我が味方は何処じゃ…。
食卓の上には母が張り切った力作と、途中から妥協したことが伺える出来あいのお惣菜がたんまり並んでいる。クリスマスでも出ない七面鳥様が降臨している辺り、かなり奮発してくれたようで有難いやら申し訳ないやらである。
母が席を立ち、誕生日ケーキを冷蔵庫から取り出して持って来た。
既に切り分けてあるところが母らしい。ぐさぐさと私のショートケーキにだけろうそくを刺される。その数17本。通常だとホールケーキに分散する筈が一局集中である。おい、誰か我がケーキの救助活動をしてやってくれないか。もう瀕死だ。
赤青黄いろのろうそくが無事刺さったのを確認すると、母は満足そうに火を点けた。
それに合わせて気を利かした翔馬が電気を消す。
父の妙にオペラの魔王みたいなハッピーバースデーの曲が流れる中を、私は一個ずつ灯される火を見ながらぼんやり考えていた。
ハッピーバースデイ、幸せな誕生日。
おめでとう、素敵な誕生日。
小言を言いつつも毎年どうにかしてでも祝ってくれたがる母が居て、プレゼントのセンスはないけれど毎年きっちりどんなに遅くても帰って来て祝おうとする父が居て、最近反抗期でよく憎まれ口を叩くけれど朝に毎年必ず祝ってくれる弟が居る。
それに今年は半ば強制とはいえわざわざ参加してくれた人も。
ぽつりぽつりと火が灯される。それに従い母が優しい口調で父の唄声に被せた。
翔馬も、恥ずかしそうにしながらも小さく声を被せる。
私は傍から見たらとても恵まれていて幸せな人間だと思う。
自分でも自信を持って幸せな家庭であると断言するだろう。
おめでとう。
おめでとう、りこ。
その言葉に、自分の視界が揺れた気がした。火がゆらゆらと揺れたのか、心が揺れたのか、どちらだろうか。
今がとても幸せである程に、誕生日を祝われる程に、反比例して途方もない居た堪れなさを感じる。
今では薄らいでしまった声と、ぼやけてしまった顔が同じ様に祝ってくれたことを思い出して、罪悪感が滲む。身体の弱い母であった、心の弱い父であった、でもどちらも優しい親であった。
心配を掛けているだろうか、それとも向こうでは私の存在事消えているのだろうか。もう忘れているのならそれでいい。でもあの優しい親や周囲は気に病んではいないだろうか。
誕生日まで同じとは、何処までも馬鹿にした神様だと思う。
日々に埋もれて忘れていてもこんな日は思い出してしまうから、思い出したことにより余計に謝りたくなってしまう。どちらの親にも。
私は、この人たちにおめでとうと祝われる価値があるのだろうか。
素直に喜んでもいい資格があるのだろうか。
口元に浮かんだ笑みが、自嘲だとバレなければいい。幸せそうな心から喜んでいる笑みに見えれば。
光源がろうそくの火しかないのは好都合だろう。
歌が終わった瞬間に吹き消そうとして、不意に強い視線を感じた。
その視線を辿れば、火に照らされてなおより赤く輝く眼差しがある。
その強さに見透かされそうで思わず喉がひくりと鳴った。遮る様に火を消そうと息を吸い込む。
吐こうとした瞬間、まさかの事態が起きた。
「ひぃっ!? ケーキが炎上してる!?」
「個々の火を密集させて燃やすと集まって大きなものになるからな」
「冷静に言ってる場合か!?」
「りこ、早く吹き消しなさい!」
「えええ、これって肺活量勝負なの!?」
前髪が焦げそうなファイアー具合に慌てるも、早く吹き消すよう急かされる。
とはいえ、これ以上広がって出火元がケーキという間抜けな火事にでもなったら堪らない。私は必死でふーふーとろうそくの火を消す為に全力で酸欠になるのだった。
あれ?さっきのシリアスどこ行った? あ、吹き飛んだのね! 了解!
若干焦げ臭かったので、マジでよいこは真似せずすぐに水で消すことを推奨しよう。
ガチで死ぬかと思ったぞ。
あと、ケーキは生クリーム部分がほぼ溶けていて若干炭の味がしたとだけ言っておこう。
ろうそくはほぼ全て溶けていた。やめろ蝋よ!ケーキに被さるんじゃない!
思い出に残る誕生火だったことは認めるよくっそう!!
そんなこんなで誕生日会も何とか無事?終わる。
後片付けをしていたら、父から可愛くないぬいぐるみというプレゼントを貰った。
父は私が世間一般のゲテモノなら何でも可愛く感じると思っているらしい。
待つんだ父よ。
今どき大王グソクムシの等身大ぬいぐるみで喜ぶ女子高生って、グソクムシ様クラスで希少だと思うんだ。
私の部屋のゲテモノ感を増してるのって、三割は父の謎プレゼントのせいだと思うんだがどうであろう。
しかし父が珍しく良い笑顔で渡してくれるので、未だにそれを言えないでいるのがこの悲劇の原因なのかもしれない。初めて貰った時は、寝て起きたら机の上にプレゼント箱があり、喜んで開けたら等身大タカアシガニが居たのである。ぎょろ目に悲鳴を上げた時点で察して欲しい。
今年も顔が引き攣りつつ250度くらいまで背筋が反り曲がるグソクムシ様を受け取っていると、母が台所から声を掛けた。
「りこ、大牙くんもそろそろ帰らないとダメでしょうし、見送ってあげなさい」
「はーい」
感想を聞こうとする父からこれ幸いと逃げ出し、大神の近くまで行く。
「忘れ物は大丈夫? と言ってもあったらすぐ届けりゃいっか」
「大丈夫だ」
「んじゃ行ってきまーす」
「寄り道してもいいからね~」
「しないってば!」
にやにやと口角を緩める母は、流石翔馬の母というべき野次馬顔といえよう。
靴を履いて玄関から外に出ると、びゅうっと木枯らしが吹いた。やはり冬の訪れもすぐに違いない。
はぁっとまだ白くならない息を中空に吐いていると、それまで黙っていた大神が名を呼んだ。
不思議に思い振り向く。
「寄り道してくか」
「へ?」
学生服のままニヤりと可笑しそうに笑う大神に、私は目を丸くしてぽかんと口を開けるのだった。
◇
徒歩三分。我が家のご近所にある公園には、遊具はたったの三種類である。禿げてきた前後に揺れるパンダ。木がボロボロで乗る度に悲鳴を上げるシーソー。断トツ公園内人気ナンバーワンの錆びたブランコ。以上である。順番待ちなどしたことがない良心的な公園と言えよう。ものは言いようである。
寂れた昔から変わらぬ公園のベンチに座る。子供にはちょうどいいが、学生には小さい。親御さん目線なども皆無な辺りはいっそ清々しい。
体育座り染みながら虫を気にしつつちょこんと座っていると、大神が隣に座った。私よりも窮屈そうで思わず笑ってしまう。
「だいぶ窮屈そうだね」
「俺が新しく作った方が楽な気がする」
「それならいっそ全面改装もよろしく」
やはり滑り台は外せないと提案していると、大神がこちらを向いた。
静かな眼差しに、思わず軽口も止まってしまう。
瞬きして続く言葉を待っていると、大神は観察する様に私を見ながら何気ない口調で口を開いた。
「何で、祝われるのが嫌なんだ?」
断定的な口調は、既にそこまではバレていることの証明だ。
やはり賢い相手は苦手だとへらりと笑う。
「朝に言わなかったっけ? やーっぱりこの歳でお誕生日会ってのは気恥ずかしさが―――」
「俺を誤魔化し切れると思うか?」
静かな口調と眼差しに、思わず息を呑む。
でも、私の秘密は自力じゃ辿り着けまいと自虐と共に空惚けた。
「…さぁ、何のこと?」
「そうか…」
少し低くなった声音と細まった目は怒ったのだろうか。それとも傷付けたのだろうか。
大神が傷付くのは嫌だなとふと思った。
でも、秘密を今言おうか? 私には此処とは違う地球で生きた記憶があって、そこでは第三の性なんてなくて、この世界は物語として楽しんでて―――
そこまで考えて、不可能だと思考を払う。誰だって頭がおかしいと思うか心配されるに違いない。もしくは距離を置かれるかだ。
ひゅるりと風が吹いた。
日が落ちた夜は一気に気温が下がる。何故か、あの日の路地裏の光景が頭を過ぎった。日が落ちる前に、一人で助けを待って大神を見送ったあの時を。日が落ちて辺りに暗闇が満ちた時の寒さと心細さは、何処か今の孤独感と似ている。
「じゃあ、別のならいいだろ」
「へ?」
急に隣の大神が立ち上がったので、釣られて見上げると大神が自分のポケットを探っていた。
思考の渦に入っていたので、つい反応が遅れる。
だから、目の前で袋から取り出され、ゆらゆらと揺れた赤と黒色の紐に対してもぱちくりと瞬きを返すだけだった。
「ミサンガ。誕プレ」
「えっと、ありがとう」
思わず呆然と返したのは、渡す本人が不機嫌と剣呑と羞恥を混ぜ過ぎた顔で睨んでいるからだろうか。誕プレを渡す顔としては、不本意感満載の表情である。
「何か、不本意そう?」
「そりゃまぁ。俺だって校則でとやかく言われながら助手のバイト代請求したってのに、やれ指輪は重いだの首輪はセンスないだのネックレスは普段使いしづらいだのチョーカーは性癖出過ぎだの」
「その輪っかへの執着が私は怖ぇよ」
参考意見は大神一家の四人だろうか。ナイスアシストである。
それにしても手綱代わりに贈るから暴走するなよとでも言いたいのか。むしろ誰か大神の唯我独尊っぷりを止めて欲しいくらいなんだが。
そこで、はたと思い至った。
「もしかして先生に放課後言われてたのってこのバイト代?」
「まぁ」
「ふーん。…わざわざありがと」
「別に」
すぐ声を落とすのだから、照れ隠しが不器用である。
とはいえついニマニマと受け取ろうと思い立ち上がると、何故か大神がひょいっと腕を上げた。
私としてはそのまま受け取る気満々だったので、手が空振って大神に倒れ込んでしまう。
分厚い胸板に額を打ちつつ、意地の悪い対応に思わず睨み上げると爛々と愉快そうに輝く赤色が目に入った。
腰に回った腕が私を更に引き寄せるので、嫌な予感がしてつい警戒心剥き出しのまま険のある声を出す。
こいつ、腕の力が強すぎてびくともしやがらねぇむかつく
「誕生日の主役になんたる意地悪具合」
「これ以上ない特別待遇だろ?」
けっと腕を伸ばそうとすると、腰を抱いていた掌が宥める様にゆるく腰骨を撫でる。思わず息を詰めて大神を見たが、本人は無意識だったのかもう片手にあるミサンガの方を見ていた。
傷付けないように優しく、されど逃げられない程の強さで手首が掴まれる。ミサンガを結ばれるだけだと分かっていつつも、思わず一歩身を引きたくなった。
しかし、抱き込む様に腰に回った腕が更に私を大神へ押し付ける。
離した方が楽に結べるだろうに、背中を通って結ぼうとするせいか益々密着する逞しい身体と、頭の上に顎を乗せられて身動ぎ一つ出来ない。
思わず喉奥が引き攣ったまま離れるよう言おうとした時、低い声音が普段より近い距離で耳朶を擽った。
「お前がどう思っているのか知らないが」
「ッ」
引き寄せられるように、息を呑んで大神を見上げてしまう。顔一つ分だけ離れた大神は、ゆっくりと一つ瞬きをした。
多分、本気で嫌がれば逃げれた。でも身動きが出来なかったのは、静かでいつつも寒さが消せない程の熱が篭もった声だったからだろうか。私よりもぬくい手から離れがたかったからだろうか。それとも……予感があったからだろうか。
「そもそも誕生日ってのは祝いの前に感謝の意がある」
「かん、しゃ…?」
「だから…、産まれて来てくれてありがとうって意味だ。俺は…、お前がどう思っていようが知らねぇがお前に救われた。他でもないお前に。だから…」
そこで区切った大神は結んだミサンガを最後にもう一度引っ張った。解けない様に目を細めて観察する。腰に回った腕は既に離されている。
綺麗な赤色が私を映す。緩やかに口角が上がった。
呆然と、私は美しい大神を見ていた。
「産まれて来てくれてありがとう。俺は、りこと出会えて嬉しい。そういう意味なら素直に受け取れるか?」
「そっ……れは……」
「お前が何に悩んでるかまだ分からねーが、早く叶うといいな」
結ばれた赤と黒のミサンガが揺れる。
ぱくぱくと開いた口は何も言えずに閉まってしまった。やさしい視線と柔らかな願いが眩しい。視界がパッと広がる様に、夜空と寂れた公園が色付いて見える。
瞬間、とくんと音がした。
何故か、握られている手が途端に汗ばんで感じて来た。握られている場所が燃えている様に熱く感じる。ケーキの火よりも焼ける様で、それは徐々に燃え広がる様に手だけでなく頬も、目も、心臓も、全身の至る所が熱くなる。
ばくばくと急に煩く感じ出した心臓を不思議に思っていると、大神の方が小首を傾げた。赤い髪が揺れる。
握っている手は無骨で筋張っているけど長いし、喉ぼとけは男らしい。見上げた身長は高いし、雰囲気は自負と覇気に満ちている。シャープな顎に形の良い薄い唇が付いていて、今は怪訝そうに下がり気味だ。少し尖った耳は今は冷えるのか先が赤い。彫刻の様な美しく野性的な顔立ちを彩るのは、危険で理知的な眼差しで。
毛色と同じ鋭い眼光は鮮烈な程に人目を引いて私を見ていて………、分かり辛い癖にその奥が心配そうに私をやさしく映していて―――
あれ?と私も内心で首を傾げた。
大神って改めてよく見ても見なくても異性だから男性で―――
「どうした?」
「ひゃっ、ひゃいっ」
掠れた様な低い声音にぞわぞわとうなじの毛が逆立つ。腕にまで、寒さとは逆の鳥肌が立つのが分かった。
心配そうな怪訝な様子に、心配されているという嬉しさが湧く。何故か大神の周りが輝いて見えるし、目で追いたくなるし、その反面早く手を放して欲しくてたまらくなる。
あれ? え? いや、うそ、いやいやいやいや
「顔色が悪いな。熱でもあんのか?」
「ッ! なっ、ない! から! 大神は関係ないっ」
屈んだ大神に何気ない様子で前髪をかき上げられ、おでこに手を当てられる。近付いた匂いと気配。自分でも分かる程ぶわりと上がった体温と心臓の鼓動に、泣いて叫びだしそうになった。慌てて大神の腕を振り払い、両腕を解放させる。
いやいやいや、落ち着け自分! 待つんだ私! 惚れたら駄目だって!!
秘密を言えてないし、大神からしたら年齢詐欺婆だし、大神にはいつか運命のオメガちゃんが居るし……
そうだよ、どっちも一過性のものだから破綻は見えてて―――
そこまで考えただけで胸がズキンと痛んだ気がした。
自分でも顔色が悪くなったのが分かる。
こんな体たらくな状態だったら身体の前に精神がやられると本気で思う。
大丈夫、弱っていた時に何か感じちゃっただけで一過性みたいなものだし。うん。誕生日の特別感が何かアレしてアレしちゃっただけだし。うん。明日からは普段通りの当たり前に戻れるし。うん。
この世界に来た意味を大神に見出して大神に依存なんてしないし、もし本物の番が現れたら嫉妬なんてせず後腐れ無く綺麗なまま離れてあげる。そう。ちゃんと迷惑だって掛けないし私は惚れてフラれて自分から死んだりしないし。私はよくある近所のお姉さんに憧れちゃったぜー的な本番前の練習台とか前座みたいなもんで、騙しちゃった私も悪いし。うん。大丈夫、だから気のせい。私は大神に惚れてなんてな―――
「付き合ってんだから関係あるだろ。彼女の心配ぐらいさせろ」
「ひぐぅッ!? もっ、もう無理いいい」
「おいっ、りこ?」
不機嫌そうなセリフに、心臓が止まる。自分でも涙目な自覚のまま、全速力で大神を置いて敵前逃亡した。三十六計逃げるに如かずである。
なんだあれ!? なんだこれ!?
ラスボスか!? 核兵器か!? 歩く災害か!?
何で私彼女やってんだ!? 大神が私のこと好……
「ふ、ふぎゃぁぁぁッ!?」
知恵熱半歩前のまま、両手で顔を覆い夜道を駆け抜ける。
大神が追って来ないのは極悪神のせめてもの情けだろうか。
息も絶え絶えに玄関をこじ開けて二階に駆け上がる。
「りこ、近所迷惑だから静かになさい!!」
「ごめんなさい!!」
近所の割に遅く帰って来て早々、ドタバタと二階に上がって叫ぶ様子からして色々察した母はそれ以上何も言わずであった。
「気の迷い気の迷い気の迷い気のせい気のせい気のせい忘れる忘れる忘れる」
自分の部屋の扉を閉めてすぐに念仏を唱える。諸行無常の響きなり馬の耳に念仏馬耳東風云々……
しかし、不意に赤いぬいぐるみが視界を過ぎった瞬間、耳元で声がした。
『生まれて来てくれてありがとう。俺は、りこと出会えて嬉しい』
思わず呻き、力が抜けてそのまま背中からズルズルと壁伝いにずり落ちて座ってしまう。
「なんて贈りもんしやがんだ馬鹿大神め」
体操座りのまま両腕で熱い顔を隠して恨みがましくクマを見上げるが、クマは可愛く見返すだけである。
私が私であっても此処に居ることを認めてくれる素直な感謝を思い出して、涙が出そうな程喜びを噛み締めてしまった時点で―――全てを飲み込んで思わず低く呻くしかなかったのだった。
一方その頃大神は
「無理とか関係ないって何だよ、くそ。攻め過ぎたか? 逆に足りてねぇのか? はぁ…。あそこまで急性だと明日は休みかもしんねぇし見舞いの品だけ用意するか」
これまでの散々の空振り具合から自分を意識したとは微塵も考えつかず、テンパったりこちゃんの対応に落ち込んでいるのだった。
あとがき
大神兄さん、不憫である。
恋に落ちるって表現素敵ですよねぇ~* かわいかったので落ちた時は絶対念入りに書いてあげたいってずっと思ってたので書けてよかったです~//
とはいえりこちゃん全力で逃げようとするが(ぇ
ちなみにバイト代は時給1200円という高額請求だったので、買おうと思えば〇万円級でも買えた大神君。(金持ちの金銭感覚ってやーねぇ←おい
しかし助言で高額なのは受け取らないだろうだの、牽制したいなら学校でもずっと身に付けれる方がいいだろう?だの、独占欲出すのは分かるが気付かれない方が重くないぞだの、こういう風に付けてあげるといいわよぉ?だのと悪魔の囁き、もとい大人たちのニヤニヤした助言の結果、ミサンガと相成った模様。
本人はなみいる誕プレの中でも安物だったんじゃと若干不本意。(折角稼いだのに。)
なお当初狙っていたネックレスは父の言で却下されてしまいました。無念。
ずるずると腰が抜ける動作ってかわいいですよね///(ぇ
この後は三年生入ってもいいんですが、三年生はかなり終盤手前までフラストレーション積み上げ方式なので、甘さぶっこみがてらりこちゃんが自覚してからのちょっと間の様子だけ小話入れようか迷っております~(笑)
完結が伸びちゃうので少し迷いどころ ぬーん
とはいえ転校生は二年生の後半に来るので、正確には一学年とちょいがラストっすね~*
おっと、長々と失礼しました☆
ツボの合う方、これからもにやにやと楽しんで頂ければ幸いです☆
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