魔界食肉日和

トネリコ

文字の大きさ
上 下
31 / 61

31、鰐族と龍族

しおりを挟む
 




「トカゲー、結婚しようぜー」
「ごめんなさい、嬉しいのだけれど…」
「おー、嬉しいなら良くねー?」
「チッ、この雑誌全然意味ねー!」

 バッシと地面にモテ乙女雑誌を投げ捨てる。

 繁殖しまくってる人間界から流れてきた雑誌とか言って期待させやがってぇ
 完全ボリじゃねーか!
 期待の分悲しいわ!金返せ!
 買うときの店員の馬鹿にしてきた目分は頑張れや!

 いや、そもそもワニに言葉の裏を読めとか無理か。そもそも魔族は基本イエスかノーだしな
 はぁと芝生に寝転んでいると、ワニも隣に寝そべった。

 向こう行け、司書長にサボりバレるだろ
 ワニを蹴っ飛ばして反動で自分が転がっていると、逆さになった視界に人間の姿が見えた。
 純粋な人族が魔王城に居る可能性は低いので、高位魔族の擬態の可能性が高い。

「おー、ワニあれって何の種族が擬態してるか分かるか?」
「あー、あれは龍族だなー」
「へー…、って龍族かよ! ワニの種族じゃねーか! てことは知り合いか?」
「一応ご家老組の中の一人なー、お、気付かれたぞトカゲ」

 うげ、目が合った。
 凄まじい速度で近付いてくるおっさん。

 というか龍族におけるおっさんとか年幾つだよ
 なんか目が血走ってるし面倒そうだから逃げていいか

「ぼーん!! まさかこんなに早くお会い出来るとは!」
「ぶっは、ワニお前って坊ぼんって呼ばれてんのかよっっ、ウケるわっ」

 坊ってガラかよと不意内だったのでツボに入る。
 げらげら笑っているとお腹が空いた顔でワニがこっちを見てきた。

「止めろって言ってんだけどなー。トカゲ食っていいか?」
「それを止めろ。唐突だなオイ」

 勿論速攻拒否る。
 自分でも食ってろ
 つーかおっさん、ワニの教育どうなってんだ
 言語機能が明らかに破壊されてんだが

 おっさんの方を見ると何故かしきりに感心した顔で此方を見ていた。
 なんだ、龍族に感心される覚えはないぞ

「はー、ではこの娘が例の一番ですな」
「おー今も求婚中でなー」
「勝手に言ってるだけな」

 あいの手を入れるが無視される。
 本人の意思聞けよ。最重要だろ

 ツッコンでいるとおっさんがガッシと手を掴んできた。
 ひぃ、何だ!? 潰されるのか!?

 本体は何百mもある大きさにまで成長可能な龍族である。人族に擬態しているだけで、本気を出そうと思えば指先一つでぱっぎゃーんだ。身体が一瞬でな。

 ガクブルっていると手をすっごい上下に振られた。
 ついでに頭もシェイクされる。
 おうえっぷ

「坊のことをお頼み申しますぞトカゲさん。坊はこの通り見目よく」
「完全贔屓目だろうええっぷ」
「性格も下の者に寛大寛容で器も広く」
「脳筋過ぎて考えるのを放棄してるだけじゃっぁぁ」
「性格も穏やかで」
「さっきの食う発言を思い返おろろろ」
「愛情深く一途でまさに夫とするに相応しいお方ですぞ」
「重いストーカーってことなっ。結論が真逆の位置に着地したぞろろ、もう吐く…」
「んー、そろそろ離れろ」
「はっ、つい熱が入ってしまいました。坊の一番に申し訳ない!」

 見かねたのかワニがストップを入れる。
 ワニよ、もう少し早くがよか…おうえ、胃酸が逆流しそう

 お星様が見えていると、ぱっと手を離したおっさんが謝った。

 ワニの方に

 おい、せめて私に謝れよ
 ワニも納得した顔すんじゃねえ
 クッソ、ここでも権力なのかクッソ
 そして水貰ってくるわおえっぷ
 何かサボってるのに余計疲れたぞ

 引き止める声を無視してよろよろ進む。
 ワニものっしのっしと付いてきた。

 置いてきていいのかあれ
 まあいいか

 水場に行くと先客がいた。
 なんか明らかにデカいので遠目から覗く。
 二m半程の逆三角系、そして上から下まで完全に鱗に覆われている。
 大顎といい鰐を立たせた感じといい、ありゃもしかして

「鰐族じゃね?」
「おー、あっちは知り合いじゃねーなー」
「そうか。っつーか実物見るとやっぱデカイな」
「俺の母親は三m半くらいだったからあの雌は小ぶりな方だぜー」
「…は!? え、ワニお前って母親が鰐族で父親が龍族だったのか!? 逆だと思ってたわ」
「おー、結構有名だぞー」
「意識して情報を拒絶していたのは認める」
「冷てーとこも好きだぜー」
「褒めんなよ」

 顔近付けんな
 うぎゃ、食うなよ馬鹿!

 はぁ、取り敢えず生やす。
 しかしそうなると気になってくるものである。
 怖いもの見たさでワニに聞いてみる。

「ちなみにどうやって結婚するに至ったんだ?」
「おー、俺と一緒だぜー? 父親が母親見っけて一目惚れしてよー、その日から通って口説き落としたっつってたなー」
「うわあ…」

 何だろう、色々衝撃的すぎて言葉にならない。
 忘れてはならないがどちらとも種族の長である。
 体格や強さは規格外組だ。
 端から見ると3m半の鰐に本体だとデカすぎるから人族擬態版が求婚していたんだろうな…

 そこでふと疑問が湧く。

「ワニみたいに食いに掛かんなかったのか?」
「母親はまあ強いから美味いけど中毒性はねえっつってたなー」
「やっぱ食ってんのか。しかも母親が食べる方な」
「父親は喜んでたぜー? 美味くなるとか言って野菜生活したりよー」
「龍族の献身レベルは流石引かせてくれるな」
「あとは人型だと食いでがねーから食わせる時は本体に戻ったりなー」
「誰か止めてやれよ。ヤベえよ」
「トカゲ照れるぜ」
「褒めてねーよ!」

 全く参考事例にならなかった。
 絶対逃げ切ると改めて決意する。

 家族という同類になりたくねえ!!
 切実に!!

「なートカゲ結婚しようぜ」
「さっきの話の後だと全力で拒否だわ!」
「ちぇー」


 その後、煩くし過ぎて司書長にサボりがバレてふぁいあー(中火)された。










後書き
 





今もお互いに仕事しつつ、母鰐の下に禁断症状が出た父龍がスライディングで敷かれに行くらしい
父龍はさっさと仕事引き継いで母鰐と二人過ごしたいそうな
母鰐は別段どっちでもいい
父龍美味いけどずっとは飽きるし←
ちなみに最初は小バエの如く父龍をあしらっていたが、父龍がストーカーしてストーカーしてストーカーしまくり、メリットをひたすら述べていって何とか結婚をOKさせた
ちなみにもう付け回さないよ!もメリットに入っていたのはお察し←おい
他メリット「いつでも新鮮美味しい非常食!」「戦える非常食!」「ちょっとした権力はある非常食!」「貴方の奴隷な非常食!」etc…
まあ最終的には魔界らしくサドンデスで決まりました
血婚おめでとう✩




しおりを挟む

処理中です...