ドラゴン☆マドリガーレ

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終唱 新たな旅へ

師弟の進路 2

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 まず第一に、弟の行状のあと始末である。
 連綿と受け継がれた歴代呪術師たちの呪法と怨念がコンラートの代で結実し、世界に災いを招いたのであるから、すべてが彼ひとりの責任とは言えない。が、重大な罪を犯したことに違いはない。
 よって故人とはいえ、罪状を明らかにし、罪人として扱うべきであるという大前提があった。

 しかしクロヴィスは、「あの男の行為が有益に働いた面も考慮してほしい」と王に具申した。

「歴代の呪術師たちは、穢れを利用するため古戦場や虐殺事件の跡地などに呪具を潜ませた。弟は穢れを吸収したそれらの呪具を回収し、呪法に利用した。本人は意識していなかったろうが、結果としてその行為は穢れに満ちた場所を浄化し、そこに住む人たちと土地に良い影響を与えたに違いない」

 屁理屈とは言えないまでも、弁護としては無理がある。
 けれど世界を救った最大の功労者のひとりであるクロヴィスに免じ、王や王子やジークらは、世に知られぬ恩赦として扱うことに同意してくれた。
 もともと王は、大祭司長に赦しを与える口実を探していたのではないかとラピスは思う。肩の荷が下りたという表情で、こう言っていたから。

「あの男の罪は、知らぬ者のほうが多い。命懸けで祈祷に臨み、その姿勢で民の心をまとめ上げた大祭司長の罪を暴いたところで、目に見える証拠はすでにない。反感と混乱を呼ぶ代わりに、得るものは少ないだろう」

 そう結論が出たのだが。
 もうひとつ、思わぬところからクロヴィスを悩ませる案件が発生した。
 
 ラピスとクロヴィスには巡礼成功の報酬として、莫大な褒賞金や高価な品々が贈られた。二人はそれらをすべて、各国の被災地と、アカデミーに寄付した。
 アカデミーには『家柄も経済力も分け隔てなく、真に世界と人々の役に立つ魔法使いを育てること』という条件をつけて。

 すると、この話が瞬く間に巷に広がり、大魔法使い師弟の名声は、望みもせぬのにさらに急騰した。
 肩身が狭くなった従来のアカデミー派は早々に辞任を迫られたり、過去の不正を告発されたりしていたものだから……

「大魔法使い様をぜひ、アカデミーの総長に!」

 そんな民の要望が噴出した。
 その声にアンゼルム王も涙目で共感し、「ぜひとも」と一緒になって懇願してきた。

「冗談じゃねえ!」

 当然、クロヴィスは断固拒否した。
 アカデミーはいつからか、運営母体の理事長と、学院の総長が一体化していた。アカデミーほど巨大な組織の経営と学院の統率者が一緒というのは、ひどく無理のある話だが、歪なかたちで権力が集中していた表れだろう。
 そんな地位に、クロヴィスが承服するわけがない。

 しかし国王の熱弁はすさまじかった。

「クロヴィス卿。あなたとラピスの先日の会話を聴いたよ。『竜王様がみんなの前に姿を現してくれたおかげで、前より竜を大切に思ってくれる人が増えましたよね。僕すごく嬉しいです』と愛らしく喜んでいた弟子に、『今みたいな熱狂的な信仰は、冷めるのも早いだろう』とあなたは答えていたね」

「ラピスの口真似をするんじゃねえよ、気持ち悪い。なんで一言一句違わずおぼえてるんだ、そしてどこで聞いてたんだ。さらに気持ち悪い」

「敬愛するあなたのことだもの、当然だよ。そしてこう続けていた。『今回は世界中から創世竜たちが集結していたし、竜王も復活直後で超元気だったから、強すぎる竜氣を抑えつつ世界中に姿を現すという奇跡を起こせたんだろう。けど、奇跡を日常的に期待しても無理だから』と」

「口真似するなというのに! どうしてこう俺の周りは、変質者っぽいのが多いんだ!」

 クロヴィスの声はもはや悲鳴に近かった。
 しかし王はうっとりと目を潤ませる。

「崇拝者と言っておくれクロヴィス卿。それはともかく、アカデミーの運営は、よければ王族こちらで人材を厳選し管理するし、あなたに経営を押しつけたりしないよ。学院長としてなら、どうかな? あなたが竜を追う自由は決して奪わない、学院に縛りつけもしないと約束する。ただ、教師や生徒を正しく導く目であってほしい。アカデミーを再建し、奇跡がなくとも竜を愛する心を育てるには、あなたのような人が絶対に必要だから」

 それはもっともな意見だった。
 クロヴィスには弟の件で、王が大きく譲歩してくれたという借りもある。
 気持ちがぐらぐら揺れているらしき師に対し、ラピスのほうは、期待と喜びではちきれんばかりだった。
 かつて国中に悪評が定着していた師が、今は誰より信頼されて、民からも王からも、アカデミーを導くよう望まれている。
 ゆえに喜色満面、二人の会話に割って入った。

「僕、お師匠様がみんなにも素晴らしい授業をしているところを、ぜひ見たいです!」

 そのひと言で、クロヴィスの学院長就任と、ラピスのアカデミー入学が決定したのだった。
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