ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

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第12唱 竜とラピスの歌

ありがとうの歌 2

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「お、お師匠様っ!?」

 クロヴィスがこんなに泣くのを見たのは初めてだ。
 ラピスは混乱した。

「どどどどうしたのですか。ごめんなさい、僕の歌、泣いちゃうくらいひどかったですかっ!?」

 あわててポシェットを探ってハンカチを取り出そうすると、「そんなわけないだろう」と小さな声で止められた。
 けれどその瞳からは、涙が溢れ続けていて。

「でも……」

 おろおろしていると、急に閃光が走った。
 すべてが白い光の中につつまれて、咄嗟に閉じたまぶたを上げると、またも流星が空を行き交っていた。
 今度は金の星ばかりではなく、色とりどりの星たちが空を走っていく。

 息を呑んで仰いだ空いっぱいに、古竜たちの賛美の歌が、割れんばかりに響き渡った。
 堰を切ったように激しく、美しく。
 大神殿の鐘が次々鳴り響くように。
 荘厳で煌びやかな歌が、空の果てまで抜けていいく。

『ラピス。偉大なる小さな歌い手。ありがとう……本当に、ありがとう』

 古竜たちの深い感動が、ラピスの躰を震わせる。
 
『近頃は、長く生き過ぎたと思うこともあったけれど』
『こんなに嬉しい歌を聴かせてもらえる日がこようとは』

 歌声が時折、震えているようだった。
 そこまで喜んでもらえるとは思っていなかったので、ラピスは驚きと歓喜のあまり言葉を失う。が、不意にクロヴィスに抱き上げられて、「わわっ」と声を上げた。

「俺もだよ、ラピんこ。こんなに感動したことはない。ありがとう。……お前に出逢えてよかった。本当に……よかった」
「お師匠様ぁ……」

 最高の賛辞に胸がいっぱいになる。
 綺麗な笑顔と涙に思わず見惚れつつ、もたもたと手で師の涙を拭っていたら、いつのまにか横に来ていたジークが、クロヴィスの頬にハンカチを押し当てた。
 途端、「いらねーよ!」と睨みつけられた騎士団長だが、クロヴィスの両手がラピスで塞がっているのをいいことに聞き流してラピスを見る。

「俺も、感動した。竜言語はわからないが、それでも……感動した」

 すると、やはりいつのまにかすぐそばにいたディードとヘンリックも、鼻をすすり頬を紅潮させながら、何度もうなずいた。

「ほんとにすごかった。すごかったよ、ラピス……!」
「うん。ぼくも感動した。なんかわからないけど……震えたっ!」

 いつも飄々としているギュンターまで、「父上たちにも聴かせてあげたかったな」と瞳を潤ませている。
 ラピスのほうこそ感動していると、星空色の古竜が話しかけてきた。

『ごらん、愛し子よ』

 言われて目を向ければ、古竜たちの視線が、竜王に注がれている。
 
 いつのまにか、竜王の躰が光り輝いていた。

 七色の流星がその身に降り注ぎ、そのたび竜王の躰がドクンドクンと音をたてて拍動する。
 未だ目を醒ましてはいないけれど、もう、暗色ではない。何色ともつかず輝いて、どんどん大きくなっていく。

『ああ、王も喜んでいる!』
『力が満ちてくる』
『歌い手たちよ、どうか我らの王に、もっと歌ってはくれまいか』

『喜んで!』

 それからラピスはクロヴィスと共に、尽きぬほど歌った。
 師弟の想い出だけでなく、仲間たちのことも。
 ジークの焚火の手際の良さや馬術の見事さ、ディードとヘンリックの論争や、いつのまにか皆の潤滑剤となってくれるギュンターについてなど。

 明るい歌ばかりだから、少年三人組はまた踊り出し、ギュンターも参加した。
 彼は驚くほどリード上手で、最初は反抗していたディードも、いつのまにやら一緒にワルツを踊っている。
 クロヴィスは、ラピスと踊る以外は歌に集中していたけれど……

「踊っていただけますか」

 ジークに手を差し出され、思いっきり顔をしかめた。さらにその手をバシッと叩くも、ジークはめげずに叩かれた手でクロヴィスを捕まえ、強引に踊りの輪の中へと連れ出してしまった。
 歌を中断できないクロヴィスが、思わず竜言語で

『コノヤローッ!』

 と怒鳴ったので、ラピスも古竜たちも大笑いした。
 クロヴィスは自棄になったように踊り出したが、実に華麗なステップだ。長身の二人のダンスはものすごく見栄えがして、外套の裾が翻るのも格好いい。
 ラピス以外は皆、社交界でのマナーとしてダンスを叩き込まれているらしい。ラピスもこの旅が終わったらダンスを習おうと、ギュンターにくるくる回されて笑い声を上げながら思った。

 そうして、きらきらと星降る中で、人も竜も一緒に歌って、笑って。
 どれほどそうしていただろう。
 
 不意に、ドン! と轟音が大気を打ち――
 世界が変転した。
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