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第10唱 王都へ行こう
救世主?
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『歌の練習』がひと段落したラピスが、大広場に集まった人々の拍手喝采にお辞儀で応えていると、ディードが背後で「あっ」と声を上げた。
振り向くと、先ほど通ってきた石壁の階段から、パウマンに案内された人々がぞろぞろと露台に出てくるところだった。
まず顔を覗かせたのは、なんと国王。
次いでアロイス第二王子。
謁見の間で見た顔触れの側近たちや護衛の騎士らが続いて、最後にゾンネが、荒い息で頬肉を震わせながらよろめき出てきた。
「父上に兄上、なぜこちらに?」
駆け寄ったディードに、「ご苦労、ディーデリヒ」と国王が目を細める。
笑い皺が柔和な印象を与える端整な顔は、ギュンターとよく似ているとラピスは思った。ギュンターと同じくらいの長身だし、ついでに息子を抱きしめて、じたばたと嫌がられているところまで似ている。
「暑い! なんですかいきなり!」
「ああ、すまない。そなたたちがあまりに上手に楽しげに愛らしく踊る姿を見て、感動してしまったのだよ」
「この目で見ても信じられませぬ。竜と人とが共に歌い踊るとは……まさに夢心地の光景でございました……!」
側近たちまで口々に賞賛し、ヘンリックが「あぅぅ」と呻く。
「……見られていたとは……」
「竜たちを追ってきたら、思わぬものを鑑賞できたね。まさに星界の調べ、天使たちの戯れ」
暑さのせいばかりでなく頬を赤らめたディードに、王は声を上げて笑った。
「そなたもヘンリックも、ダンスのレッスンのときはいつだって、苦役に就く者のように重い足取りだったというのに」
「ダンス教師からも毎回、『ステップもリードも完璧だけれど、殿下はいかにもつまらなそうだし、ヘンリックは欠伸連発です』という報告を受けています」
説教するというふうでもなく、淡々と事務的に告げるアロイスの報告に、ディードはますます赤くなった。しかしヘンリックのほうは動じず……
「ぼくもディードも、ダンスなんて何が楽しいんだろうと常々思っていましたので!」
そう主張し、「しっ! 余計なこと言うな!」と肩をどつかれている。
それでもヘンリックは、「でも」といたずらっ子みたいに笑った。
「今のダンスはすっごく楽しかったです! な、ディード?」
「それは……確かに。ダンスを楽しいと思ったのは初めてかも」
国王は何度もうなずき、首を巡らせては森に見え隠れするミロちゃんたち(歌の練習が終わった途端、森の奥へと引っ込んでしまった)に熱視線を送りながら、喜びに溢れた眼差しをラピスにも向けてきた。
仲良し父子をにこにこしながら眺めていたラピスは、そこでようやく思い出してコンラート仕込みのお辞儀をした。が、王は「よいのだよいのだ、そのままにしておいで」と笑みを深めた。
「あの方のたったひとりの弟子、ラピス・グレゴワール。素晴らしい才能と人柄だと、息子たちから報告は受けていたが……今こうして我が目で見て確信することができた。まさしく、クロヴィス卿とそなたは、この世界の救世主となる器だ」
「きゅっ、きゅー……?」
不躾ながら言われたことに理解が追いつかず、おかしな声が出た。隣でヘンリックが「ぶふっ」と吹き出す。
(お師匠様なら間違いなく、救世主そのものだけども……僕はただの弟子だし)
ラピスにとって救世主というのは、クロヴィスみたいな人だ。
寂しい生活からすくい上げてくれた。居場所を与えてくれた。家族になってくれた。竜のことも魔法のことも、いろんなことを教えてくれた。
そして世界を広げてくれた。
クロヴィスのおかげで、ジークやディードやヘンリックやギュンターや、いろんな人たちと出会えた。
そう思いながら王を見上げると、ラピスの考えを読んだみたいに楽しそうに笑って、「実はね」とディードたちにも優しい視線を流す。
「クロヴィス卿から、布令を出すよう言われていたのだよ。国王からの宣布としてね。現在世界中で多発している災害や騒乱は、呪詛によるところが大きい。それを民たちに、はっきりと知らしめよと。その上で――呪詛とは怨念。浄化されることなく凝り固まった、人の負の想念の集まり。ならばそれを取り除くにはどうすればよいのか。『それは鈍くさいお前たちでも、いいかげんわかっただろう』と。そう言われてね」
振り向くと、先ほど通ってきた石壁の階段から、パウマンに案内された人々がぞろぞろと露台に出てくるところだった。
まず顔を覗かせたのは、なんと国王。
次いでアロイス第二王子。
謁見の間で見た顔触れの側近たちや護衛の騎士らが続いて、最後にゾンネが、荒い息で頬肉を震わせながらよろめき出てきた。
「父上に兄上、なぜこちらに?」
駆け寄ったディードに、「ご苦労、ディーデリヒ」と国王が目を細める。
笑い皺が柔和な印象を与える端整な顔は、ギュンターとよく似ているとラピスは思った。ギュンターと同じくらいの長身だし、ついでに息子を抱きしめて、じたばたと嫌がられているところまで似ている。
「暑い! なんですかいきなり!」
「ああ、すまない。そなたたちがあまりに上手に楽しげに愛らしく踊る姿を見て、感動してしまったのだよ」
「この目で見ても信じられませぬ。竜と人とが共に歌い踊るとは……まさに夢心地の光景でございました……!」
側近たちまで口々に賞賛し、ヘンリックが「あぅぅ」と呻く。
「……見られていたとは……」
「竜たちを追ってきたら、思わぬものを鑑賞できたね。まさに星界の調べ、天使たちの戯れ」
暑さのせいばかりでなく頬を赤らめたディードに、王は声を上げて笑った。
「そなたもヘンリックも、ダンスのレッスンのときはいつだって、苦役に就く者のように重い足取りだったというのに」
「ダンス教師からも毎回、『ステップもリードも完璧だけれど、殿下はいかにもつまらなそうだし、ヘンリックは欠伸連発です』という報告を受けています」
説教するというふうでもなく、淡々と事務的に告げるアロイスの報告に、ディードはますます赤くなった。しかしヘンリックのほうは動じず……
「ぼくもディードも、ダンスなんて何が楽しいんだろうと常々思っていましたので!」
そう主張し、「しっ! 余計なこと言うな!」と肩をどつかれている。
それでもヘンリックは、「でも」といたずらっ子みたいに笑った。
「今のダンスはすっごく楽しかったです! な、ディード?」
「それは……確かに。ダンスを楽しいと思ったのは初めてかも」
国王は何度もうなずき、首を巡らせては森に見え隠れするミロちゃんたち(歌の練習が終わった途端、森の奥へと引っ込んでしまった)に熱視線を送りながら、喜びに溢れた眼差しをラピスにも向けてきた。
仲良し父子をにこにこしながら眺めていたラピスは、そこでようやく思い出してコンラート仕込みのお辞儀をした。が、王は「よいのだよいのだ、そのままにしておいで」と笑みを深めた。
「あの方のたったひとりの弟子、ラピス・グレゴワール。素晴らしい才能と人柄だと、息子たちから報告は受けていたが……今こうして我が目で見て確信することができた。まさしく、クロヴィス卿とそなたは、この世界の救世主となる器だ」
「きゅっ、きゅー……?」
不躾ながら言われたことに理解が追いつかず、おかしな声が出た。隣でヘンリックが「ぶふっ」と吹き出す。
(お師匠様なら間違いなく、救世主そのものだけども……僕はただの弟子だし)
ラピスにとって救世主というのは、クロヴィスみたいな人だ。
寂しい生活からすくい上げてくれた。居場所を与えてくれた。家族になってくれた。竜のことも魔法のことも、いろんなことを教えてくれた。
そして世界を広げてくれた。
クロヴィスのおかげで、ジークやディードやヘンリックやギュンターや、いろんな人たちと出会えた。
そう思いながら王を見上げると、ラピスの考えを読んだみたいに楽しそうに笑って、「実はね」とディードたちにも優しい視線を流す。
「クロヴィス卿から、布令を出すよう言われていたのだよ。国王からの宣布としてね。現在世界中で多発している災害や騒乱は、呪詛によるところが大きい。それを民たちに、はっきりと知らしめよと。その上で――呪詛とは怨念。浄化されることなく凝り固まった、人の負の想念の集まり。ならばそれを取り除くにはどうすればよいのか。『それは鈍くさいお前たちでも、いいかげんわかっただろう』と。そう言われてね」
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