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第10唱 王都へ行こう
師匠、弟子のザバーッ! を活かす
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市街地ほどではないが、肌が干上がりそうなほど空気が熱かった。額から流れた汗が目に入る。
ほかの三人もしきりに汗を拭っているけれど、ラピスのように魔法で甘やかすことなく放置して、元は大河であった場所に向き合った。
(『ひんやり服魔法』か)
集中しようとしたところで弟子の発想を思い出し、ひとり含み笑いをしてしまった。無邪気な笑顔と可愛らしい声を想うたび、心と躰に力が漲る。
クロヴィスは、すうっと何度か深呼吸を繰り返した。
そのうち、河底に巣食う“病み”が視えてきた。
もちろん肉眼では見えまいが、魔法を通して視れば、どろりと引きずり込まれそうなほどどす黒く、強烈な悪臭を放つ巨大な澱みが巣食っているのがわかる。ヘドロのように沈殿し、あるいは陽炎のように立ち昇り、風が吹くたび穢れが飛散していく。
(この穢れを取り除くには)
どうイメージすべきかと考えたと同時に、またもラピスの『ザバーッ! と洗って』発言を思い出し、危うく吹き出しそうになった。
(そうだな、悪くない。いや、とてもいい)
ザバーッと洗う。率直で強力で、とてもイメージしやすい。特大浄化魔法だ。
(――洗い流せ!)
強く念じながら聖魔法を発動した直後、大河に巨大な波が出現した。
――水竜だ。
それは実体を伴う存在とは違う、聖魔法が呼んだ精霊体。蛇型の竜の姿をとった大波。
その波の竜が高く頭をもたげたかと思うと、河底の穢れに向かって牙を剥き、蟒蛇のごとく穢れを呑み込み始めた。
「うわっ! すっげーっ!」
興奮したギュンターが大声を上げた。穢れと一緒に王太子としてのお行儀も吞み込まれたらしい。
騒ぐ声は聞き流し、クロヴィスは水竜に竜氣を注ぎ続けた。
荒れ狂う波のごとき蛇体は、あっというまに穢れを喰らい、わずかに残った澱みまであとかたもなく押し流しながら、轟々と下流へなだれ込んでいく。
「あれは……竜、ですか」
呆然とジークが問うてくる。
「精霊体のな。穢れを喰ってる」
「穢れ……」
ジークと、少し冷静さを取り戻したギュンターが、戸惑ったように視線を巡らせた。水竜は見えても穢れまでは見えないのだろう。
コンラートに「視えたか」と訊くと、「はい」と首肯する。呪術師なのだから、穢れが視えるのは当然だ。
「ご覧ください、ウォルドグレイブ様! 水位が上がってきたのでは!?」
目ざとく気づいたギュンターが叫んだ。
穢れを祓われたレナーテ河は、水竜が呼び水となり、明らかに水を湛え始めた。まだ本来の姿にはほど遠いとはいえ回復の兆しを確認できて、クロヴィスも内心ほっと安堵する。
(さて、ここからどうする?)
水竜が出現するのは、クロヴィスの魔法が及ぶ範囲だけ。ゆえにこの方法のみで王都中の穢れを祓うことは効率が悪すぎて、現実的ではない。
ただし穢れを祓い清浄さを取り戻した水は、それ自体が浄化の力を持つ。だからこうして主な水源地を浄化していけば、そこへ繋がる都中の河川に浄化の連鎖が起こるはず。
その連鎖を、王都中の井戸水につながる地下水へも波及させなければならない。それも可及的速やかに。
「ふむ。ザバーッと洗ったから、次はよいしょーっ! だな」
「「「は?」」」
呟くと、コンラートと騎士二人の声が、みごとに重なった。
ぽかんと口をあけてこちらを見てくる三人に、クロヴィスは舌打ちする。
「そろって阿呆ヅラ晒すんじゃねえ! 俺はこれからよいしょーっ! と勢いづける魔法を使わなきゃならねえんだから、てめえらも真剣に『よいしょーっ!』と念じて協力しやがれ!」
「……はい?」
「……よいしょー?」
「それはいったい……?」
誰ひとり理解していない。
クロヴィスは「あーもう!」と頭を抱えた。
「ほんとラピんこ以外の人類めんどくせー! 嫌い!」
ほかの三人もしきりに汗を拭っているけれど、ラピスのように魔法で甘やかすことなく放置して、元は大河であった場所に向き合った。
(『ひんやり服魔法』か)
集中しようとしたところで弟子の発想を思い出し、ひとり含み笑いをしてしまった。無邪気な笑顔と可愛らしい声を想うたび、心と躰に力が漲る。
クロヴィスは、すうっと何度か深呼吸を繰り返した。
そのうち、河底に巣食う“病み”が視えてきた。
もちろん肉眼では見えまいが、魔法を通して視れば、どろりと引きずり込まれそうなほどどす黒く、強烈な悪臭を放つ巨大な澱みが巣食っているのがわかる。ヘドロのように沈殿し、あるいは陽炎のように立ち昇り、風が吹くたび穢れが飛散していく。
(この穢れを取り除くには)
どうイメージすべきかと考えたと同時に、またもラピスの『ザバーッ! と洗って』発言を思い出し、危うく吹き出しそうになった。
(そうだな、悪くない。いや、とてもいい)
ザバーッと洗う。率直で強力で、とてもイメージしやすい。特大浄化魔法だ。
(――洗い流せ!)
強く念じながら聖魔法を発動した直後、大河に巨大な波が出現した。
――水竜だ。
それは実体を伴う存在とは違う、聖魔法が呼んだ精霊体。蛇型の竜の姿をとった大波。
その波の竜が高く頭をもたげたかと思うと、河底の穢れに向かって牙を剥き、蟒蛇のごとく穢れを呑み込み始めた。
「うわっ! すっげーっ!」
興奮したギュンターが大声を上げた。穢れと一緒に王太子としてのお行儀も吞み込まれたらしい。
騒ぐ声は聞き流し、クロヴィスは水竜に竜氣を注ぎ続けた。
荒れ狂う波のごとき蛇体は、あっというまに穢れを喰らい、わずかに残った澱みまであとかたもなく押し流しながら、轟々と下流へなだれ込んでいく。
「あれは……竜、ですか」
呆然とジークが問うてくる。
「精霊体のな。穢れを喰ってる」
「穢れ……」
ジークと、少し冷静さを取り戻したギュンターが、戸惑ったように視線を巡らせた。水竜は見えても穢れまでは見えないのだろう。
コンラートに「視えたか」と訊くと、「はい」と首肯する。呪術師なのだから、穢れが視えるのは当然だ。
「ご覧ください、ウォルドグレイブ様! 水位が上がってきたのでは!?」
目ざとく気づいたギュンターが叫んだ。
穢れを祓われたレナーテ河は、水竜が呼び水となり、明らかに水を湛え始めた。まだ本来の姿にはほど遠いとはいえ回復の兆しを確認できて、クロヴィスも内心ほっと安堵する。
(さて、ここからどうする?)
水竜が出現するのは、クロヴィスの魔法が及ぶ範囲だけ。ゆえにこの方法のみで王都中の穢れを祓うことは効率が悪すぎて、現実的ではない。
ただし穢れを祓い清浄さを取り戻した水は、それ自体が浄化の力を持つ。だからこうして主な水源地を浄化していけば、そこへ繋がる都中の河川に浄化の連鎖が起こるはず。
その連鎖を、王都中の井戸水につながる地下水へも波及させなければならない。それも可及的速やかに。
「ふむ。ザバーッと洗ったから、次はよいしょーっ! だな」
「「「は?」」」
呟くと、コンラートと騎士二人の声が、みごとに重なった。
ぽかんと口をあけてこちらを見てくる三人に、クロヴィスは舌打ちする。
「そろって阿呆ヅラ晒すんじゃねえ! 俺はこれからよいしょーっ! と勢いづける魔法を使わなきゃならねえんだから、てめえらも真剣に『よいしょーっ!』と念じて協力しやがれ!」
「……はい?」
「……よいしょー?」
「それはいったい……?」
誰ひとり理解していない。
クロヴィスは「あーもう!」と頭を抱えた。
「ほんとラピんこ以外の人類めんどくせー! 嫌い!」
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