ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
上 下
177 / 228
第10唱 王都へ行こう

もうひとりの弟と、コンラートの子供

しおりを挟む
「いっぱい話しかけてたら、いろいろお話してくれました」

 そう。騎乗時間が長かったので、話す時間も充分にあった。
 ディードやヘンリックや騎士たちは眠ってばかりだったので(それも竜酔いの一種らしいが)、話し相手も限られた。
 コンラートと喋り始めるとクロヴィスはそっぽを向いてばかりだったから、会話の内容は殆ど聞いていなかったのだろう。

「……あの拗らせ男とすら普通に会話を成立させるとは。ラピんこの無邪気力、恐るべし……」

 ぼそりと呟いた師に「ほへ? なんですか?」と首をかしげると、「なんでもない。で?」と先を促される。

「お師匠様には、もうひとり弟さんがいるのですね!」
「……え?」
「僕ディードたちを見ていて、兄弟がいるって本当にいいなあと何回も思ってたのです。お師匠様も、二人も弟さんがいるなんて、羨ましいです!」

 わくわくと声を弾ませたラピスを、クロヴィスは紅玉の隻眼を瞠って見つめてきた。口まで薄くひらいている。

「……弟? もうひとり? 俺に?」
「ありっ? ……もしかしてお師匠様、もうひとり弟さんがいることを忘れてましたか?」
「んなわけあるか。忘れようにも知らねえよ、もうひとりの弟なんて」
「ええっ!? あ、そうか!」

 ラピスはポムと手のひらを打った。

「そういえば、お師匠様がおうちを出て行ったずっとあとに生まれたとも聞いてたのでした! だからお師匠様は知らなかったのでしょか」
「そうでしょね」

 そう言って眉根を寄せた師は、「弟?」とぶつぶつ呟いているが、ラピスは師と話せるだけで幸せなものだから、かまわずウキウキと話し続けた。

「その弟さんが、おうちを継いだのだそうです」
「じゃあ、は断絶したわけじゃないのか。……ちっ」

 なぜ舌打ちしてるのかラピスにはわからなかったが、「おうち」に関してはもうひとつ、あることを聞いていた。

「もひとつお話してもいいですか?」
「うん?」
「コンラートさんは、幼なじみのリーゼロッテさんていう女性と結婚していたそうです。『兄上と約束したから』って言ってました。お師匠様のことですよね?」
「――ああ」

 今度はクロヴィスに驚いた様子はなく、小さくうなずいている。

「お子さんもひとりいたけど、血のつながりはなかったそうです。でも、たいせつにするつもりだったって」

 はっとしたように顔を上げた師の、長い睫毛が震えた。

「……血のつながりは、ない。そう言ったのか」
「はい。でも関係ありませんよね! 僕も父様と血はつながってませんが、父様はとっても優しくて、僕、父様のことが大好きでした。……お師匠様とも血のつながりはないですけど……か、家族になれて、とってもとっても、とーっても嬉しいです!」

 家族、と改めて口にすることに、ちょっと照れてしまったが。でも言葉にするとなお幸せな気持ちになる。
「えへへっ」と照れ笑いしながら見上げると、ぎゅうっと長い腕に抱きしめられた。

「ふおっ」
「うん。ラピんこと家族になれて、俺も嬉しい」
「お、お師匠様ぁ」

 喜びのあまり、ぐりぐりと広い胸に顔を押しつけた。
 ついでに良い匂いを堪能していると、「……その子と、リーゼロッテは」と小さな声で問われた。

「今どうしているか……聞いたか?」
「はい、それが……お気の毒なことに、その子は病気で亡くなってしまったそうです。『そのとき家を出ようと決めた』んですって。そのくらいショックだったのですね」

 ぴくりとクロヴィスが身じろぐ。
 甥っ子の死は、彼にとっても大きな衝撃に違いない。
 そう思ったラピスは、急いでもうひとつの問いに答えた。

「えっと、リーゼロッテさんとはその後、話し合って離婚したそうですけども、リーゼロッテさんは腕の良い大工の親方と再婚して、幸せに暮らしてるそうですよ! なんと五人もお子さんに恵まれたそうです!」

 喜ばしい話題と思い、張り切って話したのだが……クロヴィスは何か考え込みながら、「そうか」と呟いただけだった。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

処理中です...