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第7唱 純粋な心
古竜の骨問題 1
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その夜は、町長宅に宿泊させてもらった。
ラピスら三人組も湯浴みを済ませ、暖炉の前で身を寄せ合っていたが、炎の揺らめきと薪の爆ぜる音に眠気を誘われ、三人そろってゆらゆらと舟をこぎ始めた。
そのまま気持ちよく眠りに落ちる寸前、ラピスは大事なことを思い出した。
「そうだ、お師匠様の教え!」
その声と身動ぎで、左右からラピスに寄りかかっていたディードとヘンリックも、「んあ?」と寝ぼけまなこの顔を上げる。二人が頭をごっつんこしないよう、ラピスはそっと立ち上がった。
「二人は寝てていいよ。ちゃんと寝台で寝ようね、風邪ひくからね」
寝冷えしないよう、ジークたちが暖炉の手前に移動させてくれた寝台へと、二人の手を引く。
そこにはラピスの着替えと鞄も置かれていた。いつも持ち歩いているその鞄から、雑記帳を取り出す。
弟子入りしてすぐ、クロヴィスが作ってくれた大切な雑記帳。
師から教わることのすべてが面白くて新鮮で、せっせと書き記してきた。アカネズミが何千個もブナの実を集める話や美味しい卵料理のコツから、魔法の話等々、なんでも。
ただ、項目など気にせず書いてきたから、何をどの頁に書いたか、すぐにはわからない。
「でも確かに……んーと」
寝台に腰かけてパラパラとめくっていると、ディードたちも少し眠気がさめたのか、「どしたのラピス」と覗き込んでくる。
「ドロシアさんが誰かと話題にしてたっていう、『古竜の骨』のことをね……」
「古竜の骨……俺たぶん、何年か前に一度だけ見てる」
「えっ! そうなの? ディード。おおぉ、どんなだった? どんなだった?」
一般公開はされていないとアスムスは言っていたが、目にしていたとはさすが王子様。
ラピスはディードに飛びつかんばかりだったが、ディードは暖炉に照らされた頬を赤くして、「ごめん。まったく印象に残ってない」と眉尻を下げた。
「父上の誕辰の儀で大神殿に同行して、祭具や呪具が収められている奥の間に初めて入ったとき、『この古竜の骨は、クロヴィス卿が封印した呪具だよ』って、教わったことはおぼえてる。でもチビだったし、骨なんかに興味なくて。『父上、また大魔法使い様のこと話してる』とか、そういうことばっか考えてたから……」
「なるほど~」
確かに、ラピスのように幼少時から竜に馴染んでいたのでなければ、古竜の骨だけ見せられても、子供には退屈なばかりだろう。
ちょうどそのとき、隣室で湯浴みをしていたジークたちが、濡れ髪を拭きながらやってきた。
「なになに、呪具の話?」
「古竜の骨」
ディードは本当に、ギュンターに対してそっけない。男兄弟とはこういうものなのだろうか。
ラピスはちょっとハラハラしたが、ギュンターはむしろ楽しそうだ。
「言葉足らずでしゅねぇ、うちの末っ子は~」
ディードの髪の毛をくしゃくしゃ掻き回し、「やめてよ!」と真っ赤な顔で抵抗されてもまったく意に介さず、逆にギュウギュウ抱っこして、さらに怒らせている。
これはこれでまた大丈夫かと心配になったが、ヘンリックはあくびを連発しているし、たぶんいつもこんな調子なのだろう。
「グレゴワール様が封印した呪具か」
隣の寝台に腰かけたジークが話を戻してくれたので、ラピスは「はい」とうなずきつつ、風魔法でジークとギュンターの髪を乾かし始めた。クロヴィスがラピスにそうしてくれていたように。
「ありがとう、ラピス!」と言いつつ腕の力をゆるめたギュンターからようやく逃れたディードが、「氷魔法をかけてやって!」と言うので、声を上げて笑ってしまった。
「兄弟がいるって、いいねぇ」
「まともな兄ならね!」
「古竜の骨それ自体は、悪しきものではないと聞いている。が、何故、厳重に封印されているのかまでは、我々は知らされていない」
再び淡々と話を戻すジークに、ギュンターも首肯した。
「グレゴワール様がアカデミーにいらした頃に収めたものだから、その後即位した父上も詳細は知らないようだった。ただ、骨といえど古竜の躰の一部だし、かなりの魔力が残存しているために、悪用されないよう封じてあると教わったよ」
ラピスら三人組も湯浴みを済ませ、暖炉の前で身を寄せ合っていたが、炎の揺らめきと薪の爆ぜる音に眠気を誘われ、三人そろってゆらゆらと舟をこぎ始めた。
そのまま気持ちよく眠りに落ちる寸前、ラピスは大事なことを思い出した。
「そうだ、お師匠様の教え!」
その声と身動ぎで、左右からラピスに寄りかかっていたディードとヘンリックも、「んあ?」と寝ぼけまなこの顔を上げる。二人が頭をごっつんこしないよう、ラピスはそっと立ち上がった。
「二人は寝てていいよ。ちゃんと寝台で寝ようね、風邪ひくからね」
寝冷えしないよう、ジークたちが暖炉の手前に移動させてくれた寝台へと、二人の手を引く。
そこにはラピスの着替えと鞄も置かれていた。いつも持ち歩いているその鞄から、雑記帳を取り出す。
弟子入りしてすぐ、クロヴィスが作ってくれた大切な雑記帳。
師から教わることのすべてが面白くて新鮮で、せっせと書き記してきた。アカネズミが何千個もブナの実を集める話や美味しい卵料理のコツから、魔法の話等々、なんでも。
ただ、項目など気にせず書いてきたから、何をどの頁に書いたか、すぐにはわからない。
「でも確かに……んーと」
寝台に腰かけてパラパラとめくっていると、ディードたちも少し眠気がさめたのか、「どしたのラピス」と覗き込んでくる。
「ドロシアさんが誰かと話題にしてたっていう、『古竜の骨』のことをね……」
「古竜の骨……俺たぶん、何年か前に一度だけ見てる」
「えっ! そうなの? ディード。おおぉ、どんなだった? どんなだった?」
一般公開はされていないとアスムスは言っていたが、目にしていたとはさすが王子様。
ラピスはディードに飛びつかんばかりだったが、ディードは暖炉に照らされた頬を赤くして、「ごめん。まったく印象に残ってない」と眉尻を下げた。
「父上の誕辰の儀で大神殿に同行して、祭具や呪具が収められている奥の間に初めて入ったとき、『この古竜の骨は、クロヴィス卿が封印した呪具だよ』って、教わったことはおぼえてる。でもチビだったし、骨なんかに興味なくて。『父上、また大魔法使い様のこと話してる』とか、そういうことばっか考えてたから……」
「なるほど~」
確かに、ラピスのように幼少時から竜に馴染んでいたのでなければ、古竜の骨だけ見せられても、子供には退屈なばかりだろう。
ちょうどそのとき、隣室で湯浴みをしていたジークたちが、濡れ髪を拭きながらやってきた。
「なになに、呪具の話?」
「古竜の骨」
ディードは本当に、ギュンターに対してそっけない。男兄弟とはこういうものなのだろうか。
ラピスはちょっとハラハラしたが、ギュンターはむしろ楽しそうだ。
「言葉足らずでしゅねぇ、うちの末っ子は~」
ディードの髪の毛をくしゃくしゃ掻き回し、「やめてよ!」と真っ赤な顔で抵抗されてもまったく意に介さず、逆にギュウギュウ抱っこして、さらに怒らせている。
これはこれでまた大丈夫かと心配になったが、ヘンリックはあくびを連発しているし、たぶんいつもこんな調子なのだろう。
「グレゴワール様が封印した呪具か」
隣の寝台に腰かけたジークが話を戻してくれたので、ラピスは「はい」とうなずきつつ、風魔法でジークとギュンターの髪を乾かし始めた。クロヴィスがラピスにそうしてくれていたように。
「ありがとう、ラピス!」と言いつつ腕の力をゆるめたギュンターからようやく逃れたディードが、「氷魔法をかけてやって!」と言うので、声を上げて笑ってしまった。
「兄弟がいるって、いいねぇ」
「まともな兄ならね!」
「古竜の骨それ自体は、悪しきものではないと聞いている。が、何故、厳重に封印されているのかまでは、我々は知らされていない」
再び淡々と話を戻すジークに、ギュンターも首肯した。
「グレゴワール様がアカデミーにいらした頃に収めたものだから、その後即位した父上も詳細は知らないようだった。ただ、骨といえど古竜の躰の一部だし、かなりの魔力が残存しているために、悪用されないよう封じてあると教わったよ」
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