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第7唱 純粋な心
爆笑の騎士たちと、おめでたい話 1
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アカデミー派の感染者たちにも薬湯を飲ませ、とりあえず命の危機は脱した。
しかし彼らが占拠していた町長の家は荒れ放題で、病み上がりの者を寝かせておける環境ではなかった。それ以前に、人が住むのに適さない。
厨房も手洗いも各部屋も、埃と汚れ物が積み上がり、私物も散らかしっぱなしでゴミと区別がつかない。滞在してほんの数日で、どうやったらここまで汚せるのか不思議なほどだった。
ジークに一喝されて大泣きしていた面々は、涙が引くと早速「とにかく寒い」と訴え出したが、これが夏なら虫が湧きカビの温床になっていただろう。
病人たちは集会所で看病することにして、数人の騎士たちが送って行った。
が、家の惨状を目にした町長が「ああ……」と呆然と立ちつくしているのが気の毒すぎて、ラピスはまずゴミ拾いを始めた。
ディードとヘンリックも手伝ってくれたが、ヘンリックは隙あらばアカデミー派の者たちに「おい、自分でやれよ!」とゴミを投げつけようとするので、それを止めるのにも気を取られる(ディードは珍しく止めようとしなかった)。
「自分で掃除や片づけをするということを知らないんだよな。むしろ『掃除したら負け』くらいに思っているんだろう?」
嫌味というより、脱力したようなリッターの声に顔を上げると、町長宅に来たとき最初に飛び出してきたアカデミー派の青年――アスムスというらしい――が、食ってかかった。
「はあ? 喧嘩売ってんのかリッター! オレたちに、お前ら庶民のしみったれた生活を押しつけるんじゃねえよ! こっちはアカデミーがついてるんだ。その生意気な口のきき方を後悔させてやることも簡単なんだからな!」
「……本当に、自分では何ひとつできないんだな」
ため息をつく相手に再度噛みつこうとしたアスムスは、ジークに見下ろされて口をつぐんだ。
しかしその後もアカデミー派とリッターらの小競り合いが続き、ついにリッター側から「話がある」と切り出した。
「喧嘩を売りに来たわけじゃないんだ」
リッターはそこらを片付けながら話を続ける。
その姿を見たアスムスたちは、「ふん、今さら身のほどをわきまえても遅い」と薄笑いを浮かべた。リッターはそちらへさらりと視線を流す。
「うん。身のほどというか、役割を知るって大事だなと、ぼくたちは学んだ。ラピスくんからね」
「ラピスぅ!?」
アスムスのうしろに隠れていたディアナが急に反応し、身を乗り出してきた。
憧れのジークに怒鳴られたのがショックだったのか、珍しくしおらしい態度でいたのも束の間。ラピスの名を聞いて、負けん気が復活したらしい。
「こんな悪賢く人に取り入る腹黒い子に、何を学んだって言うのよ。金持ちに媚びる技とか!?」
途端、ディードが立ち上がり、氷のような目をディアナに向けた。
「それはすべて、自分たち母子のことでは? 恥知らずとはあなたたちのことだ」
「なんですって!? あんた、騎士見習いね!? 今すぐ土下座して謝りなさい!」
騎士見習いには違いないが、ディードはこの国の王子である。
ついでにその兄のギュンターも、少し離れてこの様子を見ていた。
「あ、あの、あのねディアナ」
知らずに無礼をやらかした義姉をラピスは止めようとしたが、ヘンリックから「いいからいいから」と止められてしまった。
しかしアスムスたちまでディアナに加勢し始めた。
「ラピス? ああ、すごい偏屈だっていう大魔法使いを虜にしちゃった、噂の弟子ね。確かに、やたら可愛いなぁ。あのお顔で媚びたら、どんな相手も喜ぶんだろうなぁ」
どっと笑い合う彼らと対照的に、ラピスの周囲ではビリッと殺気が漲った。
ジークからもほかの騎士たちからも、リッターたちからすら、すさまじい怒気が放たれている気がするのは、ラピスの気のせいだろうか。
しかし彼らが占拠していた町長の家は荒れ放題で、病み上がりの者を寝かせておける環境ではなかった。それ以前に、人が住むのに適さない。
厨房も手洗いも各部屋も、埃と汚れ物が積み上がり、私物も散らかしっぱなしでゴミと区別がつかない。滞在してほんの数日で、どうやったらここまで汚せるのか不思議なほどだった。
ジークに一喝されて大泣きしていた面々は、涙が引くと早速「とにかく寒い」と訴え出したが、これが夏なら虫が湧きカビの温床になっていただろう。
病人たちは集会所で看病することにして、数人の騎士たちが送って行った。
が、家の惨状を目にした町長が「ああ……」と呆然と立ちつくしているのが気の毒すぎて、ラピスはまずゴミ拾いを始めた。
ディードとヘンリックも手伝ってくれたが、ヘンリックは隙あらばアカデミー派の者たちに「おい、自分でやれよ!」とゴミを投げつけようとするので、それを止めるのにも気を取られる(ディードは珍しく止めようとしなかった)。
「自分で掃除や片づけをするということを知らないんだよな。むしろ『掃除したら負け』くらいに思っているんだろう?」
嫌味というより、脱力したようなリッターの声に顔を上げると、町長宅に来たとき最初に飛び出してきたアカデミー派の青年――アスムスというらしい――が、食ってかかった。
「はあ? 喧嘩売ってんのかリッター! オレたちに、お前ら庶民のしみったれた生活を押しつけるんじゃねえよ! こっちはアカデミーがついてるんだ。その生意気な口のきき方を後悔させてやることも簡単なんだからな!」
「……本当に、自分では何ひとつできないんだな」
ため息をつく相手に再度噛みつこうとしたアスムスは、ジークに見下ろされて口をつぐんだ。
しかしその後もアカデミー派とリッターらの小競り合いが続き、ついにリッター側から「話がある」と切り出した。
「喧嘩を売りに来たわけじゃないんだ」
リッターはそこらを片付けながら話を続ける。
その姿を見たアスムスたちは、「ふん、今さら身のほどをわきまえても遅い」と薄笑いを浮かべた。リッターはそちらへさらりと視線を流す。
「うん。身のほどというか、役割を知るって大事だなと、ぼくたちは学んだ。ラピスくんからね」
「ラピスぅ!?」
アスムスのうしろに隠れていたディアナが急に反応し、身を乗り出してきた。
憧れのジークに怒鳴られたのがショックだったのか、珍しくしおらしい態度でいたのも束の間。ラピスの名を聞いて、負けん気が復活したらしい。
「こんな悪賢く人に取り入る腹黒い子に、何を学んだって言うのよ。金持ちに媚びる技とか!?」
途端、ディードが立ち上がり、氷のような目をディアナに向けた。
「それはすべて、自分たち母子のことでは? 恥知らずとはあなたたちのことだ」
「なんですって!? あんた、騎士見習いね!? 今すぐ土下座して謝りなさい!」
騎士見習いには違いないが、ディードはこの国の王子である。
ついでにその兄のギュンターも、少し離れてこの様子を見ていた。
「あ、あの、あのねディアナ」
知らずに無礼をやらかした義姉をラピスは止めようとしたが、ヘンリックから「いいからいいから」と止められてしまった。
しかしアスムスたちまでディアナに加勢し始めた。
「ラピス? ああ、すごい偏屈だっていう大魔法使いを虜にしちゃった、噂の弟子ね。確かに、やたら可愛いなぁ。あのお顔で媚びたら、どんな相手も喜ぶんだろうなぁ」
どっと笑い合う彼らと対照的に、ラピスの周囲ではビリッと殺気が漲った。
ジークからもほかの騎士たちからも、リッターたちからすら、すさまじい怒気が放たれている気がするのは、ラピスの気のせいだろうか。
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