113 / 228
第6唱 竜王の呪い
薬をつくろう!
しおりを挟む
「うそっ! それもしかして苺鈴草!?」
目を輝かせたヘンリックに、ラピスは「うん!」と大きくうなずいた。
鞄には、クロヴィスが厳選してくれた薬草や薬が入っている。ジークにも大量の常備薬を持たせてくれていたが、ラピスには『特に使い回しの効く貴重な材料』を持たせてくれた。
思えばトリプト村で活用した古竜の鱗も、クロヴィスに言われたから持参した。おかげで老亀の甲羅を入手できたのだ。
「すごい……苺鈴草なんて初めて見た」
ヘンリックと並んで頬を紅潮させたディードに、幼竜からもらった経緯を話すと、周りの騎士たちにまで感心されてしまった。ギュンターもタレ目の目尻を下げて笑う。
「古竜もすごいけど、幼竜というのもまた珍しいな。普通、見る機会すらないよ」
「竜がそこまで義理堅いとは」
「そういう貴重な体験談を、アカデミーの方々は知っているのでしょうか」
騎士たちも一緒になって会話を膨らませているので、ラピスは話題が戻るのをポケッと待っていたが、しっかり者のディードが「あとはなんだっけ?」と話を進めてくれた。
「南方の砂、だって。でもそれは持ってないんだ……」
ジークたちも「詰所のどこかにないか」「商店で扱いはないか」と声を掛け合っているが、北国にいて都合よく手に入るものではない。
仕方なく伝書鳩を飛ばして取り寄せるしかないと結論が出かけたとき、「それってさあ」とヘンリックが首をかしげた。
「王女殿下の手紙に入ってたやつじゃ、ダメなの?」
「は?」
眉根を寄せたディードに、「ほら、前に殿下がグレゴワール様にだまされたあと、団長と婚約してるって誤解したときの手紙」
「あっ、そうか! 『封入便』の!」
二人が言っているのは例の、ジークとクロヴィスに関する噂の件らしい。
あのときディードたちはジーク本人よりも早くその情報を掴んでいたが、それは王女から手紙をもらっていたからだという。つまり姉から弟に、『二人が婚約しているなら隠さず教えなさい』という内容の手紙が届いていたのだ。
「なんでそういう情報をすぐ俺に教えないんだよ」
不満顔のギュンターに、ディードは冷めた目を向けた。
「くだらないからです」
封入便とは、通常より大きな伝書鳩に、ごく軽量の物を包んだ手紙を運ばせることを言う。
王女はクロヴィスに言われるまま南の街へ向かったが、途中でからかわれたと気づいた。その際、腹立たしさを解消しようと入った土産物屋で、『南の海の砂』とやらを見つけて……
『白と桃色の愛らしい色合いの砂です。なんて美しいのでしょう。記念にあなたにも差し上げますね』
機嫌が直ったか、わざわざ送って寄こしたらしい。
ディードはそれを「なんで旅先に余計な物を増やすかな」と放置しようとしたのだが、ヘンリックが「珍しいじゃん、綺麗じゃん」と取っておいたのだ。
ラピスは思わずヘンリックに抱きついた。
「すごいよヘンリック! よく取っておいてくれたね、ありがとう!」
「お、おう!」
「そうだな。悔しいが今回は認める。初めて役に立ったな、ヘンリック」
「初めて!?」
嬉しそうにしていたのに、ディードのひと言でまた喧嘩になった。
だがよく考えると、クロヴィスのおかげで王女が南の街に行ったのだから……
「やっぱり一番すごいのは、お師匠様ってことだね!」
ラピスの結論は、仲良くそろった乳兄弟の「「なんで?」」に阻まれた。
☆ ☆ ☆
ラピスたちは早速、薬作りに取りかかった。
古竜の教えに従い、山ほどあった雪真珠の鱗と、老亀の甲羅、苺鈴草、南方の砂を、大鍋に入れて火にかける。すると瞬く間に鱗がとけて、なみなみと大鍋いっぱいの水量になった。
「「「おおおー!」」」
わくわくした様子で見ていた騎士たちも共に拍手して盛り上がったが、ほかの材料も鱗液の中で瞬く間にとけ出し、猛烈な勢いで沸騰し始めたので、今度は驚きの声を上げて鍋から遠のいた。
もちろんラピスもジークに抱き上げられて避難させられたが、古竜の教えだから大丈夫と説得しているあいだにも、広い室内を埋め尽くすほどの湯気がもうもうと立ち昇る。
湯気は不思議とひんやりしていて危険性はなかったけれど、ヘンリックも何度も「いいの!? ほんとにこれでいいの!?」と確認してきた。
「『湯気が消えるまでそのままにしなさい』と言ってたから大丈夫!」
ラピスは胸を張った。
しかしその結果、湯気が消えたあとに残ったのは、鍋底にちんまりと、小瓶ひとつぶんの量の透明な液体だけだった。
「えええ! これだけーっ!?」
完成した薬を見たヘンリックが、不満の声を上げたのも無理はない。
「確かにこれは……切ないほどに少ない……」
「作り方、間違えちゃったとか……?」
ギュンターとディードも困惑顔でラピスを見つめる。顔は似ていないのにその様子はそっくりで、「やっぱり兄弟だねえ」と思わず笑ってしまった。
そんな彼らに、『竜の書』をひらいて見せる。
紙の上から金文字が軽やかに浮かび上がって、ラピスとジークを除く全員から驚愕と感嘆の声が上がった。
「ほらね、ちゃんと書いてあるでしょう? 『薬は湯で満ちた大鍋に、ひとしずく垂らせばこと足りる』って。ほんのちょっとで効果があるから、小瓶ひとつぶんの量しかなくても大丈夫なんだよ、きっと」
「俺には読めないが、濃縮された原液みたいなものか……携帯するにも都合がいい」
ジークの言葉に「そうですよね!」とうなずくラピスの横で、「だと思った。わかってたよ、ぼくは」としたり顔のヘンリックが、ディードの冷たい視線を浴びている。
目を輝かせたヘンリックに、ラピスは「うん!」と大きくうなずいた。
鞄には、クロヴィスが厳選してくれた薬草や薬が入っている。ジークにも大量の常備薬を持たせてくれていたが、ラピスには『特に使い回しの効く貴重な材料』を持たせてくれた。
思えばトリプト村で活用した古竜の鱗も、クロヴィスに言われたから持参した。おかげで老亀の甲羅を入手できたのだ。
「すごい……苺鈴草なんて初めて見た」
ヘンリックと並んで頬を紅潮させたディードに、幼竜からもらった経緯を話すと、周りの騎士たちにまで感心されてしまった。ギュンターもタレ目の目尻を下げて笑う。
「古竜もすごいけど、幼竜というのもまた珍しいな。普通、見る機会すらないよ」
「竜がそこまで義理堅いとは」
「そういう貴重な体験談を、アカデミーの方々は知っているのでしょうか」
騎士たちも一緒になって会話を膨らませているので、ラピスは話題が戻るのをポケッと待っていたが、しっかり者のディードが「あとはなんだっけ?」と話を進めてくれた。
「南方の砂、だって。でもそれは持ってないんだ……」
ジークたちも「詰所のどこかにないか」「商店で扱いはないか」と声を掛け合っているが、北国にいて都合よく手に入るものではない。
仕方なく伝書鳩を飛ばして取り寄せるしかないと結論が出かけたとき、「それってさあ」とヘンリックが首をかしげた。
「王女殿下の手紙に入ってたやつじゃ、ダメなの?」
「は?」
眉根を寄せたディードに、「ほら、前に殿下がグレゴワール様にだまされたあと、団長と婚約してるって誤解したときの手紙」
「あっ、そうか! 『封入便』の!」
二人が言っているのは例の、ジークとクロヴィスに関する噂の件らしい。
あのときディードたちはジーク本人よりも早くその情報を掴んでいたが、それは王女から手紙をもらっていたからだという。つまり姉から弟に、『二人が婚約しているなら隠さず教えなさい』という内容の手紙が届いていたのだ。
「なんでそういう情報をすぐ俺に教えないんだよ」
不満顔のギュンターに、ディードは冷めた目を向けた。
「くだらないからです」
封入便とは、通常より大きな伝書鳩に、ごく軽量の物を包んだ手紙を運ばせることを言う。
王女はクロヴィスに言われるまま南の街へ向かったが、途中でからかわれたと気づいた。その際、腹立たしさを解消しようと入った土産物屋で、『南の海の砂』とやらを見つけて……
『白と桃色の愛らしい色合いの砂です。なんて美しいのでしょう。記念にあなたにも差し上げますね』
機嫌が直ったか、わざわざ送って寄こしたらしい。
ディードはそれを「なんで旅先に余計な物を増やすかな」と放置しようとしたのだが、ヘンリックが「珍しいじゃん、綺麗じゃん」と取っておいたのだ。
ラピスは思わずヘンリックに抱きついた。
「すごいよヘンリック! よく取っておいてくれたね、ありがとう!」
「お、おう!」
「そうだな。悔しいが今回は認める。初めて役に立ったな、ヘンリック」
「初めて!?」
嬉しそうにしていたのに、ディードのひと言でまた喧嘩になった。
だがよく考えると、クロヴィスのおかげで王女が南の街に行ったのだから……
「やっぱり一番すごいのは、お師匠様ってことだね!」
ラピスの結論は、仲良くそろった乳兄弟の「「なんで?」」に阻まれた。
☆ ☆ ☆
ラピスたちは早速、薬作りに取りかかった。
古竜の教えに従い、山ほどあった雪真珠の鱗と、老亀の甲羅、苺鈴草、南方の砂を、大鍋に入れて火にかける。すると瞬く間に鱗がとけて、なみなみと大鍋いっぱいの水量になった。
「「「おおおー!」」」
わくわくした様子で見ていた騎士たちも共に拍手して盛り上がったが、ほかの材料も鱗液の中で瞬く間にとけ出し、猛烈な勢いで沸騰し始めたので、今度は驚きの声を上げて鍋から遠のいた。
もちろんラピスもジークに抱き上げられて避難させられたが、古竜の教えだから大丈夫と説得しているあいだにも、広い室内を埋め尽くすほどの湯気がもうもうと立ち昇る。
湯気は不思議とひんやりしていて危険性はなかったけれど、ヘンリックも何度も「いいの!? ほんとにこれでいいの!?」と確認してきた。
「『湯気が消えるまでそのままにしなさい』と言ってたから大丈夫!」
ラピスは胸を張った。
しかしその結果、湯気が消えたあとに残ったのは、鍋底にちんまりと、小瓶ひとつぶんの量の透明な液体だけだった。
「えええ! これだけーっ!?」
完成した薬を見たヘンリックが、不満の声を上げたのも無理はない。
「確かにこれは……切ないほどに少ない……」
「作り方、間違えちゃったとか……?」
ギュンターとディードも困惑顔でラピスを見つめる。顔は似ていないのにその様子はそっくりで、「やっぱり兄弟だねえ」と思わず笑ってしまった。
そんな彼らに、『竜の書』をひらいて見せる。
紙の上から金文字が軽やかに浮かび上がって、ラピスとジークを除く全員から驚愕と感嘆の声が上がった。
「ほらね、ちゃんと書いてあるでしょう? 『薬は湯で満ちた大鍋に、ひとしずく垂らせばこと足りる』って。ほんのちょっとで効果があるから、小瓶ひとつぶんの量しかなくても大丈夫なんだよ、きっと」
「俺には読めないが、濃縮された原液みたいなものか……携帯するにも都合がいい」
ジークの言葉に「そうですよね!」とうなずくラピスの横で、「だと思った。わかってたよ、ぼくは」としたり顔のヘンリックが、ディードの冷たい視線を浴びている。
227
お気に入りに追加
804
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる