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第5唱 母の面影
ドロシアの情報網 2
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ますます心配になったラピスとは逆に、面白そうに状況を見守っていたギュンターが、「きみたちはいつ出発するんだい?」と尋ねると、ドロシアは一転、ピンと背筋を伸ばした。
「このあとすぐですわ。ほかの巡礼者たちと情報の共有はしましたが、手柄まで分け合う気はないのです。ですから皆、我先にと出発していますの。これ以上雪が深くなれば、旅どころではありませんし」
「忙しいのに、わざわざ教えに来てくれたんですね、ドロシアさん」
ラピスはまたも感謝の気持ちでいっぱいになった。まだ知り合って間もないのに、どうしてここまで親切にしてくれるのかわからないけれど。
理由を訊こうと思ったが、今度はディードに先を越された。
「なぜ、わざわざ教えに来てくれたんです? たいした情報ではないからですか?」
「ちょっ、それ、おま言う!? 実際たいした情報じゃないけどさあ!」
「失礼だぞ、ディード」
苦笑するギュンターに指摘され、ディードは素直に「失礼しました」と謝る。が、直後に顔をしかめた。
「『救いの対象がある』なんて、具体性のない言葉だけなのに。それを隠すなんて……本当にセコいな」
ヘンリックも「ほんとそれ」などと言って、こんなときばかり仲良くうなずき合うものだから、またドロシアを怒らせないかとラピスはハラハラした。
だが意外にも彼女も、「セコいというのには同意するわ」と肩をすくめている。
「でもね、わたしたちレベルの聴き手からすれば、人生で初めて古竜を間近に見て、その歌を聴いて、竜酔いしつつもなんとか解いた歌だからね。残念ながらそれぞれが単語をひとつ解いた程度じゃ、竜の書にも憧れの金文字は出なかったけど。でもまあ、ラピスくんより先に成果をあげられるかもという欲が出てしまったのも、凡人には仕方ないことなのよ。……だからね、恨まないであげてね?」
「もちろんですよ! ぜんっぜん、恨んだりなんかしていませんよっ! むしろ感謝でいっぱいですっ」
ブンブン首を振ったら、ドロシアは「やだ可愛いっ」と喜んでいる。しかし振りすぎたのか、ちょっと目眩がした。もしかするとまだ本調子ではないのかもしれない。
「じゃあ、わたし行かなきゃ。またロックス町で会いましょう!」
大きく手を振り歩き出したところで、「あ、それと」と赤い髪が揺れた。ドロシアの視線は、ラピスの右隣のジークに向けられていた。
「『竜王の祭壇』に向かっていたアードラー大祭司長様が、大雪のために今年の祈祷を断念されたそうです。お聞きになりましたか?」
「……いや、聞いていない」
眉をひそめたジークの横で、ギュンターも目を丸くする。
「情報が早いね!」
「それが金とコネの結集による情報網というものですわ」
あでやかに笑ったドロシアが、得意げにディードを見た。が、今回は本当に急いでいるらしく、それ以上は絡まず去って行った。
ディードはちょっと悔しそうだ。「金はともかく、コネならこっちだってあるのに」と唇を噛んでジークを見る。
「食事を終えたらすぐ、騎士団の詰所に行ってきます。あちらの伝書鳩のほうが先に着いているかもしれません」
ギュンターも腕を組み、「祈祷所から引き揚げてくる? いや、そこに至る前に断念したのか?」と思案顔になっている。
「いずれにせよ、この街に向かっているのでしょうね。いや、連絡の時差を考慮すると、じき到着ということもあり得るかも」
ディードがそう言うと、ヘンリックが「うーん」とうなった。
「大祭司長は痩せてるし爺様だし、いち早く凍死しそうだし。護衛の騎士たちも気が気じゃなくて、早々に引き揚げさせたんじゃないか?」
「凍死とか言うな。……でもあり得ると思います。どうします? 顔を合わせてしまう前に出発しますか?」
普通にキツいことを言うヘンリックに注意はしているが、ディードも同意見のようだ。何やら皆で思案しているけれど、ラピスには話が見えない。
あとで説明してもらうことにして、とりあえずデザートの林檎ケーキに集中した。甘酸っぱくてふんわりしていて、とても美味しかった。
「このあとすぐですわ。ほかの巡礼者たちと情報の共有はしましたが、手柄まで分け合う気はないのです。ですから皆、我先にと出発していますの。これ以上雪が深くなれば、旅どころではありませんし」
「忙しいのに、わざわざ教えに来てくれたんですね、ドロシアさん」
ラピスはまたも感謝の気持ちでいっぱいになった。まだ知り合って間もないのに、どうしてここまで親切にしてくれるのかわからないけれど。
理由を訊こうと思ったが、今度はディードに先を越された。
「なぜ、わざわざ教えに来てくれたんです? たいした情報ではないからですか?」
「ちょっ、それ、おま言う!? 実際たいした情報じゃないけどさあ!」
「失礼だぞ、ディード」
苦笑するギュンターに指摘され、ディードは素直に「失礼しました」と謝る。が、直後に顔をしかめた。
「『救いの対象がある』なんて、具体性のない言葉だけなのに。それを隠すなんて……本当にセコいな」
ヘンリックも「ほんとそれ」などと言って、こんなときばかり仲良くうなずき合うものだから、またドロシアを怒らせないかとラピスはハラハラした。
だが意外にも彼女も、「セコいというのには同意するわ」と肩をすくめている。
「でもね、わたしたちレベルの聴き手からすれば、人生で初めて古竜を間近に見て、その歌を聴いて、竜酔いしつつもなんとか解いた歌だからね。残念ながらそれぞれが単語をひとつ解いた程度じゃ、竜の書にも憧れの金文字は出なかったけど。でもまあ、ラピスくんより先に成果をあげられるかもという欲が出てしまったのも、凡人には仕方ないことなのよ。……だからね、恨まないであげてね?」
「もちろんですよ! ぜんっぜん、恨んだりなんかしていませんよっ! むしろ感謝でいっぱいですっ」
ブンブン首を振ったら、ドロシアは「やだ可愛いっ」と喜んでいる。しかし振りすぎたのか、ちょっと目眩がした。もしかするとまだ本調子ではないのかもしれない。
「じゃあ、わたし行かなきゃ。またロックス町で会いましょう!」
大きく手を振り歩き出したところで、「あ、それと」と赤い髪が揺れた。ドロシアの視線は、ラピスの右隣のジークに向けられていた。
「『竜王の祭壇』に向かっていたアードラー大祭司長様が、大雪のために今年の祈祷を断念されたそうです。お聞きになりましたか?」
「……いや、聞いていない」
眉をひそめたジークの横で、ギュンターも目を丸くする。
「情報が早いね!」
「それが金とコネの結集による情報網というものですわ」
あでやかに笑ったドロシアが、得意げにディードを見た。が、今回は本当に急いでいるらしく、それ以上は絡まず去って行った。
ディードはちょっと悔しそうだ。「金はともかく、コネならこっちだってあるのに」と唇を噛んでジークを見る。
「食事を終えたらすぐ、騎士団の詰所に行ってきます。あちらの伝書鳩のほうが先に着いているかもしれません」
ギュンターも腕を組み、「祈祷所から引き揚げてくる? いや、そこに至る前に断念したのか?」と思案顔になっている。
「いずれにせよ、この街に向かっているのでしょうね。いや、連絡の時差を考慮すると、じき到着ということもあり得るかも」
ディードがそう言うと、ヘンリックが「うーん」とうなった。
「大祭司長は痩せてるし爺様だし、いち早く凍死しそうだし。護衛の騎士たちも気が気じゃなくて、早々に引き揚げさせたんじゃないか?」
「凍死とか言うな。……でもあり得ると思います。どうします? 顔を合わせてしまう前に出発しますか?」
普通にキツいことを言うヘンリックに注意はしているが、ディードも同意見のようだ。何やら皆で思案しているけれど、ラピスには話が見えない。
あとで説明してもらうことにして、とりあえずデザートの林檎ケーキに集中した。甘酸っぱくてふんわりしていて、とても美味しかった。
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