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第4唱 ラピスにメロメロ
新たなウワサ 2
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「いつからそこに!」と仰天している大人たちを呆れ顔で見ていたディードが、「あの」と割って入った。
「もうラピスの耳に入っちゃったから言いますけど。その噂なら、俺たちとっくに知ってましたよ」
冷めた口調で「なあ?」と視線を流した先で、ヘンリックも「うん、知ってた」と首肯する。ギュンターが「マジで!?」と目を丸くした。
「何それ、なんで知ってたの!?」
「伝書鳩を使ってるのは俺たちも一緒ですから」
ディードは「むしろ副団長が知らなかったのが不思議です」と付け足し、さらに補足した。
「ちなみにその噂、発生源はアカデミーの学生で、それが飛び火して社交界にて拡散されたと思われます。ですが最初は団長とグレゴワール様が愛し合っているという噂話だったのに、『二人は婚約している』と内容を発展させて言いふらしたのは、どうやら王女殿下です」
「へ!? アレクシア……王女? 何故に?」
タレ目を白黒させたギュンターが、ディードとジークを交互に見た。
ジークはひとり掛けのソファで長い脚を組んだまま、特に反応はない。
ヘンリックがラピスにこっそり「王女はね、団長との結婚を望んでるんだよ」と教えてくれた。ラピスにとっては王族など雲の上の人だから、「わぁ」と感嘆の声が漏れる。
「王女様にまでモテるなんて、ジークさんはほんとに人気者なんだね!」
「ラピスが言うと、すごく平和な話題みたいだな」
苦笑するヘンリックの向こうで、ディードは気の毒そうにラピスを見た。
「王女殿下はなんというか、その……思い立ったら即行動というか、猪突猛進というか。それでその、グレゴワール様のところに押しかけちゃったみたいで」
「ほえ!?」
「マジか!」
今度はラピスもギュンターと一緒に驚いた。
ジークまでガタンと椅子の音を鳴らして身を乗り出し、組んだ脚を解く。
「その際グレゴワール様から、『団長には複数の情人がいる』と聞かされたみたい。あと『団長は巡礼など無視して南国に行き、情事に耽って』……」
そこでハッとしたようにラピスを見たディードは、ちょっと赤面しながら咳払いして、「えーと」と表現を変えた。
「おそらく王女殿下は、グレゴワール様から厄介払いされたんだろうね。無理もないよ。いきなり身におぼえのない恋愛沙汰を持ち込まれたんだから、怒って当然だ。で、王女殿下は例によって即行動で、グレゴワール様の言葉通り南へ向かっちゃったのだけど、その道中で、その……教えられた情人の名が、騎士見習いたちの名のもじりであると気づいたらしく」
「騎士見習いたちって、ディードとヘンリックのこと?」
ラピスの問いに「まあ、そこはどうでもいいんだけど」とディードは濁したが、ヘンリックは「厄介払いの仕方がさぁ……なんでヘンリエッテ?」とブツブツ言っている。
ギュンターが「で、なんで王女殿下は、団長とグレゴワール様が婚約してるだなんて言いふらしたんだ?」と先を促してきた。先ほどまでの驚きの表情は失せ、すっかり面白がっているようだ。
ディードは「それはですね」と騎士たちを見回す。
「『王女を謀り、アュクロフト団長のいる地域と真逆の方向へ誘導したグレゴワールは言語道断。しかしよくよく考えてみればグレゴワールは、『掌中の珠』と噂される愛弟子を、アシュクロフト団長に託している。それはつまり、家族ぐるみのお付き合い。ということは、二人はすでに深い仲。さてはすでに――婚約済み。だからこそ王女であろうと遠慮なく、団長から引き離そうとしたのであろう』……王女の理屈では、そう解釈されたようです」
しばしの沈黙ののち、この日一番の大爆笑が沸き起こった。
ギュンターもほかの騎士たちも「なんでそうなる!?」「確かに家族ぐるみのお付き合い!」と腹を抱え、床を転がりそうな勢いで大笑いしている。
この部屋とラピスたちの部屋は、宿の最上階にある。広々とした部屋の床には厚い絨毯が敷かれているので、多少の防音効果はあろうけれど……
(ご近所迷惑にならないかな……)
ラピスはちょっと心配になった。
しかしそれより心配なことに気づく。
ジークのみが、彼らしくもなく、肩を落としてうつむいているのだ。
彼の隣にしゃがんで顔を覗き込むと、青い瞳と目が合った。
「グレゴワール様には、申しわけないことを……激怒、されているだろう……な……」
ひどく打ちひしがれた様子で呟く、こんなジークは初めてだ。
ラピスはどうにか励まさねばと思った。
「もうラピスの耳に入っちゃったから言いますけど。その噂なら、俺たちとっくに知ってましたよ」
冷めた口調で「なあ?」と視線を流した先で、ヘンリックも「うん、知ってた」と首肯する。ギュンターが「マジで!?」と目を丸くした。
「何それ、なんで知ってたの!?」
「伝書鳩を使ってるのは俺たちも一緒ですから」
ディードは「むしろ副団長が知らなかったのが不思議です」と付け足し、さらに補足した。
「ちなみにその噂、発生源はアカデミーの学生で、それが飛び火して社交界にて拡散されたと思われます。ですが最初は団長とグレゴワール様が愛し合っているという噂話だったのに、『二人は婚約している』と内容を発展させて言いふらしたのは、どうやら王女殿下です」
「へ!? アレクシア……王女? 何故に?」
タレ目を白黒させたギュンターが、ディードとジークを交互に見た。
ジークはひとり掛けのソファで長い脚を組んだまま、特に反応はない。
ヘンリックがラピスにこっそり「王女はね、団長との結婚を望んでるんだよ」と教えてくれた。ラピスにとっては王族など雲の上の人だから、「わぁ」と感嘆の声が漏れる。
「王女様にまでモテるなんて、ジークさんはほんとに人気者なんだね!」
「ラピスが言うと、すごく平和な話題みたいだな」
苦笑するヘンリックの向こうで、ディードは気の毒そうにラピスを見た。
「王女殿下はなんというか、その……思い立ったら即行動というか、猪突猛進というか。それでその、グレゴワール様のところに押しかけちゃったみたいで」
「ほえ!?」
「マジか!」
今度はラピスもギュンターと一緒に驚いた。
ジークまでガタンと椅子の音を鳴らして身を乗り出し、組んだ脚を解く。
「その際グレゴワール様から、『団長には複数の情人がいる』と聞かされたみたい。あと『団長は巡礼など無視して南国に行き、情事に耽って』……」
そこでハッとしたようにラピスを見たディードは、ちょっと赤面しながら咳払いして、「えーと」と表現を変えた。
「おそらく王女殿下は、グレゴワール様から厄介払いされたんだろうね。無理もないよ。いきなり身におぼえのない恋愛沙汰を持ち込まれたんだから、怒って当然だ。で、王女殿下は例によって即行動で、グレゴワール様の言葉通り南へ向かっちゃったのだけど、その道中で、その……教えられた情人の名が、騎士見習いたちの名のもじりであると気づいたらしく」
「騎士見習いたちって、ディードとヘンリックのこと?」
ラピスの問いに「まあ、そこはどうでもいいんだけど」とディードは濁したが、ヘンリックは「厄介払いの仕方がさぁ……なんでヘンリエッテ?」とブツブツ言っている。
ギュンターが「で、なんで王女殿下は、団長とグレゴワール様が婚約してるだなんて言いふらしたんだ?」と先を促してきた。先ほどまでの驚きの表情は失せ、すっかり面白がっているようだ。
ディードは「それはですね」と騎士たちを見回す。
「『王女を謀り、アュクロフト団長のいる地域と真逆の方向へ誘導したグレゴワールは言語道断。しかしよくよく考えてみればグレゴワールは、『掌中の珠』と噂される愛弟子を、アシュクロフト団長に託している。それはつまり、家族ぐるみのお付き合い。ということは、二人はすでに深い仲。さてはすでに――婚約済み。だからこそ王女であろうと遠慮なく、団長から引き離そうとしたのであろう』……王女の理屈では、そう解釈されたようです」
しばしの沈黙ののち、この日一番の大爆笑が沸き起こった。
ギュンターもほかの騎士たちも「なんでそうなる!?」「確かに家族ぐるみのお付き合い!」と腹を抱え、床を転がりそうな勢いで大笑いしている。
この部屋とラピスたちの部屋は、宿の最上階にある。広々とした部屋の床には厚い絨毯が敷かれているので、多少の防音効果はあろうけれど……
(ご近所迷惑にならないかな……)
ラピスはちょっと心配になった。
しかしそれより心配なことに気づく。
ジークのみが、彼らしくもなく、肩を落としてうつむいているのだ。
彼の隣にしゃがんで顔を覗き込むと、青い瞳と目が合った。
「グレゴワール様には、申しわけないことを……激怒、されているだろう……な……」
ひどく打ちひしがれた様子で呟く、こんなジークは初めてだ。
ラピスはどうにか励まさねばと思った。
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