ドラゴン☆マドリガーレ

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第4唱 ラピスにメロメロ

その頃の師匠 ジークの嫁問題にキレる 1

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 ラピスがトリプト村で活躍し、師匠であるクロヴィスの評価も急上昇させて、大喜びしながら次の街を目指していた頃。
 クロヴィスは『呪詛』やラピスの母についての調査を続行中で、王都にほど近い、ある町にいた。

 狭くて壁が薄くていかにも庶民的だが清潔な宿に泊まり、美味い茶を出すところも気に入って連泊した、三日目の朝。
 宿を引き払って次の目的地へ移ろうと考えていたその朝も、まずは食堂で茶を飲みつつ、ラピスとジークからの定期連絡を読んでいた。
『早耳』と呼ばれる伝書鳩を使った連絡ゆえ、かいつまんだ内容だけれど、ヘンリックという新入りが加わり、いっそう楽しくやっているらしい。
 クロヴィスは微笑みながらその小さな手紙を何度も読み返し、ジークからの手紙は半目で眺めただけで放置して、またラピスの手紙に戻った。

「失礼」

 男の声がしたが、気にせず手紙を読み続ける。

「失礼。クロヴィス・グレゴワール卿とお見受けいたします」

 顔を上げずにいると、相手は焦れたように声を張り上げた。

「失礼! クロヴィス・グレゴワ」
「うるせえ! 失礼とわかっているなら黙って待ってろ!」

 怒鳴りついでに顔を上げると、騎士の制服を着た者たちが五人、突っ立って驚きに目を見ひらき、ついでに食堂のほかの客たちも同じ表情でこちらを見ている。
 ジークのそれと似ているが色も紋章も違う、第一騎士団の制服だ。

「――王都の警備担当が、なぜこんなところをうろついている?」

 ラピスの手紙を丁寧に畳みながら睨めつけると、「う、うろついて!?」と最初に声をかけてきた年嵩の男が目を剥いた。が、取り繕うように咳払いをして。

「仰る通り、我らは王都ユールシュテーク警備担当のヘルツォーゲンベルク第一騎士団団員、そしてわたしの名は」
「いちいち名前がなげえんだよ。てめえの名はどうでもいい、用件を言え」
「て、てめえ!?」

 クロヴィスの態度がいちいち癇に障るのだろう。団員たちはわかりやすく額に青筋を浮かべて反応している。
 クロヴィスにしてみれば相手の程度を推し測るため、あえてこういう言動をするのだが(単に鬱陶しいという理由も大きいけれど)、目の前の男たちの反応を見て(こいつらは駄目だ)と即座に判定した。
 話すに値する人間性を感じない。アカデミー派と同じ、益体やくたいもない自尊心の塊だ。

(これならジークのほうがずっとマシ)

 マシな人間と判断したからこそラピスを任せたのだから、当然だが。
 ジークには信念を感じたし、使命を果たすためならいくらでも頭を下げる気概があった。仕様もないことで感情を乱す目の前の騎士たちとは、比べものにならない。
 さっさと追い払おうとした、そのとき。

「この者たちのご無礼をお許しください」

 騎士たちの背後、出入り口のほうから女性の声がして、騎士たちが「あっ」と声を上げた。年嵩の男が

「こ、困ります、馬車でお待ちいただくよう、あれほど」

 小声で外へと促しているが、その人物はズイッとクロヴィスの前へ進み出てきた。
 凛と背筋を伸ばした長身の女性。
 毛皮に縁取られたフード付きの外套で顔は隠れているが、王都と王宮担当の騎士たちにかしずかれて地方ここまでやってくる身分となれば、素性は明らか。

 ――現国王の子は、王子が三人、王女がひとり。彼女の名は――

「アレクシア・フロレンティーナ・エインツヴァルと申します」

 フードの奥、ちらりと覗いた顔に艶やかな笑みを浮かべた王女に、クロヴィスは「だから名前なげえよ」と返した。
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