27 / 228
第1唱 変転する世界とラピスの日常
その頃、ドラコニア・アカデミーでは 1
しおりを挟む
「はい、よい子のみんな、こーんにーちはー!
……うん、元気なお返事で素晴らしいです!
今日は『ノイシュタッド王国国立竜識学大図書館』の見学に来てくれて、どうもありがとう! 長い名前の図書館だね! じゃあ早速、『竜の本』について勉強していきましょうね!
みんな、竜の歌がこの世界を創ったことは知っていますね?
竜が歌でいろんなことを教えてくれるのも、知っていますね?
でも竜の歌は当然、竜の言葉です。竜言語といいます。
みんなは竜の言葉がわかる? うん、わからないよね! お姉さんもわかりません! ただでさえわからないのに、大事な情報の入った歌になると、さらに難しくなるんだよ! ということは? そう、歌を解くのも難しいの! そもそも歌を教えてくれる竜に出会うことからして、難しいのよお。
だからこそ、そういった歌を集め、解いてくれる聴き手の方たちは偉大なのです! 拍手!」
エントランスでぽかんと口をあけて、案内係の女性の説明を聞かされている子供たちが、付き合いよく拍手をしている。
そこかしこに、そうした団体の入館者たちがいた。
ノイシュタッド王国国立竜識学大図書館は、一般に公開されている三階建ての棟と、職員と許可を得た閲覧者以外は入館禁止の四階建ての棟、そしてドラコニア・アカデミーの本部と学院も入った五階建ての学術研究棟に分かれている。
――ここはノイシュタッド王国王都ユールシュテーク。
地図上では大図書館は、王城の隣に(実際には広大な庭園や池などを挟んで)位置する。
さらにその隣にある、巨大な薔薇窓が象徴的なリンベルク大神殿は、竜王を筆頭に創世の竜たちを守護星獣とする、国中の神殿の総本山である。
この王都の大神殿は『月殿』とも称され、地方の神殿は『星殿』と呼ばれている。
☆ ☆ ☆
「ギュスタフ山脈に大規模な山崩れが続いています」
「要因となるような地震や水害がなかったことは確認済みです」
「ハイリゲート大森林では、原因不明の枯死が続いています。原因は西国レイデルトで発生した真菌と同種と見て、間違いないかと」
学術研究棟の二階、一等議事室。
貴族の邸宅の書斎と見紛う、その部屋には、今。
ドラコニア・アカデミーおよび大神殿の首脳部に加えて、現国王までも臨席した、二十余名が集まっていた。
彼らの意思が国事の方針を決める。いわゆる『国の権力者』たちだ。
彼らが「万障繰り合わせて」集った理由は、この一、二年ほどの深刻な『世界の異変』であり、すでに数十回目の会議となっていた。
「環境問題も深刻ですが……我が国を含め、世界中で凶悪犯罪が続発しています」
「そうだな。あの東国の国はなんといったか……そこのきみ、世界地図を出してくれ」
部屋の隅に控えていた秘書がうなずき、保護のため掛けられていた帳の紐を引く。
厚い布帛がスルスルと左右に分かれると、首飾りのように輪を描いて点在する島々と大陸を描いた地図が現れた。
「……よく、こんなものが描けたものだ……」
「まさに飛竜の視点。これほどの知識を授かり、しかもそれを解くとは」
「まあ……一応、大魔法使いと呼ばれた男だからな。一応は」
彼らがこの世界地図を目にするたび共有しているであろう、苦々しさがその場を覆う。作成者への驚嘆と、侮蔑と。隠しようもなく滲む嫉妬が。
そしてちらりちらりと、国王の表情を窺う視線もいつものこと。
アカデミー所長が、わざとらしく咳払いをした。
「えー、議題に戻りましょう。国同士の衝突もさらに頻発しているようですね。今は小競り合い程度でも、いつ大事に発展するか」
「異変の原因は伝えてあるのに、なぜ自重できぬ!」
怒り露わなアカデミー総長の言葉に、大神殿の大祭司長もうなずいた。
「さよう、原因は明白。それは――創世の世から今日に至るまで、我々人間が、『竜の力が欠けたときの対処法』を、探せなかったことにある」
その言葉に、出席者たちのため息が重なった。
竜王と、偉大なる古竜たちがこの世界を創り、守護してきたことは知られている。
そして竜の本には、彼らの功績と知識が蓄積されていることも。
だが実は、『竜の本』とは、ただの記録媒体ではない。
竜という異次元の存在が、『人間界において安定した存在となる』ための、魔法書でもあるのだ。
……うん、元気なお返事で素晴らしいです!
今日は『ノイシュタッド王国国立竜識学大図書館』の見学に来てくれて、どうもありがとう! 長い名前の図書館だね! じゃあ早速、『竜の本』について勉強していきましょうね!
みんな、竜の歌がこの世界を創ったことは知っていますね?
竜が歌でいろんなことを教えてくれるのも、知っていますね?
でも竜の歌は当然、竜の言葉です。竜言語といいます。
みんなは竜の言葉がわかる? うん、わからないよね! お姉さんもわかりません! ただでさえわからないのに、大事な情報の入った歌になると、さらに難しくなるんだよ! ということは? そう、歌を解くのも難しいの! そもそも歌を教えてくれる竜に出会うことからして、難しいのよお。
だからこそ、そういった歌を集め、解いてくれる聴き手の方たちは偉大なのです! 拍手!」
エントランスでぽかんと口をあけて、案内係の女性の説明を聞かされている子供たちが、付き合いよく拍手をしている。
そこかしこに、そうした団体の入館者たちがいた。
ノイシュタッド王国国立竜識学大図書館は、一般に公開されている三階建ての棟と、職員と許可を得た閲覧者以外は入館禁止の四階建ての棟、そしてドラコニア・アカデミーの本部と学院も入った五階建ての学術研究棟に分かれている。
――ここはノイシュタッド王国王都ユールシュテーク。
地図上では大図書館は、王城の隣に(実際には広大な庭園や池などを挟んで)位置する。
さらにその隣にある、巨大な薔薇窓が象徴的なリンベルク大神殿は、竜王を筆頭に創世の竜たちを守護星獣とする、国中の神殿の総本山である。
この王都の大神殿は『月殿』とも称され、地方の神殿は『星殿』と呼ばれている。
☆ ☆ ☆
「ギュスタフ山脈に大規模な山崩れが続いています」
「要因となるような地震や水害がなかったことは確認済みです」
「ハイリゲート大森林では、原因不明の枯死が続いています。原因は西国レイデルトで発生した真菌と同種と見て、間違いないかと」
学術研究棟の二階、一等議事室。
貴族の邸宅の書斎と見紛う、その部屋には、今。
ドラコニア・アカデミーおよび大神殿の首脳部に加えて、現国王までも臨席した、二十余名が集まっていた。
彼らの意思が国事の方針を決める。いわゆる『国の権力者』たちだ。
彼らが「万障繰り合わせて」集った理由は、この一、二年ほどの深刻な『世界の異変』であり、すでに数十回目の会議となっていた。
「環境問題も深刻ですが……我が国を含め、世界中で凶悪犯罪が続発しています」
「そうだな。あの東国の国はなんといったか……そこのきみ、世界地図を出してくれ」
部屋の隅に控えていた秘書がうなずき、保護のため掛けられていた帳の紐を引く。
厚い布帛がスルスルと左右に分かれると、首飾りのように輪を描いて点在する島々と大陸を描いた地図が現れた。
「……よく、こんなものが描けたものだ……」
「まさに飛竜の視点。これほどの知識を授かり、しかもそれを解くとは」
「まあ……一応、大魔法使いと呼ばれた男だからな。一応は」
彼らがこの世界地図を目にするたび共有しているであろう、苦々しさがその場を覆う。作成者への驚嘆と、侮蔑と。隠しようもなく滲む嫉妬が。
そしてちらりちらりと、国王の表情を窺う視線もいつものこと。
アカデミー所長が、わざとらしく咳払いをした。
「えー、議題に戻りましょう。国同士の衝突もさらに頻発しているようですね。今は小競り合い程度でも、いつ大事に発展するか」
「異変の原因は伝えてあるのに、なぜ自重できぬ!」
怒り露わなアカデミー総長の言葉に、大神殿の大祭司長もうなずいた。
「さよう、原因は明白。それは――創世の世から今日に至るまで、我々人間が、『竜の力が欠けたときの対処法』を、探せなかったことにある」
その言葉に、出席者たちのため息が重なった。
竜王と、偉大なる古竜たちがこの世界を創り、守護してきたことは知られている。
そして竜の本には、彼らの功績と知識が蓄積されていることも。
だが実は、『竜の本』とは、ただの記録媒体ではない。
竜という異次元の存在が、『人間界において安定した存在となる』ための、魔法書でもあるのだ。
293
お気に入りに追加
818
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる