ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

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第1唱 変転する世界とラピスの日常

師匠の教え 『竜の書』と『竜の本』☆イラストあり

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 弟子生活が始まってから、ラピスは毎日が楽しくて仕方ない。
 夜は「今日も楽しくて嬉しかった!」と感謝いっぱいで眠りに落ちるし、朝がくるのが待ち遠しすぎて、夢の中で先に起きたりしている。

 中でも強く幸せを感じるのが、クロヴィスと共に竜と遭遇したときだ。

 クロヴィスと一緒に歌を解けるのは、最高に楽しい。
 竜という、強大で神秘的な存在を目にするだけでも心ときめくのに、歌を解けば、彼らの個性豊かで奥深い知識に触れることもできる。
 クロヴィスと一緒なら、その心震える感動を自分の中だけにとどめることなく共有できる。そんなのは母がいたとき以来のことだ。だからラピスは、本当に本当に毎日胸を弾ませている。
 ただ、気になることもあった。

「お師匠様。僕、ブルフェルト街にいたときから思っていたのですけど」

 パンの焼き上がりを待っていたとき、ふと思い出して尋ねてみた。

「うん?」
「母様がいた頃は、たまには古竜に会えたんです。古竜はすっっごく大きいからわかりますよね。でも今は、若い竜ばかりです」

 クロヴィスが、赤い隻眼を瞠った。
 驚いたように――いや、何かを確信したように。
 それが優しい微笑みに変わって、「よく気づいたな」と大きな手に頭を撫でられたところで、パンが焼き上がった。

「焼きたてパンを食いながら勉強すると、どうなるかの実験をするか?」
「大賛成ですっ!」

 甘く香ばしい匂いが満ちて、古竜の件が吹っ飛んでしまった。
 クロヴィスはパン焼きに限らず、料理全般すごく美味しく作るので、ラピスはちょっぴり太ったような気もしている。
 今も目の前にずらりと並んだ、大好きなチーズと林檎のふわふわパン。食欲を狙い撃ちする幸せな香りだ。

「はわ~……幸せのホカホカ」
「なに言ってんだ」

 クロヴィスは笑いながら葡萄酒を器に注ぎ、ラピスがミルクをお供にハフハフと口の中でパンの熱を逃がす横で、炒った胡桃を皿に広げ始めた。

「ラピんこは『竜の書』について知らなかったが、王都の竜識学大図書館にある『竜の本』については知ってるんだな?」
「はい。それは星殿せいでんのお祈りのとき、祭司様が何度もお話しされてたので……ふおぉ、ありがとうございますっ」

 メープルシロップをからめた胡桃をパンにのせてもらえた。そうするとまた違う美味しさになることはすでに学んでいるので、お礼と同時にかぶりつく。

「おいひぃでふ~!」
「よかったな。ふむ。『竜の本に歌が記録されている』ことについてはわかる、と」
 
 そう。ラピスは母の意思により、魔法に関する知識から遠ざけられてはいたが、王都にある『竜識学大図書館』の『竜の本』については、創生竜たちを信奉する星殿の礼拝に通う習慣のある者なら、誰でも教わることだった。
 祭司曰く……

 ――この世界は、竜王たちの歌によって創られました。
 海も山も川も森も、竜の歌によって出現したのです。
 それら偉大なる創世の古竜たちの歌は、『創世の竜の書』という特別な本に記録され、竜識学大図書館に保管されています。ただし一般の者は閲覧できません――

 とのこと。
 ラピスが習った内容を伝えると、クロヴィスが補足してくれた。
 
「聴き手個人が所有する『竜の書』と区別するために、大図書館にある竜の書は『竜の本』と呼ばれることも多いんだ。『創世の竜の書』はすごくぶ厚い本で、百冊以上にのぼる」
「そんなにあるのですか! お師匠様は全部読んだのですか?」
「暇だったからな」
「すごいでふ~!」
「ほら、落ち着いて食え」

 クロヴィスは「大図書館の『竜の本』は、大きく分けて二種類ある」と、ラピスのミルク入りカップを指差した。

「『創世の竜の書』のように、機密内容が含まれていたり、厳重な保管が必要だったりで、一般人はまず閲覧できない本と」

 次は自分の葡萄酒入りのカップを示す。

「一般に開放された知識や情報が掲載されている『竜の本』。こちらは何万冊とある……昔より増えてるだろうな」

 小さな情報、深い知識、重大な警告等々。
 竜の歌――すなわち竜から得られた情報が記された『竜の本』を、国の共有財産として保全・管理しているのが、竜識学大図書館なのだ。それらはアカデミーの管轄下にある。

 そこまで話が進んだとき、クロヴィスは「そういえば」と立ち上がり、棚に置かれた大鍋の蓋を開けると、その中から分厚い本を取り出した。
 黒革に赤と白銀の箔押し模様が美しい、とても重そうな本だ。

「これが、俺個人の『竜の書』なんだけど」
「え。えええっ! お、おおおお師匠様ってば! そのいかにもすごそうな本を、お鍋なんかにしまってたのですかっ!?」




☆ラピんことクロヴィスのイメージイラストを載せてみました。
なんだか画質が悪いのですが…イラストあっても大丈夫という方は↓へお進みください。
Xにもちょこちょこ掲載しております☆








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