ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
上 下
6 / 228
第1唱 変転する世界とラピスの日常

幼竜との出会い

しおりを挟む
(~【創世の竜の書】より~)

『創世の世。天帝が、真闇に吐息をこぼした。吐息は無数の光の粒となり、月と星々が生まれた。月と星々は天帝に命じられ、地上を司りし者たちを放った。それこそが竜である。

 最初に、竜王が歌った。
 世界が陸と海とに分かれた。
 続いてほかの竜たちが歌うたび、山が隆起し、河が流れ、森が育った。多様な生きものが生まれ、命を育むため必要な環境が整った。』


☆ ☆ ☆


 ラピスは両腕を広げて竜の歌を受け止めた。 
 黄葉色の光の粒子が、歌声と共に、きらきらと空から舞い落ちてくる。
 静かな優しい歌が秋の森に降り注ぎ、ラピスに言葉を伝えてきた。

「んん? 清流の水、ツルバミ、白樺、七竈ナナカマドの実、宿木ヤドリギ、楓の葉、山査子サンザシ……?」

 空を仰いだまま、小首をかしげる。
 竜の歌はいつでも、ちゃんと意味がある。
 すぐにはわからずとも、のちに「こういうことか」とわかる場合もある。
 薬草、毒草、食べられる野草の見分け方に、何十年か前の王様の話なんていうのもあった。

「今日のはどういう意味かなぁ」

 意図がわからぬまま小枝を拾い、次々歌から落ちてくる名称を、地面に書きながら暗記した直後。竜は肝心なことを付け足した。

「えっ、幼竜が怪我してる!? どゆこと? というかそれは、真っ先に歌うべきだよぅ! どこにいるの? ん、あっち?」

 竜は琥珀色の目を満足そうに細めると、用は済んだとばかり、大きな翼を広げて飛んで行ってしまった。
 名残りの強風が吹き下ろされて、山毛欅ブナの木のてっぺんから、まん丸い宿木が落ちてくる。
 ラピスはしばし森と一緒に風にあおられ、手近な幹に掴まってやり過ごしたところで、竜が指定した『あっち』の方向へ走り出した。
 秋枯れの進む森は、比較的遠くまで見渡せる。が、幼竜を探すには広すぎて、思わずため息が出た。

「竜の言う『あっち』の範囲は、大雑把すぎると思う」

 枯れた笹薮が群生する辺りをかき分けていると、先刻聴いたばかりの竜の歌が、自然と口をついて出た。

「橡、白樺、七竈の実、宿木……」

 と、藪の向こうから、「キュウゥ」と、か細い声がした。
 反射的に耳をすませて音の出処を探ったが、枯れ葉がこすれる音ばかり。
 ――もしかすると、竜の歌に反応したのかもしれない。
 そう思ったラピスがもう一度くちずさんでみると、すぐさま足もとがぽこりと動いた。
 
「ふぉっ!?」

 思わず跳びすさったラピスのすねに、泥まみれの物体が貼りついてくる。

「キュイーッ!」

 静寂の森をつんざく大音量。
 ラピスはあわてて耳を塞いだ。

「ちっちゃくして! 声ちっちゃくしてーっ!」

 負けずに声を張り上げながら見下ろした先には――ぴっとりと脚にすがりつく、小っちゃな竜。
 そう。泥と枯れ葉にまみれているし、これまで竜の幼体など見たことはなかったけれど、確かにこれは竜だ。
 正真正銘、竜の子だ。

 子犬くらいの大きさの獣型で、飛竜の証の翼は、あちこち裂けている。
 太い尾や足の爪からも出血しており、美しい水色の鱗も剥がれて泥まみれ。思わず顔が歪むほど痛々しかった。

「可哀想に」

 抱き上げると、見た目よりずっしりと重い。
 鳴きやんだ赤い瞳が、見つめ返してきた。

「どうしてさっきの竜が連れ帰ってあげなかったのかな。違う群れの子だから? それとも竜は大きすぎて、きみを拾いに降りて来られなかったとか?」

 さて、どうしたものか。
 負傷した竜を治療できる医者に、心当たりはない。
 そもそも竜に触れたことがある人の話も、聞いたことがない。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...