召し使い様の分際で

月齢

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第30章 その頃、元皇族たちは……

姉を案じ、チュウで張り合う双子

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 大騒ぎの末、結局いつもの通り、みんな一緒に特別室に泊まることになった。
 ただし本日は、僕と白銅くんで寝台を使わせていただく。

 羆獣人にも対応できる規格という寝台は、双子が使っている寝台よりは小振りだけれど、確かにとても大きかった。こんな小さな町の旅籠としては、かなり張り込んだ品だと思う。それだけ繁盛しているのだろう。

 しかし四人で使うとなると……双子に挟まれていては、白銅くんが落ち着けないだろう。
 二人もさすがに、その点では子供への気遣いが優先したらしく。
 長椅子を使うよう勧めたら、獣化すれば床で眠っても支障はないと言ってくれたので、女将に追加してもらった毛布を重ねて暖炉の前に敷いておいた。
 ……召し使いの僕が寝台で、王子様たちが床とは。ごめんなさい、双子。

「それにしても、この宿の飯はマジ美味かったな」
「そうだね」

 上機嫌な寒月に笑ってうなずく。
 地元でとれる新鮮な海産物がメインで、本当に美味しかった。
 双子は次々料理を注文してはぺろりと平らげ、例によって水のようにお酒を飲み、ほかのお客さんたちにも気前よく振るまって、喝采を浴びていた。
 白銅くんもモリモリ食べて「美味しいですね、アーネスト様!」とニコニコ顔だった。次に浬祥さんに会えたら、この旅籠を教えてくれたお礼を言わなければ。

 そして白銅くんは、湯浴みのあと一緒に疲労回復の薬湯を飲んでいるとウトウトし始め、まもなくコテンと眠ってしまった。お腹いっぱいになったら、旅の疲労と興奮が、睡魔となって押し寄せたのだろう。

「白銅、もうぐっすりだし。俺らが一緒に寝ても大丈夫なんじゃね?」

 寝台の上で胡坐をかいた寒月がそう言って、白銅くんの鼻先を指でちょんちょんつついた。確かに、まったく動じることなく熟睡している。

「そうだねぇ……きみたちを床で寝かせるのは申しわけないし、そうしたいけど。でももし夜中に白銅くんが目をさまして、いきなり隣にきみたちがいたら、ギャッ! ってならない?」
「俺たちはバケモノじゃねえのよ?」
「そんなことより、アーネスト」

 同じく寝台に腰かけている青月が、白銅くんを横目で気にしながら話を変えた。

「その……歓宜は本当に、あの馬鹿に会いに行っているのか?」

 その言葉に、寒月もピクリと眉根を寄せる。
 二人とも、お姉さん想いだから……その件をずっと気にしていたのだろう。
 僕は「うん」と首肯して、白銅くんを起こさないよう声をひそめた。

「日程的にはたぶん、もう会っていると思う」

 実はそうなのだ。
 歓宜王女は、『あの馬鹿』ことランドルと、すでに面会したはずだった。

 この旅の本当の目的は、義兄に会うためというより、元皇族や、共に捕らえられた皇族派貴族たちの隠し財産を見つけて、彼らがそれを自分たちに都合よく――たとえば亡命資金にするとか、醍牙の弱体化を狙って国内に混乱を引き起こすべく使用するとか、償いとは真逆の方向で使われることのないよう、接収することにある。
 
 その隠し財産は、ジェームズのおかげで、イシュマ国のジオドロス・パレスにあることがほぼ確定した。
 富裕層特化の『鉄壁の宝物庫』であるジオドロス・パレスに預けられた資産。
 皇族名義でないことは確実だから、たとえ醍牙の王であっても、それを接収することはできないのだけど……一応、元皇子の僕は、皇族の『身分証明方法』なら知っている。

 ただ、実際に資産を引き出すためには、絶対に足りないものがあって。
 そのために義兄たちと面会しなければならないという話を、王様と双子に相談していたのだが……その件が、歓宜王女の耳にも届いた。
 というか、王様が知らせたようだけど。

 話を聞いた王女は、その足で僕に会いにきた。
 そして、あの話を――
 王女がランドルと離縁するに至った経緯を、初めて聞かせてくれた。

 その上で、僕がランドルと会う前に、自分も彼と話しておきたいと頼まれたのだ。
 あの王女が。
 講和会議でランドルと再会するや、「うっせえ、死ね!」と怒りを叩きつけていた、あの王女が。
 僕にはもちろん、拒む理由はなかった。

「歓宜のやつ、なんで今さら……」
「まさか元鞘に収まる気じゃないだろうな」
「げっ! んなわけねえだろ!」
「ないとは思うが」

 姉を心配する双子を見ていると、きょうだいっていいなあ、とほっこりする。いや、二人にとっては重大な案件で、ほっこりされるのは不本意だろうけども。
 僕は二人の手をとって、「心配ないよ」と微笑んだ。

「あれほど潔い人を、僕はほかに知らないもの。元鞘はあり得ないと思う」
「「だよな!」」

 声を合わせて安堵したところで、青月が「それで」とまた話題を変えた。

「『身分証明』に必要な薬草は、もうそろったんだな?」
「うん! 最後のひとつが、ちょうどお城を出る前に、碧雲町から届いたからね! ありがとう、青月」
「どういたしまして」

 青月の領地で豊富な種類の薬草が採れることを把握できていたのは、本当に幸運だった。
 しかもちょうど現地には今、開業が迫る保養施設に、僕の薬舗の従業員として、コーネルくんと繻子那嬢と壱香嬢もいる。おかげで連絡に対する反応がとても早くて、そこもとても助かった。

「俺の領地の黄石灰だって役に立ったろ」

 寒月が唇を尖らせたので、思わず笑ってしまって、「もちろん! ありがとう、寒月」と、その唇にちゅっとキスした。
 ……キスした直後に恥ずかしくなって、ボッ! と顔が熱くなったわけだけど。
 なにをしているのだ僕は。
 白銅くんがすぐ目の前で寝ているというのに。

 寒月は僕の恥じらいなどおかまないしで、「ウェーイ。俺にはチュウ付き!」とドヤ顔をして青月をムッとさせ、しかめっつらの青月が、「アーネスト。俺には?」と顔を寄せてきた。
 ……ううう。
 素早く青月にもちゅっとキスをすると、氷像のようなイケメンが、満面の笑顔になる。

「俺にもチュウ付きだし」
「真似すんな!」

 くっ。チュウで張り合う二十二歳。
 可愛すぎるだろう、この双子! 言わないけど!

 僕は火照る頬を冷ますべく、エルバータの皇族によく使われてきた『身分証明方法』について……すでに二人には教えてあるけれど、改めて確認した。

「代々のエルバータ皇族には、ひとりひとりにシンボルカラーがあったということは、説明したよね」
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