召し使い様の分際で

月齢

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第29章 禁断の杯

大事な話

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 双子が大きな声を出したことに驚いて、思わずもうひと口飲んでしまった。するとまたしても「「ああっ!」」と悲痛な叫び声が上がる。

 ふむ。確かにお酒だ。でも桃マルムの効果なのか、とってもフルーティーで口当たりがやわらか。果汁みたいですごく美味しい。
 もっと飲みたいくらいだったが、双子が呆然と僕を見ているので、怪訝に思いつつやめておいた。
 しかし……いくら強いお酒といえど、ほんの少量を口にしただけなのに。なぜに二人はそこまで、この世の終わりみたいな顔をしているのだろう。

「二人ともどうしたの?」
「……酔ったか? 酔ったのか!?」

 寒月がわなわなと両手を震わせ問いかけてきた。
 なんだ、そんな心配をしていたのか。僕はプッと吹き出してしまった。

「こんなちょっぴりで酔うわけないよ~」

 ケラケラ笑うと、青月が「ひと口で酔っ払った前科」と呟き、寒月が「頼むから正気を保っていてくれ!」と訴えてきた。

「またお預け食らうのは拷問すぎんだよ!」

 なんのことやら、さっぱりわからない。
 そんなことより……。
 僕は改めて、二人に向き直った。

「あのね、大事な話があるんだ。隠し財産の件なんだけど……ジェームズは手紙に、肝心な部分をわざと書いていなかったから、きみたちには伝えておきたくて」
「え。あ。ああ」
「い、今か」

 急に話題が変わったことに戸惑った様子ながらも、双子は同じ動きでうなずいた。きょときょとと視線を交わす仕草が、子供みたいで可愛い。

「手紙には『元皇族、貴族たちの隠し財産は、イシュマ国のジオドロス・パレスに』と書かれていたでしょう?」
「……ああ。それが意外だった。あそこにあった奴らの財産は、すでに没収済みだったから」
「だがアーネストの執事が断言するからには、なんらかの方法でまだ残されているということだろう?」

 寒月も青月も、腕組みして立っている僕の躰に視線を走らせ、ソワソワしながらうなずいた。
 イシュマ国とはエルバータの元属国で、現在は『永世中立』を掲げる国だ。
 ジオドロス・パレスはイシュマが国の威信をかけて営む、いわば世界規模の両替商であり宝物庫。顧客は富裕層特化で、厳しい審査基準をパスしなければ利用できない。

 各国の王侯貴族も多く利用するこの施設に預けられた財産には、『定められた例外』を除き誰も手出しができない。これは三百年前に各国の代表が正式な誓約を交わして以来守られてきた、絶対的な決まりだ。
 もしもその誓いを破る者が現れたなら、その瞬間、世界中を敵に回す。
 資産の保全性と匿名性の高さから、顧客にはいわゆる裏の世界の大物も多いらしく……政財界の表と裏の面々が牽制し合うことで、ジオドロス・パレスは金銀財宝のための堅固な要塞として機能しているのだ。

 ただし、父上たちのように敗戦国の責任者として賠償責任が確定した場合、戦勝国側がその資産を接収することは認められている。どのみち監視付きで身ぐるみ剝がされる敗者に、手数料だけでもかなりの高額になるジオドロス・パレスの利用は不可能であろうという、シビアな判断も根底にある。

 なんにせよ、僕のような庶民には縁遠いところだけども……
 それでも皇族の端くれとして、ジェームズから、代々の皇族がジオドロス・パレスを利用する際の、ある手段については教わっていたんだ。

「ジオドロス・パレスは、架空の商会名などでも登録できることは知っているよね? もちろん審査はあるけど、抜け道がないわけじゃない」
「ああ。その点からも徹底的に洗い出した上で、奴らの財産はすべて取り上げたつもりだったんだが……」

 青月は顔をしかめてそう言って、また視線を僕の躰に戻すと、なぜか目元を赤くして首を振った。
 同じく僕を上から下まで眺めていた寒月は、ごくりと音を立てて生唾を飲んでいる。隠し財産の話を始めたから、ちょっと緊張しているのだろうか。

「ジェームズは最初から、皇族と皇族派貴族たちの資産の隠し場所は、ジオドロス・パレス以外に考えられないと踏んでいたようなんだけど……エルバータの皇族が身許を偽ってあそこを利用する際の手段――身分証明書みたいなものだけど、それになにが使われていたかを調べるのに時間がかかっていたんだ」

「今回は?」

 青月が眉根を寄せたが、寒月が「よし、わかった!」とかき消すように声を上げた。

「アーネスト。その話は本っっっ当に興味深い。ぜひ聴かせてほしい。しかし今は勘弁してもらえないだろうか……。お前が真剣に話してくれているあいだじゅう、俺たちはお前の最高に刺激的な眺めを目にしながら、頭はうなずき、股間は勃起という、切ない状態が続いているわけで」

 青月も神妙に同意する。

「そうだな……今回は酔っていないようで安心したし……夜は短い」

 双子の手がのびてきて、頬に触れ、髪を撫で、その優しい感触にうっとりしていると、寒月が唇を重ねてきた。

「ん……ふっ」

 ついばむようなキスは最初だけ。すぐに飢えをぶつけるように深く舌を絡めとられて、その激しさに、ぞくぞくっと下半身から痺れが走った。
 口づけながら硬くなったものを押しつけられ、そのまま寒月の脚で太腿を割られて、たまらず広い背中にぎゅっと抱きつくと、ひらいた脚のあいだを太腿ですりすりと擦られて、「あっ」と思わず唇を解いた。
 その隙を逃さず、今度は青月が唇を重ねてくる。

「やっ、そん、な……あっ」

 淫らな装いで脚をひらいて立ったまま、あそこを寒月の太腿で愛撫されているのに、青月まで深い口づけの合間に、背中からお尻へと指を滑らせてきて……

「それ、最高に似合ってるから……今日は着たまま、する?」

 なんて、下腹がきゅうんとするような囁きを、耳に吹き込んでくる。
 僕はコクコクうなずいて、「これ、好き?」と二人を見上げた。するとそろって熱っぽい目で、「「すげえ好き」」とニヤリと笑う。

 そうか……そんなにこれが好きなんだね……。
 だったらやっぱり、ちゃんと伝えなきゃ。

「あのね、大事な話があるんだ」
「え」
「また?」

 双子がちょっと怯んだ様子を見せたが、これは言っておくべきだろう。

「この下着の隠し財産の件なんだけど……」
「へ? 下着の?」
「隠し財産……!?」

 僕は「うん」と真剣に首肯した。

「下着のあいだに取扱説明書が入っていたから、きみたちには伝えておきたくて」
「取説ぅ!?」
「そんなものが……って、え!?」

 僕は透け透けドレスの脇の部分から手を入れて、中の下着を引っ張った。

「これね。こうして、胴体を巻いて結ぶリボンみたいになって、乳首を隠しているでしょう?」
「そ、そう、だな?」
「隠してる、な?」
「でもこのレース実は、上下に分かれるようになっていて……こうすると、ほら」

 僕は説明しながら、胸の部分のそれを指で上下にひらいた。途端、黒レースのあいだから、乳首がぴょこんと露出する。

「うおおっ!」
「あ、アーネス……!」
「乳首隠しと見せかけて、その実、乳首見せ下着なんだよ……。なにごとも、いろんな側面がある。奥が深い。なんだか人生の真理に通じるものがあると思うんだ。それとパンティのほうも、真理の探究と呼ぶにふさわしいもので」

 説明のためドレスをまくり上げたら、双子が真っ赤になって叫んだ。

「「お前、やっぱり酔っ払ってるだろーっ!」」
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