召し使い様の分際で

月齢

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第27章 白銅メモ

その6 おそろい

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 アーネスト様と三自店長のお手伝い……をしたかったのですが、猫の手ではなにもできず……じっと手を見るです。
 肉球を見つめつつ、せめてしんけんにお話を聞いていたら、双子でん下がにぎやかに帰ってきました。

 えっと正確には、青月でん下は「ただいま」とアーネスト様のおでこにチュウをして、寒月でん下は「これ、ピュルリラのとこから引き取ってきたぞ!」と大きな包みをガサガサさせながら、「なんだよ。少し会わないあいだにまた可愛くなりやがって」と文句みたいなほめ言葉を言って、アーネスト様のほっぺにチュウしました。
 アーネスト様はおしとやかな照れ屋さんなので、ほっぺをうす桃色に染めています。そうするとますます、リンゴのお花の妖精さんみたいにきれいです。

 ぼくはアーネスト様とでん下方が仲よしなのを見るのが好きです。
 双子でん下は、ぼくがもっとずっとおチビのころから、強くて勇ましくてカッコよくて、『醍牙のほこり』とたたえられる方たちでした。

 でも前はもっと、こわかったです。
 弱い者いじめなんかはしません。ぼくら子供にもお年寄りにもやさしいです。
 でも……上手く説明できないのですが……
 前はもっと、しょっちゅう、おこってるところを見ました。たぶん、『敵対するヤツには容しゃしないぜ!』というやつです。

 でもアーネスト様が来てから、お二人は前みたいにおこらなくなりました。
 カッコよくて強くてたよりがいがあるのは変わらないけれど、いつのまにか、痛そうなトゲトゲがポロポロ落ちていたというか……うーん。やっぱりうまく言えません。

 とにかく、でん下方が以前よりずっと楽しそうに笑うようになったのはまちがいありません。そのことはハグマイヤーさんや藍剛将軍やカーラ料理長も気づいていて、
『このまま滞りなく、婚姻となればよいのだが』
『まったくだ』
『ほんとにねえ』
 と、ちゅうぼうでお茶しながらしゃべっていました。
 
 そんなことを考えていたら、ぼーっとしちゃってたみたいです。
 アーネスト様から名前を呼ばれて、あわてて「はいっ」と返事をしました。

「白銅くん、大丈夫? 疲れているんじゃないかい?」
『ぜんぜん大丈夫です! 元気いっぱいです!』
「そう? ……それじゃあ、これどうぞ」
『みゅ?』

 差し出されたのは、猫サイズのケープでした。木の芽祭りに合わせた若草色で、オレンジ色のえりまで付いている、とてもおしゃれなものです。それにとても高級そうです。

「これ、王女殿下と僕で売り出しているゴブショット羊毛とキターノ羊毛の混合毛糸を使っているんだけどね。最近ようやく、新色を出すことに成功したんだ。このオレンジ色を一番最初に身に着けるのは、白銅くんと決めてたんだ。きみの綺麗なおめめにとっても映えるから」

『ふにゃあ……!』

 アーネスト様にケープを羽織らせてもらいながら、感激のあまり猫語が出ちゃいました。「このニットリボンは、万が一の危険防止に、力がかかったらすぐほどけるようにしてあるからね」と言いながら、キュッとリボン結びで留めてくれたのです。
 危険防止というのは、ぼくが人型にもどってしまったとき、首に巻きついてしまわないようにということです。
 アーネスト様はケープを身に着けたぼくを見て、きれいな瞳をさらにキラキラかがやかせました。

「うわぁ! すっごく似合うよ白銅くん! 目眩がしそうなほど可愛い!」
『アーネスト様も、とってもお似合いですぅ』

 そう。ぼくが感激したのは、素敵なケープを贈られたからだけではありません。アーネスト様も、おそろいの若草色のケープをまとったからなのです。
 アーネスト様のえりは深緑色で、アーネスト様の絹糸みたいな黒髪に本当によくお似合いです。そしてケープの丈は少し長めで、その丈の理由は……

「これ、人型のときの白銅くんの、ひざ下まで隠れる長さだからね。急に人型にもどっちゃうことがあったら、僕のケープの中に隠れるんだよ。着替えは持参するとしても、緊急措置としてね。もしくは双子の外套の下に」

『アーネスト様……』

 だからケープだったのです。ぼくを素早くかくせるように考えてくださったのです。それがわかって、さらに感動しました。

『ありがとうございますぅ、アーネスト様ぁ』
「お礼を言うのは僕のほうだよ白銅くん。その可愛さは、最高の広告塔になってくれるはずなんだから!」
『広告とー……?』
「そうだよ。可愛い白銅くんを見れて、宣伝にもなる。一石二鳥! まさに招き猫!」

 グッとこぶしをにぎったアーネスト様を見て、それまでだまって見ていた双子でん下が苦笑を浮かべて、寒月でん下が「ったくよー」と言いました。

「俺たちとおそろいを着るのが先じゃねえのかよ」

 するとアーネスト様がちょっと赤くなって、「同じ色のをあげたじゃないか」と言い返しましたが、青月でん下が「マフラーな」と首に巻いた若草色のマフラーをちょっと持ち上げました。
 ぼくはでん下方がそのマフラーをしていたことに、そのとき初めて気づきました。ふかく。まだまだ観察力が足りません。

 さらによく見ると、寒月でん下のマフラーは若草色に明るい緑の房、青月でん下のほうは若草色に晴れた日の海みたいな青の房が、たっぷり付いています。
 黒に近い灰色の長い外套は、背の高いお二人をさらにカッコよく見せているし、そこにマフラーが加わって、はなやかさがマシマシです。

『すごく素敵です!』

 心からそう思ったのです。
 でも青月でん下と寒月でん下は顔を見合わせて……

「もちろん、アーネストがくれたものは最高だが」
「これだと、俺らがおそろいにしてるみたいじゃね?」

 ……確かに。
 アーネスト様とおそろいというより、単なる仲よし双子という感じです。
 ぽかんと口をあけてしまったぼくのとなりで、アーネスト様がプッと吹き出しました。
 ……アーネスト様……もしや、それがねらいだったのでしょうか。
 そんなアーネスト様を見て、双子でん下もぼくと同じことを思ったみたいです。

「アーネストめ……」
「このお礼はさせてくれよな」
 
 ニコーッと笑ったお顔は、なぜだか迫力がありました。
 アーネスト様があわてて「お礼なんていらないよ!」と両手を振りましたが、でん下方はその手をとって、ついでにぼくのことも片手ですくい上げてアーネスト様に渡して、意気ようようと歩き出しました。

「「さあ、前夜祭だ!」」
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