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第14章 アーネストvs.令嬢たち
双子の(貞操の)危機
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寒月は、ひどい頭痛で目をさました。
素っ裸で大理石の床に転がったまま眠っていたのだ。
意味をなさない呻きを漏らして視線を泳がせれば、そこら中に酒瓶と精液が撒き散らされている。
ひどいにおいに顔をしかめ、転がったままズリズリと床上を移動し、寝台横の脇机の脚を乱暴に蹴った。と、そこに置かれていた呼び鈴が転がり落ちて、リンリンリンとやかましく鳴り響く。
「失礼いたします」
間を置かず扉がノックされ、家令のハグマイヤーが入ってきた。
大型犬の獣人の彼は王の信頼も厚く、寒月と青月が繁殖期で離宮に引きこもると必ず派遣されてくる。この時期の双子の世話係は、誰でも良いというものではないからだ。
ハグマイヤーは素早く室内を見回し、寒月に「湯浴みなさいますか」と尋ねてきた。しかし寒月は頭痛がひどくて、それどころではない。
手を振って拒み、頭痛薬だけ頼むと、気の利く家令は「すぐにお持ちします」と寒月の躰にガウンを被せてから、扉の外に声をかけた。
年配の使用人たちが入ってきて手早く掃除を始める。
その間に運ばれてきた薬湯を脇机に置いて、ハグマイヤーは
「ご用の際はいつでもお呼びください」
余計なことは言わず、使用人たちを急かしてさっさと出て行った。さすがに心得ている。
寒月がいま望むのは、ただひとつ、ただひとりだ。
しかしそれは叶わぬことだから、ひたすら耐えて、この嵐のような欲望をやり過ごすしかない。
大酒を喰らって感覚を麻痺させようと試みても、焼け石に水だけれど。
欲しい。
欲しい。
欲しい。
アーネストが欲しい。
あの言葉にならぬほど美しく、心臓を鷲掴みにされるほど愛らしい笑顔を想うだけで、全身を焼き尽くされそうになる。
手のひらに吸いつくような、きめ細かく滑らかな肌。ほのかに発光しているのではと思うほど、しみひとつ無い雪の白さで。
すらりと伸びた手脚は、いつまでも眺めていたいほど美麗でかたち良く、爪のかたちまでも典雅。
黒絹の髪が指のあいだをすり抜けていく感触がたまらない。
この世のどんな貴石よりも尊い、すべて見透かすような藤色の瞳も。
芸術品としか言いようがない繊細な鼻梁に、かぶりつきたくなる、無垢な唇も。
雪白の躰に花びらを散らしたような乳首。
薄桃色の陰茎までも果実のように蠱惑的で、口に含めば甘やかに蜜が滴る。
細い腰を捉えた先、小ぶりながらも清艶に盛り上がった尻。
その奥の、けなげで清らかな蕾は、寒月と青月の怒張を受け入れるときだけ、煽情的に花ひらく。
「はあ……」
考えただけで際限なく、股間に熱が凝縮した。
屹立したものを事務的に扱いて精を放出することを繰り返しても、愛しい者に受け入れられるまで満足するものかと、まるで聞き分けがない。
どのくらい前だったか……時間の感覚が狂っているが、この離宮の別の部屋に、青月が駆け込んできた音を聞いた。
せっかくアーネストと出かけていたのに、残念だったな。
――と、いつもなら皮肉を言ってやるところだが。
このしんどさをわかっているから、嫌味なしで気の毒に思った。
きっと青月も今頃、自分と同じように悶々としながら転がっているのだろう。
「ちっくしょー……」
転がったまま獣化した。
言うことを聞かぬ躰にうんざりして、無意味に虎の姿になっては人型に戻っている。
ここにアーネストがいれば、「もふもふだ」と大喜びしてくれるのに。
普通の人間なら多かれ少なかれ抱く獣人への恐怖や嫌悪をまるで持たず、ただただ嬉しそうに幸せそうに、抱きついてくれるのに。
見た目はもちろん、信じられないほど美しい。
だが中身は……さらに愛おしい。
優しくて賢くて、一途で芯が強くて。
「会いてえ……」
心身共に恋しくてたまらない。
心地良い声を聴きたい。
笑う顔を見たい。怒っていてもいいから。
早く抱きしめたい。良い匂いの髪と肌に顔をうずめたい。
唸りながら人型に戻ったが、
「なんでだよ……」
おかしい、と寒月は、靄のかかったような頭で思った。
いつもなら、ひとりで引きこもっていれば、三日の内には治まっていたのに。
それにどうしてこんなに頭痛がするのだろう。
これまで繁殖期であるかないかに関わらず、浴びるほど酒を飲もうと、二日酔いになったことも無いのに。
のろのろと起き上がり、ハグマイヤーが置いていった頭痛薬を飲んだ。
不味い。
アーネストの薬湯なら、魔法みたいによく効く上に、何杯でも飲みたいほど美味いのに。
またゴロンと転がって、ぼんやり天井を眺めていると、廊下からハグマイヤーの声が聞こえた。
「そろそろ陛下のご用を済ませに行かなければ。なるべく早く戻るよ。わかっていると思うけど、誰も殿下方のお部屋に……というか、離宮に入れちゃ駄目だからね」
「はい、ハグマイヤーさん。お任せください」
ハグマイヤーの足音が遠ざかっていく。
代わりに、小走りの足音が……三人、いや四人ぶん。途中で二人ずつに分かれた。
「人払いはしますが、どうかお早く。ハグマイヤーさんが戻る前に」
「わかっているわよ、そのくらい」
「早く扉を開けなさい」
そっと扉がひらかれた。
寒月は薄目をあけてそちらを見る。
入ってきたのは二人。
ぼそぼそと話し合ったあと、衝立の向こうに移動し、出てきたときには下着の薄絹姿になっていた。
「ああ、寒月様……なんておいたわしい」
まとわりつくような声を発しながら、横に座って顔を覗き込んでくる。
……誰だったか……寒月は懸命に頭を働かせた。
なぜだか、見ているのに相手を認識できない。
知っているニオイと声なのに、答えが出てこない。
「もう大丈夫です。我慢することなど、もうありません」
「そうですわ。わたくしたちなら、寒月様のすべてを受け止めることができます」
寒月の手を取ったその人物は、己の薄絹をひらいて、豊満な乳房へと導いた。
これは違う、と、頭の隅の声が寒月に警告する。
アーネストには、こんな乳房はない。
「アーネスト……」
じゃない。
そう呟くと、「寒月様」と耳元で囁かれた。
「アーネストです。ここにいるのは、アーネストです」
「そうです。ですから、どうぞあなたの欲望をすべてわたくしに――僕に、与えてください。存分に」
ぱさりと、薄絹が床に落ちた。
素っ裸で大理石の床に転がったまま眠っていたのだ。
意味をなさない呻きを漏らして視線を泳がせれば、そこら中に酒瓶と精液が撒き散らされている。
ひどいにおいに顔をしかめ、転がったままズリズリと床上を移動し、寝台横の脇机の脚を乱暴に蹴った。と、そこに置かれていた呼び鈴が転がり落ちて、リンリンリンとやかましく鳴り響く。
「失礼いたします」
間を置かず扉がノックされ、家令のハグマイヤーが入ってきた。
大型犬の獣人の彼は王の信頼も厚く、寒月と青月が繁殖期で離宮に引きこもると必ず派遣されてくる。この時期の双子の世話係は、誰でも良いというものではないからだ。
ハグマイヤーは素早く室内を見回し、寒月に「湯浴みなさいますか」と尋ねてきた。しかし寒月は頭痛がひどくて、それどころではない。
手を振って拒み、頭痛薬だけ頼むと、気の利く家令は「すぐにお持ちします」と寒月の躰にガウンを被せてから、扉の外に声をかけた。
年配の使用人たちが入ってきて手早く掃除を始める。
その間に運ばれてきた薬湯を脇机に置いて、ハグマイヤーは
「ご用の際はいつでもお呼びください」
余計なことは言わず、使用人たちを急かしてさっさと出て行った。さすがに心得ている。
寒月がいま望むのは、ただひとつ、ただひとりだ。
しかしそれは叶わぬことだから、ひたすら耐えて、この嵐のような欲望をやり過ごすしかない。
大酒を喰らって感覚を麻痺させようと試みても、焼け石に水だけれど。
欲しい。
欲しい。
欲しい。
アーネストが欲しい。
あの言葉にならぬほど美しく、心臓を鷲掴みにされるほど愛らしい笑顔を想うだけで、全身を焼き尽くされそうになる。
手のひらに吸いつくような、きめ細かく滑らかな肌。ほのかに発光しているのではと思うほど、しみひとつ無い雪の白さで。
すらりと伸びた手脚は、いつまでも眺めていたいほど美麗でかたち良く、爪のかたちまでも典雅。
黒絹の髪が指のあいだをすり抜けていく感触がたまらない。
この世のどんな貴石よりも尊い、すべて見透かすような藤色の瞳も。
芸術品としか言いようがない繊細な鼻梁に、かぶりつきたくなる、無垢な唇も。
雪白の躰に花びらを散らしたような乳首。
薄桃色の陰茎までも果実のように蠱惑的で、口に含めば甘やかに蜜が滴る。
細い腰を捉えた先、小ぶりながらも清艶に盛り上がった尻。
その奥の、けなげで清らかな蕾は、寒月と青月の怒張を受け入れるときだけ、煽情的に花ひらく。
「はあ……」
考えただけで際限なく、股間に熱が凝縮した。
屹立したものを事務的に扱いて精を放出することを繰り返しても、愛しい者に受け入れられるまで満足するものかと、まるで聞き分けがない。
どのくらい前だったか……時間の感覚が狂っているが、この離宮の別の部屋に、青月が駆け込んできた音を聞いた。
せっかくアーネストと出かけていたのに、残念だったな。
――と、いつもなら皮肉を言ってやるところだが。
このしんどさをわかっているから、嫌味なしで気の毒に思った。
きっと青月も今頃、自分と同じように悶々としながら転がっているのだろう。
「ちっくしょー……」
転がったまま獣化した。
言うことを聞かぬ躰にうんざりして、無意味に虎の姿になっては人型に戻っている。
ここにアーネストがいれば、「もふもふだ」と大喜びしてくれるのに。
普通の人間なら多かれ少なかれ抱く獣人への恐怖や嫌悪をまるで持たず、ただただ嬉しそうに幸せそうに、抱きついてくれるのに。
見た目はもちろん、信じられないほど美しい。
だが中身は……さらに愛おしい。
優しくて賢くて、一途で芯が強くて。
「会いてえ……」
心身共に恋しくてたまらない。
心地良い声を聴きたい。
笑う顔を見たい。怒っていてもいいから。
早く抱きしめたい。良い匂いの髪と肌に顔をうずめたい。
唸りながら人型に戻ったが、
「なんでだよ……」
おかしい、と寒月は、靄のかかったような頭で思った。
いつもなら、ひとりで引きこもっていれば、三日の内には治まっていたのに。
それにどうしてこんなに頭痛がするのだろう。
これまで繁殖期であるかないかに関わらず、浴びるほど酒を飲もうと、二日酔いになったことも無いのに。
のろのろと起き上がり、ハグマイヤーが置いていった頭痛薬を飲んだ。
不味い。
アーネストの薬湯なら、魔法みたいによく効く上に、何杯でも飲みたいほど美味いのに。
またゴロンと転がって、ぼんやり天井を眺めていると、廊下からハグマイヤーの声が聞こえた。
「そろそろ陛下のご用を済ませに行かなければ。なるべく早く戻るよ。わかっていると思うけど、誰も殿下方のお部屋に……というか、離宮に入れちゃ駄目だからね」
「はい、ハグマイヤーさん。お任せください」
ハグマイヤーの足音が遠ざかっていく。
代わりに、小走りの足音が……三人、いや四人ぶん。途中で二人ずつに分かれた。
「人払いはしますが、どうかお早く。ハグマイヤーさんが戻る前に」
「わかっているわよ、そのくらい」
「早く扉を開けなさい」
そっと扉がひらかれた。
寒月は薄目をあけてそちらを見る。
入ってきたのは二人。
ぼそぼそと話し合ったあと、衝立の向こうに移動し、出てきたときには下着の薄絹姿になっていた。
「ああ、寒月様……なんておいたわしい」
まとわりつくような声を発しながら、横に座って顔を覗き込んでくる。
……誰だったか……寒月は懸命に頭を働かせた。
なぜだか、見ているのに相手を認識できない。
知っているニオイと声なのに、答えが出てこない。
「もう大丈夫です。我慢することなど、もうありません」
「そうですわ。わたくしたちなら、寒月様のすべてを受け止めることができます」
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これは違う、と、頭の隅の声が寒月に警告する。
アーネストには、こんな乳房はない。
「アーネスト……」
じゃない。
そう呟くと、「寒月様」と耳元で囁かれた。
「アーネストです。ここにいるのは、アーネストです」
「そうです。ですから、どうぞあなたの欲望をすべてわたくしに――僕に、与えてください。存分に」
ぱさりと、薄絹が床に落ちた。
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