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6.フランセ・ブリス・ド・カーロン

本当の気持ち

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「そなたが、願った?」

 意外な言葉に、リーリウスのカップを持つ手が止まった。
 フランセは「はい」とこちらを見つめたまま、視線を外さない。

「おれは本当は、前々からリーリウス殿下をお慕いしておりました。海外を遊学中に、初めて間近くお姿を拝見して以来、ずっと」

 言いながら、切なげに眉根を寄せる。

「好きです。好きです。好きです」

 距離を詰めながら、熱く囁いてくる。

「シュナイゼがルーシウス候の子息で、殿下の親衛隊隊長であることを、酒の席で聞かされたとき……酔った勢いで、『殿下のおそばにいられるなんて羨ましい、なんて贅沢な環境だ』と想いを吐露してしまいました。
 するとシュナイゼが言ったんです。『だったら直接その気持ちを伝えれば良い』と。かといって、まさかあんなところににいきなりお連れしてくるとは思いませんでしたが」

(あやつ……)

 だからフランセに関しては、やけに意味深だったのかと合点がいった。
 彼を候補に加えたのも、きっとそのため。
 なぜならフランセは、リーリウスが挙げた条件にほぼ当て嵌まらないし、それに何より――

「殿下。どうかこの気持ちを哀れと思い、どうか一度だけでも、幸せな記憶をおれにお与えください……」

 フランセの指が、リーリウスの髪をそっと梳いてきた。
 見つめ返すと、冷たい唇が口元に触れる。
 次の瞬間、抱きしめられて体重をかけられ、長椅子に横たえられた。

「ああ……本当に、信じられないほど美しい……白磁の肌も、空と海を映した瞳も、蜂蜜のような金髪も」

 潤んだ瞳が見おろしてくる。

「愛しい殿下。どうか罪深いこの身をお許しください。もう、自分を抑えられない。どうかおれを、受け入れてください……!」

 リーリウスの股間に、硬くなったものがググッと押しつけられた。

(……シュナイゼめ。よりによって私のうしろを狙う男を候補に入れるとは)

 あの友には、そろそろキツめに灸を据えねばなるまい。
 キスを求めて唇をちろちろ舐められたところで、リーリウスは「おい」と青年の腕を叩いた。

「ちょっと、この椅子の下を見てみなさい」
「へ?」

 ぐいぐい攻めてきていたフランセの口から、間の抜けた声が漏れる。

「い、椅子の下? 今ですか?」
「そうだ」

 フランセは訝しそうに、下半身はリーリウスの上に預けたまま床に手をつき、上半身だけで椅子の下を覗き込んだ。途端、「わーっ!」と大声が上がる。

「なんで!? ミュスラだ、ミュスラオオカブトがいるー! 嘘だろう!?」

 ガバッと起き上がるや、すごい勢いで床におり立ち、虫かごを取り出した。
 宝物を持つように添えられた両手が、心なしか震えている。
 果物の上で食事中だったミュスラ氏が、迷惑そうに角を上げた。

「ででで殿下、ミュスラがどうしてここに!?」
「日陰だから」

「そうじゃなくてっ。ミュスラはポーリア固有種で世界三位のオオカブトですよ!? ごくごく限られた条件下でしか出てきてくれないので、世界一遭遇率の低いカブトと言われてるんですよ!? それがどうしてここにっ!」

「茶箱に入ってた」
「そんな馬鹿なーっ!」

 興奮に任せて叫んだところで、ハッと我に返ったらしい。
 真っ赤になって頭を下げた。

「申しわけありません。大変失礼いたしました」

 謝罪しながらも虫かごは手放さないので、リーリウスは小さく吹き出した。

「虫が好きだとエアハルトから聞いてはいたが。思った以上だな」
「兄上が……?」
「茶葉はエアハルトに、カブトムシはそなたに。そなたなら大切に育てよう」

 フランセのタレ目が、いっぱいに見ひらかれた。

「も……もちろんです! ありがとうございます、ありがとうございます! 責任もって大切にします、早速ミュスラ用の虫舎を造りますよ!」

 子供みたいに瞳を輝かせる様は、さっきまでリーリウスの上に乗っかっていた男とは思えない。
 そっと卓の上に虫かごを置き、「うわ~うわ~」と覗き込む背中に、リーリウスは「では仕切り直して」と声をかけた。

「はい?」

 振り向いた肩に手をかけ、乱暴に床に押し倒す。
「うわっ!」と上がる声を無視して、上下逆転した位置からにっこり笑った。

「この私の上に乗っておいて、ただで済むとは思っていまいな?」
「あっ! そ、それは、その」

 言い訳を探そうと焦る隙を捉えて、両脚を思い切り持ち上げた。
 着衣のままとはいえ大きく開脚させられたフランセの額から、汗が噴き出す。

「まっ、あのっ、お待ちください! お詫びします、お詫びしますから! おれは下はヤらないんです!」
「気が合うな、私もだ」

 笑みを深めて、ジタバタ抗おうとする股間を揉んだ。

「ちょっ! 待って、あ……っ」

 フランセの太腿のあいだにはすでにリーリウスの胴体があり、どう足掻こうと脚は閉じられないし、体格が良いと言ってもリーリウスには劣る。
 そして何より、「抑え技」を駆使してきた場数が段違いなのだ。
 リーリウスは鼻歌を歌いながら、鍛えた技でボトムスにずらり並んだ前立ての釦を外し、下着の奥から素早くフランセの分身を取り出した。

「おや、こんなところにもカブトムシが」
「違う~っ!」

 真っ赤になって肩を押し返してきた力は、陰茎を扱き始めるとふにゃりと抜けた。

「ちょっ、嘘……なんで……くっ!」

 焦らすつもりはないので、最初から徹底的に感じやすい部分ばかり刺激してやる。すでにヤる気満々だった陰茎は、ほどなく先走りで卑猥な音を立て始めた。
 そうして荒い息を吐くフランセが射精の欲求を追い始めたところで、ボトムスを勢いよく、下着ごと剥いでやった。

「うわーっ! まっ、待ってくださっ」

 プリッと肉付きよく締まった尻を露わにされて、今度こそ脚を閉じようと躍起になったフランセだが、もちろんリーリウスは阻止した。
 先走りのぬめりをギュッと窄まった後孔に塗り付けると、「うあっ!」と切羽詰まった声が上がる。

「ままま待って待って、ご勘弁を、それだけはっ」
「なら、本当のことを言いなさい」
「えっ」

 抵抗がピタリと止まった。
 戸惑いと、別の何かがその表情に浮かぶ。

「ほ、本当のこと、とは?」
「そなたの本当の気持ちだよ」
「ほ、本当も何も……おれはただ、本当に殿下のことが」

 リーリウスはフランセの未開発アナルに、プチュッと中指を差し込んだ。

「ふあっ! やめやめ、あっ、あーっ!」

 風が静かな波音を運ぶ午後の露台。
 強弱をつけて上がる声は、徐々になまめかしさを帯びていった。
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