王子殿下が恋した人は誰ですか

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1.リーリウス王子、恋に落ちる

抱けばわかる

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 真面目代表レダリオの怒りが爆発し、茹でダコのようになった。
 シュナイゼが「どうどう」となだめにかかるも、茹でダコの説教は止まらない。

「おかしいでしょう、どう考えても! そんな怪しい結婚相手を、陛下がお許しになるわけがない。それにそもそも、顔も名前も知らぬのに、どうやって妃に迎えるのです!?」
「そこなのだ」
「どこですか!」
「捜そうと思う。協力してはもらえまいか」

 ぽかんとレダリオの口がひらいた。
 唐突に訪れた沈黙の中、シュナイゼがその背中をぽんぽん叩いて、質問を交代する。

「捜す、と言っても……仮装舞踏会に出席した貴族の名簿はもちろんありますが、年格好の似た者だけでも、相当な数になると思いますよ?」
「私が夢中になるほど美しい人は、そうはいまい」
「ははあ。なるほど」

 シュナイゼが人差し指で顎を掻く。
 こういうときの彼は、リーリウスが提案する無茶振りをどうすれば実行できるか、猛烈な勢いで考えているのだ――と、リーリウスとレダリオは知っている。
 案の定、シュナイゼは「ふむ」とひとつうなずいた。

「先方も殿下に好意を抱いている。しかし素性を知られては困る。その辺りも手がかりになりそうですね」
「そうだな。私が言うのもなんだが、ああした催しに参加しながら、王族と距離を置こうとする者は珍しいと思うのだ」
「その通りです。王族や高位貴族との人脈を得たいがために、いい年をした大人たちが仮装なんぞするのですから。単に馬鹿騒ぎしたいというのもあるでしょうけども」
「日頃の憂さを晴らしつつ、旨味も味わいたい。ごく正直な欲と言えよう」
「しかも相手はリーリウス殿下ですからね。求婚されたとなれば国中の羨望を一身に受け、家格にも箔がつくというもの。なのに、それを求めず去った。その辺からも条件を絞っていきましょう」

 どんどん段取りが決まっていくのを呆然と見ているレダリオと、今ややる気に満ちあふれたシュナイゼに向かって、リーリウスは「全国民を腰砕けにする笑顔」と評判の笑みを向けた。

「我が心の友たちよ。連れてきてくれるかい? 私の愛しい花嫁を」

 シュナイゼがにやりと笑う。

「お任せください。昔から我ら三人が揃って、不可能なことがあったでしょうか。なあ、レダリオ」

 肩を叩かれたレダリオは、またしてもこの二人に振り回されるのだと観念したか、がっくりと肩を落とした。

「不可能なことだらけだったじゃないか……」
「でもなんとかしてきた。違うかい?」

 力強く励ますリーリウスを、紺青の瞳が眼鏡越しに睨めつけてくる。

「……殿下」
「なんだい」
「これから我らが誰かを捜し出し、あなたの前に連れてきたとして」
「うん」
「似た印象の者が複数いたら、顔も名前も知らぬのに、どうやって判別するのですか」
「心配ないよ」

 リーリウスは胸を張った。

「抱けばわかるから。あんなに美しくて抱き心地が良くて相性最高で、私を夢中にさせる声と反応の人が、二人といるはずはないからね!」

 友人二人の顎が、かっくんと落ちた。
 今度はシュナイゼの笑顔も引きつっている。

「ええと……殿下?」
「抱くというのはつまり、抱擁ではなく、性行為のことですか?」 

 シュナイゼを制して問うたレダリオの抑揚のない声に、シュナイゼが「やばい」と口をパクパクさせる。
 だが浮かれ気分のリーリウスは、その警告にもレダリオの額に浮かんだ青筋にも気づかず、

「もちろんだ。それ以外に判断するすべがあるかい? 相手の同意を得られれば問題はなかろうし。……でもやはり、真実の愛に目ざめた今となっては、何十人もの人とセックスをする気にはなれないものだね。だから候補人数はなるべく絞ってくれるとありがたいな。早々に見つかればよいが、こればかりは」
 
 滔滔と述べる王子に、在庫僅少だったレダリオの礼儀が吹っ飛んだ。

「こんの……すけべ王子! 人の見合いを邪魔しておいて、結論がそれか! 結局ヤりたいだけだろう、この男女たらし! ヤリチン王子! お祭り下半身!」
「お、お祭り……」
「下半身……?」

 リーリウスとシュナイゼは顔を見合わせたが、ここは黙って怒られるという賢明な選択をした。
 真面目な人がキレると怖い。
 これもまた昔から、三人の中では珍しくない光景なのだった。
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