予知夢少女

momo

文字の大きさ
上 下
1 / 5

夢1 転校

しおりを挟む
 予知夢って知ってる?
 文字の通り、未来を予知する夢のことなんだって。
 信じられないよね。
 予知なんてできたら、人生楽しくないもんね……。
 予知夢をぜひともみたいという人は、幸せなんじゃないかな?
 予知なんてできてもいいことなんてないんだから。
 




「はーい、皆さん注目!今日から、新しい仲間がこのクラスに入ってきまーす。どうぞ~」

     ガラガラ

「隣の県から引っ越してきました。梓谷 宵巳です。よろしくお願いします」

「あずさだによみ、だって。変わった名前~」

「背ぇ、小っさ!……あっ、でも顔はまぁまぁかも」

 ざわざわと落ち着きなく話しだす生徒達。
 恥ずかしい……早く自分の席に座りたい。

「梓谷さんは~、どこの席にしようかな~」 

 緊張していて、今、気づいたけどよく見れば、ちらほらと席が空いているところがある。

「じゃあ、梓谷さんは、柊君の隣ね!」

「「「ええーーーーーーー!!!」」」
 


 いきなり、複数の女子が悲鳴のような声をあげた。
 な、なんだろう……。
 私が、その人の隣になることが不都合なのかな……。
 だったら、違う席でもいいのだけれど。
 心配になって先生を見上げると、

「いいの、いいの。梓谷さんが困ってるわよ!」 

 強引に決めてしまうと、私の両肩に手を置いた。

「皆さん、梓谷さんと仲良くしてあげてくださいね~。拍手!!」

 ぱらぱらと遠慮がちに拍手が聞こえてくる。
 なんか、女子の視線が痛いような……。
 はぁ……もしかして失敗した?
 余計なことは言ってないはずなんだけどな。
 転校早々、最悪……。
 泣きそうになるのを感じながら、唇を噛む。



「柊君はあそこね!」

 先生が指をさしたのは、窓際の一列目で後ろの席。
 柊君と目があって、私がそらさずにいるとあっちからサッとそらされた。

 ガーン!!

 やっぱり、失敗してるよ……。
 重たい足取りで、柊君の隣の席に行き、座る。

「柊君、梓谷さんに色々紹介してあげてね」

「はい」

 横目で柊君の顔を見つめる。
 と、整った顔だなぁ。
 切れ長の瞳、鼻筋が通っていて高い鼻。
 思わず、ドキッとしちゃったよ。
 私なんかがドキドキしちゃ、柊君に迷惑だよね……。
 なかったことにしよ。 
 そんなことより、都会の人って、みんな美男美女なんだからすごいよな~。
 前、住んでいた街はここより都会じゃなかった気がする。
 もっと人は少なかったし、建物も小さかったんだ。それに、静かだったしね。
 だから、慣れるまで時間がかかりそう。




「なぁ、梓谷……だっけ?」
「あっ、そ、そうだよ……もしかして、呼びづらい?それなら、よく言われるし。宵巳か、梓だけでもいいよ!」

 いきなり話し掛けられ、あわててまくしたてると、柊君はポカンとした。

「あ、あれ?違った?ごめんね、早とちりしちゃった……」

 うぅ……柊君の顔が見れない。

「ははっ!いいよ、じゃあ宵巳って呼んでいい?」

 柊君は笑うと、クールな雰囲気が崩れ、無邪気な少年のような感じになるらしい。
 ギャップって言うのかな……可愛いかも。
 頭を撫でてあげたい衝動に駆られながらも、我慢して膝の上で拳をつくる。

「柊君がいいなら……私は、別にかまわないよ。」

 名前呼びか……慣れているな。
 まぁ、イケメンさんだしこれくらい普通か。

「自己紹介してなかったよな、俺。名前は、柊 有馬。何か困ったことがあったら、いつでも言って」

 なんて優しい人に恵まれたんだろう……!
 全然怖くないし、むしろ親しみやすい。
 きっと、人気者なんだろうな。
 あっ、だからさっき女子が悲鳴をあげたんだ……。
 私なんかが柊君の隣になったから。
 断れば良かったな……。
 自己嫌悪に陥っていると、不意に頭がクラっとした。
 きた……。今日だけはきてほしくなかった。
 


 私には、他の人と違うところがあるのだ。


 それは、予知夢を不定期に見てしまうというところだ。


 予知夢は夜はもちろん、朝でも眠気が襲ってきて寝てしまうことも多々ある。
 立っていて、いきなり倒れて寝てしまったことも1度や2度ではない。
 だから、救急車を呼ばれそうになったこともあると、お母さんは言っていた。
 自分では寝ているから全くわからない。
 そうならないためにも、1人では決して出掛けてはならないとお母さんにきつく言われている。
 私の予知夢は話せるようになった2歳頃から、今日まで続いている。
 それで分かったことがある。




 1. 私が見た予知夢は、必ず1週間以内に実現する。

    2.    私自身の未来は見えず、周りの人やこれから関わることになる人の未来だけが見える。  




 予知夢のことはたった1人の家族である、お母さんしか今では知らない。
 一緒に住んでいたおばあちゃんは1年前に亡くなってしまった。
 お母さんが言うには、お父さんは私が小さい頃に出ていったらしい。
 そして、両親とも1人っ子だったため親戚はいないのだ。
 だから、今はお母さんと2人暮らしをしている。
 でも、最近はお母さんに見捨てられかけていて家には居場所がないように感じている。
 私より、男に夢中で家事も私に任せっきり。
 帰ってくるのは遅いし、早く帰ってきても男を連れ込んでくる始末。
 私は、自分の部屋にこもるしか選択肢はなく、お母さんと話すことは全くと言っていいほどない。
 まぁ、予知夢なんか見て、高校生にもなって1人で出掛けられない子供なんて、見捨てたくもなるよね……。
 そうわかっていても、お母さんを憎く思ってしまうなんてサイテーだ。


 私は、そんな自分が何より嫌い。
 

 そして、私を苦しめる予知夢も大嫌いだ。




 それはそうと、瞼が下がってくる……。
 寝ちゃダメ!寝ちゃダメったら!
 心の中でいくら叫んでも、眠気の方が勝ってしまう。
 無理……。
 柊君に迷惑掛けちゃう!
 どんどん体の力が抜けて、自然と机に突っ伏してしまった。


    ガタンっ!


「宵巳?、宵巳!!」
 薄らいでいく意識の中で、柊君の声がした気がした。




 ___私は、夢を見た。
 青いパーカー、白黒のシンプルなシューズ、黒のリストバンド、どちらも男物っぽい。 
 素早く流れる風景。
 もしかして、走ってる?
 見えてくるのは、3本の大きな木。
 なぜか、真ん中の木だけ小さくて、高さが違い、V字になっている。
 なんか、私みたいな木だな。
 共感しちゃう……木なのに。
 あれ?あそこにあるのは、ベンチ?
 ずいぶんと古いベンチだなぁ。
 今にも壊れそうで、誰も座ることはできないだろう。 
 しかし、ベンチの上には1本の壊れた傘が置いてあった。
 真っ黒でなんの模様もない傘。
 いつから置いてあるのか、ボロボロで傘の骨が折れているのが見える。
 そして、私が見ている人物は、横断歩道の前で駆け足をして、信号が変わるのを待っている。
 やがて、信号が青に変わり走り出す。




 そのとき、ものすごい勢いで車が走ってきた。
 えっ……危ない!戻って!!
 その人物に呼びかけるけど、聞こえることはない。
 私の視点が車から見える風景に変わる。
 止まれない。スピード出しすぎだよ!
 このままじゃ、ひいちゃうっ。
 思わず目をつぶりそうになった私が見たその人物は、驚くべき人だった。
 

  ___柊君。
 


 目の前が真っ暗になり、場所が変わったことがわかる。
 
 「有馬っ!有馬っ!目を覚まして!」
 「……有馬、戻ってきてくれ」 
 「兄ちゃん、起きてよ!僕だよっ」

 家族らしき人達が泣いて、取り乱している。
 



「はっ!」
 私は、目を覚ました。
 白い天井、白いカーテン。
 ここは……どこだっけ?
 えっと、確か、教室で寝てしまったんだっけ?
 ___っていうことは、学校の保健室?
 現状が理解出来てきて、ふっと息をついた。
 悪い夢だった。 
 これは、予知夢だろうか。
 きっと、答えはyesだ。
「どうすればいいの……?」
 うつ伏せになり、枕に顔をうずめる。
 あんなに優しい柊君が死んでしまうなんて、嫌。
 どうにか出来るのは、私だけなんだ。
 私が、頑張らなくちゃいけない。
 まだ、ドキドキしている心臓をおさえ、深呼吸をする。
 信じてもらえなくても、忠告することは出来る。
 でも、信じてもらわなくちゃ、意味がないよ。
 どうしよう、どうしよう?
 
 

 私が頭を抱えたそのとき___

「宵巳、起きてるか?」

「……_!」

 柊君が保健室に入ってきた音が聞こえてきた。

「お、起きてるよっ!」

 あんな夢を見たばかりだから、柊君にどう接したらいいのかがわからない。
 柊君は、カーテンを開け、心配そうにベッドの脇の椅子に座った。

「気分はどう?体の調子は?」

「あっ……うん。大丈夫、だよ」

 まだ考えてないけど、夢のことを言うチャンスは今しかない!

「そっか、良かった。じゃあ、俺、養護の先生呼んでくるな」

 立ち上がって、私に背を向ける柊君。
 
 ……いっちゃダメ。
 
 なんだか、柊君がこのまま居なくなってしまうような気がして焦った。
 
「……行かないで」
 
 私は、柊君の制服の袖をつかんでしまっていた。

 
 
   
 

 
 



 
     
 
 
 

 




 
 



 
  

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

月明かりの儀式

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、幼馴染でありながら、ある日、神秘的な洋館の探検に挑むことに決めた。洋館には、過去の住人たちの悲劇が秘められており、特に「月明かりの間」と呼ばれる部屋には不気味な伝説があった。二人はその場所で、古い肖像画や日記を通じて、禁断の儀式とそれに伴う呪いの存在を知る。 儀式を再現することで過去の住人たちを解放できるかもしれないと考えた葉羽は、仲間の彩由美と共に儀式を行うことを決意する。しかし、儀式の最中に影たちが現れ、彼らは過去の記憶を映し出しながら、真実を求めて叫ぶ。過去の住人たちの苦しみと後悔が明らかになる中、二人はその思いを受け止め、解放を目指す。 果たして、葉羽と彩由美は過去の悲劇を乗り越え、住人たちを解放することができるのか。そして、彼ら自身の運命はどうなるのか。月明かりの下で繰り広げられる、謎と感動の物語が展開されていく。

特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発

斑鳩陽菜
ミステリー
 K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。  遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。  そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。  遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。  臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。

愛脳中毒

じえり
ミステリー
世の中に疲れた紀田聖 お金欲しさに臨床試験の被験者となる 昔好きだった奏に偶然であってまた恋に落ちる 人生に色がついていく感覚に心躍る毎日 そんな時奏とは全く違うタイプのヨンこと真由に好きだと告白される 自分の人生の奇跡 しかしコウキが参加した臨床試験には秘密があった 謎の研究機関√が若者を集めて行なっている恐ろしい人体実験 コウキがたどる人生のラストとは?

咲が消えたあの日

神通百力
ミステリー
一人の女はある人物に呼び出されて天井も壁も床も真っ白な地下に来ていた。 遅れてきた人物は女に一人の少女の写真を見せた。その少女のことを女は知っていた。 だが、少女の名前は自分の知る名前とは異なっていた。 一方、柘榴恐妖が仲良くしてる少女――妖華咲はある日、学校を休んだ。咲は恐妖に隠している秘密があった。小説家になろうやノベルアップ+にも投稿しています。

推理のスタートは『スタート』

天野純一
ミステリー
被害者の茅森美智代が遺した謎のダイイングメッセージ。彼女は近くにあった“カタカナパネル”というオモチャの中から、『ス』と『タ』と『ー』と『ト』だけを拾って脇に抱えていた。 『スタート』の4文字に始まり、すべてが繋がると浮かび上がる恐るべき犯人とは!? 原警部の鋭いロジックが光る本格ミステリ!

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

処理中です...