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#2 メランコリック・ハートビート
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(あの日言われた言葉が本当になるだなんて思ってなかったのに)
貴族は大抵20歳になる前には婚約者を決めてしまう。実際に結婚して、一緒に住むようになるのは色々な事が整ってからになるが、貴族の結婚と言えばどちらかと言えば、家同士の結びつきや、政治情勢を考えて決められる事が多い。
伯爵家の次男である、アベルだって当然にそうなるはずだった。
けれどいつまで経っても、アベルは婚約相手を発表しなかった。グランクヴィスト家は伯爵家で、次男と言えどその婚約者は、家にとって重要な相手であるはずだ。
様々な貴族の御令嬢が名乗りをあげたとも噂で聞いている。
けれど20歳を過ぎても、25歳を過ぎても、相手を決めないアベルは、貴族の社交界で注目の的だった。変わった性癖をしていて、人に言えない相手と夜な夜な遊んでいるのだとそんな噂が流れるほどだった。
26歳になって、アベルが武功をあげた、というニュースが飛び込んできたとき、エレノアの胸が跳ねた。
そんなわけがない、と思うのに、思い出すのは、あの日のアベルの言葉だ。
(そんな、ばかな)
あの日、アベルが会いに来た日から随分と時間が経ってしまった。
きっともうあんな約束忘れたに違いない。そう何度も思い直すのに、面会予定の相手にアベル・グランクヴィストの名前がないか、確かめてしまう。
そんなわけが無いのだ。大人になったアベルの噂はよく聞こえてくる。騎士団の中でも優秀で、貴族の御令嬢にも人気で、優しくて頼りがいがあって、頭の良い知将だと言われていた。
それに比べて、この数年の間に同じように大人になったはずなのに、エレノアの噂と言えば、良くないものばかりだ。冷酷で冷徹で、無常で非情、感情が無くて、何を考えているのかがわからないと専ら、周りから孤立するようになってしまっていた。
会話をしても、成り立たないのだから仕方がない。
都合が良い時に、突然呼ばれてエレニアの知恵を借りたいと、媚びへつらわれる事はあっても、いつだってそれはまるで何かの機械に接するような距離感だった。
エレノアですらもうこの状況をどうしようもない。王も兄も、エレノアを信頼してくれているが、それはきっと身内だからこそだ。
周りの貴族からどれだけエレノアが孤立しているかなんて、エレノア自身が一番よくわかっている。
(そんなの貴族の人間なら誰だって知っている。だから、アベルだってきっと)
あの日、エレノアを伴侶にしたい、と言ったアベルに、何と返事をしたのかなんてもう覚えていない。けれど自分は多分、どうとでも取れるような答えを返した気がする。
戦争から騎士団が戻って来た日、王が自ら功労者を労う場を用意していた。
華やかなパーティーで、国中の貴族が集められて、そんな人々に囲まれて、堂々としたアベルが王の前で跪いていた。
『アベルよ、よくやった。誰一人、相手側にも、こちら側にも犠牲者を出さずこの戦争を終わらせたのは、貴公の人生で一番の武功となるだろう。そして、それだけではなく、この歴史に残る武功になる。望むものを言うが良い』
『では、エレノア様を我が伴侶に頂けませんでしょうか』
嬉々として、そう述べたアベルの発言に、その場がざわついたのは言うまでも無い。
「エレノア様、しばらくは家に居られそうです」
「……そうか」
(ああ、ほら、また)
アベルを、喜ばせるようなことの一つでも言ってやればいいのに、大人になる過程でまともに人とコミュニケーションを取って来なかった自分は、満足のいく返答もできないのだ。
(しばらく家にいてくれて、嬉しいと言えればいいのに)
どんなに冷たい態度をとっても、悪い反応を返しても、アベルがエレノアに対する態度を変える事は無い。ずっと、優しい。
けれどいつまでも人間が同じでいられるわけじゃない事を知っている。だから、兄も心配しているのだ。
エレノアとて、今のままでいいと思っているわけじゃない。
アベルを、愛している。エレノアを大切にしてくれている気持ちが嬉しい。最初の頃、確かにこれは愛では無かったと思うが、優しくされて、大事にされて、それをアベルに返したいと、そう思っている。
だから、本当はアベルが喜ぶようなことを言ってやりたい。
そう思うのに言葉が出てこない。
誰よりも知能が高いと言われているはずなのに、アベルを前にすると、途端に言葉が何も出て来なくなる。
このままではいつか、愛想を尽かされてしまうかもしれないという恐怖が漠然とある。
そのせいで余計に、言葉が出ない。
そうして、出てきた言葉と言えば簡素なものばかりだ。
労う言葉でも、なんでも、アベルにエレノアの気持ちを伝えられる言葉が渡せればいいのにとずっと思っている。
結婚してもう随分と経つのに、未だにこんな状態ではきっとアベルも内心呆れているのだろう。いつまで経っても上手く出来ない。
あの頃、話をしてくれて嬉しかったのだと伝えたい。わからない事を諦めないでくれてありがとうと伝えたい。伴侶に選んでくれて嬉しかったと、態度が悪くてごめんと伝えて、本当は、もっと、
(…………アベルに抱きしめられたい)
一度だけ、あの日、キスをされた後に、抱きしめられて嬉しかったのだ。
幸せだった。愛されていると感じて、人生で一番幸せだったと言ってしまってもいいくらいに、嬉しかった。
そうやってこれから、アベルに大切にされて生きるのだと柄にもなく、期待をして、ドキドキして、涙が出そうだった。
「エレノア様と、いつ別れるんだろうな」
(…………は?)
あまりに突拍子もない話題を耳にして、思わず耳を疑ってしまった。
けれど聞き違いではないらしい。
「もうあそこも終わりだってな。アベル様も、ようやく目が覚めたんだ」
「ああ、フェルゼンシュタイン伯爵の御令嬢だろ。ぴったりじゃないか。ディアナ様と言ったか。領地は遠いが、貴族としては申し分ない相手だろう」
エレノアが城に呼び出されて、ちょうど兵舎の近くを通った時の事だった。騎士団の兵士たちが揃って立ち話をしている所に遭遇した。
アベル、と聞き慣れた名前が聞こえきて、気まずくなって、方向転換をして遠回りをしようと思ったときの事だった。
アベルの伴侶だと知られている以上、例えばアベルの悪口なんかを言っていたのなら、彼らも気まずいだろうとそれくらいの気持ちだった。
けれど聞き捨てならない話が続けられている。
立ち聞きするつもりはなかったのに、その場から足が動かない。
「さすがに、戦争で勝って、せっかく武勲を貰えるってのに、第二王子とは言え、あんな不愛想で意味わかんねぇ男が褒賞だとか言われても喜べねぇよな。褒賞だって言いつつ、体(てい)よくアベル様に押し付けただけだろ」
(……ちがう、アベルが、俺を欲しい、って、)
王が、押し付けたわけではない。
そんな事はエレノアが一番理解しているはずなのに、それでも身体中が凍り付くような心地だった。指先が冷たい。
足が竦んで、しゃがみ込んでしまいそうだった。確かに床があるはずなのに、床が崩れ落ちたかのような、不安定な気持ちになる。
「その点、ディアナ様はいいぞ。気立てもいいし、優しくて、頭もいい。アベル様にもぴったりだ。美人だし」
「この間の遠征の時、ふたりきりで部屋で話をしていたそうじゃないか。これはもう、そういうことだろ」
(『そういうこと』って、何だ)
突然、目の前が真っ暗になったようだった。
アベルが、エレノアを選んだのだ。エレノアを欲しいと、エレノアがいいと言ったのだ。王が押し付けたわけではない事は、良くわかってる。
けれど、例えば、王がエレノアに知られないように、裏でアベルに頼んでいたらどうだろうか。アベルはいい人間だから、断れなかったのかもしれない。
そんなわけが、あるわけがないと、言い切れない。
(……だってそうじゃなきゃ、俺なんか選ばないだろ)
ぼんやりとしたまま家に帰って、そのまま部屋へと戻った。
アベルと、エレノアの部屋はそれぞれに私室があって、その間に夫婦の寝室がある。
当然ながら、アベルも、エレノアも、同じ寝室の同じベッドで寝ている。
けれど、セックスはした事がなかった。
この家に来た日、アベルにキスをされた。
それに驚いて、突き飛ばしてから、アベルはエレノアにそういう意味で触れてこない。
勢い余って抱きしめられたり、抱え上げられたり、そんな事はあっても、あの日以来、キスですらされることが無い。
(その意味を、わからないほど馬鹿じゃない……)
こんな事は誰にも相談もできなかった。
エレノアにはそれほど多く友人がいるわけじゃない。
ましてや、伴侶との性生活の悩みなど、兄にも、幼馴染みにも、相談できるわけがない。答えなんかわかりきってる。誰かに相談したところで、きっと答えは同じだ。
アベルに、好かれている事を疑っているわけじゃない。
きっと、いつからかわからないけれど、エレノアをずっと、大切に想ってくれている。 幼い頃から気にかけて、独りぼっちのエレノアを心配して、話しかけて、どんな態度を取ったって、可哀想なエレノアを見捨てられないのだ。
(…………わかってる)
いつだったか、アベルの気持ちが恋だった時もあったのかもしれない。
けれどきっと、今はそうじゃない。せいぜい、弟くらいにしか思えないんじゃないだろうか。それでもアベルは優しいから、言えないんじゃないだろうか。
例えアベルの気持ちがもう無いのだとしても、王族のエレノアから離縁を言い出す事は出来ない。
アベルと離縁したいと言えば、今後一生アベルは王族に見放された男となってしまう。
それにアベルからだって言い出せないはずだ。エレノアは王から与えられた褒賞で、自ら望んだものなのだから、突き返すことなんて出来るはずがない。
(だから、アベルと離縁する事にはならない……)
「…………そんなことで、安心してるなんか馬鹿みたいだ」
王からの褒賞でなければ、エレノアが王族でなければ、繋ぎとめられる自信も理由も、何もないのだ。
貴族は大抵20歳になる前には婚約者を決めてしまう。実際に結婚して、一緒に住むようになるのは色々な事が整ってからになるが、貴族の結婚と言えばどちらかと言えば、家同士の結びつきや、政治情勢を考えて決められる事が多い。
伯爵家の次男である、アベルだって当然にそうなるはずだった。
けれどいつまで経っても、アベルは婚約相手を発表しなかった。グランクヴィスト家は伯爵家で、次男と言えどその婚約者は、家にとって重要な相手であるはずだ。
様々な貴族の御令嬢が名乗りをあげたとも噂で聞いている。
けれど20歳を過ぎても、25歳を過ぎても、相手を決めないアベルは、貴族の社交界で注目の的だった。変わった性癖をしていて、人に言えない相手と夜な夜な遊んでいるのだとそんな噂が流れるほどだった。
26歳になって、アベルが武功をあげた、というニュースが飛び込んできたとき、エレノアの胸が跳ねた。
そんなわけがない、と思うのに、思い出すのは、あの日のアベルの言葉だ。
(そんな、ばかな)
あの日、アベルが会いに来た日から随分と時間が経ってしまった。
きっともうあんな約束忘れたに違いない。そう何度も思い直すのに、面会予定の相手にアベル・グランクヴィストの名前がないか、確かめてしまう。
そんなわけが無いのだ。大人になったアベルの噂はよく聞こえてくる。騎士団の中でも優秀で、貴族の御令嬢にも人気で、優しくて頼りがいがあって、頭の良い知将だと言われていた。
それに比べて、この数年の間に同じように大人になったはずなのに、エレノアの噂と言えば、良くないものばかりだ。冷酷で冷徹で、無常で非情、感情が無くて、何を考えているのかがわからないと専ら、周りから孤立するようになってしまっていた。
会話をしても、成り立たないのだから仕方がない。
都合が良い時に、突然呼ばれてエレニアの知恵を借りたいと、媚びへつらわれる事はあっても、いつだってそれはまるで何かの機械に接するような距離感だった。
エレノアですらもうこの状況をどうしようもない。王も兄も、エレノアを信頼してくれているが、それはきっと身内だからこそだ。
周りの貴族からどれだけエレノアが孤立しているかなんて、エレノア自身が一番よくわかっている。
(そんなの貴族の人間なら誰だって知っている。だから、アベルだってきっと)
あの日、エレノアを伴侶にしたい、と言ったアベルに、何と返事をしたのかなんてもう覚えていない。けれど自分は多分、どうとでも取れるような答えを返した気がする。
戦争から騎士団が戻って来た日、王が自ら功労者を労う場を用意していた。
華やかなパーティーで、国中の貴族が集められて、そんな人々に囲まれて、堂々としたアベルが王の前で跪いていた。
『アベルよ、よくやった。誰一人、相手側にも、こちら側にも犠牲者を出さずこの戦争を終わらせたのは、貴公の人生で一番の武功となるだろう。そして、それだけではなく、この歴史に残る武功になる。望むものを言うが良い』
『では、エレノア様を我が伴侶に頂けませんでしょうか』
嬉々として、そう述べたアベルの発言に、その場がざわついたのは言うまでも無い。
「エレノア様、しばらくは家に居られそうです」
「……そうか」
(ああ、ほら、また)
アベルを、喜ばせるようなことの一つでも言ってやればいいのに、大人になる過程でまともに人とコミュニケーションを取って来なかった自分は、満足のいく返答もできないのだ。
(しばらく家にいてくれて、嬉しいと言えればいいのに)
どんなに冷たい態度をとっても、悪い反応を返しても、アベルがエレノアに対する態度を変える事は無い。ずっと、優しい。
けれどいつまでも人間が同じでいられるわけじゃない事を知っている。だから、兄も心配しているのだ。
エレノアとて、今のままでいいと思っているわけじゃない。
アベルを、愛している。エレノアを大切にしてくれている気持ちが嬉しい。最初の頃、確かにこれは愛では無かったと思うが、優しくされて、大事にされて、それをアベルに返したいと、そう思っている。
だから、本当はアベルが喜ぶようなことを言ってやりたい。
そう思うのに言葉が出てこない。
誰よりも知能が高いと言われているはずなのに、アベルを前にすると、途端に言葉が何も出て来なくなる。
このままではいつか、愛想を尽かされてしまうかもしれないという恐怖が漠然とある。
そのせいで余計に、言葉が出ない。
そうして、出てきた言葉と言えば簡素なものばかりだ。
労う言葉でも、なんでも、アベルにエレノアの気持ちを伝えられる言葉が渡せればいいのにとずっと思っている。
結婚してもう随分と経つのに、未だにこんな状態ではきっとアベルも内心呆れているのだろう。いつまで経っても上手く出来ない。
あの頃、話をしてくれて嬉しかったのだと伝えたい。わからない事を諦めないでくれてありがとうと伝えたい。伴侶に選んでくれて嬉しかったと、態度が悪くてごめんと伝えて、本当は、もっと、
(…………アベルに抱きしめられたい)
一度だけ、あの日、キスをされた後に、抱きしめられて嬉しかったのだ。
幸せだった。愛されていると感じて、人生で一番幸せだったと言ってしまってもいいくらいに、嬉しかった。
そうやってこれから、アベルに大切にされて生きるのだと柄にもなく、期待をして、ドキドキして、涙が出そうだった。
「エレノア様と、いつ別れるんだろうな」
(…………は?)
あまりに突拍子もない話題を耳にして、思わず耳を疑ってしまった。
けれど聞き違いではないらしい。
「もうあそこも終わりだってな。アベル様も、ようやく目が覚めたんだ」
「ああ、フェルゼンシュタイン伯爵の御令嬢だろ。ぴったりじゃないか。ディアナ様と言ったか。領地は遠いが、貴族としては申し分ない相手だろう」
エレノアが城に呼び出されて、ちょうど兵舎の近くを通った時の事だった。騎士団の兵士たちが揃って立ち話をしている所に遭遇した。
アベル、と聞き慣れた名前が聞こえきて、気まずくなって、方向転換をして遠回りをしようと思ったときの事だった。
アベルの伴侶だと知られている以上、例えばアベルの悪口なんかを言っていたのなら、彼らも気まずいだろうとそれくらいの気持ちだった。
けれど聞き捨てならない話が続けられている。
立ち聞きするつもりはなかったのに、その場から足が動かない。
「さすがに、戦争で勝って、せっかく武勲を貰えるってのに、第二王子とは言え、あんな不愛想で意味わかんねぇ男が褒賞だとか言われても喜べねぇよな。褒賞だって言いつつ、体(てい)よくアベル様に押し付けただけだろ」
(……ちがう、アベルが、俺を欲しい、って、)
王が、押し付けたわけではない。
そんな事はエレノアが一番理解しているはずなのに、それでも身体中が凍り付くような心地だった。指先が冷たい。
足が竦んで、しゃがみ込んでしまいそうだった。確かに床があるはずなのに、床が崩れ落ちたかのような、不安定な気持ちになる。
「その点、ディアナ様はいいぞ。気立てもいいし、優しくて、頭もいい。アベル様にもぴったりだ。美人だし」
「この間の遠征の時、ふたりきりで部屋で話をしていたそうじゃないか。これはもう、そういうことだろ」
(『そういうこと』って、何だ)
突然、目の前が真っ暗になったようだった。
アベルが、エレノアを選んだのだ。エレノアを欲しいと、エレノアがいいと言ったのだ。王が押し付けたわけではない事は、良くわかってる。
けれど、例えば、王がエレノアに知られないように、裏でアベルに頼んでいたらどうだろうか。アベルはいい人間だから、断れなかったのかもしれない。
そんなわけが、あるわけがないと、言い切れない。
(……だってそうじゃなきゃ、俺なんか選ばないだろ)
ぼんやりとしたまま家に帰って、そのまま部屋へと戻った。
アベルと、エレノアの部屋はそれぞれに私室があって、その間に夫婦の寝室がある。
当然ながら、アベルも、エレノアも、同じ寝室の同じベッドで寝ている。
けれど、セックスはした事がなかった。
この家に来た日、アベルにキスをされた。
それに驚いて、突き飛ばしてから、アベルはエレノアにそういう意味で触れてこない。
勢い余って抱きしめられたり、抱え上げられたり、そんな事はあっても、あの日以来、キスですらされることが無い。
(その意味を、わからないほど馬鹿じゃない……)
こんな事は誰にも相談もできなかった。
エレノアにはそれほど多く友人がいるわけじゃない。
ましてや、伴侶との性生活の悩みなど、兄にも、幼馴染みにも、相談できるわけがない。答えなんかわかりきってる。誰かに相談したところで、きっと答えは同じだ。
アベルに、好かれている事を疑っているわけじゃない。
きっと、いつからかわからないけれど、エレノアをずっと、大切に想ってくれている。 幼い頃から気にかけて、独りぼっちのエレノアを心配して、話しかけて、どんな態度を取ったって、可哀想なエレノアを見捨てられないのだ。
(…………わかってる)
いつだったか、アベルの気持ちが恋だった時もあったのかもしれない。
けれどきっと、今はそうじゃない。せいぜい、弟くらいにしか思えないんじゃないだろうか。それでもアベルは優しいから、言えないんじゃないだろうか。
例えアベルの気持ちがもう無いのだとしても、王族のエレノアから離縁を言い出す事は出来ない。
アベルと離縁したいと言えば、今後一生アベルは王族に見放された男となってしまう。
それにアベルからだって言い出せないはずだ。エレノアは王から与えられた褒賞で、自ら望んだものなのだから、突き返すことなんて出来るはずがない。
(だから、アベルと離縁する事にはならない……)
「…………そんなことで、安心してるなんか馬鹿みたいだ」
王からの褒賞でなければ、エレノアが王族でなければ、繋ぎとめられる自信も理由も、何もないのだ。
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