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HRが終わるなり、教室からでも分かるほどに廊下の方が騒がしくなった。転校生が来ることについて何も知らなかったクラスの連中も、何かに引かれるかのように続々と廊下へ出ていく。


「晴人、誠。俺らも行くぞ」

急かすように呼びかける輝彦に対し、手を上げて返事を返すと、俺は席を立って廊下に向かって足を進める。すると、教室廊下側の席に、1人ぽつんと静かに座って文庫本を開く生徒の姿が目に入った。俺はその生徒に向かって声をかける。


「お前は見に行かねぇの?」

するとその生徒——、白月蒼子は読んでいた文庫本から顔を上げ、つまらなそうに息を吐き出すと、氷のように冷ややかな落ち着いた声で静かに言葉を返した。


「私が凡人たちの群れに向かって、好んで飛び込むと思う?」

「……いや、そうは思わねぇけどさ。気にならねぇの?」

「別に。……それに、転校生からしてみればいい迷惑でしょう? 好奇心に狩られて自分が見世物みたいに扱われるなんて。……私、そっち側の気持ちはよく分かっているつもりだから」

白月はほんの少しだけ怒気を孕ませてそういうと、再び手に持った文庫本に目をやった。


「そういえば、お前も転校生だったな」

白月が発した一言で、小学5年生の頃、初めて彼女を目にした時の記憶がフラッシュバックした。あれからもう6年も経過しているなんて、時が過ぎる速さには全く驚くばかりだ。


「おーい、晴人! 何してんだよ、早く来いよ!」

そんなことを思っていると、廊下の方から再び輝彦に呼びかけられた。


「行かないの? 呼んでるわよ」

「……知ってる」

文庫本から決して目を離さない白月にそう言われ、俺は廊下へ向かって「今行く」と返事を返すと、引き続き読書に励む白月をチラリと一瞥してから、再び廊下へ向かって足を動かした。
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