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第49話「夏休みについて(15)」
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車が走り出してから約1時間が経過した。
ほたる市を出て街を抜けると、建物の代わりに姿を現したのは生命力に満ち、青々と生い茂った木々。
交通量は徐々に減っていき、対向車はほとんど見られなくなった。
俺は足元に置かれたクーラーボックスに目を向け、溢れ出る唾液をゴクリと飲み込んだ。
約30分前——
秀一の提案でバーベキュー用の食材を購入するため、俺たちは近くのスーパーへと立ち寄った。
バーベキューシーズンということで、精肉売り場には『バーベキュー用』とシールの貼られた牛肉の詰め合わせパックがいくつも並んでいた。
カルビ、ロース、サガリ、タン……
眺めているだけで腹部が熱くなり、腹の虫が盛大に鳴り出しそうになった。
俺たち4人は相談して食材を選び、レジで食材を精算すると、キャンプ場を経営する秀一の叔母が待つ車に乗り込み、キャンプ場へ向かって再び移動を開始した。
そして現在、俺たちは県道を真っ直ぐに進み、目的地である『時雨キャンプ場』へと向かっている。
「あっ、麗ちゃん! そろそろ時雨町入るよ!」
そう言って朝霧が正面に見える道路案内標識を指差し、隣にいる榊原の肩を軽く叩くと、榊原は視線を朝霧が指差す方向に向けた。
『 ようこそ 時雨町へ 』
と、書かれた看板を通過すると、車内から辺りを見回して榊原がポツリと呟く。
「ここが、時雨町……自然が豊かなところね」
時雨町に入るなり、木々の本数はさらに増え、無数に生える緑の葉は夏の太陽に照らされて活き活きと輝いている。
榊原は車内からそれらを眺め、うっとりとした表情を浮かべた。
「榊原さん、この景色が気に入ったみたいだな」
そんな榊原を見て、隣に座る秀一が小声で囁く。
「あぁ。でも、キャンプ場に着いたらもっと景色が凄いんだろ?」
「そりゃもう!だから、楽しみにしとけよ~」
俺の問いに対し、秀一は得意げな顔をしてそう言った——。
***
時雨町に入って10分ほど経過したところで、車を運転する秀一の叔母さんが俺たちに向かって口を開いた。
「そろそろキャンプ場に着くよ~」
その言葉通り、正面には『時雨キャンプ場』と書かれた木製の看板が見える。
看板の先には傾斜の緩い坂道が続いており、車はゆっくりとその坂道を登っていく。
そして、200Mほど坂道を登ったところで、ようやく車が開けた場所に出た。
車が何台も駐車しているところを見るに、どうやらここがキャンプ場の駐車場らしい。
「は~い、着いたよ」
そう言って叔母さんは車を停めると、シートベルトを外し、車から外に降りた。
俺たちも同じように冷房の効いた車内から外に降りると、そこはもうほたる市とは全く別の世界だった。
辺りを囲む一面の緑。
自分の声が聴こえなくなるほど、けたたましく鳴り響く蝉の鳴き声。
辺りに充満する土の香りと太陽の香り。
そこには紛うことなく『自然』が存在していた。
ほたる市も自然が豊かな街ではあるが、ここまで濃厚な自然はおそらくないだろう。
「それじゃあ、まずは受付に行こうかね。着いておいで」
声を出すのも忘れて、辺りを見回す俺たちに叔母さんが声をかけた。
言われた通りに後ろをついて歩くと、白い外壁に覆われた大きな建物が視界に入ってきた。
すると、叔母さんはその建物の前で足を止め、建物の説明を始めた。
「ここが時雨キャンプ場の管理所ね。テントとか調理器具とかはここで貸し出されてるから、必要な時はここに借りにおいで」
その管理所の入り口からは、俺たち以外に来ている他のキャンプ客が続々と出入りしている。
「たくさん人が来てるんだなぁ……」
「夏休みだからねぇ。子供連れの家族とか結構多いのよ~」
秀一の呟きに、少し嬉しそうに叔母さんが言葉を返す。
「それじゃあ、一旦中に入ってもらってもいいかい?受付を済ませて早く見て回りたいでしょ」
そう言って管理所の中へ入っていく叔母さんを追って、俺たちも中へと入る。
入り口を通ってすぐ隣にある受付に着くと、俺たちは叔母さんから受付用紙を手渡された。
「それじゃあ、ここに名前書いてね。それが終われば、あとは自由にしてもらって構わないから」
そうして、俺たちが手渡された受付用紙に名前を書いていると、「おぉ! 来たか!」と野太い声が受付の方から聞こえた。
顔を上げると、目の前に肌が黒く焼けた彫りの深い精悍な男性が、巨木のような太い腕を組んで仁王立ちしていた。
その姿はまるで、東大寺の金剛力士像だ。
立っているだけで並々ならぬ迫力がひしひしと伝わってくる。
「あー! 叔父さん!! 久し振りー! 言われた通り、友達連れて来たよ」
秀一に『叔父さん』と呼ばれたその男性は、「よく来たなぁ!ガハハハッ!」と豪快に笑い、視線を俺・朝霧・榊原に向ける。
「ようこそ! 時雨キャンプ場へ! よく来てくれた!! 思う存分楽しんでいってくれぃ!」
秀一の叔父さんは、腹の底に響くような声でそう言うと再び「ガハハ」と盛大に笑い出す。
そんなパワフルすぎる秀一の叔父さんを見て、秀一を除く俺たち3人はただただ呆気に取られていた。
***
受付を済ませた俺たちは相談の結果、昼食を食べた後にキャンプ場内を散策することに決めた。
冷房の効いた管理棟の休憩室に入ると、先程バーベキュー用の食材と同時にスーパーで購入しておいた軽めの昼食を摂る。
夜にバーベキューをすることを考え、昼食は腹6分目くらいに抑えておいた。
そうして各自昼食を摂り終えた後、管理棟の入り口付近にある施設内マップでキャンプ場の施設を確認すると、調理場やシャワールーム、展望台や釣り場などがあることが分かった。
「ねぇねぇ! まずは調理場から見て周らない?ここから近いしさ!」
朝霧はそう言ってマップを指差す。
確かに、この管理棟から最も近くにあるは調理場だ。
夜のバーベキューで調理場を使うことになるだろうから、先に確認しておいた方がいいだろう。
「それじゃあ、調理場の方から左回りにキャンプ場内を周って見てみることにするか」
俺の提案に3人は首を縦に振る。
そうして俺たちは調理場へ向かうべく、一度管理棟を後にした。
外に出ると、照りつける陽光と骨に響くような蝉の鳴き声が体に襲いかかる。
「やっぱり暑いわね。……でも、不思議と不快感は無いのはどうしてかしら?」
榊原は顔に当たる陽光を掌で遮りながら呟く。
「そう言われてみるとそうだな……」
「多分、周りを囲むたくさんの木や草で涼しく感じるんじゃないかなー?」
「あー、そうかも。あと、久し振りに来たけど景色も変わってなくて、なんだか懐かしく感じるなぁ。……それはそうと! 早くキャンプ場見て周ろうぜ!」
秀一は、キャンプ場を見て周るのが待ちきれないといった様子で飛んだり跳ねたりを繰り返す。
俺・朝霧・榊原は、それぞれ顔を見合わせると口元に笑みを浮かべ、秀一に急かされるようにして調理場へと足を運んだ——。
ほたる市を出て街を抜けると、建物の代わりに姿を現したのは生命力に満ち、青々と生い茂った木々。
交通量は徐々に減っていき、対向車はほとんど見られなくなった。
俺は足元に置かれたクーラーボックスに目を向け、溢れ出る唾液をゴクリと飲み込んだ。
約30分前——
秀一の提案でバーベキュー用の食材を購入するため、俺たちは近くのスーパーへと立ち寄った。
バーベキューシーズンということで、精肉売り場には『バーベキュー用』とシールの貼られた牛肉の詰め合わせパックがいくつも並んでいた。
カルビ、ロース、サガリ、タン……
眺めているだけで腹部が熱くなり、腹の虫が盛大に鳴り出しそうになった。
俺たち4人は相談して食材を選び、レジで食材を精算すると、キャンプ場を経営する秀一の叔母が待つ車に乗り込み、キャンプ場へ向かって再び移動を開始した。
そして現在、俺たちは県道を真っ直ぐに進み、目的地である『時雨キャンプ場』へと向かっている。
「あっ、麗ちゃん! そろそろ時雨町入るよ!」
そう言って朝霧が正面に見える道路案内標識を指差し、隣にいる榊原の肩を軽く叩くと、榊原は視線を朝霧が指差す方向に向けた。
『 ようこそ 時雨町へ 』
と、書かれた看板を通過すると、車内から辺りを見回して榊原がポツリと呟く。
「ここが、時雨町……自然が豊かなところね」
時雨町に入るなり、木々の本数はさらに増え、無数に生える緑の葉は夏の太陽に照らされて活き活きと輝いている。
榊原は車内からそれらを眺め、うっとりとした表情を浮かべた。
「榊原さん、この景色が気に入ったみたいだな」
そんな榊原を見て、隣に座る秀一が小声で囁く。
「あぁ。でも、キャンプ場に着いたらもっと景色が凄いんだろ?」
「そりゃもう!だから、楽しみにしとけよ~」
俺の問いに対し、秀一は得意げな顔をしてそう言った——。
***
時雨町に入って10分ほど経過したところで、車を運転する秀一の叔母さんが俺たちに向かって口を開いた。
「そろそろキャンプ場に着くよ~」
その言葉通り、正面には『時雨キャンプ場』と書かれた木製の看板が見える。
看板の先には傾斜の緩い坂道が続いており、車はゆっくりとその坂道を登っていく。
そして、200Mほど坂道を登ったところで、ようやく車が開けた場所に出た。
車が何台も駐車しているところを見るに、どうやらここがキャンプ場の駐車場らしい。
「は~い、着いたよ」
そう言って叔母さんは車を停めると、シートベルトを外し、車から外に降りた。
俺たちも同じように冷房の効いた車内から外に降りると、そこはもうほたる市とは全く別の世界だった。
辺りを囲む一面の緑。
自分の声が聴こえなくなるほど、けたたましく鳴り響く蝉の鳴き声。
辺りに充満する土の香りと太陽の香り。
そこには紛うことなく『自然』が存在していた。
ほたる市も自然が豊かな街ではあるが、ここまで濃厚な自然はおそらくないだろう。
「それじゃあ、まずは受付に行こうかね。着いておいで」
声を出すのも忘れて、辺りを見回す俺たちに叔母さんが声をかけた。
言われた通りに後ろをついて歩くと、白い外壁に覆われた大きな建物が視界に入ってきた。
すると、叔母さんはその建物の前で足を止め、建物の説明を始めた。
「ここが時雨キャンプ場の管理所ね。テントとか調理器具とかはここで貸し出されてるから、必要な時はここに借りにおいで」
その管理所の入り口からは、俺たち以外に来ている他のキャンプ客が続々と出入りしている。
「たくさん人が来てるんだなぁ……」
「夏休みだからねぇ。子供連れの家族とか結構多いのよ~」
秀一の呟きに、少し嬉しそうに叔母さんが言葉を返す。
「それじゃあ、一旦中に入ってもらってもいいかい?受付を済ませて早く見て回りたいでしょ」
そう言って管理所の中へ入っていく叔母さんを追って、俺たちも中へと入る。
入り口を通ってすぐ隣にある受付に着くと、俺たちは叔母さんから受付用紙を手渡された。
「それじゃあ、ここに名前書いてね。それが終われば、あとは自由にしてもらって構わないから」
そうして、俺たちが手渡された受付用紙に名前を書いていると、「おぉ! 来たか!」と野太い声が受付の方から聞こえた。
顔を上げると、目の前に肌が黒く焼けた彫りの深い精悍な男性が、巨木のような太い腕を組んで仁王立ちしていた。
その姿はまるで、東大寺の金剛力士像だ。
立っているだけで並々ならぬ迫力がひしひしと伝わってくる。
「あー! 叔父さん!! 久し振りー! 言われた通り、友達連れて来たよ」
秀一に『叔父さん』と呼ばれたその男性は、「よく来たなぁ!ガハハハッ!」と豪快に笑い、視線を俺・朝霧・榊原に向ける。
「ようこそ! 時雨キャンプ場へ! よく来てくれた!! 思う存分楽しんでいってくれぃ!」
秀一の叔父さんは、腹の底に響くような声でそう言うと再び「ガハハ」と盛大に笑い出す。
そんなパワフルすぎる秀一の叔父さんを見て、秀一を除く俺たち3人はただただ呆気に取られていた。
***
受付を済ませた俺たちは相談の結果、昼食を食べた後にキャンプ場内を散策することに決めた。
冷房の効いた管理棟の休憩室に入ると、先程バーベキュー用の食材と同時にスーパーで購入しておいた軽めの昼食を摂る。
夜にバーベキューをすることを考え、昼食は腹6分目くらいに抑えておいた。
そうして各自昼食を摂り終えた後、管理棟の入り口付近にある施設内マップでキャンプ場の施設を確認すると、調理場やシャワールーム、展望台や釣り場などがあることが分かった。
「ねぇねぇ! まずは調理場から見て周らない?ここから近いしさ!」
朝霧はそう言ってマップを指差す。
確かに、この管理棟から最も近くにあるは調理場だ。
夜のバーベキューで調理場を使うことになるだろうから、先に確認しておいた方がいいだろう。
「それじゃあ、調理場の方から左回りにキャンプ場内を周って見てみることにするか」
俺の提案に3人は首を縦に振る。
そうして俺たちは調理場へ向かうべく、一度管理棟を後にした。
外に出ると、照りつける陽光と骨に響くような蝉の鳴き声が体に襲いかかる。
「やっぱり暑いわね。……でも、不思議と不快感は無いのはどうしてかしら?」
榊原は顔に当たる陽光を掌で遮りながら呟く。
「そう言われてみるとそうだな……」
「多分、周りを囲むたくさんの木や草で涼しく感じるんじゃないかなー?」
「あー、そうかも。あと、久し振りに来たけど景色も変わってなくて、なんだか懐かしく感じるなぁ。……それはそうと! 早くキャンプ場見て周ろうぜ!」
秀一は、キャンプ場を見て周るのが待ちきれないといった様子で飛んだり跳ねたりを繰り返す。
俺・朝霧・榊原は、それぞれ顔を見合わせると口元に笑みを浮かべ、秀一に急かされるようにして調理場へと足を運んだ——。
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