4 / 8
3
しおりを挟む
「合格はまあ心配ないとして、ここから学園は少し遠いね。どうするつもりだったんだい?」
「移動魔法を使って自宅から通わせるつもりでしたが」
「うーん、費用も掛かる上に帰りは馬車。あまりいい手段とは思えないんだがねぇ…」
自宅から学園まで馬車で2時間。
通えなくはないが、道中が必ずしも安全とは限らないため、さらにプラス時間がかかる。
では移動魔法を使うとなると、使う魔力の量がバカにならない。
大人の魔法使いが10人そろって、やっと自宅と学園を行き来できるほど。
シルヴィがひとりで魔力を込めるとしたら、約20日かかるほど魔力を必要とする。
「そうなると近くに家を建てるのが一番でしょうか」
「子供が心配なのはわかるけど、それは少しやりすぎだとは思うよ」
「うむ。わしもそう思う」
学園に通うための家をつくろうとしたアドルフに賛同する者はいなかった。
シルヴィの母親であるセレナも、同意することはなかった。
「宿があったらいいのですが、シルヴィには向いていなさそうですし…」
「宿はありますが、セレナさん。それはどういう意味でしょうか?」
「いえ、ひとりで暮らせるほど成長はしているのですが、少し“がさつ”と言うのですか…」
「少し男勝りなところがありまして、同じ宿の人に迷惑がかかってしまうかと」
「な、なにを言うんじゃ!そんなわけ…なくはないかも…しれないが…」
少し心当たりがあるシルヴィは目を逸らした。
しかし、そんなシルヴィをミストは笑うことなくある提案をした。
「なら私の家で預かるのはどうでしょう?」
「先生のおうちにですか?そこまでご迷惑をおかけになるのは…」
「気にしなくて大丈夫ですよ。ちょうど孫と同じ年。迷惑どころか、私にとってはうれしいことですよ」
悪いどころか、むしろ歓迎されている。
シルヴィはもちろん、アドルフにも悪い話しではないのだが…
「やっぱり、心配です」
「気持ちはわかる。でも、いつまでも一緒にとはいられないんだよ?」
「そうよ。私も心配ですけど、シルヴィをいつまでも家に縛るのは良くありませんわ」
「た、確かにそうだが…」
愛娘であるシルヴィと一緒に暮らせなくなる。
どんなに早くても年単位だから、父親であるアドルフは辛い。
もちろん、母親のセレナもだ。
「心配なら休みの日に来るといいよ。何なら学園にも」
「学園にもですか?久しぶりに足を運んでみるのもいいですね」
「そうだわ!試験の日に一緒に行くのはどうでしょう?」
「試験の日でも、特に立ち入り禁止などの決まりはないので、休みの日なんてどうでしょう?」
「いいですね!さっそく確認します!」
アドルフは執事を呼び、スケジュールの確認を行う。
重要な予定は覚えているが、それ以外にも用事などが多い。
こうした確認をよくするため、執事にスケジュールを組むように頼んでいる。
「今日は除いて、明日はお休み。明後日が会談でその次の日がまた別のところで会談」
「その次の日はどうかしら?」
「ああ、ここなら大丈夫かな」
「旦那様。今朝、その日から泊りがけで予定が入ったと仰っておりましたが」
「そうだった!ここがダメなら次は…うーむ…」
話は全然進まなかった。
進まなかったせいで、書かれたスケジュールをシルヴィとセレナは覗く。
自分の家ではなくヴィクトリア家の問題のため、ミストは目を離して空を見ていた。
「1ヵ月後までないじゃない!」
「し、仕方がないだろう。ちょうど忙しい時期なんだから」
「そうだわ!シルヴィ、私とだけ一緒に行くのはどう?」
「ちょっ、セレナ…」
「それはどうじゃろうか。父上が足を運ぶからこそ一緒に行く意味があるのじゃと思うのだが」
そうなると明日しかなくなる。
もし無理なら来月と期間が開いてしまうが、学園の話を聞いてしまった今、シルヴィにとっては待ち遠しくとても長い1ヵ月になってしまう。
「先生、明日って言うのは…」
「随分と急ですね。うーん…少し待っててください」
そう言うと、ミストは部屋から出ていった。
「どうしたのかしら?」
「連絡を取っているんだと思うよ。学園で何か緊急事態があったら大変だから、連絡魔法を職員たちが覚えているはずだからね」
ミストは部屋から出て、外で通信をとっている。
話が終わるまで、3人はメイドが出したお茶を飲んでいた。
ミストが戻ってくるのは10分後、少し疲れていた顔をしている。
「ふぅ…。私にも飲み物を貰えるかな?」
「もちろんですとも。先生に」
「かしこまりました」
後ろに控えていたメイドがお茶を注ぐ。
「それでどうでしたか?やはり急なので無理だったでしょうが…」
「いえ、何とかできそうですけど。少し問題が起きてしまったので」
「問題じゃと?」
「そう。ちょっと怒らせちゃったみたいでね」
少し深刻そうな顔をしているミストを見た3人は、表情が変わった。
怒らせてしまったのは良いことではないが、無理な話が通ったのだ。
少しだけホッとしている。
「簡単に説明すると、試験監督の人に無理してもらったんだ。やってくれるとは言っていたけど、審査が厳しくなるかもしれない」
「でもシルヴィなら――」
「私もそう言いたいですが、後は試験監督次第です。さすがに私的な理由で落とすことはないでしょうけど」
無理させてまで入学させるということは、それほどの実力があると思われている。
期間が短くなったことで、入学するためのハードルが上がってしまったのだ。
その上、無理だと言っていただろう中、頼んだから怒っているという悪条件付き。
「まあ大丈夫じゃろう」
「本当に大丈夫かい?今魔力を使ったんだから、明日の試験までに回復すればいいんだけど…」
「うむ。魔力の量は低いが、回復は早いから大丈夫じゃ」
心配するミストだったが、心配は要らないようだ。
「明日ということは…。先生、泊っていかれますか?」
「そうしたいところだけど、すぐに帰って準備をしないとさらに怒りを買ってしまうからね」
「そうですか。すみません、無理を言ってしまい」
「いえいえ、私も学園に招きたかったので全然構いませんよ」
ミストも招きたいからやってること。
いやいやではなく、自ら進んでやっているからやる気がないわけではない。
むしろ、招き入れたいからこそ気合いが入っているようだった。
「では私は帰ります。明日の昼頃から試験を受けれますので」
「何か必要なものはありますか?」
「特にありません。強いて言えば、気合いですかね」
「うむ。それなら大丈夫じゃ」
元気の良い返事にミストは笑う。
アドルフはミストと試験監督用にお土産を渡す。
帰りの挨拶を済ますと、ミストは学園へと戻っていった。
「シルヴィ、今日はもう休んでいなさい」
「うむ。明日は朝出発かのう」
「そうだね。先生は昼からと言っていたけど、案内もあるから少し早めで」
「わかった。じゃあ部屋に戻るとしよう」
シルヴィも部屋から出ていった。
アドルフとセレナは部屋に残っている。
「シルヴィのあの顔、久しぶりに見たわ」
「いつも私のわがままでいろいろな人と会って楽しくなかった分、嬉しいのかもしれないね。学園に行ったらたくさん楽しいことが待っているはずだから」
「シルヴィだけではなく、私も楽しみだわ」
「私もだよ」
本日は晴天、夜は人がたくさんいた昼間とは違いとても静かであった。
そんな中、寝付けなかったシルヴィが外へと向かう。
緊張のせいというわけではなく、どちらかと言えば楽しいことの前日、つまりワクワクしていたせいで寝れなかったのだ。
「なあ、おるんじゃろう?」
「はいはい、いますよー。こういう時じゃないと姿も現せられないんだから」
先ほどまで誰もいなかったが、シルヴィの前に一人の少女が現れた。
年はシルヴィと変わらない。
「今日はわしに合わせた見た目じゃのう」
「…いい加減その『わし』ってのやめたほうがいいわよ?家族ならまだしも、学園に行くなら直した方がいいと思うわ」
「なんじゃ、聞いておったのか」
シルヴィは驚いていた。
あの場にはシルヴィ、アドルフ、セレナ、そしてミストと側近だけ。
ここにいる少女の姿を見た者はひとりもいなかった。
「お母さんの記憶からダーヴィル、そして今のシルヴィまで知ってるけどさ。やっぱりまだ心配だわ」
「エフティよ。お主は確かに長生きしておるじゃろうが、わしも人間から見たら長生きしておる。大丈夫じゃ」
エフティはダーヴィルを生まれ変わらせてくれた大樹の精霊の子供。
つまり少女の恰好をしているが、元々は大樹である。
ダーヴィルが亡くなった時に現れた時と違い、今は半透明ではなく、くっきりと姿があった。
「ならお主も来ればよかろう。学園へは馬車で2時間ばかりじゃろうから、その姿でも届くじゃろうし」
「届くも何も、今の私には本体との距離は関係ないけどね。今はもう、私たちの存在を知っているのはシルヴィだけだもの」
大樹の伝説が今も続いているわけではない。
消えた町の言い伝えなど、知っている者が言わない限り続かない。
ダーヴィルは故郷がどこかは言ったものの、言い伝えまでは言うことはなかった。
「すまんのう。わしが伝えておれば…」
「いいのよ。言ったとしても、良いことに使う人なんていなかっただろうし」
エフティは背を向け、空を見上げる。
シルヴィも空を見上げた時、空には綺麗な星々が輝いていた。
「そろそろ寝た方がいいわよ。明日早いんでしょう?」
「大丈夫じゃろうけど、早めに起きるつもりじゃ。ならそろそろ寝させてもらうかのう」
「…おやすみなさい」
「おやすみ」
シルヴィは部屋に戻るが、エフティはまだ外にいる。
エフティは中庭の方へと移動し、手入れされている花々を見て回っていた。
枯れている花を見つけたエフティが手を差し出すと、花は色を取り戻す。
「こういう事は出来るんだけど、やっぱりお母さんみたいに力は強くないわ」
自分の手のひらを見たエフティが魔力を込めると、体は徐々に大きくなっていく。
成人ぐらいのサイズになると、それ以上に大きくなることはなかった。
「私には生まれ変わりをさせるほどの力がないわ。今度こそ最後の人生、悔いが残らないようにさせないと」
急な風が吹くと、すでにエフティの姿はなかった。
「移動魔法を使って自宅から通わせるつもりでしたが」
「うーん、費用も掛かる上に帰りは馬車。あまりいい手段とは思えないんだがねぇ…」
自宅から学園まで馬車で2時間。
通えなくはないが、道中が必ずしも安全とは限らないため、さらにプラス時間がかかる。
では移動魔法を使うとなると、使う魔力の量がバカにならない。
大人の魔法使いが10人そろって、やっと自宅と学園を行き来できるほど。
シルヴィがひとりで魔力を込めるとしたら、約20日かかるほど魔力を必要とする。
「そうなると近くに家を建てるのが一番でしょうか」
「子供が心配なのはわかるけど、それは少しやりすぎだとは思うよ」
「うむ。わしもそう思う」
学園に通うための家をつくろうとしたアドルフに賛同する者はいなかった。
シルヴィの母親であるセレナも、同意することはなかった。
「宿があったらいいのですが、シルヴィには向いていなさそうですし…」
「宿はありますが、セレナさん。それはどういう意味でしょうか?」
「いえ、ひとりで暮らせるほど成長はしているのですが、少し“がさつ”と言うのですか…」
「少し男勝りなところがありまして、同じ宿の人に迷惑がかかってしまうかと」
「な、なにを言うんじゃ!そんなわけ…なくはないかも…しれないが…」
少し心当たりがあるシルヴィは目を逸らした。
しかし、そんなシルヴィをミストは笑うことなくある提案をした。
「なら私の家で預かるのはどうでしょう?」
「先生のおうちにですか?そこまでご迷惑をおかけになるのは…」
「気にしなくて大丈夫ですよ。ちょうど孫と同じ年。迷惑どころか、私にとってはうれしいことですよ」
悪いどころか、むしろ歓迎されている。
シルヴィはもちろん、アドルフにも悪い話しではないのだが…
「やっぱり、心配です」
「気持ちはわかる。でも、いつまでも一緒にとはいられないんだよ?」
「そうよ。私も心配ですけど、シルヴィをいつまでも家に縛るのは良くありませんわ」
「た、確かにそうだが…」
愛娘であるシルヴィと一緒に暮らせなくなる。
どんなに早くても年単位だから、父親であるアドルフは辛い。
もちろん、母親のセレナもだ。
「心配なら休みの日に来るといいよ。何なら学園にも」
「学園にもですか?久しぶりに足を運んでみるのもいいですね」
「そうだわ!試験の日に一緒に行くのはどうでしょう?」
「試験の日でも、特に立ち入り禁止などの決まりはないので、休みの日なんてどうでしょう?」
「いいですね!さっそく確認します!」
アドルフは執事を呼び、スケジュールの確認を行う。
重要な予定は覚えているが、それ以外にも用事などが多い。
こうした確認をよくするため、執事にスケジュールを組むように頼んでいる。
「今日は除いて、明日はお休み。明後日が会談でその次の日がまた別のところで会談」
「その次の日はどうかしら?」
「ああ、ここなら大丈夫かな」
「旦那様。今朝、その日から泊りがけで予定が入ったと仰っておりましたが」
「そうだった!ここがダメなら次は…うーむ…」
話は全然進まなかった。
進まなかったせいで、書かれたスケジュールをシルヴィとセレナは覗く。
自分の家ではなくヴィクトリア家の問題のため、ミストは目を離して空を見ていた。
「1ヵ月後までないじゃない!」
「し、仕方がないだろう。ちょうど忙しい時期なんだから」
「そうだわ!シルヴィ、私とだけ一緒に行くのはどう?」
「ちょっ、セレナ…」
「それはどうじゃろうか。父上が足を運ぶからこそ一緒に行く意味があるのじゃと思うのだが」
そうなると明日しかなくなる。
もし無理なら来月と期間が開いてしまうが、学園の話を聞いてしまった今、シルヴィにとっては待ち遠しくとても長い1ヵ月になってしまう。
「先生、明日って言うのは…」
「随分と急ですね。うーん…少し待っててください」
そう言うと、ミストは部屋から出ていった。
「どうしたのかしら?」
「連絡を取っているんだと思うよ。学園で何か緊急事態があったら大変だから、連絡魔法を職員たちが覚えているはずだからね」
ミストは部屋から出て、外で通信をとっている。
話が終わるまで、3人はメイドが出したお茶を飲んでいた。
ミストが戻ってくるのは10分後、少し疲れていた顔をしている。
「ふぅ…。私にも飲み物を貰えるかな?」
「もちろんですとも。先生に」
「かしこまりました」
後ろに控えていたメイドがお茶を注ぐ。
「それでどうでしたか?やはり急なので無理だったでしょうが…」
「いえ、何とかできそうですけど。少し問題が起きてしまったので」
「問題じゃと?」
「そう。ちょっと怒らせちゃったみたいでね」
少し深刻そうな顔をしているミストを見た3人は、表情が変わった。
怒らせてしまったのは良いことではないが、無理な話が通ったのだ。
少しだけホッとしている。
「簡単に説明すると、試験監督の人に無理してもらったんだ。やってくれるとは言っていたけど、審査が厳しくなるかもしれない」
「でもシルヴィなら――」
「私もそう言いたいですが、後は試験監督次第です。さすがに私的な理由で落とすことはないでしょうけど」
無理させてまで入学させるということは、それほどの実力があると思われている。
期間が短くなったことで、入学するためのハードルが上がってしまったのだ。
その上、無理だと言っていただろう中、頼んだから怒っているという悪条件付き。
「まあ大丈夫じゃろう」
「本当に大丈夫かい?今魔力を使ったんだから、明日の試験までに回復すればいいんだけど…」
「うむ。魔力の量は低いが、回復は早いから大丈夫じゃ」
心配するミストだったが、心配は要らないようだ。
「明日ということは…。先生、泊っていかれますか?」
「そうしたいところだけど、すぐに帰って準備をしないとさらに怒りを買ってしまうからね」
「そうですか。すみません、無理を言ってしまい」
「いえいえ、私も学園に招きたかったので全然構いませんよ」
ミストも招きたいからやってること。
いやいやではなく、自ら進んでやっているからやる気がないわけではない。
むしろ、招き入れたいからこそ気合いが入っているようだった。
「では私は帰ります。明日の昼頃から試験を受けれますので」
「何か必要なものはありますか?」
「特にありません。強いて言えば、気合いですかね」
「うむ。それなら大丈夫じゃ」
元気の良い返事にミストは笑う。
アドルフはミストと試験監督用にお土産を渡す。
帰りの挨拶を済ますと、ミストは学園へと戻っていった。
「シルヴィ、今日はもう休んでいなさい」
「うむ。明日は朝出発かのう」
「そうだね。先生は昼からと言っていたけど、案内もあるから少し早めで」
「わかった。じゃあ部屋に戻るとしよう」
シルヴィも部屋から出ていった。
アドルフとセレナは部屋に残っている。
「シルヴィのあの顔、久しぶりに見たわ」
「いつも私のわがままでいろいろな人と会って楽しくなかった分、嬉しいのかもしれないね。学園に行ったらたくさん楽しいことが待っているはずだから」
「シルヴィだけではなく、私も楽しみだわ」
「私もだよ」
本日は晴天、夜は人がたくさんいた昼間とは違いとても静かであった。
そんな中、寝付けなかったシルヴィが外へと向かう。
緊張のせいというわけではなく、どちらかと言えば楽しいことの前日、つまりワクワクしていたせいで寝れなかったのだ。
「なあ、おるんじゃろう?」
「はいはい、いますよー。こういう時じゃないと姿も現せられないんだから」
先ほどまで誰もいなかったが、シルヴィの前に一人の少女が現れた。
年はシルヴィと変わらない。
「今日はわしに合わせた見た目じゃのう」
「…いい加減その『わし』ってのやめたほうがいいわよ?家族ならまだしも、学園に行くなら直した方がいいと思うわ」
「なんじゃ、聞いておったのか」
シルヴィは驚いていた。
あの場にはシルヴィ、アドルフ、セレナ、そしてミストと側近だけ。
ここにいる少女の姿を見た者はひとりもいなかった。
「お母さんの記憶からダーヴィル、そして今のシルヴィまで知ってるけどさ。やっぱりまだ心配だわ」
「エフティよ。お主は確かに長生きしておるじゃろうが、わしも人間から見たら長生きしておる。大丈夫じゃ」
エフティはダーヴィルを生まれ変わらせてくれた大樹の精霊の子供。
つまり少女の恰好をしているが、元々は大樹である。
ダーヴィルが亡くなった時に現れた時と違い、今は半透明ではなく、くっきりと姿があった。
「ならお主も来ればよかろう。学園へは馬車で2時間ばかりじゃろうから、その姿でも届くじゃろうし」
「届くも何も、今の私には本体との距離は関係ないけどね。今はもう、私たちの存在を知っているのはシルヴィだけだもの」
大樹の伝説が今も続いているわけではない。
消えた町の言い伝えなど、知っている者が言わない限り続かない。
ダーヴィルは故郷がどこかは言ったものの、言い伝えまでは言うことはなかった。
「すまんのう。わしが伝えておれば…」
「いいのよ。言ったとしても、良いことに使う人なんていなかっただろうし」
エフティは背を向け、空を見上げる。
シルヴィも空を見上げた時、空には綺麗な星々が輝いていた。
「そろそろ寝た方がいいわよ。明日早いんでしょう?」
「大丈夫じゃろうけど、早めに起きるつもりじゃ。ならそろそろ寝させてもらうかのう」
「…おやすみなさい」
「おやすみ」
シルヴィは部屋に戻るが、エフティはまだ外にいる。
エフティは中庭の方へと移動し、手入れされている花々を見て回っていた。
枯れている花を見つけたエフティが手を差し出すと、花は色を取り戻す。
「こういう事は出来るんだけど、やっぱりお母さんみたいに力は強くないわ」
自分の手のひらを見たエフティが魔力を込めると、体は徐々に大きくなっていく。
成人ぐらいのサイズになると、それ以上に大きくなることはなかった。
「私には生まれ変わりをさせるほどの力がないわ。今度こそ最後の人生、悔いが残らないようにさせないと」
急な風が吹くと、すでにエフティの姿はなかった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
アイテムボックスだけで異世界生活
shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。
あるのはアイテムボックスだけ……。
なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。
説明してくれる神も、女神もできてやしない。
よくあるファンタジーの世界の中で、
生きていくため、努力していく。
そしてついに気がつく主人公。
アイテムボックスってすごいんじゃね?
お気楽に読めるハッピーファンタジーです。
よろしくお願いします。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!
こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。
ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。
最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。
だが、俺は知っていた。
魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。
外れスキル【超重量】の真の力を。
俺は思う。
【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか?
俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる