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1.神に逆う勇者が創る新世界
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「まずはこれで練習しましょう」
「刃を潰している剣か」
「はい。慣れずに使うと自分を傷つけることもありますから」
「ふーん…。わかった、早速やろう」
「では、どこからでもどうぞ!」
寝不足だから刃が潰れていてよかったかも。
あの時みたいに俺から仕掛けるのか。
でも、緊張感はあの時の比ではない。というよりほぼ無い。
何よりサラウディさんは構えている。
向こうは油断をしていない。
踏み込めるところも何個か潰されている。
それなら、まずはこの型から!
「ぬっ!?これはレオ様の…!」
「『破岩流』。力で砕くのではなく、技術だけで岩を砕くほどの剣技だ…!」
「さすが…です!」
「ちっ…。やっぱり初めてだと難しいな」
《新しい戦闘スキル『剣技Lv.1』を会得しました。同時に『破岩流』を会得しました。これは『剣技Lv.1』に含まれます》
「…何か言った?」
「いえ、何も。恐らく新しくスキルを会得したのではないでしょうか?会得者のみに声が聞こえますので」
「へぇー。知らなかったよ」
「それで、終わりですか?でしたら私から行きますよ!!」
「やっぱり使えるんだな…おらっ!」
「もちろんです。他にもありますよ!」
「くっ!『高速思考』!!」
昨日書物読んでいるときに使えるのでは?と思った魔法。
試しに一回使ってみるもよくわからなかった。
二回目に使ってる最中に書物が崩れるのを見た。
ゆっくり、ゆっくりと。まるで綿のように。
これは思考が高速になり、周りがゆっくり見えるようだ。
同時に自分も早く動ける。
これはもしかしたら戦闘時に便利な魔法だと思った。
今使って正解だな。
反撃の隙がたくさん見える。
「ぐはっ!?」
「刃が潰れていたのと鎧のおかげだな」
「まだ勇者になったばかりと聞いて油断していましたが、予想以上です。私も力を出さないと隊長の名が廃りますね…。『身体能力向上』、『思考速度上昇』さあ行きますよ!」
それから何回か入ったり入れたりの繰り返し。
型を覚えてもやはりそううまくはいかない。
『高速思考』が無かったら一方的だったな。
やがて、互いに受けることが無くなると一旦休憩となった。
「さすが勇者様です。私では手に負えません。明日にはもう追い越す勢いです。どこかで師となる方を見つけたほうがよろしいかと」
「この国にはいないの?」
「…いました。ただ消息不明でございます」
「ソウル・ミリオーネ。この人でしょ?」
「ええ、本当に強かった…。失うのは本当に惜しかった存在です」
「たいちょー、おさぼりですかー?」
「休憩中だ。そっちは?」
「私じゃ無理だねー。今日は勝っても明日には負けちゃうね」
「俺だけではなくサツキもか」
「もちろんよ。しっかり知識を付けてから戦ったからね」
「それだけで負けちゃうなんて…。私たちの努力って何だったんだろうねー」
たしか『悪魔の血』一人一人サラウディさんと同等って聞いていたんだが…。
さっき戦って分かったが、それはもう過去の話。今も進化して強くなっている。
追いつくためには向こうより何倍も積み重ねていかないといけない。
早く師を見つけないと。
……少し賭けだがいい案を考えた。
これは後でサツキと話し合ってみるか。
兵の人が俺たちを見つけるとこちらへ向かって走ってきた。
「休憩中に申し訳ございません!サラウディ隊長、ご報告があります」
「なんの報告だ?」
「国王様が本日帰国なされます。時刻は日が暮れる頃だとの報告が入りました」
「わかった。勇者様、申し訳ございませんが国王様の帰国の準備があるためここで戻らせていただきます」
「うん。いきなり頼んで悪かったね」
「いえいえ、私も勉強になりました。では…お前も行くんだぞ!」
「いたたた、わかってるよ!行くから耳引っ張らないで!バイバーイ、サツキちゃん!」
「バイバイ、セリーちゃん」
「随分仲良くなったな」
「うん。年上だけど話も合うからいつの間にか仲良くなってたわ」
「早いなあ。それよりこの後どうする?日が暮れるまで俺たちは自由にしていいみたいだし」
何か合ったら一緒に連れて行ったりするだろうし。
あくまでもお客様だから待っててもらおうとしてるんだろう。
「じゃあまた街に行かない?欲しいものができちゃったから」
「分かった。昼も向こうで食べる?」
「そうしましょうか」
というわけでまた街へ。
昨日今日でまた会うこともないだろう。
俺も欲しいものを買い忘れていたし。
*
「ところでどこに行きたかったの?」
「えっと、一人で行きたいからちょっと別行動でいいかな?」
「構わないけど、気を付けてね」
「うん!あとで合流しましょう」
街へ着き昼飯を食べた後。
さっそく別行動となった。
どこへ行ったか気になるけど俺も行きたい店がある。
場所は聞きながら行くとして目的地は『道具屋』。
武器屋のあとに行こうと思ったけどアクシデントが起きたから仕方ない。
まずは何があるかを見たかった。
「いらっしゃいませ」
たくさんあるなあ。国唯一の店とあってとても広い。
服屋とも全然違い、二階建て構造で広い部屋で無駄なく置かれている。
一階にはポーションやポーションをつくる回復薬。他にも砥石や杖を治す特殊なテープもあった。
二階には一階とは比較にならない高性能なものが多数。ポーションの中でも絶体絶命寸前でも人のみするだけで回復する『完全回復薬』が置いてあった。
ちなみに末期癌も治すほどの性能もあり、医薬にも使われるときがあるみたいだ。
他にもいろんな色の石もあった。
「これは?」
「これは『魔宝石』でございます。これさえあれば使えなかった魔法を使えるようになります。例えばこのように魔力を込めるだけで」
風の魔法が発動した。
店員が使えなかったのかは知らなかったけど魔力を込めると魔法が使えるのか。
サツキにあって俺にない土の魔法と風の魔法も使えるようになる。
買っておいてもよさそうだけど、値段がバカにならない。
一個金貨10枚って…。
「なんでこんなに高いの?」
「こちら大変希少な『魔宝石』の原石、『世界石』を使っております。魔力を込めるまではどの魔法を使えるのか分かりません。一度でも使えば使える魔法の色に輝き、『魔宝石』となります。
壊れる危険性は基本ありませんが、過度な負担をかけると壊れてしまいます。でもご安心を。私が勤めてから一度もそのような事例は聞いたことありません」
要するに半永久的に使えなかった魔法を使えるようになる。
だから金貨10枚か。それなら納得の値段。
それでもはい買いましょうとはすぐ言えない。
もう少しいろいろと見て回ろう。
「この指輪は?」
「こちらは精神攻撃耐性が付与されている指輪でございます」
「それって『全魔法攻撃耐性』で代用できるの?」
「どちらかというとこの指輪が代用でございます。『全魔法攻撃耐性』は大変珍しいスキルでございます。ですが最近おしゃれでこれを付ける方が増えております」
「へ、へぇー」
さすがお店の店員。
力説してると思って聞いていたら気づいたら顔が近いところまで来ていた。
何が何でも一品買ってってもらってほしいみたいだな。
買うつもり出来ていたからそれは構わないが、ゆっくり選ばせてほしい。
「何点かご購入いただけるなら割引いたしますよ」
「ほう?どれぐらい?」
「そうですね、一品3割引きでどうでしょうか?」
「6割だ」
「そ、それは行き過ぎております。4割でどうでしょう?」
「6割」
「!?!?せ、せめて5割でお願いします…」
「よし、それでいいよ」
『威圧』を使って値引きの交渉。
ここまで便利だとは…。決して脅してはないから。
あくまでも威圧しただけだから。
何も安くしないと殺すとか言っていないし。
「じゃあこの風と土の魔宝石、あとこの指輪を買うよ」
「かしこまりました。全部で――」
結局魔宝石は買っちゃったな。
指輪はサツキに似合いそうだと思って選んだ。
後悔は特にない。満足できた買い物だった。
「またのご来店をお待ちしております」
さて、用事も終わったことだし戻るか。
別れたところへ行けばいいんだよな?
そういえば待ち合わせとか話してなかったけど。
っと、もうサツキがいる。
「待たせてごめん」
「大丈夫よ。ちょっとお腹空いたからこれ食べていたし」
「ポテトか?」
「そうよ。食べる?」
「もらおうかな」
塩が貴重なせいか、塩っけがあまりない。
健康的に考えれば健康かもしれないけど。
やっぱり塩があったほうがおいしいかな。
「そうだ。これ、プレゼント」
「ここで開けてもいい?」
「いいよ」
「ゆ、指輪!?」
「そう、似合うと思って」
「どうかな?」
「あ、うん。似合っているよ」
そこって結婚指輪の場所じゃ…。
知っているのか分からないけど、その年で知ってなかったらだいぶ初心なんだけど。
俺としてもうれしいからいいか。
それに男避けにもなるし。
「じゃあ帰ろうか」
「勇者様方、ここにいましたか」
「馬車の、どうしたの?」
「国王様がお戻りになりました。お戻り次第お会いしたいと仰られておりました」
「わかった。帰ろうか」
*
「こちらでございます。食事が運ばれますが、先ほど食べていらっしゃったので残していただいて構いません。それと、申し訳ございませんが食事は国王様と揃えさせていただきました」
「わかった。入ろうか」
いつもご飯を食べている部屋とは別の部屋。
あの長いテーブルは本当にあったのかと思わせる長いテーブル。
この上で競争できるぐらいの長さだった。
「此度は余の国、アストロール王国へ足を運んでいただき感謝する。他の者たちよ、退席したまえ。貴様たち近衛兵もだ、ロウにレイローよ」
「「「「「かしこまりました。失礼いたします」」」」」
「陛下、これを」
「わかっている」
「では、失礼いたします」
「堅苦しいのを見せてしまったな。普通にして構わない」
「国王、であってるんだよな?」
「如何にも。アストロール王国第23代目国王アウトラ・メルシア。こう見えても国王だ」
何ていうかすごく若い。
国王になってまだ1、2年しかたっていないんじゃないのかっていうほどに。
「ああ、そうだ。まだ国王になってから1年弱。年もまだ26だ」
「随分若いな。それに心を読んだのか?」
「そうだ。余の家系は『特殊能力』の『第三の目』を持っている」
「便利なこった。それと『特殊能力』って?」
「本来は言わないものだが余の場合は皆しっているから特に隠しはしない。見たければステータスカードに魔力を流せば見れる。あればだけどな」
そんな機能もあったのか。
本当にいろんなことができるカードだな。
試しにやってみるか。
……へえ、俺にも特殊能力があったのか。
『勇者覚醒』『愛の加護』か。後のやつは何の効果があるのか全然わからん。
どうやらこの2つだけ見たい。
これもふえていったりするのかな。
「サツキもある?」
「なかったわよ。ジンはあったの?」
「まあ、あったよ。サツキが持っていてもおかしくないやつがあったけど…」
「その話は後々。今は余との会談を先にしてほしい」
「そうだな。それで?要件は?」
「ふっふっ。なに、簡単な話よ。余の国の支援を受けてほしい。ただそれだけだ」
「余の国、余の国か。要するにスポンサーってことか?」
「スポンサー、というのが何か分からないが、うむ。考えておる通りのことだ」
「どういうことなの?」
「簡単に説明すると――」
まず俺たち勇者をアストロール王国が支援していると公表する。
それと同時に勇者はアストロール王国と手を組んでいると知らしめる。
勇者は人の上に立つ存在。それは他国の王にとっては手を出すのが遅かったということになる。
勇者と手を組んでいる国にほかの国が手を出す、つまり勇者に手を出すことにつながる。
例えるなら子供がケンカしている中、一人が格闘技のチャンピオンを仲間にしているってこと。
ケンカをふっかけるやつなんているわけがない。
「何よりこれは国民の安全につながる。余としても色よい返事がほしい。この通りだ」
「ジン…どうする?」
「……この一つの質問で決める。嘘をついた瞬間返事は分かっているだろう?」
「分かった、答えよう」
「なぜ無理やり連れてきた?やったのは信頼度を下げる行為だったんだぞ?」
「まず、皆を責めないでほしい。全て余が命令しておいたこと」
「それはいい、それで?」
「何より国民の安全を早く手に入れたかったんだ。余の顔一つだけで済むのならなおさら…」
「……そうか」
この顔。何度か見たことある。
生徒会長になり、教師からも厚い信頼を得ていた。
そのせいか、他行との交流があるどころか大学とも交流があった。
そこでは本当の言葉もあれば嘘の言葉もあった。
学校の都合、その人の利益、楽をするため、嘘にはいろいろな理由があった。
そんな中にいたおかげか、自然と嘘なのか嘘じゃないのか分かってきた。
声のトーン、その人の癖や動き、目が泳いでいるかもあるだろう。
しかし、そんなことが無くても分かるときがある。
第六感と言ってもいい。説明がつかないからな。
本当のことだから言えるが、もしこれが嘘なら国王相当すごい人物だ。
話して時間がたったがこれまで癖もトーンも全然変わらない。
多国や貴族との会談で弱みを握られないように訓練をしているんだろう。
……しょうがない。
「サツキはどう?」
「え!?私?」
「ああ。国王は嘘をついていない。本当のことだ」
「!?」
「なら私は許すよ。国民のために身を挺して守ろうとしているんだから」
「と、言うことだ。俺が変わっていなかったら決裂した。生まれて初めてだ。命令されて許したのは」
「ありがとう、いやありがとうございます」
「ちょっ!国王様!頭を上げてください!」
「そうだぞ、一国の国王。もう返事したんだからそこまでしなくていい。それに俺たちも自由にさせてもらっていたからな」
「そ、そうそう!お礼は私たちが言うほうだわ」
「いや、それには及ばない。それでこの成果。安いものだ」
これで国王からの要件は終わりだ。
そうなるとこの国にいる理由も特にない。
あ、書物があったな。
「そういえば書物だけど――」
「自由に持って行って構わない。ただ、余の部屋のは無理だが」
「書物庫のだ。いいのか、持って行って?」
「構わない。本当に大切なものは別に厳重に保管されている」
「なら何冊かもらっていくよ」
「ああ。わかった。他にあるか?」
「あとは明日、この国を出る。やりたいことがあるんだ」
「え!?初耳なんだけど!!」
「言い忘れていた…でも無理してついてこなくても大丈夫だよ」
「いや、付いていくよ!」
「分かった。馬車は用意するか?」
「大丈夫。周りを見ながら行きたいからな。できれば地図やコンパスがあればありがたいんだが…」
「地図なら翌日までに写しを渡そう。ただ細かくは余の国の防衛上書けない。コンパスは余の国で一つしかないため渡せない。申し訳ない」
「いや、地図さえ手に入ればいい。コンパスはあれば楽っていうだけだから」
「ではそろそろ終わりにしよう。本当にありがとう」
「もういいって。じゃあな」
*
「ねえジン」
「どうした?」
「なんであんな冷静にしゃべれるの?何かあるの?」
「そうだな、前まではプライドがあったからだった」
「今は?」
「……守りたいのがあるからだよ、サツキ」
「それって…え?」
「俺は、サツキのことが好きだ」
「えっ!?えっと…うーんと…えーっと…あれれ?」
「そこまでテンパらなくても…あはははっ!」
「どうして笑うのよ!もう!」
「怒るなって、さっきの指輪てっきりわざとかと思ってたんだけど」
「指輪?なんで?」
「そこに付けるのは結婚した人。てっきり知っていると思ったんだが知らなかったのか」
「――!?!?早く言ってよ!!…でも付けたままにするよ。それが私の返事」
「…うん」
俺は生まれて初めてのキスをした。
今まで自分の色に染まっていた世界。
そんな世界に新たな色が混ざり合った。
《特殊スキル『愛の加護』が『慈愛の信念』へ進化しました。効果は愛する者が危機的状況になると全ステータスが10倍になります》
◆
「国王様」
「ロウか。もう時間か?」
「はい。ご同行いたします」
「いや、大丈夫だ」
何より今はこのことを一番に伝えたい。
そう口が動くも声には出していなかった。
アウトラの向かうったのは重い扉で閉ざされた部屋。
そこには国王のアウトラのみが入れる部屋である。
近衛兵ですら入ったことが無い。
国王専用の部屋がそこにはあった。
「ああ、余の神よ。今日の出来事に誠に感謝いたします」
部屋には大きな像があった。
そこには村の教会とは比べ物にならないほど細かく彫られている。
シルルの姿をした像が。
「ありがとうございます。過去これほど喜びに包まれたことはございません。本当に、本当にありがとうございます」
《へぇー。それなら見返りがほしいなあ》
「もちろんお返しを…む?誰かいるのか!!」
《いないよ。僕と君の2人だけ。もちろんその分厚いドアも閉まっているよ》
「では一体…。まさか!?」
《せーかい!僕はシルル。君が崇めている神様だよ》
「それは誠に申し訳ございませんでした。それでお望みは?」
《君の力を貸してほしい。それだけだ》
「それでしたら存分に」
《ああ。ありがとうじゃあさっそく…!!》
「なっ!なにを!?やめ…!」
像から白いモヤが出るとアウトラにぶつかる。
いや、入っていった。
「へぇ。まだ若いだけあって体に不自由がないな。ちょうどいい」
そこにはアウトラ、いやシルルがいた。
見た目が変わったところは一つ。
右目が青、左目が白のオッドアイになっていた。
「国王様!なにかありましたか!!」
「だめだめ。だめじゃないか、勝手に入ってきちゃ」
「ど、どうかなされたんですか?」
「おっと、そうだった。大丈夫だ、気にしなくていい」
「左様でございますか。申し訳ありません。国王様の声が聞こえたもので。では私どもは外で待っております」
「ああ、ちょっと待て」
「どうかなされましたか?」
「えっと、どう言おうかな…。そうだ!神のお告げにより、余の名前は変わった」
「分かりました。皆に伝えておきます。お名前はなんと?」
「シルル・メルシア。今からその名で呼ぶように」
「はっ!今すぐに」
そこにはもうアウトラは残っていない。
策略通り、アウトラの器を奪いシルルだけが残っている。
シルルは空を見上げると不敵に笑いながら言葉を発した。
「ここからだ…ここからがゲームの始まりだ!!!」
「刃を潰している剣か」
「はい。慣れずに使うと自分を傷つけることもありますから」
「ふーん…。わかった、早速やろう」
「では、どこからでもどうぞ!」
寝不足だから刃が潰れていてよかったかも。
あの時みたいに俺から仕掛けるのか。
でも、緊張感はあの時の比ではない。というよりほぼ無い。
何よりサラウディさんは構えている。
向こうは油断をしていない。
踏み込めるところも何個か潰されている。
それなら、まずはこの型から!
「ぬっ!?これはレオ様の…!」
「『破岩流』。力で砕くのではなく、技術だけで岩を砕くほどの剣技だ…!」
「さすが…です!」
「ちっ…。やっぱり初めてだと難しいな」
《新しい戦闘スキル『剣技Lv.1』を会得しました。同時に『破岩流』を会得しました。これは『剣技Lv.1』に含まれます》
「…何か言った?」
「いえ、何も。恐らく新しくスキルを会得したのではないでしょうか?会得者のみに声が聞こえますので」
「へぇー。知らなかったよ」
「それで、終わりですか?でしたら私から行きますよ!!」
「やっぱり使えるんだな…おらっ!」
「もちろんです。他にもありますよ!」
「くっ!『高速思考』!!」
昨日書物読んでいるときに使えるのでは?と思った魔法。
試しに一回使ってみるもよくわからなかった。
二回目に使ってる最中に書物が崩れるのを見た。
ゆっくり、ゆっくりと。まるで綿のように。
これは思考が高速になり、周りがゆっくり見えるようだ。
同時に自分も早く動ける。
これはもしかしたら戦闘時に便利な魔法だと思った。
今使って正解だな。
反撃の隙がたくさん見える。
「ぐはっ!?」
「刃が潰れていたのと鎧のおかげだな」
「まだ勇者になったばかりと聞いて油断していましたが、予想以上です。私も力を出さないと隊長の名が廃りますね…。『身体能力向上』、『思考速度上昇』さあ行きますよ!」
それから何回か入ったり入れたりの繰り返し。
型を覚えてもやはりそううまくはいかない。
『高速思考』が無かったら一方的だったな。
やがて、互いに受けることが無くなると一旦休憩となった。
「さすが勇者様です。私では手に負えません。明日にはもう追い越す勢いです。どこかで師となる方を見つけたほうがよろしいかと」
「この国にはいないの?」
「…いました。ただ消息不明でございます」
「ソウル・ミリオーネ。この人でしょ?」
「ええ、本当に強かった…。失うのは本当に惜しかった存在です」
「たいちょー、おさぼりですかー?」
「休憩中だ。そっちは?」
「私じゃ無理だねー。今日は勝っても明日には負けちゃうね」
「俺だけではなくサツキもか」
「もちろんよ。しっかり知識を付けてから戦ったからね」
「それだけで負けちゃうなんて…。私たちの努力って何だったんだろうねー」
たしか『悪魔の血』一人一人サラウディさんと同等って聞いていたんだが…。
さっき戦って分かったが、それはもう過去の話。今も進化して強くなっている。
追いつくためには向こうより何倍も積み重ねていかないといけない。
早く師を見つけないと。
……少し賭けだがいい案を考えた。
これは後でサツキと話し合ってみるか。
兵の人が俺たちを見つけるとこちらへ向かって走ってきた。
「休憩中に申し訳ございません!サラウディ隊長、ご報告があります」
「なんの報告だ?」
「国王様が本日帰国なされます。時刻は日が暮れる頃だとの報告が入りました」
「わかった。勇者様、申し訳ございませんが国王様の帰国の準備があるためここで戻らせていただきます」
「うん。いきなり頼んで悪かったね」
「いえいえ、私も勉強になりました。では…お前も行くんだぞ!」
「いたたた、わかってるよ!行くから耳引っ張らないで!バイバーイ、サツキちゃん!」
「バイバイ、セリーちゃん」
「随分仲良くなったな」
「うん。年上だけど話も合うからいつの間にか仲良くなってたわ」
「早いなあ。それよりこの後どうする?日が暮れるまで俺たちは自由にしていいみたいだし」
何か合ったら一緒に連れて行ったりするだろうし。
あくまでもお客様だから待っててもらおうとしてるんだろう。
「じゃあまた街に行かない?欲しいものができちゃったから」
「分かった。昼も向こうで食べる?」
「そうしましょうか」
というわけでまた街へ。
昨日今日でまた会うこともないだろう。
俺も欲しいものを買い忘れていたし。
*
「ところでどこに行きたかったの?」
「えっと、一人で行きたいからちょっと別行動でいいかな?」
「構わないけど、気を付けてね」
「うん!あとで合流しましょう」
街へ着き昼飯を食べた後。
さっそく別行動となった。
どこへ行ったか気になるけど俺も行きたい店がある。
場所は聞きながら行くとして目的地は『道具屋』。
武器屋のあとに行こうと思ったけどアクシデントが起きたから仕方ない。
まずは何があるかを見たかった。
「いらっしゃいませ」
たくさんあるなあ。国唯一の店とあってとても広い。
服屋とも全然違い、二階建て構造で広い部屋で無駄なく置かれている。
一階にはポーションやポーションをつくる回復薬。他にも砥石や杖を治す特殊なテープもあった。
二階には一階とは比較にならない高性能なものが多数。ポーションの中でも絶体絶命寸前でも人のみするだけで回復する『完全回復薬』が置いてあった。
ちなみに末期癌も治すほどの性能もあり、医薬にも使われるときがあるみたいだ。
他にもいろんな色の石もあった。
「これは?」
「これは『魔宝石』でございます。これさえあれば使えなかった魔法を使えるようになります。例えばこのように魔力を込めるだけで」
風の魔法が発動した。
店員が使えなかったのかは知らなかったけど魔力を込めると魔法が使えるのか。
サツキにあって俺にない土の魔法と風の魔法も使えるようになる。
買っておいてもよさそうだけど、値段がバカにならない。
一個金貨10枚って…。
「なんでこんなに高いの?」
「こちら大変希少な『魔宝石』の原石、『世界石』を使っております。魔力を込めるまではどの魔法を使えるのか分かりません。一度でも使えば使える魔法の色に輝き、『魔宝石』となります。
壊れる危険性は基本ありませんが、過度な負担をかけると壊れてしまいます。でもご安心を。私が勤めてから一度もそのような事例は聞いたことありません」
要するに半永久的に使えなかった魔法を使えるようになる。
だから金貨10枚か。それなら納得の値段。
それでもはい買いましょうとはすぐ言えない。
もう少しいろいろと見て回ろう。
「この指輪は?」
「こちらは精神攻撃耐性が付与されている指輪でございます」
「それって『全魔法攻撃耐性』で代用できるの?」
「どちらかというとこの指輪が代用でございます。『全魔法攻撃耐性』は大変珍しいスキルでございます。ですが最近おしゃれでこれを付ける方が増えております」
「へ、へぇー」
さすがお店の店員。
力説してると思って聞いていたら気づいたら顔が近いところまで来ていた。
何が何でも一品買ってってもらってほしいみたいだな。
買うつもり出来ていたからそれは構わないが、ゆっくり選ばせてほしい。
「何点かご購入いただけるなら割引いたしますよ」
「ほう?どれぐらい?」
「そうですね、一品3割引きでどうでしょうか?」
「6割だ」
「そ、それは行き過ぎております。4割でどうでしょう?」
「6割」
「!?!?せ、せめて5割でお願いします…」
「よし、それでいいよ」
『威圧』を使って値引きの交渉。
ここまで便利だとは…。決して脅してはないから。
あくまでも威圧しただけだから。
何も安くしないと殺すとか言っていないし。
「じゃあこの風と土の魔宝石、あとこの指輪を買うよ」
「かしこまりました。全部で――」
結局魔宝石は買っちゃったな。
指輪はサツキに似合いそうだと思って選んだ。
後悔は特にない。満足できた買い物だった。
「またのご来店をお待ちしております」
さて、用事も終わったことだし戻るか。
別れたところへ行けばいいんだよな?
そういえば待ち合わせとか話してなかったけど。
っと、もうサツキがいる。
「待たせてごめん」
「大丈夫よ。ちょっとお腹空いたからこれ食べていたし」
「ポテトか?」
「そうよ。食べる?」
「もらおうかな」
塩が貴重なせいか、塩っけがあまりない。
健康的に考えれば健康かもしれないけど。
やっぱり塩があったほうがおいしいかな。
「そうだ。これ、プレゼント」
「ここで開けてもいい?」
「いいよ」
「ゆ、指輪!?」
「そう、似合うと思って」
「どうかな?」
「あ、うん。似合っているよ」
そこって結婚指輪の場所じゃ…。
知っているのか分からないけど、その年で知ってなかったらだいぶ初心なんだけど。
俺としてもうれしいからいいか。
それに男避けにもなるし。
「じゃあ帰ろうか」
「勇者様方、ここにいましたか」
「馬車の、どうしたの?」
「国王様がお戻りになりました。お戻り次第お会いしたいと仰られておりました」
「わかった。帰ろうか」
*
「こちらでございます。食事が運ばれますが、先ほど食べていらっしゃったので残していただいて構いません。それと、申し訳ございませんが食事は国王様と揃えさせていただきました」
「わかった。入ろうか」
いつもご飯を食べている部屋とは別の部屋。
あの長いテーブルは本当にあったのかと思わせる長いテーブル。
この上で競争できるぐらいの長さだった。
「此度は余の国、アストロール王国へ足を運んでいただき感謝する。他の者たちよ、退席したまえ。貴様たち近衛兵もだ、ロウにレイローよ」
「「「「「かしこまりました。失礼いたします」」」」」
「陛下、これを」
「わかっている」
「では、失礼いたします」
「堅苦しいのを見せてしまったな。普通にして構わない」
「国王、であってるんだよな?」
「如何にも。アストロール王国第23代目国王アウトラ・メルシア。こう見えても国王だ」
何ていうかすごく若い。
国王になってまだ1、2年しかたっていないんじゃないのかっていうほどに。
「ああ、そうだ。まだ国王になってから1年弱。年もまだ26だ」
「随分若いな。それに心を読んだのか?」
「そうだ。余の家系は『特殊能力』の『第三の目』を持っている」
「便利なこった。それと『特殊能力』って?」
「本来は言わないものだが余の場合は皆しっているから特に隠しはしない。見たければステータスカードに魔力を流せば見れる。あればだけどな」
そんな機能もあったのか。
本当にいろんなことができるカードだな。
試しにやってみるか。
……へえ、俺にも特殊能力があったのか。
『勇者覚醒』『愛の加護』か。後のやつは何の効果があるのか全然わからん。
どうやらこの2つだけ見たい。
これもふえていったりするのかな。
「サツキもある?」
「なかったわよ。ジンはあったの?」
「まあ、あったよ。サツキが持っていてもおかしくないやつがあったけど…」
「その話は後々。今は余との会談を先にしてほしい」
「そうだな。それで?要件は?」
「ふっふっ。なに、簡単な話よ。余の国の支援を受けてほしい。ただそれだけだ」
「余の国、余の国か。要するにスポンサーってことか?」
「スポンサー、というのが何か分からないが、うむ。考えておる通りのことだ」
「どういうことなの?」
「簡単に説明すると――」
まず俺たち勇者をアストロール王国が支援していると公表する。
それと同時に勇者はアストロール王国と手を組んでいると知らしめる。
勇者は人の上に立つ存在。それは他国の王にとっては手を出すのが遅かったということになる。
勇者と手を組んでいる国にほかの国が手を出す、つまり勇者に手を出すことにつながる。
例えるなら子供がケンカしている中、一人が格闘技のチャンピオンを仲間にしているってこと。
ケンカをふっかけるやつなんているわけがない。
「何よりこれは国民の安全につながる。余としても色よい返事がほしい。この通りだ」
「ジン…どうする?」
「……この一つの質問で決める。嘘をついた瞬間返事は分かっているだろう?」
「分かった、答えよう」
「なぜ無理やり連れてきた?やったのは信頼度を下げる行為だったんだぞ?」
「まず、皆を責めないでほしい。全て余が命令しておいたこと」
「それはいい、それで?」
「何より国民の安全を早く手に入れたかったんだ。余の顔一つだけで済むのならなおさら…」
「……そうか」
この顔。何度か見たことある。
生徒会長になり、教師からも厚い信頼を得ていた。
そのせいか、他行との交流があるどころか大学とも交流があった。
そこでは本当の言葉もあれば嘘の言葉もあった。
学校の都合、その人の利益、楽をするため、嘘にはいろいろな理由があった。
そんな中にいたおかげか、自然と嘘なのか嘘じゃないのか分かってきた。
声のトーン、その人の癖や動き、目が泳いでいるかもあるだろう。
しかし、そんなことが無くても分かるときがある。
第六感と言ってもいい。説明がつかないからな。
本当のことだから言えるが、もしこれが嘘なら国王相当すごい人物だ。
話して時間がたったがこれまで癖もトーンも全然変わらない。
多国や貴族との会談で弱みを握られないように訓練をしているんだろう。
……しょうがない。
「サツキはどう?」
「え!?私?」
「ああ。国王は嘘をついていない。本当のことだ」
「!?」
「なら私は許すよ。国民のために身を挺して守ろうとしているんだから」
「と、言うことだ。俺が変わっていなかったら決裂した。生まれて初めてだ。命令されて許したのは」
「ありがとう、いやありがとうございます」
「ちょっ!国王様!頭を上げてください!」
「そうだぞ、一国の国王。もう返事したんだからそこまでしなくていい。それに俺たちも自由にさせてもらっていたからな」
「そ、そうそう!お礼は私たちが言うほうだわ」
「いや、それには及ばない。それでこの成果。安いものだ」
これで国王からの要件は終わりだ。
そうなるとこの国にいる理由も特にない。
あ、書物があったな。
「そういえば書物だけど――」
「自由に持って行って構わない。ただ、余の部屋のは無理だが」
「書物庫のだ。いいのか、持って行って?」
「構わない。本当に大切なものは別に厳重に保管されている」
「なら何冊かもらっていくよ」
「ああ。わかった。他にあるか?」
「あとは明日、この国を出る。やりたいことがあるんだ」
「え!?初耳なんだけど!!」
「言い忘れていた…でも無理してついてこなくても大丈夫だよ」
「いや、付いていくよ!」
「分かった。馬車は用意するか?」
「大丈夫。周りを見ながら行きたいからな。できれば地図やコンパスがあればありがたいんだが…」
「地図なら翌日までに写しを渡そう。ただ細かくは余の国の防衛上書けない。コンパスは余の国で一つしかないため渡せない。申し訳ない」
「いや、地図さえ手に入ればいい。コンパスはあれば楽っていうだけだから」
「ではそろそろ終わりにしよう。本当にありがとう」
「もういいって。じゃあな」
*
「ねえジン」
「どうした?」
「なんであんな冷静にしゃべれるの?何かあるの?」
「そうだな、前まではプライドがあったからだった」
「今は?」
「……守りたいのがあるからだよ、サツキ」
「それって…え?」
「俺は、サツキのことが好きだ」
「えっ!?えっと…うーんと…えーっと…あれれ?」
「そこまでテンパらなくても…あはははっ!」
「どうして笑うのよ!もう!」
「怒るなって、さっきの指輪てっきりわざとかと思ってたんだけど」
「指輪?なんで?」
「そこに付けるのは結婚した人。てっきり知っていると思ったんだが知らなかったのか」
「――!?!?早く言ってよ!!…でも付けたままにするよ。それが私の返事」
「…うん」
俺は生まれて初めてのキスをした。
今まで自分の色に染まっていた世界。
そんな世界に新たな色が混ざり合った。
《特殊スキル『愛の加護』が『慈愛の信念』へ進化しました。効果は愛する者が危機的状況になると全ステータスが10倍になります》
◆
「国王様」
「ロウか。もう時間か?」
「はい。ご同行いたします」
「いや、大丈夫だ」
何より今はこのことを一番に伝えたい。
そう口が動くも声には出していなかった。
アウトラの向かうったのは重い扉で閉ざされた部屋。
そこには国王のアウトラのみが入れる部屋である。
近衛兵ですら入ったことが無い。
国王専用の部屋がそこにはあった。
「ああ、余の神よ。今日の出来事に誠に感謝いたします」
部屋には大きな像があった。
そこには村の教会とは比べ物にならないほど細かく彫られている。
シルルの姿をした像が。
「ありがとうございます。過去これほど喜びに包まれたことはございません。本当に、本当にありがとうございます」
《へぇー。それなら見返りがほしいなあ》
「もちろんお返しを…む?誰かいるのか!!」
《いないよ。僕と君の2人だけ。もちろんその分厚いドアも閉まっているよ》
「では一体…。まさか!?」
《せーかい!僕はシルル。君が崇めている神様だよ》
「それは誠に申し訳ございませんでした。それでお望みは?」
《君の力を貸してほしい。それだけだ》
「それでしたら存分に」
《ああ。ありがとうじゃあさっそく…!!》
「なっ!なにを!?やめ…!」
像から白いモヤが出るとアウトラにぶつかる。
いや、入っていった。
「へぇ。まだ若いだけあって体に不自由がないな。ちょうどいい」
そこにはアウトラ、いやシルルがいた。
見た目が変わったところは一つ。
右目が青、左目が白のオッドアイになっていた。
「国王様!なにかありましたか!!」
「だめだめ。だめじゃないか、勝手に入ってきちゃ」
「ど、どうかなされたんですか?」
「おっと、そうだった。大丈夫だ、気にしなくていい」
「左様でございますか。申し訳ありません。国王様の声が聞こえたもので。では私どもは外で待っております」
「ああ、ちょっと待て」
「どうかなされましたか?」
「えっと、どう言おうかな…。そうだ!神のお告げにより、余の名前は変わった」
「分かりました。皆に伝えておきます。お名前はなんと?」
「シルル・メルシア。今からその名で呼ぶように」
「はっ!今すぐに」
そこにはもうアウトラは残っていない。
策略通り、アウトラの器を奪いシルルだけが残っている。
シルルは空を見上げると不敵に笑いながら言葉を発した。
「ここからだ…ここからがゲームの始まりだ!!!」
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