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 翌日、俺たちは外からの騒ぎで目を覚ました。

「なんだ?何かあったのか?」
「あれを見てください!」

 宿の窓から外をのぞくと、町の中で動物が歩いている。
 獣人ではなく、立派な動物。
 それも立派過ぎると言ってもいいぐらいのサイズだ。

「随分とデカい鹿だな」

 町を歩いていたのは10メートルもある鹿だった。
 こちらの世界だからたくさんいると思っていたが、町の反応からするとこれは珍しい個体らしい。
 でもなんでこんな鹿がこんなところに…。
 迷い込んだ、なんていうわけでもなさそうだし。

「鹿の背中に人が乗ってませんか?」
「本当か?」

 こんなに大きな鹿が通るのだから大きな道にいる。
 大きいだけあって乗っている背も上の方。
 どんなやつが乗っているか見たいが、ここからだと少し離れすぎている。
 少し見づらいというか、いるかいないかまで曖昧だ。

「近くまで見なくても大体予想がつくな。龍一だろう」
「えっ?」
「あんなに大きな鹿と一緒にいるんだ。もし乗ってるやつが違っても、そばにはいるはずだ」

 あんな鹿に乗る人なんてそうそういない。
 だけどこの国にはそんな鹿に乗るような人物がいると聞いている。
 たとえ乗ってなくても、あいつのことだから飛んででも来そうだし。

「さっそく行くぞ」
「ちょっ、待ってよー!」

 あれだけ目立ってしかも町の中にいる。
 そうなると、周りに迷惑がかかるから嫌でも移動せざるを得ない。
 龍一がいる可能性が高い今、この機会を逃すわけにはいかなかった。

「はぁ…はぁ…。は、速いですよ…」
「思った以上に遠かったな」

 見えていたから近いと思ったが、走って5分ほど。
 鹿の足元まで来たが、近くで見ると思ってた以上にでかいな…。

「疲れた…」
「ん?おい、そこでボサッとしていると――」
「あ、足が!!」

 俺たちは鹿の横の道から出てきた。
 俺は鹿の通り道にいないようにしていたが、メアリは勢い余って少し飛び出してしまったようだ。
 すかさず俺はメアリの手を引っ張った。

「ったく。もうちょっと周りを見とけ」
「すみません…」
「そこまで凹まなくてもいい。止めなかった俺も悪かった」

 まあ、それよりも人が通るためにつくった道にこんなでかい鹿を運んだ奴が悪いと思うがな。
 そんなやつに話しかけたら降りて来てくれるか?

「おーい!上に乗ってるやつ聞こえるかー!」

 普段大声を出さないから少し出しただけで喉に違和感がある。
 一応声は出ていたはずだから聞こえてると思うんだが。
 来なかったら来なかったで背中まで登るつもりだったが、声は無事に届いたようで上から何かが降ってきた。

「ごめんごめん。まだ下に人がいるとは――あれ?」
「久しぶりだな。龍一」

 降ってきたのは龍一だった。
 予想通り鹿に乗っていたのは龍一だったが、その龍一の腕の中には何かがいる。
 それはまたもや鹿だった。
 とてつもなく大きい鹿に小さい鹿、何でこんなにも大小幅広い鹿がいるんだか…。

「話だと死んだと聞いていたんだけどねぇ…」
「いろいろあったんだ。見ての通り生きている」
「どうやらそうみたいだね。まあ、君が生きているかどうかなんてどうでもいいけど」
「ちょっと!それは少し言い過ぎ――」
「いいんだ。こいつは昔からこうなんだ」

 不謹慎に思ったのか、メアリが注意しようと一歩前に出た。
 確かに初対面でこんな場面を見せられたら嫌な奴だと思うよな。
 だけどそれにはいろいろと訳があるから仕方がない。
 俺も流石に慣れてしまった。

「ヒビが女の子と一緒にいるとは思わなかったよ。ましてや…」
「それは別にいいだろう。どうせ興味ないんだろ?」
「少しぐらいはあるけど、忘れては困るよ。僕はクラスのみんなは別と考えていることを」
「覚えているよ。だけどまあ、見れば大体分かるだろ」
「えっと、話がつかめないんですが…」

 ひとり置き去りにされているメアリ。
 明水学園での話を持ち出されたら、そりゃあまあ分からないよな。

「別にそこまでの話ではないから気にすることはない」
「そうだね。話はもう終わり?終わりなら僕はもう行くけど」

 出会ったばっかりなのにすぐに行こうとする。
 相変わらず変わっていないが、こっちは聞きたいことがあるから行かせないぞ。

「聞きたいことが2つある。まず1つ目、クラスの連中とは会ってるか?」
「そういえばずっと会ってない。この場所が素晴らしすぎてね」

 ずっとここにいるなら今後も移動することはなさそうだな。
 本人も気に入っていることだし、まずないだろう。
 それなら居場所も分かっていることだし、一安心だな。
 もし何かがあってもすぐに来れる。

「2つ目。ユニコーンについてだ」
「…へぇ。まさか君からその言葉が出るとは思わなかったよ」

 すぐに帰りたそうにしていた龍一だったが、態度が変わった。
 興味を示したのだ。

「他の人なら適当にあしらうけど、君はそうにもいかなそうだね」
「俺の中ではいると考えているからな」
「じゃあその話を聞かせてもらおうかな。と言っても話は移動しながらしようか。この子をここにいさせると怒られちゃうからね」

 俺たちは大きな鹿の上に乗り、移動を始めた。
 俺だけならまだしも、メアリはそう簡単に乗れない。
 仕方がなく俺が運ぼうとしたら、龍一が「そこは男らしく」とか言いやがった。
 おんぶでいいかなと思っていたけど、そう言われたからにはお姫様抱っこに。
 メアリは顔を真っ赤に染めていたし、俺もたぶん赤かったと思う。
 言い出しっぺの龍一はもう興味を示していなかったが。

「まず聞きたいんだけど、ユニコーンについて知ってどうするの?」
「別にどうこうする気はない。ただ見てみたいだけだ」
「それもどうこうに入ると思うけど。まあ他の連中よりはマシかな」
「龍一なら居場所が分かるんじゃないのか?」
「その話はまだ。なんでユニコーンがいるって考えているか聞きたい」
「それを話す前に、確認をしたいことがある。そいつに話を聞けば確信を持てる」

 そう、これを聞けば確信を持てる。
 今の所はほぼいるだろうって感じで、まだ必ずいるとまでは考えていない。

「その“そいつ”ってのは?」
「俺たちが捕まえた盗賊だ」
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みんなの感想(4件)

おそまつ茶トラ

メアリになんでもかんでも説明しすぎ。自分の封印を解いたからとはいえ、自分の能力を話しすぎていて物凄く不自然です。

銀狐
2019.02.01 銀狐

封印されていたから世間知らず、と言いたいですがいいわけでしかないですよね...
能力について触れたくてメアリも出したんですが、べらべらと話過ぎました。
申し訳ございません。

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おそまつ茶トラ

5話の採用試験の採用は就職のための試験じゃないので、要らないのでは?
ただの試験でいいと思います。

銀狐
2019.02.01 銀狐

選抜試験、というのもありました...
今回は”試験”だけに変更しました。
ありがとうございますm(_ _)m

解除
伊予二名
2019.01.30 伊予二名

ユウさんイイ人だなあ。しゅりんがー?とか言う豚のこと「亡くなった」だなんてまるで尊厳のある人間を扱うかのようだ。豚は「くたばった」が正しい日本語。

銀狐
2019.01.30 銀狐

凄い言いよう...w

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