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 今日で3日目、予定では明日あたりには着く。
 そんな俺たちに新しいメンバー、イタチのような使い魔のフィーが加わった。
 フィーは今もメアリの首にずっとくっついている。

 フィーの食事についてだが、俺たちとは違って魔力を食べる。
 中でも風の魔法が好きらしく、雷の魔法が嫌いなようだ。
 人間の好き嫌いと似ていて本当にペットみたい。

 風の魔法を食べるのはいいが、召喚主であるメアリが肝心な風の魔法を使えない。
 今は俺があげているが、俺をご飯出す人だけに思われているようだ。
 一応懐いてくれているようだが、毎回ご飯をねだってくる。

「あっ、ヒビのほうへ行った」
「俺の時は腕の方に来るな」
「どうしたんだろう?お腹が空いたのかな?」
「…さっき食べたばっかりだぞ」

 成長期なのかは分からないが、一日中食べていると思うぐらいよく食べる。
 それだけ食べても、結局は魔力へ変わるみたいで太ったりもしない。
 太ったり大きくなったりしたら、軽いフィーも重くなるのか?
 それはそれで見てみたいものだな。
 とりあえず腹が減っているようだから、また風の魔法を出しておいた。

「前に人がいますね。アロスト樹林国へ行く人達でしょうか?」
「そうかもしれないな」

 もう既に森の中へと入り始め、周りは木ばかり。
 今までに人がたくさん歩いていたおかげで、森の中に道が出来ているのが幸いだ。

 そんな道に人が5人立っている。
 何処かへ向かって歩いているなら気にしないが、立ち止まっているのは気になる。
 全員立っているから休憩でもないみたいだし、何かあったのか?

「こんにちはー。何か探しものですか?」
「こんにちは。いきなりですいませんが、輝虫を見ませんでしたか?」
「輝虫?」

 初めて聞く虫だな。
 俺がメアリに教えた時に使ったのは光虫ライト・インセクトだから、それとは違ってしっかり生きているのを探しているんだろう。

「見ませんでしたよ。まだ肌寒いのでいないと思いますが…」
「あー、知らないなら大丈夫です。ありがとうございました」

 知らないと言った瞬間、5人全員森の中へと入っていった。
 聞いといてあの態度は少し癪に障るな。
 メアリなんてキョトンとしてるぞ。

「輝虫という虫は何だ?」
「自分の身に危険が迫ると光る虫です。姿を見せるのは暑くなる時なので、まだいないはずなのですが…」
「ふむ…」

 なるほど、確かにそれは変だ。
 探しているということはそれぐらい知っているはずだ。
 そんな虫をどう使う気なのかは分からないが、何か隠しているようだった。

「どうします?追いますか?」
「いや、先に向かおう。いない虫を探す手伝う義理もないだろう」
「そうですね。もしかしたら邪魔になっちゃうかもしれませんし、行きましょうか」

 俺たちは再び歩き始めた。

 森の中を進んでいくうちに空は暗くなっていき、今日もまた野宿。
 流石に慣れてきたから文句はないが、俺が寝ていてもフィーがやたらと食事を要求してくる。
 少し経ったら手でほっぺをペタンと叩いて起こし、また少し経ったらほっぺをペタンと叩いて起こしてくる。
 さすがにしつこい。

 というわけでフィー用に首輪をつくっておいた。
 魔力を溜めておけば、フィーが欲しいときに風の魔法が出るようにもなっている。
 毎朝補充してあげれば、いちいちあげなくてもいいだろう。

「これでやっと寝れる…」

 メアリは既に寝ており、フィーはメアリの上で体を丸めている。
 軽いおかげか、何度も寝がえりをうってもメアリに影響はない。
 だからと言って、毎回俺を起こしに来るのはやめて欲しいが。

 目を閉じ、意識がなくなり始める。
 気のせいかは分からないが、なくなる寸前に何かが光った気がした。
 近くではなく遠くで少し見えたような…。
 だから気のせいだと思ったんだ。
 まあどうでもいいだろう、起きたら忘れているだろうし――

 翌日、メアリが先に起きていた。
 そうだよな、俺と違ってずっとぐっすりと寝ていたからな。
 寝ないより、短い時間寝ている方が辛いと思うのは俺だけなのだろうか…。
 まだボーっとしている。

「大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、大丈夫だ。準備が出来たら出発しよう」
「…大丈夫かなあ」

 正直、もうちょっと寝ていたい。
 何なら木の上に行って心地よい風を当たりながら贅沢に寝たい。
 “寝る”ということばっかり考えてしまうほど、意識が散漫している。

 だけど、気持ちはすぐに切り替わった。
 俺たちの前には昨日の5人が立っていたのだ。
 森の中で先回りしたのか、夜通し歩いたのかは分からない。
 だけど、どうも様子がおかしい。

 俺たちを見つけるや否や、こちらへと歩いてきたのだ。
 しかも歩き方が独特で、ゾンビとも言えるようなフラフラ歩き。
 メアリは怖がって後ずさりし、俺の後ろへと隠れていった。

「お前が…お前が妹を!!」
「お前のせいで俺の家が!!」
「俺なんかこいつのせいで村が!!」

 各々恨みを俺たちに向かって言い放つ。
 どれもこれも、まるで俺たちが犯人かのように言ってきたのだ。

「一応聞いておく。あいつらと過去に会ったことは?」
「い、いえ。昨日が初めてでした」

 そうだよな、昨日の話し方的にもお互い対面は初めてのはずだ。
 だけど俺たちを恨んでいるかのように言い放ってくる。
 そうなると考えられるのは…。

「恐らく洗脳、記憶の改ざんか操られているか。そんな感じだろう」
「そうなると魔法を使った人が近くに!」
「…いや、いないな」

 すぐに万能立方体アクティブ・キューブを動かして探してみるも、半径100メートル内にはいない。
 盗賊のように襲い掛かるにしても、何かしらの手を使って俺たちを見ているはずだ。

「とりあえず先に5人を止めよう」
「は、はい。お願いします」

 止めるのは楽だ。
 洗脳のせいか、動きはだいぶ鈍い。
 例えば洗脳を解く魔法を使えなかったら苦労するだろう。
 何せ、“襲い掛かる”しか命令を与えていないから、両足がなくなっても襲ってくるだろうし。

 洗脳を解いた5人は、解かれると同時に意識の糸がプツンと切れたかのように倒れた。
 草むらまで運んでいき、5人ともぐっすり寝ている。

「私たち、狙われているのですか?」
「違うな。どうやら洗脳だけして魔法を使ったやつは消えたらしい」
「えっ?」

 てっきり魔法を使い、魔法にかかったやつの目などから覗いていると思ったがそうでもない。
 本当に洗脳だけして、5人を捨てたかのようになっていたのだ。

「道を通って来たやつに嫌がらせするために、こんなことをするのは腑に落ちないし…。うーん…」
「私たちが標的にされたのではなく、この人達が悪いことをしたからなのでは?ほら、本当は盗賊で返り討ちにされたとか」
「それもあるだろうが、他の連中である俺たちに被害を出すのは少し考えにくいな。しょうがない、起きた時に暴れると困るから、武器は没収しておくか」

 魔法を使われたらということもあるから、そっちはそっちで対処しておこう。
 万能立方体アクティブ・キューブを何個か作って置けば安心だ。

 さて、こいつらが持ってそうな武器は何だ?
 剣にナイフ、これは魔法に使う杖か?
 これも預かって置こう。

「あとは――何だこれ?本か?」

 見つけたのはいいが、文字が読めない。
 国ごとに文字が違うという場合もあるが、そもそもこっちの字を知らない。
 こういうことなら、歩きながらもメアリから教えてもらうべきだったな。

「メアリ、これなんて読むんだ?」
「えーっと、『ユニコーンの角』って書いてあります」
「ユニコーンだと?」

 前の世界だと伝説の生き物。
 まさかこっちの世界だと実際に存在するのか。
 魔法があるぐらいだし、ユニコーンの1体や2体いてもおかしくはないだろう。

「私も知っていますよ。ですけど、ユニコーンってお話に出てくる架空の生物ですよね?」
「…えっ?」

 まさかこいつら、この本が好きで持ち歩いているのか?
 俺は少し、期待し過ぎてしまったのかもしれない。
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